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2011年7月28日(木)付

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法律の空白―放射能対策法が要る

福島原発事故による放射能汚染の広がりに、子育て世帯や農家は不安を募らせている。避難区域になったふるさとは、高濃度で汚染され、戻れる見通しもまだ立たない――。いま、大急ぎ[記事全文]

再生エネ法案―将来見すえた議論を

風力や太陽光などの自然エネルギーをどう広げていくか。国会で再生可能エネルギー法案の審議が再開された。自然エネルギーによる発電を電力会社が固定価格で長期間にわたって買い取[記事全文]

法律の空白―放射能対策法が要る

 福島原発事故による放射能汚染の広がりに、子育て世帯や農家は不安を募らせている。避難区域になったふるさとは、高濃度で汚染され、戻れる見通しもまだ立たない――。

 いま、大急ぎで考えるべき問題がある。

 大気や土壌、湖や川、山林などに降り注いだ放射性物質を規制し、取り除く根拠となる法律が、実はどこにもないのだ。

 責任を持つ役所もない。

 大気汚染防止法、水質汚濁防止法、廃棄物処理法といった法律はどれも、放射性物質を対象から外している。環境基本法が放射性物質の汚染防止策は「原子力基本法と関係法律による」と、決めているからだ。

 ところが原子力基本法や原子炉等規制法で示すのは、原発施設とその敷地内のこと。放射能が一般環境にまき散らされる事態は想定していない。

 その事態が起きた。

 法律に穴があいたままで、政府はちゃんと動いているか。

 学校の校庭の除染作業は、文部科学省の補助で進められている。だが、校門を出た後の通学路や公園も心配だ。田畑や民家の庭はどうするか。場所ごとにどんな方法で、どれくらいまで放射線量を下げればよいか。指針づくりはこれからだ。

 汚染された土やがれきの処理は大問題だ。はがされた表土がシートをかけられ、各地で山積みになっている。放射性物質が付いたゴミは廃棄物処理法で扱えないため、環境省は「汚染されたおそれのある災害廃棄物」とぼかし、急ごしらえの処理方針を示した。苦肉の策だ。

 国と自治体の役割分担や、対策の費用を誰が出すのかも、はっきりしない。すべてがあいまいなまま、各省庁がその場しのぎの策を重ねている。

 放射性物質による環境汚染に腰をすえて対処するために、対策が必要な基準や、除去・処理の方法、責任の所在などを定めた法律と、省庁の枠を超えた態勢づくりが、緊急に必要だ。

 政策を助言すべき専門家の陣立ても考えたい。

 学問の世界でも、環境と原発は切り離されてきた。原子力や放射線の研究者には環境汚染の視点での知見は乏しいし、大気や土壌汚染に取り組む学者の放射能の知識も同様だろう。食の安全や農業もかかわってくる。分野を横断した知の共同作業が求められている。

 私たちは長い年月をかけて、広く汚染された環境を改善し、放射線リスクを低減し、次世代に引き継ぐ作業に向き合う。その覚悟の問題でもある。

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再生エネ法案―将来見すえた議論を

 風力や太陽光などの自然エネルギーをどう広げていくか。

 国会で再生可能エネルギー法案の審議が再開された。自然エネルギーによる発電を電力会社が固定価格で長期間にわたって買い取り、普及を促す。買い取り価格の水準や需要側の負担度合いが焦点だという。

 将来を見すえて、ここは議論の土俵を大きく構えたい。参考になるのは、欧州諸国だ。

 欧州では、まず1990年代に地球温暖化を防ぐための手立てとして、自然エネルギーによる発電が注目された。欧州連合(EU)は2001年、国別目標を作り、普及を促した。

 力を発揮したのが、固定価格による買い取り制度だ。負担増への産業界の反発や急激な投資バブルの発生といった試行錯誤を経ながら、今では、この制度が自然エネルギーの普及に貢献したとEUは評価している。

 さらに近年、自然エネルギーの普及を促す分野は、電力からエネルギー全般へと広げられている。自動車のバイオ燃料、熱電併給(コージェネレーション)による暖房などにも奨励策がとられている。

 EUはいま、電力を含むエネルギー消費全体で自然エネルギーの割合を20年にEU平均で20%とする野心的な目標を掲げ、国別目標の実現を義務づけている。自然エネルギー普及にあたって原発の有無は関係ない。

 背景にあるのは、エネルギー安全保障や経済の競争力強化といった視点だ。

 石油価格の高騰や天然ガスの供給不安にいかに備えるか。電力自由化で生まれた分権型の態勢を、どう新産業の育成と雇用増に結びつけるか。自然エネルギーはそのための大事な手立てになりうるからだ。

 各国は懸命だ。大半の国で現状と数値目標との間に10%前後の差がある。英仏両国は最近、てこ入れ策を発表した。

 しかも、EUは6月末、新たにエネルギー効率の向上(省エネ)を各国に義務づける厳しい指令案も公表している。

 菅直人首相は「自然エネルギーを20年代の早い時期に20%に増やす」との目標を掲げた。だが、それは電力分野での目標値にすぎない。EUは日本のはるか先を進んでいる。

 新段階に入った欧州は送電網や蓄電機能の拡充といった新たな課題に直面している。

 日本の再生可能エネルギーはまだよちよち歩きの段階だ。まず自然エネルギーの重要性を、国民全体が理解することが肝要だ。エネルギー政策を政局の材料にしている場合ではない。

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