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2011年7月28日10時52分

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「自殺報道、指針策定を」 清水内閣府参与に聞く

 今年5月の自殺者急増を受けて、菅政権の作業部会が自殺の時期や自殺者の年代などを分析した。メンバーの清水康之内閣府参与はある女性タレントの自殺報道との関連性を指摘。自殺対策に取り組むNPO法人ライフリンクの代表でもある清水氏に、自殺報道のあり方について聞いた。

 ――分析の結果は。

 「自殺直後の日別自殺者数が今年平均の1.5倍に増え、通常は少ない若年女性の自殺が多かった。女性タレントの自殺を情報バラエティー番組の多くがトップで報じるなどしており、過去の事例を踏まえると、報道が要因になっている可能性がある。政府としてメディア各社に対して、自殺報道ガイドライン(指針)の策定を呼びかけるべきだと発言した」

 ――どう作用しますか。

 「過剰な自殺報道は、表面張力のようにしてやっとのことで生きることにとどまっている人たちに対して、自殺という選択肢を強く植え付けてしまうことがある。もともと精神的に不安定な状態にある人たちにとっての最後の引き金になりかねないということだ。実際に今回のことで、そうやって娘さんを自殺で亡くされたという遺族の方からの相談も複数受けている」

 ――どういう報道が問題なのですか。

 「世界保健機関(WHO)が2000年、自殺報道に関する勧告を出している。避けるべきこととして、センセーショナルに報道しないこと、自殺の写真や遺書を公表しないこと、方法を詳細に報道しないことなどを挙げている。日本でも、1986年に自殺したアイドル歌手の報道を受けた後追い自殺、最近ではいわゆるいじめ自殺、硫化水素自殺など、自殺報道の影響は繰り返し指摘されてきた」

 ――報道機関はどうするべきだとお考えですか。

 「自殺は社会構造的な問題だという理解が、報道関係者に乏しい。自殺は、毎年3万人以上が死に追い込まれている社会的な問題。その対策においてメディアが担うべき責務を自覚することが重要だ。しかし、知る権利にこたえることと、注目されるようにニュースを扱う商業ベースの感覚、自殺予防に資することという3要素の中で、自殺予防が置き去りにされがちだ」

 「熱心な取材が過剰な自殺報道を引き起こし、それが自殺の増加を招くといった悪循環を避けるためにもメディア各社がガイドラインを策定して、それに基づいた報道をすべきである」

 ――参考になる事例があれば教えてください。

 「オーストリアの事例だ。地下鉄の飛び込みが増えていたが、悩み相談の窓口情報を併記したり、写真を掲載しないようにしたりすることで、件数が減った。単に報道しないというのではなく、生きる支援という角度から報道することが大切だ」

   ◇    ◇   

 ライフリンクは、自殺に関する相談先の検索サイト「いのちと暮らしの相談ナビ」(http://lifelink‐db.org/)を開設している。

■誘発しない報道目指す

 朝日新聞では、自殺報道の指針を更新する作業を進めている。改訂を予定している事件報道の記者用手引に盛り込む予定だ。

 これまでの指針でも自殺報道については「連鎖反応が起きないように書き方や扱いには十分注意する」と記者に喚起してきた。しかし、いじめ自殺や硫化水素自殺などの新たな社会事象が起きる中で、報道のあり方についても吟味しなければならない。

 新聞は読者に情報を伝える責務を担っており、自殺についても社会的関心の高いケースはある。ただし、報道で自殺者が増えることがあってはいけない。

 そのためにも、(1)自殺の詳しい方法は報道しない(2)原因を決めつけず、背景を含めて報道する(3)自殺した人を美化しない――などに注意してきた。連鎖自殺を引き起こしやすい青少年やタレントの自殺の報道については、より注意が必要だろう。自殺を誘発しない報道を目指したい。(記者教育担当部長 岡田力)

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