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大震災で父親、母親のいずれかを亡くした子ども(遺児)の数は、推計で2千人以上。このうち両親ともに失った孤児は200人余りいる。この子らが、未来の可能性まで奪われてはなる[記事全文]
東日本大震災では大量のがれきが発生した。環境省の推計では宮城、岩手、福島3県で約2200万トン。宮城県が7割を占め、同県石巻市では通常の年の106年分を抱え込んだ。がれ[記事全文]
大震災で父親、母親のいずれかを亡くした子ども(遺児)の数は、推計で2千人以上。このうち両親ともに失った孤児は200人余りいる。
この子らが、未来の可能性まで奪われてはなるまい。
岩手、宮城両県は寄付金をもとに、孤児や遺児向けに学業資金を毎月給付する制度を準備中だ。民間でも様々な支援の動きがある。手厚く、息長く、学びや育ちを応援し続けたい。
経済援助と同じくらいに大事なのが、子どもたちの心をサポートすることだ。
周囲には、少しずつでも元の暮らしを取り戻す家庭がある。遺児たちは、取り残された気持ちでいるかもしれない。
遺体が見つからず、親ときちんとお別れができていない子どもが、数百人はいる。
大人はどんな声をかけてよいか、戸惑う。「いつまでも泣いてちゃだめ」「あなたがお母さんを支えなきゃ」といった言葉に、子どもはますます不安を閉じこめてしまう。
泣きたいだけ泣いていい、とありのまま受け入れる。いつだってそばにいるよ、と伝える。そんな心のケアが必要だ。
自死遺族支援などに取り組んできた「仙台グリーフケア研究会」は、学生を中心に、震災遺児のケアにあたるスタッフの養成講座を始めた。「あしなが育英会」は、同じ体験を持つ子の居場所になるような施設を東北につくる計画を進める。
こうした民間団体と行政が連携し、たとえば被災地の市町村ごとに、遺児をサポートするチームを置いてはどうか。
若いボランティアが兄、姉になり、子どもの日常を見守る。難しいときはスクールカウンセラーや児童相談所につなぐ。保護者の相談にものる。学習支援を提供する。そんな仕組みだ。
社会を見渡すと、親のいない子、一人親の子を取り巻く条件は、かつてなく厳しい。
教育にかかる家計への負担は重い。不利な家庭条件にある子が学びたくても学べず、大人になってからの所得格差につながる。「子どもの貧困」は近年、大きな問題になってきた。地域の絆が子育てを補う力も、衰えている。
だからこそ、従来から一歩進め、災害遺児の支援制度を整えるべきではないか。それは、広く困窮家庭の子育てを、地域で支えるモデルにもなる。
子どもたち誰もが同じスタートラインに立てるよう、踏み台を用意し、背中に手を添える。
彼らがこの国の将来を、担うのだから。
東日本大震災では大量のがれきが発生した。環境省の推計では宮城、岩手、福島3県で約2200万トン。宮城県が7割を占め、同県石巻市では通常の年の106年分を抱え込んだ。
がれき処理は市町村の仕事だが、人手や財政面で限界がある。処理が滞ると復旧・復興にも影響しかねない。県に委託できるようにはなったが、国はもちろん、被災地以外の自治体も協力してほしい。
がれきには大きく分けて2種類ある。もっぱら津波で発生した一般がれきと、原発事故に伴う放射能汚染がれきだ。
一般がれきについては、仮置き場への運び込みを急がねばならない。市町村で差はあるものの、市街地の道路沿いのがれきはめどがつきつつある。今後の課題は、使えなくなった家屋や事務所の解体撤去だ。
所有者からの申し込みを受けて作業にかかるが、被災者の様々な思いが詰まった場所だ。所有者の立ち会いも求めつつ職員が現地を確認してから取り壊すという市町村が多く、人手不足が目につく。国や全国の自治体から応援部隊を増やせないか、知恵を絞ってほしい。
財政面の支援もカギとなる。 政府が国会に提出した法案では、国による補助金の比率を最大で9割程度に高めたうえで、残額は市町村が地方債の発行で賄い、後で地方交付税で補うとされた。しかし、地方債の発行には手間と時間がかかる。
野党が共同提出した法案は、国が最初から全額を負担することをうたう。政府は野党案をとり入れてはどうか。他の多くの復旧事業と異なり、がれき処理は被災自治体に何の資産も残さないという特殊性を考えたい。
仮置き場から焼却炉や分別装置を備えた2次仮置き場へ、さらに最終処分へとがれきを移していく仕組み作りも急務だ。
全国の500を超える自治体ががれきの受け入れ方針を示しているが、放射能汚染を心配する地元住民の反対などで進んでいない。宮城、岩手両県のがれきは、放射線量を測るなどして不安を取り除きたい。
放射能汚染がれきについては、廃棄物処理法などの現行法に規定がなく、民主党が特別立法に乗り出した。一般がれき以上に国が前面に出ることが欠かせないだろう。
警戒区域や避難区域では、がれきが手つかずのままだ。どう処理するか。運搬や保管、最終処分について、関係自治体や野党とも協議して早急に具体策をまとめ、この国会で成立させなければならない。