東日本大震災後の心のケアを考えるシンポジウムがこのほど、京都市左京区の京都大学稲盛財団記念館で開かれた。政府の復興構想会議の委員も務めた福島県在住の作家で僧侶の玄侑宗久さんも参加し、「震災後、福島県で自殺者が増えた。我々が築き上げてきた感覚でとらえられない放射能と向き合うことによる心のダメージが大きい」などと被災地の現状を報告した。【榊原雅晴】
京大こころの未来研究センターが「災害と宗教と『心のケア』~東日本大震災 現場からの報告と討議」と題して開いた。
基調講演した玄侑さんは「ただちに健康に影響は与えないと言い続けながらホウレンソウや原乳の出荷が停止された。20ミリシーベルトで計画的避難をしなさいという一方、子供たちは校庭で遊んでいいという。こうしたことが繰り返されるうちに我々の中で情報の価値が暴落し、『どうせ、また』という最悪の心情が芽生えた」と指摘。その半面で「義援金が出たらお葬式をだしたいとか、津波で奪われた位はいを返してほしいとか、宗教心の強い地域で起こった震災が人々のつながりを再確認させた」と、宗教が果たしうる可能性に触れた。
このほか島薗進・東京大教授(宗教学)、稲場圭信・大阪大准教授(社会学)、金子昭・天理大教授(倫理学)らがそれぞれの立場で発言。「行政の立場では『心のケア』は臨床心理士や精神科医の役割だが、本当は宗教が活躍できるはず」「お寺や神社、キリスト教などの宗教施設を合わせると全国で18万ある。これらがNPOなどと連携すれば災害時に大きな力になる」などの意見が交わされた。
毎日新聞 2011年7月23日 地方版