地上波テレビがデジタル方式になってから4日が過ぎた。
「カラー化以来」といわれる大転換だ。地上波テレビを見るすべての人に、新しい受像機の購入といった負担を強いる異例の政策でもある。
問題は、それだけの負担に見合うメリットを視聴者に感じてもらえるかどうかだ。番組内容の充実こそが問われている。放送界が背負った課題は重い。
アナログ式の電波が止まった24日正午の時点で、デジタル化対応が間に合わなかった世帯は全国で最大10万世帯、長野県内で千世帯以上にのぼったとみられている。いわゆる地デジ難民だ。
地デジ化は一部とはいえ、見切り発車の色彩を帯びた。対応できていない世帯の支援に、国とテレビ局は手を尽くすべきだ。
加えて大事なのは、放送内容の向上である。
画質や音がよくなる。テレビ局と家庭をつなぐ双方向の情報サービスが可能。天気予報などデータ放送も受けられる―。
国や放送業界が掲げてきたデジタル化のメリットだ。
こうしたメリットは、視聴者が切実に求めていたものとは必ずしも言えないのではないか。例えばデータ放送を見るには、リモコンのボタンを何回も押さなくてはならない。電子機器の操作が苦手な人の中には、余計な機能と考える人も少なくないだろう。
デジタル化によって、テレビとネットを隔てる垣根はさらに低くなった。テレビはネット世界の激しい競争にさらされる。
そこで問われるのが番組の中身である。国民にとって大事なことを、政府や関連業界に遠慮しないできちんと伝えること。そして暮らしを豊かに、潤いのあるものにするために、良質の娯楽番組を提供することだ。言い換えればジャーナリズムとエンターテインメントの機能である。
テレビ業界が番組作りで課題を抱えていることは、誤報や捏造(ねつぞう)がなくならないことからも分かる。高画質、高音質になったテレビから視聴者の首をかしげさせる番組が流れてくるようでは、「何のためのデジタル化か」といった批判を呼ぶだろう。
テレビは国民にとって最も大事なメディアの一つである。高齢者にとっては特にそうだ。
NHKと民放は放送内容をさらに磨き上げてもらいたい。県内の各局は地域に根差した信州らしい番組をたくさんつくってほしい。放送関係者の力が試される。