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平成の「悪党」はこう作られた

金持ちリベラルによる日本破壊

フリーライター宮島理のプチ論壇 since1997

宮島理 プロフィール

 菅直人氏と筑紫哲也氏を結ぶ線。「金持ちリベラル」による「反近代」という破壊行為がいよいよ日本を襲う。

 7月22日の首相動静を見て驚いた。菅氏が「神が人に知恵を与えて科学技術が蓄積された。それが良かったのかどうか」と発言しているのだ。私が「脱ナントカでポルポト化する日本」で書いたことは杞憂ではなく、菅氏は本気で「反近代」を実行しようとしているのかもしれない。(ついでだが、あくまでたとえ話として「ポルポト化」と書いたところ、政治献金を通して菅氏と関わりのある政治団体の機関紙が、ポル・ポト派幹部と親密な関係にあったという報道を見かけた。偶然だが笑えない話だ)

 菅氏が「脱原発」を唱えたことで、「脱原発」にはすっかり手垢がついてしまった。「脱原発」は「反近代」であり、とてもまともな人間なら使えないような、プロ市民の専売特許のような言葉になってしまっている。「消費税」「TPP」……などなど、菅氏が触れたものはすべて手垢がつき、まともな政治課題の座から滑り落ちてしまう苦杯をなめてきたが、「脱原発」もその列に加わったということで、ご愁傷様と言うほかない。「反近代」に陥った「脱原発」とは距離を置き、冷静にエネルギー政策を考え、原発問題に取り組んでいくしかないということだろう(現状では、「脱原発」というカラッポの言葉を使わない方が、現実的な政策論議を可能にし、原発の安全性向上や依存度引き下げにつながる)。

 わが国の首相が「反近代」というのは、戦中期を除けば異例のことだと思う。おそらく菅氏には、近代文明によって厳しい「自然状態」を生き抜く1億人の生命を預かっているという自覚がない。それなりに高収入で、貯えもそこそこあって、後はノンビリと「自然」の中で暮らしたいという、身勝手な中高年にありがちな感覚で、日本国を運営している。そのような覚悟なき「反近代」が多くの生命を奪うということは、「脱ナントカでポルポト化する日本」にも書いた通りだ。

 この「反近代」という魔物をめぐって、私が最近気にしていたのが、筑紫哲也氏の相続税問題である。2008年に亡くなった筑紫氏が、相当額の蓄財をしていたことが、この問題をきっかけに改めてわかった。


「08年11月に73歳で亡くなったジャーナリストの筑紫哲也氏の遺族が、東京国税局の税務調査を受け、相続遺産約7000万円の申告漏れを指摘されていたことが分かった。このうち海外口座に残されていた遺産約4000万円については、意図的な所得隠しに当たると認定され、重加算税を含めた追徴税額は約千数百万円に上るとみられる。遺族側は既に修正申告を済ませたという」(毎日新聞


 申告漏れ分だけで7000万円なのだから、遺産総額はその何倍にもなるだろう。現役時代は市場経済で多額のお金を稼ぎ、これだけの遺産を残した筑紫は、皮肉にも「反経済」や「反近代」の思想を売ることで、経済的な成功を収めた。筑紫氏は、自身のニュース番組で、ずばり「反GDP」や「美しき停滞」と題された論評を行っている。


「(略)経済全体を考えますと、例えばGDPという数字が非常に大きな意味を持っております。どのくらいそれが上がるか、下がるかということで景気、一喜一憂しているんですが、この、その物差しそのものが相当乱暴な数字で、つまり経済的な効果を上げるかもしれないけれども、それによって環境や人間の生活やそういうものが傷められた部分というのはこの数字には入ってこない。むしろ、そういうことをやる ことによって傷められる環境の問題というのがあります」(TBS系列「News23」の「多事争論」コーナー2001年5月29日付「反GDP」より)


「『美しき停滞』という言葉を使いましたが、これは産廃問題で住民投票をやりました岐阜県の御嵩町の柳川さんが口にした言葉であります。つまり、経済的にやたらに伸びるということではなくて、停滞している、じっとしている、静かかもしれないけれども、そこに美しさのある地域社会の作り方も考えてみて良いのではないか。こういう考え方であります」(TBS系列「News23」の「多事争論」コーナー1999年2月17日付「美しき停滞」より)


 いずれも特に内容はなく、単に大金持ちの筑紫氏が、「もうこれだけ稼いだから競争や成長や開発で荒らされるのはカンベン。自然のままがいいな」と言っているだけである。こうした「反近代」が、個人レベルの趣味で語られるのなら、何の問題もないが、菅氏は首相という立場でありながら、「反近代」を押し出しているところがおそろしい。

 自分が若い頃は、競争や開発をどんどんやって、経済成長で「自然」を荒らしてきたが、自分が年を取ったら、競争も開発も禁止だ、というのは、典型的な既得権者の論理である(それを地球レベルでやっているのがエコロジーな先進国)。「反近代」を推し進める既得権者には十分なストックがあるから、「自然」を満喫できるが、ストックがなく、フローもやせ細る現役世代には地獄となる。まだまだ近代文明の恩恵が必要な現役世代は、「反近代」路線によって、これから貧しくなる一方だろう。さらに、近代文明の恩恵がなければ生まれてくることもできない将来世代は(前近代の胎児および乳幼児の死亡率の高さを見よ)、この世への新規参入を拒まれるというわけだ。

 思えば、昔から「金持ちリベラル」は、甘ったるい「反近代」を語っていた。菅氏の「反近代」は、その最終段階であり、いよいよわが国の方針が「反近代」になろうとしている。やはり、この辺の感覚は、「「2020年がどうなろうと、おれの知ったことではない」という高齢者の国家道連れ願望」に通じているのかもしれない。政治家の「妄言」の裏には、有権者の「願望」あり、だ。

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