2009年に運転を終了した中部電力浜岡原発1号機(御前崎市佐倉)の燃料プール内に現在も1体だけ残っている使用済み燃料が、17年前に放射能漏れ事故を起こした損傷燃料であることが27日、分かった。原子力行政関係者は「浜岡原発だけでなく全国の原発が損傷燃料を運び出せない問題を抱えている」と指摘する。再処理を目指して健全な使用済み燃料の搬出が優先されてきたために、損傷燃料の処理方法を定めたルールはなく、国の見通しの甘さも浮き彫りになった。
中電によると、1号機に残る1体は1994年12月、原子炉運転中に金属製の被覆管に髪の毛の直径ほどの微小な穴(ピンホール)が開いた燃料集合体。当時、排ガスの放射線量を監視しているモニターが異常値を示したため、原子炉を手動停止した。年間に許容される放射線量の数万分の1以下ながら、平常時には検出されない量の放射性物質が外部に放出された。
1号機は90年10月にも5体の燃料の被覆管が剥がれる燃料損傷事故を起こしていた。その際は、燃料損傷に関する研究データを得るために、民間試験研究機関の日本核燃料開発(核燃、茨城県大洗町)が1体、英国核燃料会社が4体の損傷燃料を受け入れた。
94年に損傷した燃料についても中電が両者に受け入れを打診したが、「ピンホールの開いた損傷燃料は(既に研究が進んでいて)研究性が見いだしにくい」(核燃)、「契約期間が終了した」(英国核燃料会社)などを理由に断られたという。
中電の担当者は「損傷燃料1体を含めて1、2号機に残る燃料は2013年度末までに全て4、5号機の燃料プールなどに移す計画になっている」と説明する。ただ、損傷燃料を運ぶ際には輸送容器(キャスク)が高いレベルで放射能に汚染される可能性があり、「損傷燃料の移動に伴ってどのような影響が出るのか、どんな対策が必要かなどを慎重に検討している」という。敷地外にいつ搬出できるかの見通しは立っていない。
経済産業省原子力安全・保安院の担当者は「健全な使用済み燃料は青森県六ケ所村の再処理工場などに搬出されるが、損傷燃料をどうするかは現状では決まっていない」と話す。
東京電力福島第1原発(福島県)では東日本大震災に伴い、1〜3号機でメルトダウン(炉心溶融)が起きた。著しく損傷した燃料や溶融した燃料が生じているとされるが、その処分方法はほとんど白紙だ。
東京大大学院の長崎晋也教授(放射性廃棄物処分学)は「メルトダウンした燃料の処分には新しい法律が必要になる」と指摘する。各地の原発に残る損傷燃料については「メルトダウンした燃料とは損傷の意味合いが全く違うので同列には語れないが、今後、浜岡のように廃炉になる原発が増えてくるとルール作りが必要になってくる可能性がある」とみる。
メルトダウンした燃料を前に、対応が後手に回る国の原子力行政。各地の損傷燃料と真摯(しんし)に向き合わずにきたつけが回ってきた。その象徴が浜岡原発1号機の燃料プールに眠る1体の燃料集合体だった。
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核燃料は、効率的なエネルギー源であると同時に放射能汚染を生み出す“張本人”でもある。ひとたび取り扱いを誤れば途端に人間に牙をむき、運転中にため込んだ大量の放射性物質をまき散らす。にもかかわらず、住民にとっては秘密のベールに包まれがちだ。浜岡原発の核燃料をめぐる課題や地域住民との関係を探る。(浜岡原発問題取材班)
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損傷燃料 燃料棒を覆う被覆管などが損傷した燃料集合体。冷却水に混入した異物が水流の振動でこすれて被覆管を傷付けたり、製造過程に起因する微小孔(ピンホール)が開いたりして生じる。被覆管内部にたまった強い放射能を持つ核分裂生成物などが漏れ出すため、通常の使用済み燃料より慎重な取り扱いが必要となる。福島第1原発の炉心溶融で生じた著しい損傷燃料や溶融燃料の取り扱いには技術開発が必要とされる。国の原子力委員会は「福島第1原発における中長期措置検討専門部会」を設置して、燃料の処分を含めた廃炉までの工程づくりに着手する。
17年前に放射能漏れ事故を起こした損傷燃料をいまだに動かせないでいる浜岡原発1号機(手前)=5月、御前崎市佐倉(本社ヘリ「ジェリコ1号」から)