中国浙江省温州市で起きた高速鉄道事故について鉄道当局は28日、信号設備の欠陥と担当職員の対応ミスが重なったことが原因とする現時点での調査結果を明らかにした。政府の調査チームは9月中旬に調査結果を公表する方針だが、200人以上の死傷者を出した事故の全容は解明されていない点がなお多く残されている。事故後に初めて現地入りした温家宝首相は原因究明と責任追及を徹底する姿勢を強調したが、遺族からは疑念の声も上がっている。【宮川裕章、温州(中国浙江省)隅俊之】
鉄道当局はこれまで「落雷による設備故障が原因」と説明し、「天災」であることを強調してきた。温州市内で開かれた政府の原因調査チームの初会合で上海鉄路局の安路生局長は、信号設備に設計上の重大な欠陥があったために落雷による故障で赤信号を点灯すべき区間で青信号が点灯されたと報告した。
さらに、信号設備のある温州南駅の当直担当者が設備に習熟しておらず、故障の修理や衝突防止に向けた警告など適切な対応を取らなかったと指摘した。設備の欠陥や現場のミスといった「人災」の側面を初めて認めたことになる。
こうした説明について、日本の専門家は疑問を投げかける。鉄道評論家の川島令三氏は「高速鉄道で赤や青の信号ということがおかしい。日本の新幹線では信号は車内にしかなく、自動列車制御装置でがんじがらめにしている。制御装置で守られている場合、駅は関係なく、駅で信号の作業に携わるようなシステムならそれこそ問題だ」と指摘した。
一方、温州市庁舎前では28日、遺族が真相究明を求めて抗議した。遺族の抗議行動は3回目。温首相が事故現場を訪れた際にも、数人の遺族が「家族が死んだ理由を教えてくれ」と直訴しようとして制止される場面もあった。
温首相は記者会見で、事故から6日目になって訪問したことについて「11日間、病で床にふせっており、きょうになって医師が許可してくれた」と釈明した。中国の要人が公の場で自らの体調に言及するのは異例のことだ。それだけ中国指導部が事故処理への国民の反発に苦慮していることを示している。
温首相の訪問について、中国のインターネット上では「遅すぎるのでは」などと批判的な書き込みが多い。39歳の姉を亡くした30代の弟は「大災害や大事故など政府の対応が批判されるたびに温首相がやってくる。だが、重要なのはそうした問題を起こさないことで、このままでは温首相が何人いても足りない」と話した。
毎日新聞 2011年7月29日 東京朝刊