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地デジ難民
2011.07.28 更新
 7月24日正午、全国(ただし震災にあった東北3県を除く)でテレビ放送がアナログ電波からデジタル電波に切り替えられた。したがって、従来のアナログ波専用のテレビでは、変換用のチューナーを設備しないと視聴できなくなった。「地上波アナログテレビジョン放送」が1953年にスタートしてから58年、「地上波デジタルテレビジョン放送」(地デジ)時代へ幕が開いた。ちなみに、この地デジ化に際して、NHKで約4000億円、民放全体では約1兆600億円の資金が投じられた。

 ところが、(1)アナログ放送の中止を知らなかった、(2)所得が低く地デジ用のテレビを買えない、(3)山間部や離島、ビルの谷間など、難視聴地域に住んでいて視聴できない、などの事情によってテレビを視聴できない人たちが、目下大量に出現している。いわゆる「地デジ難民」と呼ばれる層だ。このため、総務省やNHK、民間放送局に苦情や問い合わせが殺到。その数は初日の24日だけで17万件超に達した。

 いまのところ正確な地デジ難民の数は確認されていないが、6月末時点で、デジタル化未対応の世帯は、南関東・首都圏の一戸建て住宅を中心に29万世帯(NHKと総務省の調査)とされる。民放連の広瀬道貞会長は、デジタル化未対応世帯は、5000万テレビ世帯のうち10万世帯程度との予測を示し、24日の記者会見では、「アナログ停波のメッセージが通じない『サイレント層』に、万全のフォローをすることがわたしたちの最後の仕上げ。これから1週間が勝負」と「地デジ難民」対策に力を入れることを強調した。

 あらたに地デジ放送を視聴するためには、地デジ対応テレビを買い、VHFアンテナに替えてUHFアンテナを取り付けるか、従来のアナログテレビを使う場合は、地デジチューナーあるいは地デジチューナー内蔵録画機を接続するか、のいずれかの対応が必要になる。

「総務省テレビ受信者支援センター」(デジサポ、本部東京)には、おもに高齢者らから「画面が映らない」、「チャンネルの設定の仕方が分からない」といった苦情や相談があいついだ。相談窓口では、「大きな混乱はなかった」(デジサポ統括本部)というが、片山善博総務相は、「(移行への)対応が終わらず、テレビを見られない方もいる。(電話相談などの)サポート体制は継続して対応する」と今後のサポートを約束した。

 これまで総務省は、生活保護を受けていてNHK受信料の全額免除を受けている世帯、市町村民税の非課税世帯を対象に無料で地デジチューナーを給付したり、アンテナ無償改修などを実施していた。しかし、今度の地デジ完全移行で、店頭の地デジテレビやチューナーが品薄に陥り、購入できない世帯も多数出てきた。そこで総務省では、一般家庭でも入手が困難な場合は、簡易チューナーを最大3カ月間貸し出すこと(連絡は地デジコールセンター)、また、臨時相談窓口を期限をつけずに存続させることを決めた。

 地デジ放送のメリットには、(1)高精細画面のハイビジョン・高音質が提供できる、(2)モノや人が二重に映るゴーストが解消される、(3)送信できる情報量が多くなり、天気予報やニュースなどを表示するデータ放送が可能、(4)1つのチャンネルで最大3つの番組を放送できるマルチ編成が可能――などがあげられる。またアナログ放送終了にともない、今後は、空いた周波数帯を、デジタルラジオ、携帯電話、高速道路情報システムなどに充てる計画だ。

 地デジへの移行を11年までに完了することを定めた改正電波法が公布されたのは、2001年6月15日。テレビ放送の地デジ化は、すでに世界53カ国・地域で実施されている(昨年12月現在)。日本が地デジ導入に急いだのは、こうした世界の趨勢に乗り遅れると、テレビメーカーの国際競争力が失われる可能性があったからだ。

 以後、完全地デジ化までのエポックを追うと、以下のような流れになる。

 03年12月1日、関東、中京、近畿の一部地域で地デジ放送が開始され、06年2月10日からNHKと民放が合同で地デジ告知のスポットCMを開始。同年4月、携帯電話端末向けの「ワンセグ」がスタート。12月1日からは、全国の県庁所在地で地デジが視聴可能に。10年7月24日、難視聴地域の石川県珠洲市で地デジへ完全移行。同年11月24日には、総務省が地デジ受信機の世帯普及率が9割を超えたと発表した。4月20日には、3月11日の東日本大震災を受けて、岩手、宮城、福島の3県は地デジ完全移行を1年間延期することを決めた。(7月13日、延期をさらに来年3月まで延長)

 地デジへの切り替えにともなって問い合わせが多発したことについて、立教大社会学部(メディア社会学)の砂川浩慶准教授は、「一般的に混乱を示すものだと思う」としながらも、「年内いっぱいは対策を続けるなど丁寧な対応をしないと、置き去りにされてしまう人が必ず出てしまう。国民の情報インフラであるテレビが、地デジ化でテレビ離れを加速させたことにならないか、国策の検証が必要だ」と指摘している(J-CASTニュース7月25日付)。

関連論文

筆者の掲載許可が得られない論文はリンクしていません。
96年以前の論文については随時追加していきます。ご了承ください。

私の主張
(2011年)メディアが触れない電波の無駄使い──アナログ停止で明らかになる利権
池田信夫(上武大学教授)
(2010年)数年後、情報の司祭はネットに移り、新聞・テレビは完全消滅する
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(2007年)地上デジタル放送への補助金は税金の無駄。ネットを活用すべし
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(2000年)デメリットを視聴者に隠して、誰のための放送デジタル化か
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議論に勝つ常識
(2011年)[地デジ完全移行についての基礎知識]
[基礎知識]地デジへの完全移行はどこまで進んだか?
(2010年)[新聞・テレビの未来についての基礎知識]
[基礎知識]ネット時代――世界の新聞・テレビの現状は?
(2007年)[地上デジタル放送についての基礎知識]
[基礎知識]放送の完全デジタル化で何が起きるか?
(2000年)テレビ放送デジタル化の問題点を考えるための基礎知識



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