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「家が怖い」今も車中泊 仙台の男性、震災でPTSD
| PTSDのため自宅に戻ることができず、車の中で寝泊まりする男性=15日夜、仙台市宮城野区の宮城野体育館駐車場 |
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東日本大震災による心的外傷後ストレス障害(PTSD)で、自宅で暮らすことができず、車中生活に追い込まれるケースが出ている。頼みの綱の行政も実態の把握が遅れ、患者が避難所への入所を希望しても実現しないなど、対応のまずさを指摘する声も上がる。
仙台市の男性(71)は今月上旬、病院でPTSDと診断された。診断書を手にしても表情は晴れない。「症状を証明できても生活は変わらない」 男性は、避難所になっている宮城野体育館(宮城野区)の駐車場で4月から車中生活を送っている。夜、妻がいる自宅で手の震えを抑えながら夕飯をかき込み、1人で車に戻る。 3月11日、マンション7階の自宅に1人でいるときに地震に遭い、一時、自宅近くの小学校に身を寄せた。家財の片付けに自宅に戻ると、地震の恐怖感がよみがえり、めまいがするようになった。動悸(どうき)と体の震えが止まらなくなる。 睡眠薬をもらって自宅生活を始めた4月7日の夜、震災後最大の震度6弱の余震が起きた。 「もう自宅には戻れない」。避難所に入ろうと宮城野体育館に足を運んだ。担当者は入所の可否について「後で電話する」といったが、連絡はなかった。その夜から駐車場で生活し、5月上旬に再び入所したいと訴えたが、断られたという。 仙台市策定の防災計画は被災者の避難所収容について「日常の生活が著しく困難」など5項目を挙げる。だが、自宅が無事だった人が避難所に入ろうとしても、はね返されることがほとんどだ。 男性は無年金者。数日置きに24時間勤務の仕事に就く。車に体を横たえてもすぐ目が覚め、両足はひどくむくむ。静脈に血栓が生じて血管が詰まる「エコノミークラス症候群」の危険性にさらされ続けている。 PTSDは、事件や事故に遭った時から期間を経て、発症する精神的な障害だ。強い不安や不眠、突然記憶がよみがえるフラッシュバックなどが特徴的な症状で、的確な治療や生活環境が必要とされる。 医師から「無理して自宅に戻らないように」と指示されている。男性は「今は車以外に居場所がない」と話した。
◎「救助の対象」専門家強調/行政に対応求める
PTSDを抱える男性の車中生活について、仙台市は今月6日、男性が宮城野体育館の避難所に宿泊を申し出たことで宮城野区が把握した。区は緊急措置として避難所で生活することを6日から計6日間に限って許可したが、それ以降の継続的な入所は認めていない。 区民部は「避難所は今、借り上げ住宅への入居を待つ被災者約40人を残すのみとなっている。PTSD患者は避難所収容の対象ではなく、NPOが運営する民間施設への入居などを提案している」と説明する。 男性の相談を受けた野呂圭弁護士(仙台市)は9日、市に要請書を提出し、男性に避難所などの収容施設を与えるよう「災害救助法」に基づく救助を求めた。 野呂弁護士は「被災者は、災害救助法を支える憲法の生存権によって手厚く保護される。男性は生存権が著しく脅かされている。震災で被災したことを原因とするPTSD患者も救助の対象であり、避難所収容の対象者に該当する」と訴える。 PTSD患者は今後増加すると見込まれており、野呂弁護士は「行政は災害対策本部に法的アドバイザーを入れるなど、実情に応じた判断と対応が必要だ。このままでは『弱者切り捨て』が横行する」と訴える。 仙台市災害対策本部は「PTSD患者が救助法の対象になるかどうか国に見解を求めている」と説明している。
2011年07月25日月曜日
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