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【社説】

ノルウェー惨事 民主政治を脅かす蛮行

2011年7月25日

 「平和の国」のイメージが定着している北欧ノルウェーで悲惨なテロが起きた。極右勢力が台頭する欧州の問題を凝縮した悲劇でもある。背景を見据えて、再発防止策を徹底しなければならない。

 あまりにも惨(むご)い犯行だ。

 容疑者がオスロ中心街の爆破テロで標的にしたのは国家指導者たる首相だ。ウトヤ島で殺害したのは、政治集会に参加していた有為な青少年だ。ノルウェーの民主政治の担い手に直接狙いを定めた蛮行と言わざるを得ない。

 ノルウェーは約五百万人の人口小国だ。国民と政治家の距離は近く、民族的な同質性が対テロ対策を緩いものに留(とど)めてきた面は否めない。逮捕されたアンネシュ・ブレイビク容疑者は、「残虐だが必要だった」など一部供述を始めているが、動機をはじめ背景は依然謎だらけだ。

 ブレイビク容疑者は極右政党の元活動家で、ネットにキリスト教原理主義的な内容の大量の書き込みをしていた。ノルウェーは北大西洋条約機構(NATO)の一員としてアフガニスタンの国際治安支援部隊、リビア空爆に兵力を派遣しており、「西洋対イスラム」という構図を当てはめる見方もあるが、現時点ではイスラム過激派など国際テロ組織との関わりは確認されていない。まずは徹底した事実の解明を求めたい。

 背景に、安定した福祉国家を維持してきた北欧でも増え続けるイスラム系移民への反発があることは確かだ。現在3%に留まっているイスラム系人口は今後二十年間に倍増するとの予測もある。

 憎しみを煽(あお)るネットの広がりも大きな要因だ。国境を超える情報発信ツールとして進化し続けるネット空間はイスラム過激派、極右勢力を問わず個々人への影響力を強める一方だ。

 また、長期化する金融・財政危機は、欧州的な生き方に対する不安となって地域を覆っている。欧州的価値観の基本だった筈(はず)の文化多元主義について、このところ英独両首相が相次いで「失敗だった」との発言をしている。閉塞(へいそく)感を助長していないか。

 今回の事件は、米中枢同時テロ後、欧州を襲ったマドリード、ロンドンのテロ以来の惨事だ。各国は当時の米政権による対テロ戦争に同調しつつ、個別の複雑な事情を抱える犯罪として、一線を画した対応を試みてきている。今回も捜査にはきめ細かい欧州の知恵の結集を求めたい。

 

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