死因究明の充実 解剖医の養成を急がねば
2011/07/27 西日本新聞
死因究明制度の充実に向けて、政府がようやく動き始めたといえよう。警察庁や厚生労働省など関連部局によるワーキングチーム(WT)が発足した。
警察が取り扱う遺体の解剖率を、現在の約11%から5年後には20%に引き上げることを目指して、犯罪によるものかどうかが不明の遺体も解剖する新たな制度の導入を本格的に検討するという。
死因究明制度が注目を浴びたのは、2007年の力士暴行死事件だった。
時津風部屋の力士だった17歳の少年が搬送先の病院で亡くなり、愛知県警は当初、事件性はないと判断した。ところが死因に不審を抱いた少年の両親が大学に依頼した解剖や鑑定などによって、親方や兄弟子による暴行が明るみに出た。
警察のずさんな捜査とともに、検視や司法解剖体制の不備が浮き彫りとなったのである。今回の省庁横断的なWT発足が、こうした犯罪をしっかり解決することにつながるよう、期待したい。
警察庁によると、昨年1年間に警察は17万体を超える遺体を扱ったが、9割近くが解剖されず、犯罪死を見逃す一因と指摘されている。実際、当初は自殺や病死とされたにもかかわらず、後で殺人などと判明したケースは1998―2010年で少なくとも43件に上っている。
欧米先進国と比べて、日本の変死体解剖率は極めて低い。警察庁の有識者研究会の調査では、中央官庁として法医学庁があるスウェーデンが90%近くに達しているほか、多くは50%前後だった。
死因究明制度をめぐっては、その有識者研究会が今年4月、「法医解剖制度」(仮称)の創設や、厚労省と共に各都道府県に解剖専門機関を新設することなどを提言している。法医解剖は、現行の「司法解剖」や「行政解剖」の対象外となった遺体のうち、犯罪による死亡かどうか分からない遺体を裁判所の令状や遺族の承諾なしに解剖できる制度だ。
WTはこの提言を受け、全国どこでも解剖ができる制度を目標とし、司法解剖をしている大学の法医学教室などをベースに段階的に広げる方針という。薬物、毒物検査の拡充やDNA型のデータベース整備も検討課題に挙げている。
だが、そうしたことが実現するには幾つも壁が立ちはだかる。最も重要で大きな課題は、専門の解剖医養成だろう。
いまでも、解剖医は全国に約170人しかいない。そのうえ大半は大学法医学教室の教授らで、研究をしながらの“兼業”だ。解剖医が1人しかいない県もあるなど、地域格差も深刻である。やはり、絶対的なマンパワー不足は否めない。解剖医の養成は急務といえよう。
さらに、解剖の前提となる検視技能の高度化や警察の検視官増員も不可欠である。解剖で得た情報を医療現場に生かすことや、遺族に解剖の結果を説明する仕組みを整えることも大切だろう。
これら課題を克服し、犯罪死を見逃さない体制づくりを急いでほしい。
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Ai活用検討会報告書「政策に反映したい」- 岡本厚労政務官
2011年07月27日 キャリアブレイン
厚生労働省の「死因究明に資する死亡時画像診断の活用に関する検討会」で座長を務めた門田守人・日本医学会副会長は7月27日、同検討会が取りまとめた報告書を岡本充功厚労政務官に手渡した。岡本政務官は、「政策にしっかり反映していかないといけないと思う」と応じた。
同検討会は、昨年6月から議論をスタート。今年5月30日に開かれた9回目の会合で報告書案についての最終的な意見交換を実施し、取り扱いを座長に一任していた。
報告書では、小児の不慮の死亡例については全例で死亡時画像診断(Ai)を実施することを視野に入れ、体制を整備することが望ましいと提言。これらは社会的期待や緊急性も大きいとして、今後、予算措置を含めた必要な措置について検討するよう求めている。