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平成の「悪党」はこう作られた

東電不正救済に突き進む悪徳民主と自公の連合体

植草一秀の『知られざる真実』

植草一秀 プロフィール

 原発事故を発生させてしまった場合に、事業者にどのような責任を求めるのか。今回の東電福島第一原発事故が発生した時点で、このことについて定めがある唯一の法律は原子力損害賠償法(原賠法)である。
 
 日本が法治国家であるなら、この法律に則って問題を処理するのが当然である。
 
 この法律は、原子力事故が発生した際、事業者に無限の責任を求めている。ただし、第三条に、例外規定が設けられている。事故が「異常に巨大な天災地変又は社会的動乱」によって生じた場合には、「この限りでない」との条文が存在する。
 
 しかし、今回の地震津波は、日本において、定期的に繰り返されている天災地変のひとつであることが、各種データから明らかにされている。「異常な」現象でないことは明白である。
 
 そうであるなら、東電に対して無限の責任を求めるのが、法治国家としての当然の対応である。
 
 ところが、菅直人政権は法治国家としての行動を逸脱して、東電救済の問題処理スキームを提示した。自公両党は、これが法治国家の基本枠組みを超える脱法行為だとして政府提案を糾弾するのではなく、東電を救済することの正当性を振りかざし、より確実に東電が救済されるための、法案修正を求め、民主党がこれを受け入れて合意してしまった。
 
 政府や自公両党と同様に、広い意味での東電マネーに汚染されているマスゴミも問題をまったく指摘しない。唯一、東京新聞だけが正論を吐いているだけだ。

 主権者国民はこの現実に慣れてしまってはいけない。日本では、これほどに「法の支配」は弱いのである。これが、日本の警察、検察、裁判所制度の根幹に流れる基本精神だと考えなければならない。
 
「法の支配」は人民の権利を国家の権力から守る「砦」の役割を果たす。国家がその権力の名の下に、暴政を振るわぬよう、恣意的な運用で、人民の権利を侵害しないよう、法を定め、すべての行政措置をこの法の支配の下に置くというのが「法の支配」の考え方である。
 
 ところが、日本では、「法」よりも政府の恣意的な判断が上位に位置付けられるのだ。しかも、今回の場合、東電マネーという形で巨大な資金を政界、学界、マスゴミ、産業界にばらまいてきた東京電力の事案である。
 
 この事案で、政府は、法律の規定を乗り越えて、東電救済策を提示し、本来、恣意的な法の運用を糾弾しなければならない存在である野党の自民党、公明党が、悪徳民主党と共謀して、不法行為を推進しているのである。

 この問題について、日本経済新聞が7月12日、13日に「経済教室」欄で、二つの論考を掲載した。
 
 7月12日は同志社大学教授の森田章氏による「事業者責任限定を前提に」と題するもの、
 
 7月13日は政策研究大学院大学教授の福井秀夫氏による「無限責任には更生法が筋」と題するものである。
 
 ぜひ、この論文を確認いただきたいが、論文の優劣は明確である。福井氏が現行法を踏まえて緻密な考察を積み上げているのに対し、森田氏は現行法を精密に踏まえることをせずに、東電救済を正当化することを所与の結論としたうえで、そのための理屈を無理に構築しようとするものである。
 
 現行法の規定に沿って、東電に無限の賠償責任を求める場合、東電の損害賠償責任規模は東電の純資産を大幅に上回ることは明白である。したがって、法律の規定に従えば、東電を法的整理して、そのうえで、不足する損害賠償について、国が負担するしかない。
 
 ところが、自公民が提案しているスキームは、東電の利害関係者である株主、経営者、債権者、従業員を救済し、これらの利害関係者が本来負担しなければならない賠償負担を一般国民に転嫁するものとなっている。
 
 法律を逸脱したこうした措置が強行される理由は、東電マネーである。東電を取り巻く利権が官僚機構や政治屋に流れ込んでいるために、こうした脱法行為が強行されているのだ。これこそまさに、「政治とカネ」の典型的な問題である。

日経新聞に掲載された福井論文は、実に精密に問題を論じている。そのなかから、特記すべき三事項を抜き出しておこう。
 
 第一は、問題処理に際して使われる「東電」や「国」という人格が負担をするわけではないということだ。東電の負担とは、株主、債権者、経営者、電気料金負担者など、ステークホルダー(利害関係者)による負担であり、国の負担とは納税者による負担であるということだ。
 
 国が負担すべきとの言葉が多用されるが、これが、納税者による負担であることを正しく認識しなければ、論議が歪むことになる。
 
 第二は、原賠法をそのまま適用することに対する反論のひとつを成している、「会社更生手続きでは、担保付社債より損害賠償債権が劣後するから、被害者救済ができなくなる」との主張に対する見解だ。
 
 福井氏は、会社更生法の実務における「相対優先説」を示すとともに、原賠法第16条によって不足分に対する国の援助が定められているため、被害者救済に支障は生じない。
 
 会社更生手続きで被害者救済が達成されない場合には、国の支援で被害者救済は実行されることが原賠法に定められているのである。
 
 第三は、東電を破綻させると電力の安定供給に支障が生じるとの主張に対する反論だ。福井氏は「事業者の破綻は事業の停止を意味しない。政府が債務保証などを通じて電力安定供給に責任を持つ限り、事業価値の維持は容易であり、混乱はむしろ小さいと予測できる。」と指摘する。
 
 いずれも正鵠を射た指摘だ。
 
 自公両党は菅政権の行き詰まりの機に乗じて、我が物顔の振る舞いを繰り広げているが、自公両党の主張も「政治とカネ」に汚染された、法治国家の責任政党としての主張とはかけ離れたものである。
 
 主権者国民は、日本の「法の支配」が、このように大政党によって踏みにじられている現実を正しく認識しなければならない。

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