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2011年 夏休み記念ギャグLAS短編 テンガロンハット!
ここはアメリカ西部の小さな街。
ゴールドラッシュに湧く開拓者達が集まって作った集落だ。
この街の町長は碇ゲンドウ。
彼には碇シンジと言う息子が居た。
町長の椅子に座ったゲンドウは息子のシンジの事を案じていた。
シンジが小さい頃に妻を失くしたゲンドウは、彼なりにシンジの事を大切に育てた。
シンジは優しい少年に育ったが、たくましさに欠ける部分があった。
特に銃の腕前に関しては悩みどころであった。
シンジは缶などは正確に撃ち抜く事は出来るが、鳥などの動物相手では物怖じしてしまうのだった。

「碇、入るぞ」

扉を開けて司令室……いや、町長室に入ってきたのは冬月だった。

「街の様子はどうだ?」
「ああ、すっかり使徒どもに怯えている。また今日も2つの家族がこの街を離れるそうだ」

冬月はゲンドウに尋ねられて深くため息をついた。
”使徒”とは神の使いを名乗る武装集団で、ゲンドウが町長を務めるこの街にも上納金を要求して来た。
ゲンドウが断ると、彼らは街で略奪を始めたのだった。
要するに使徒とは名ばかりのゴロツキの集団だったが、それでも街の者は逆らう事が出来なかった。

「しかし、問題無い。伝説のガンマンと言われる惣流氏を保安官として雇うのだからな」
「本当に大丈夫なのだろうな」

冬月は不安そうにゲンドウに尋ねるのだった。
街で仕事をしていたシンジは、今まで街で見かけた事の無い美しい少女に声を掛けられる。

「ねえ、そこのアンタ、アタシはこの街に来たばかりなんだ、案内してよ」
「えっ、でも僕は父さんに頼まれた仕事の最中だから」
「アンタね、こんな麗しいレディが声を掛けているのよ! 仕事よりエスコートを優先すべきでしょう」
「苦しい……」

少女に胸倉をつかまれたシンジは苦しそうにもがいた。
シンジは少女の迫力に圧され、街を案内する事になってしまった。
少女は自分の名前を惣流アスカと名乗った。

「へえ、君の父さんは凄いガンマンなんだ」
「ええ、だからこの街の保安官として呼ばれたのよ」

アスカは自慢げに胸を張ってそう答えた。

「凄いなあ、僕は父さんの役に立つ事なんて雑用しか出来ないよ」

シンジは暗い顔をしてつぶやく。
アスカはシンジが町長の息子だと知ると馬鹿にしたように笑う。

「アンタみたいなさえないのが町長の息子なの? ちゃんちゃらおかしいわ」
「う、うるさい! 射撃の練習は欠かさずしているよ!」
「じゃあ、あそこの木に止まって居る鳥を撃ってみなさいよ」

しかし、シンジはアスカの前で鳥に弾を命中させる事は出来なかった。
元々、鳥を撃つ事は苦手である。
さらに、こんな可愛い子の前では緊張してしまっていたのだ。

「アハハハ、おかしい!」

アスカはシンジの下手くそな射撃を見てお腹を抱えて笑った。
シンジは恥ずかしそうに顔を赤くしてうつむいた。
そうしていると、街の方が騒がしい事に気が付いた。
アスカとシンジは街の通りへと駆け付けた。
すると、そこでは使徒と新しい保安官であるアスカの父親が向き合っていた。

「アタシのパパは凄いんだから、あんなやつならんてすぐやっつけちゃうわ!」

アスカの父親の腕は確かに伝説級だった。
しかし、相手の使徒も伝説級の腕を持つガンマン、ラミ・エルだった事が最大の不幸だった。
銃声が鳴り響き、倒れ伏したのはアスカの父親の方だった。

「パパっ!」

アスカがたまらず飛び出して父親の体にすがりつく。
すると、使徒がアスカの体を持ち上げて自分が乗って来た馬へと載せる。

「この娘は神への捧げ物として貰って行くぞ」

使徒は神への捧げ物と言っているが、やつらのアジトに連れていかれたら、ひどい目に会わされるに違いないとシンジは思った。

「助けて、シンジ!」

使徒とアスカを載せた馬はドンドンと小さくなって行った。
シンジは去って行く使徒に向かって銃を構える。

「目標をセンターに入れて、スイッチ!」

何とシンジの撃った銃弾はアスカを傷つけることなく、一発で馬と使徒の動きを止めた。
肩を撃たれてうめき声をあげる使徒を見ていた街の人々が取り押さえる。

「シンジ、助けてくれてありがとう……」

アスカはシンジに抱きついてキスをした。
見守っていた街の人々にも祝福のムードが漂う。
しかし、拘束された使徒ラミ・エルは不敵な笑みを浮かべる。

「俺が捕まったら、俺の兄弟達が黙っちゃいないぜ。それに全員が伝説級だ」

ラミ・エルの言葉を聞いた街の人々は恐れをなして散って行く。
シンジとアスカは拘束したラミ・エルを引きつれて町長であるゲンドウの所へ向かう。
話を聞いた冬月は血相を変えてゲンドウに話し掛ける。

「何、それは本当かね! 碇、こうなったら襲撃を受ける前に街を捨てるべきだ」
「お前達はそうしろ。私はこの街に残る」
「父さん、僕も残るよ!」
「何を言っている!」
「町長さん、シンジは凄い腕前なのよ。だってあの使徒を一発で倒したんだから!」
「何だと?」

アスカの言葉に、ゲンドウは驚いた顔になった。
シンジは顔を赤くして言い訳をする。

「それは、アスカを助けようと思って必死だったから」

ゲンドウ達は街が騒がしい事に気が付いた。
逃げる前にもう使徒たちがやって来てしまったのだ。

「シンジ、私はユイが愛したこの街を守る。お前は自分の愛する女を守り抜け」
「うん、分かったよ」

シンジはゲンドウにうなずいて、アスカの手を取った。
そして裏口から逃げたシンジとアスカは、使徒たちがゲンドウに迫るのを見ていた。
使徒たちが銃を一斉に構える。
シンジとアスカは思わずハチの巣になるゲンドウの姿を想像した。
しかし、ゲンドウは右手を前に差し出すと、ATフィールドを張って銃弾を跳ね返した。
驚いたシンジは思わず叫ぶ。

「それってズルイよ、父さん!」

シンジが気が付いた次の瞬間、シンジは自分が部屋のベッドで寝ていた事に気が付いた。
あの西部劇のような世界は夢だったのだ。

「まったく、シンジがテンガロンハットなんかお土産に買って来るから変な夢を見たじゃない」

朝に顔を合わせたアスカはシンジにそう文句を言った。

「いったいどんな夢を見たの?」
「何か西部劇のような、アンタがやたら格好良かった夢……って、何言わせるのよ」
「アスカが勝手に言ったんじゃないか」
「ふん、現実のアンタがあんなにやれるはずないわよね」

アスカは赤くなったり不機嫌そうになったり忙しく表情を変えていた。
しかし、シンジはアスカの事よりも気になる事があったのだった。

「司令室まで来て何の用だ、シンジ?」
「あの、父さんに聞きたい事があるんだけど、もしかして父さんってエヴァみたいにATフィールドを張る事が出来たりする? こう、右手を前に突き出して」

シンジの言葉を聞いたゲンドウは座っていた椅子から落ち、側に立っていた冬月はしりもちをついて倒れ込んだ。

「な、何をバカな事を言ってる!」
「そ、そうだよね」

司令室をシンジが立ち去った後、冬月は大きくため息をついてつぶやく。

「碇、俺の寿命が縮んだぞ」
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