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生涯累積線量:生涯被ばく限度100ミリシーベルト 「線量厳格化」厚労省に迫る

 ◇食品安全委、消費者に配慮

 食品を通じた放射性物質の影響を評価していた食品安全委員会(小泉直子委員長)は26日、生涯の累積線量の限度を100ミリシーベルトとする答申案を発表した。消費者の安全に配慮した「かなり厳しい値」(委員)で、消費者は歓迎するが、規制値の強化で生産者に大きな影響が出る可能性もある。【小島正美、田村佳子】

 生涯100ミリシーベルトは、人生80年とすると1年あたり1・25ミリシーベルト。放射性セシウムで年5ミリシーベルトという今の数値に比べ、相当に低い。

 厚生労働省は今後、安全委の答申に基づき、飲料水や野菜など食品ごとの規制値を見直していく。肉と穀類の放射性セシウムの暫定規制値は今1キログラムあたり500ベクレルだが、引き下げられる余地もある。

 阿南久・全国消費者団体連絡会事務局長は「評価結果は規制値を下げうる内容にもなっている。厚労省は今より厳しい規制値を考えてほしい」と話す。

 一方、すでにかなりの被ばくをしている地域の実情に沿っていないという指摘もある。規制値作りにかかわる厚労省審議会委員の高橋知之・京都大原子炉実験所准教授は「放射線量の高い地域では、外部被ばくだけで数十ミリシーベルトに達する所も出てくる」と指摘。内部被ばくにあたる食品の規制値をゼロに近づけても、守れなくなる事態も考えられる。

 新基準を設定する厚労省にも課題が多い。これまでの放射線量は年単位だが、答申案の線量は生涯にわたる。規制値作りにあたっては、年単位に割りふり、内部被ばくと外部被ばくの割合も考える必要がある。

 国際放射線防護委員会(ICRP)は規制の数値を緊急時、復旧時、平常時の三つに分けているが、答申案は一切区別しておらず、議論になりそうだ。佐々木康人・日本アイソトープ協会常務理事は「累積100ミリシーベルトを緊急時に適用すると食品の規制値がきわめて厳しくなる可能性がある」と懸念する。甲斐倫明・大分県立看護科学大教授は「今は平常時に向かう過渡期なので、放射性物質ごとに細かい設定が求められる。国際的に信頼を得るためにも、規制値は基本的に下げる方向でいい」と話している。

毎日新聞 2011年7月27日 東京朝刊

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