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[28812] 【ネタ】魔法の学校【オリジナル現代ファンタジー】
Name: なまにく◆3591bdf7 ID:aa15c546
Date: 2011/07/13 15:36
オリジナル学園ファンタジーラブコメ(笑)。



[28812] 一‐懲りない
Name: なまにく◆3591bdf7 ID:aa15c546
Date: 2011/07/13 15:42
2030年
地球には魔法がある。
使う者はウィザードと呼ばれ、魔法という希少技能を有するおよそ1000人に1人は各国の法律によって守られ、ときに管理されてきた。
ウィザードを、法律を作ってまで管理する必要のある理由は危険性。
純粋な戦闘能力や超能力的な異能は管理されなければいけない。かといって人権がある事で社会的にウィザードの地位は高くなった。
ウィザードという理由だけで無試験無資格の癖に公務員になれるのだ。
まぁその桁外れの給料に見合う働きはしているはずである。
軍事行動、凶悪犯罪、レスキュー、医療、ネットワークと活躍の場は広いしウィザードが一人現場に入るだけで100人分の働きをするそうだ。
ウィザードの能力がいかに有能かわかって頂いたところで話は変わる。
ウィザードの養成についてだ。
ウィザードは生まれ持った技能だが生まれてすぐ使えるわけではないのだ。
ペットと呼ばれる金属(メタル)と半霊物質(ソウルマテリアル)が混ざった補助体が魔法発動に不可欠である。
それを与えるのが養成機関だ。
15歳から入れる養成機関。
つまり15歳未満は魔法を使えない。
日本では全国に4つある養成機関。北から北海道・東京・長野・兵庫にある養成機関は無料な上に月15万の給料が出る。
魔法が使えると言うだけでこの待遇。
全く以って格差社会。
まぁそれだけウィザードが有能という事だろう。
有名どころではアメリカのレスキュー―ベン・スミス。ドイツの医者―イレーナ・リーヴィヒ。日本の刑事―持田十治。同じく日本だが本名不明自称ハッカー―キンチョール。最後のキンチョールは知らないが前者3名はいずれも20代の若きウィザードだ。そいつらと言ったら、毎日取材取材仕事仕事。テレビの生インタビュー途中に仕事に駆り出されるのも茶飯事な忙しさっぷり。その癖顔はいい、性格も良しと結婚したい有名人(世界版)では必ず上位に君臨する。
なんというリア充。

俺こと、持田五紀15歳。侍デカ持田十治の弟である。
魔法素質がある自分は長野の養成機関に入る事になった。
なんでこうなった。

それは高校入学を控えた3月15日の事だった。
兄と兄の親友達の活躍を報道するテレビ番組を切ろうとした所だった。
テレビには魔法養成学校1期生(1期生はアメリカの養成機関だけ)の中でも有名どころのレスキューベン・スミスが先日起こった油田火災時に死者無しで解決した事についてのインタビューをしていた時だ。
『そう言えば、僕の親友の弟が養成機関に入るそうだね。応援してるよイツキ』
テレビの中で世界のベンがとんでも無いさわやかな笑顔で俺の名を言った。空耳か。いやありえない。
兄十治とベン。後ドイツの姉ちゃんが親友同士というのは世界的にも有名だ。しかしありえない。確かに今年度から高校課程に入る俺は養成機関に入る資格はある。だがしかし、俺は普通の高校に入学する予定のはずだ。
なら別人のはずだと、安心してテレビを消した。
テレビの画面が黒く変わったと思ったらポケットに入れていた携帯電話がデフォルトの飾りっ気の無い呼び出し音を鳴らした。
電話の相手には兄貴と一言。
なんだお前か。と舌打ちしたがしょうがなく呼び出しに応える事にして開いた携帯電話を耳に当てた。
『五紀か。俺だ』
渋く低い声はまぎれも無い耳元で囁かれたら一発で堕ちると女子に人気な兄の声。感情が籠らないから俺はあんまり好きじゃないが聞きなれた声だ。
「なんだよ、兄貴」
『すまない』
「?」
いきなり謝る兄に何を言ってるのかわからなくなる。
『ベンが早とちりしたせいでお前が・・』
「ベンさんならさっき見た番組で変な事言ってたよな」
俺が養成機関入るとか。まぁ人違いだろう。
『お前を無事普通高校に入れる事が一番大事だったのに・・』
「いや、何言ってるかわかんねぇんだけど」
『あ・・あぁ、すまない。お前が見た番組でベンが、イツキが養成校に入る事を示唆する発言をしただろう』
「あぁ」
『あの発言を受けた日本ウィザード連盟が俺の弟という立場のお前を無理やり養成校に突っ込んだ』
「は?」
『お前の名前が・・養成校の新入生の欄に載っている』
「はぁ!??待て、待ってくれ兄貴!だって、俺の魔法素質は兄貴が・・」
『バレた。ベンの発言が切欠で俺と養成校が隠していたお前の素質が連盟にバレた』
「バレたって・・どうすんだよそれ。拒否できんのか?」
『すまない。本当にすまない。ベンはとりあえず殴った。すぐに治るのはわかっていたがとりあえずボコボコにしておいたから諦めてほしい』
兄の言葉が裁判長の極刑判決に聞こえた。
ありえない。何してくれてんだよ名前通りの糞便ウンコ野郎。
俺がわざわざ兄貴の立場を利用して隠蔽し続けてきた魔法素質を便がバラしやがった。連盟にバレたなら恐らく拒否権無し。
「・・・・おいおいおいおい。あっ!そうだ!個人意思の尊重で一般企業就職の生活科にすれば」
『お前の名前が載ってたのは公務員養成課程だった』
「ぐあぁぁぁぁぁ!!!!」
『すまん。お前にまた俺の名を背負わせることに・・』
「それはいいんだよ・・別に今更どうこう思っちゃいねぇって」
俺が兄の名を重く感じてたのはかなり昔だ。すでに吹っ切れている。
「公務員課程だけどうにかならねぇのか・・ってならないか・・」
『逃げ道が無いわけじゃない』
「えっ!何?」
逃げ道。それはなんと甘美な響きだったろうか。その言葉に思わず飛びつく。
『生活態度を最悪にすることだ』
飛びついたのは今すぐ離れたくなるヘドロの言葉だった。いや、それは・・。
「ないだろ」
『だが、これくらいしか・・』
「それは兄貴に迷惑掛るだけだろ」
『む・・』
「わかった。わかったよ。行く・・・・そのかわり」
俺は兄貴と約束した。その約束はその時思った以上にその後の自分の人生を苦しめる結果となってしまったが・・。

―――――

養成校という国家機関とはいえ15歳が通う高校とそんなに変わらない。
ただ通常の学校よりも通常授業がきつく、その上で魔法課程があるだけだ。
通常授業課程は高校3年分を1年で終わらせ、2年時からは法律やマナー。3年時は全てが魔法授業に当てられる。1日8時から20時までの授業。死ね。本当に死ね。
なんだその授業密度。
死ねるぞ?
何が普通高校と変わらないだ。全く違うぞ。
現在養成校入校式。その式直前だ。
ブルーのブレザーが集う周りとスーツか着物の後ろ。
前も後ろも酷くざわついている。
理由はまぁ後ろの席の一人の日本人男性と二人の外人。お忍びなのか全員サングラスを掛けているがそのオーラや日ごろテレビでお馴染なその顔がばれない筈がない。
「おいアレ。あの3人組って・・」
「十治様!生十治様よ!」
「ベン様かっこいいー!!」
「生でイレーナ様を拝めるとは・・・・今日死んでも悔いはない!!」
俺を除くすべての視線がその3人に向かっている。というかなんで全員に様が付いているのか・・。
なんつー事をしてくれた。なんでここに来るんだよ。
入校式なんか一向にざわつきが収まらず、締りの無いものになってしまい、グダグダと各教室へ。
俺が割り振られた教室に行くとそこには人だかり。これはヒドイ。
人だかりを抜け教室に行くと先程視線を集めた3人が教室の後ろで並んでいた。その横の保護者とは1メートル離れている。どんだけやねん。
俺はあえて前から乗り込み、黒板に張り付けられている席順を見に行く。見て絶望した。
中央最後にある俺の名前。奇しくもアイツラのまんまえが自分の席だった。
「・・・・」
「イツキー。ゴメンよ僕のせいd――ゴフッ!」
「黙ってろウンコ野郎」
軽く挨拶をしようとしたウンコ野郎に腹パンを食らわせる日本人男性。いいぞもっとやれ。
「はい、皆さん席に座って下さい」
気付くと教卓に一人の女性の姿が。先生である。しかも養成校1期生であり、後ろの3人組の同級生で親友である。
「・・・・」
「おっ、ミオじゃないk――ガフッ!」
「黙ってろウンコ野郎」
「なんで殴るんだい!?僕は級友を見つけた事に喜びを言おうt――ギャッ!」
「うるさい。他人の迷惑を考えて」
「おぉぅ・・医者が人に怪我を負わせてもいいのかい?」
「無問題。怪我をしない人間に治療は無意味だわ」
黙れよ3人組。人の後ろで何くっちゃべってんだ。見ろ、先生を。迷惑そうにしてるじゃないか。
「おい、そこな3人組。邪魔だ出ていけ」
ビクッ!
「み、ミオ?」
「そこなアメリカ人は何故そこに居る?このクラスにアメリカ人の親戚が居る奴は一人もいないぞ?」
「「・・・・」」
「いや、僕は可愛い弟分達が・・」
「邪魔だ」
「オーマイガ・・」
とぼとぼと教室を後にするアメリカ人。いやウンコ。その後を追従する奥様方。いや奥様方いいのかそれで?
「さて、煩いのが居なくなった。諸君。まずは自己紹介だ。私は智坂澪。このクラスの担任で諸君の魔法授業を担当する。質問は?」
辺りをザッと見渡す智坂先生。どうやらひとりの女子生徒が手を上げたらしい。
「あの噂は本当なんですか!!?」
なんの噂だよ。
「・・・・なんの噂だ?」
「持田十治様の弟とイレーナ・リーヴィヒ様の妹がこのクラスに居るという噂です!!いえ、お二方がここに居る事はそれの証明!一体誰なんですか!?」
「知らん。それと後ろに居るのは倉田さんと望月さんだ。決して持田やリーヴィヒなんていう名前じゃない」
んー。ありがたい。しかし効果は覿面だ。
ある程度分かると思うが俺は本名でここに通っていない。ここでの俺は春原。春原五郎となっている。
俺が兄貴にお願いした事の一つがこれである。悔しい事に声以外俺と兄貴は似ていないが今回はそれが役立った。
兄貴は親父似で俺は母親似。俺は割と中性的なのだ。決して女顔ではないので注意だ。
ここでもう一つのお願いも言ってしまおう。
それは生贄である。
実は俺のように兄弟や親の権力で魔法素質を隠している奴は結構いる。
その一人・・アリッサ・リーヴィヒ。後ろに居るイレーナ・リーヴィヒの妹を生贄としてここに召喚したのだ。
ドイツ人であるアリッサだが、その血の4分の3が日本人である。つまり日本国籍を持てる彼女を無理やり日本国籍に移し替えて彼女はここに居るのだ。
イレーナさんのように外人とひと目でわからない日本人な容姿を持つ彼女もまた偽名で通う事になっており、名前は広江亜理紗。丁度俺の斜め前の席に居る眼鏡ちゃんだ。
「という事で噂は噂だ。そんな事実は無い。よって次にその噂の真偽を聞いてきた奴には入学早々グラウンドを走ってもらう。いいな?よし、質問が無いのならば次に行くぞ――」

説明は粛々と進み、およそ1時間ほどの説明の後、各自自己紹介となる。
これで今日は終わりだ。
「春原五郎です。趣味は昼寝で公務員課程に入った理由はコマッテイルヒトノタスケニナリタイカラデス」
およそ感情が籠っていない後半は半分の人が意図的に聞き流していた。俺のやる気が無い事は証明されたも同然である。
兄の名を汚すのはアレだがまぁ春原さんの名前を汚しても良いだろう。
特に反応も無く拍手を浴び、ぺこぺこと礼をしながら席に着く。
「アリ・・広江亜理紗です」
お、生贄さんの番か。
「趣味は音楽。公務員課程に入った理由は無理やり。その原因を作った野郎をぶちのめすためにここに来ました」
その自己紹介にクラスが凍りつく。いや、一番凍りついていたのは俺か。
まさかそんなに恨まれていたとは思っていなかった。
こんな大衆の前で平然とぶちのめす宣言を飛ばす奴はそういない。
明らかな殺意がにじみ出ている。
俺に向かって。
これは・・死ぬかもしれないなぁ・・。

―――――

ばれる事も無く初日が終了。兄貴とイレーナさん、ウンコ野郎は先に我が持田家に帰っているそうだ。今日はプチ同窓会だと・・。イレーナさんが来ると言う事は生贄さん改めアリッサが来ると言う事である。
学校のように自分の立場が自分を抑えてくれるわけではないので恐らく一発くらい殴られる。
まぁいいか。
終了後早々に抜けた俺は、さっさと自宅に帰る事にした。
中学から使用している馴染んだスクールバッグを肩に掛け、巨大な養成校の門を抜けた。
「おい、待てイツキ」
「あっ」
抜けた所で肩に手が置かれていた。白く長い綺麗な手が俺の肩に置かれ、すさまじい力と共にミチミチと音を鳴らしていた。そのジワジワと来る痛みに手の持ち主を把握するため後ろを向くと件の生贄、広江亜理紗。
「い、痛いんですが・・広江さ――ゴフッ!」
「広江じゃないわよ」
ではなく、アリッサ・リーヴィヒさん。いや様。
「とりあえず目立つからあんたん家行くわよ」
「・・・・はい」
早々に捕まった。あと予想以上に怒っていらっしゃるようで、恐らく一発では足りないと思われる。

―――――

養成校から30分歩いた所に我が家・・というかアパートがある。普通に寮を借りる事も出来たが、家が近いので我が家からの登校となっている。
寂れた築40年の2階建て木造アパートだが、先日のリフォームで内部はかなり豪華だ。
家賃は6万。
というかここの土地も建物も兄の物なので家賃なんかいらない。
改造され、3部屋あった部屋が一直線に繋がっているのが我が家である。広いリビングとバスルーム、トイレ。後は俺と兄の部屋とキッチンだ。兄は仕事で東京から帰ってこないので実質俺が一人で住んでいる。
「おかえりー」
出迎えたのは先程とぼとぼ帰っていったウンコ野郎もとい便・スミス。
「ただいまー」
「お邪魔します」
礼儀正しく一礼してから部屋に上がるアリッサ様。こう言うところが日本人ぽい。というか日本人の婆ちゃんがマナー教室を開くぐらいに厳しいとか聞いたことあるな。
「帰ってきたか。昼食を用意してある。手を洗って来なさい」
猫柄のエプロンを付ける兄の姿は久々だ。ファンに見せてやりたい。こう見えて兄は猫大好きである。ペットがあれなのにな・・。
「はいよ」
[アリッサ。お帰り]
[ただいま。姉さん。仕事は大丈夫なの?]
[うん。みんなにお願いしてきちゃった]
[働きすぎよ。丁度いい位だわ]
[フフ。みんなにも言われたわ。1週間位休んで来いって]
笑顔で会話する姉妹だが残念ながらドイツ語は俺に理解できるものではない。ダンケしかしらない。ダンケってなんて意味だっけ?

手を洗い、食卓に並ぶ5人。思えばここに5人で集まる事など何年振りだろうか?
「6年ぶりか。最後に集まったのは養成校の夏休みだったな」
「そうね。それから私は国の大学で医学を学んでいたし」
「僕は直ぐに現場に駆り出されたね」
「俺も似たようなものだ」
懐かしいのか過去を振り返る大人組3人の横で、俺は正座をさせられていた。脛の下には鉛筆が5本置いてある。
痛い痛いって。
「あの・・広江さ――」
「リーヴィヒよ。イツキ。反省してるのかしら?」
実は反省してません。
むしろザマァである。俺と同じく注目を浴びたくないし兄姉のようにきつい仕事が嫌だという理由で隠蔽してたのだから良いじゃねぇか。いい機会だよ。
「ハンセイシテマース」
「ふんっ!」
太ももに踏みつけ。→鉛筆が脛に食い込む。→超痛い。
「ギャッ!」
「私のっ!」
「グッ!」
「平穏をっ!」
「ギャァッ!」
「返せこの野郎!!!!」
「グワァァァァァァッッ!!!!!」
脛が折れるかと思った。

だが反省はしない。

―――――
主人公→懲りない
ヒロイン→拷問好き
アニキ→無自覚S

世界観設定なんかは適当です。こんなんなんか程度で思って下さい。



[28812] 二‐泣きむし
Name: なまにく◆3591bdf7 ID:aa15c546
Date: 2011/07/14 00:39

養成高でまず最初に行われるのがペットの配布である。
魔法使いとして生きるのならばここで出会うペットが一生の相棒となるから周りは結構緊張してる。
ペットはいわば金属で出来た動物だ。
人間は魔力を表に出せない。
それがペットの存在意義に繋がっている。
ペットの存在意義とはいわば魔力を吸い出して操作できるようにするためのモノだ。
魔法を発動する手順は簡単に3つ。
魔力放出。
ペットにインストールされた魔法データに通して魔力を現象に変換。
現象を放出。または肉体に戻す。
簡単である。
ペットの材料は金属(メタル)と半霊物質(ソウルマテリアル)。魔力を吸い出す半霊物質と魔法データをインストールする金属だ。まぁ言っちまえば機械何だが厄介な事にペットには意思がある。半霊物質が意思になっているようで、ちゃんと喋るし、ぶっちゃけペットと相性が悪ければ魔法を使えない。
さっきから半霊物質なんて言われてもピンとこないだろうが、簡単に言うと自分の魂を吸い出して、そこになんか良くわかんない液体を入れる。
ごめん俺もわかんない。
ようはそういうことだ。うん。
「何がそういう事よ。あんた事前学習全然してないの?」
「してねぇよ。そんなもん何とかなる」
「最悪。いい?ソウルマテリアルは――」
説明メンドクサイ。僕聞かない。
「チッ――聞け。鉛筆するぞ?」
「はいすみません」
鉛筆=正座の下に鉛筆の刑である。バリエーションは他に投げナイフや画鋲椅子等がある。昨日全部食らった。
「ソウルマテリアルは自分の魂の欠片――そんな大仰なものじゃないけど普通なら血ね。規定では20mlの血液にソウルブレスって呼ばれる詳細不明の液体を掛けたものよ」
「ソウルブレスってなんだよ」
「液体よ」
「・・・・」
「・・・・」
「わかってな――」
「それ以上は公開されてない。よって私は今できる最高の説明が出来たと自負してるわ」
「知らな――」
「知ってるもん!それだけ知ってれば十分だもん!」
「なんだお前可愛いな」
「うるせぇよゲス」
「チッ」
普通そこはデレるものだろう。わかってないな広江亜理紗。
「アリッサだボケ」
「学校じゃ本名言わない約束だろ?」
ボケが・・と捨て台詞を吐く広江亜理紗さんを無視して今朝採血された結果である目の前の金属カプセルを見つめる。
縦長のカプセルは大きさ的にも形的にもアレに似ている。
ローター。
コード付いてれば間違いなく震えそうだ。
「なぁ。広江さん」
「何よ」
「これってローターに似てるよね(`・ω・´)キリッ」
「・・・・・・・・(゜-゜)」
その後空気椅子を授業終了までやらされた事はみんなに内緒であったが気まずそうにプルプルとする俺を見ていたクラスメイトの視線は痛かった。

―――――

「さて、それぞれペットの配布は完了したな。それがこれから貴様らの相棒になるペットだ。それぞれマニュアル通りに発動させろ」
まにゅあるとひらがなで書かれた1枚の紙にはほとんど情報は載っていない。今回は発動だけだからだ。
まぁ発動も簡単。手でカプセルを押すのだ。
周りにはすでに実践し始めるクラスメイトの姿。
小鳥。蜘蛛。猫。カラス。犬。魚。カエル。イグアナ。随分と多種多様だ。
斜め前を見れば広江さんが手のひらに這う金属百足をなんか楽しそうに見てた。
百足を楽しそうに見る眼鏡女子とは・・なんか呪われそうである。
出来ればそれを俺に近づけないで頂ければありがたい。
さて、俺は何だろうな。
兄貴みたいにおっきい狼とかイレーナさんみたいにイルカとかベンみたいにゴリラとかいいかもしれない。
さて、眼の前のローター改め一生の相棒よ。お前の姿を見せてくれ。君に決めた!!
カチリ
グニャグニャと変形を始めるローター。机の上に置くと質量を増しながら水銀のように流動し、形を作っていく。
なんとも・・気持ち悪いな。マトリックスのアレを思い出す。
「キャンッ!」
それはもう可愛らしいワンちゃんの鳴き声。周りのペット達が全く声を上げていないと言うのに最初から鳴きやがった。
というか・・。
「チワーワ」
額に冷や汗が流れた。
普通の金属光沢を放つがチワワだ。
なんだ、喧嘩売ってんのか。
せめてポメラニアンだろ。
俺チワワ嫌いなんだけど。
「キャンキャン!!」
「うるせぇよ食っちまうぞ」

―――――

所変わって現在無料の食堂。ファミレス見たいに4人で机を分ける形式のが大量に並んでおり、その中の一つのテーブルに鯖味噌定食を食す俺とカレー甘口を食す広江さんがいる。そして俺の頭の上には何故かチワワがいる。百足は広江さんの腕に巻きついている。怖い。
「プクク・・チワワだって・・」
「チッ・・百足見て恍惚とほほ笑んでた広江さんは周りの女子にドン引きされましたね。オメデトウゴザイマス」
俺のチワワは周りの女子にかわいいー!!ねぇさわらせてー!!って言われてたぞ。来たよ俺の時代!これで彼女出来る。
「その子達のペットが嫉妬してあんたに襲いかかってたわね」
「超、痛かった。というかなんで俺に襲いかかるんだよ」
「ペットの機能よ。悪意に敏感なの」
「悪意?」
下心しか持ってないよ?
というかペットね。ほんとに生きてるみたいである。実際生きているらしいが。
「食べるか?」
添えつけのサラダのトマトを頭の上に差し出すと頭の上が揺れたと思ったらガブリといった。
「きゃん」
自分でやっといてアレだが食べるのかお前。
「なぁ。広江さん」
「なによ」
思ったんだが。
「コイツおかしくね?」
なんで金属がご飯食べるんだよ。
「おかしいわね。でも知らないわ」
そーかい。
「ペットは金属生命体だから、そもそも栄養を必要としないわ」
おい、知らないんじゃないのかよ。興味しんしんじゃねぇか。いや、ここは何となく流すべきか。
「じゃあ食ったもんはベンになるのか?」
「微妙にスミスさんを馬鹿にしてるわね貴方の兄弟」
「お前の姉さんも同じくらいにな」
「・・・・」
「言い返せねぇのか」
「・・ちょっとスミスさんが可哀そうに・・」
「それが彼なんだ」
ウンコ野郎だからな。
「というか」
「ん?」
「食事中にそんな話題を出さないで」
「スミスの話か?」
「便の話よ!」
「思えば、お前カレー食ってたな。ベンだと思えば食えるんじゃない?(性的な意味で)」
「ごめんなさい。残します」
広江さんは静かに甘口カレーを脇にどけた。
だろうな。イレーナさんも無理だって言ってた。
でも、全国の女子は便が大好き・・いやベンだった。

―――――

「んでさ」
「なにさ」
昼食を取り終わり教室へ向かう道中の事だ。
ちなみにここは寮や食堂があるD棟だ。
ここでざっと長野養成校の説明に移りたいと思う。
まず長野養成校の所在地だが長野でも北信(長野市がある場所)に位置する。丁度県庁が見える小高い丘に建っており、養成校からは長野市街が見渡せる。
まぁ俺にとっては地元なので見慣れた光景ではある。
次に内部構造だ。
普通の高校のように部活動が存在しないので部活棟や野球場サッカー場も無い。グランドとプールは授業で使うからあるけど。
主な建物として三年A棟二年B棟一年C棟。そしてそれぞれの棟に付属してにD1棟からD3棟がある。このD棟を分ける理由はそれぞれの学年の力量差だ。
イジメや上級生による下級生へのパシリなんかを防ぐ措置だそうで。まぁなんとも。
すごしやすい。
上級生が居ない環境はすごいね。安心感がスゴイ。
まぁ別の学年と接する機会が無いわけではない。
この学校。部活動は無いがそれに準ずる物がある。
ひとつめ。1年の夏休みと冬休みの計2ヶ月間のみ発足する夏休みクラブと呼ばれる物。詳細不明。
ふたつめ。生徒会。詳細不明。
みっつめ。学園祭。詳細不明。
よっつめ。学年別力量測定大会。詳細不明。
詳細不明なのは何分入校二日目なのでやんわりと許してほしい。
まぁ現在広江さんと話している内容とは全く関係ない。
そして現在俺が歩いているのはD3棟からC棟への渡り廊下である。という事が言いたかっただけだ。
長い説明乙。
「広江さん家はどこなの?」
「はっ?」
怪訝・・を通り越して常態を疑う眼である。そんな目を向けられたのは初めてだ。
「いや、だからさ。どこにせいそk――棲んでるの?」
「お前今生息って言ったか?あと字面がおかしい気がしたんだけど?」
「ドイツ人が字面なんて難しい言葉使うなよ」
「残念ながら私の血の半分以上が日本人だ」
「本当にな!」
「・・・・」
しまったスベった。
「んで、結局どこに棲んでんだよ」
「字面直せよ!・・・・お前ん家の2階だよ。学校からはちょっと遠いけど、後集団行動は苦手だし・・」
「相変わらず難儀な性格(厨2病)してるな」
集団行動嫌いとか厨2病かよ!リア充?フッ私には関係ないぜ!的なモノだと以前から思っている。そう。思えば初めてあった8歳の時もだ。イレーナさんの後ろにしがみつく広江さんが挨拶代わりに蹴って来て、大喧嘩に発展して、バールのような物を持ちだした広江さんが俺の前歯2本を粉砕したのだ。初めて救急車で運ばれた。あれ?こいつ何も変わってない。相変わらず暴力酷い。
「ペットが百足だったから女の子の友達出来ないしな」
「むっ、可愛いじゃないか百足。ウネウネしてるとことか」
えー。そこが気持ち悪いんだけど。
「おまえ、それは・・百足は絶対拾ってくるなよ?」
「だ、大丈夫よ。ちょっと誘惑されそうだけど」
「お願いします。解約手続きを」
「断る」
いや、洒落にならない。2階から百足が落ちてくるとか本当に洒落にならん。怖い。怖すぎる。
俺の家が百足に浸食される。
「んで」
「なんだよ。百足を飼う事は許しませんわよ」
「なんでオカマ口調なのよ・・まぁそれはいいとして・・夕飯どうする?」
「はっ?」
夕飯?なんで広江さんに聞かれるんですか?それは持田家の事です。
「だから、夕飯どうするのかって。何食べたい?好きなの作るわよ」
いや、待て。なんでそんな嬉しそうに聞いてるんだよ。というか広江さんが作る事が前提ですか?イレーナさんの分?いや今日の朝二日酔いで帰ったはずだ。兄貴の分?同じく二日酔いで帰ったはずだ。という事は俺の分?なぜお前が用意する。
「あぁ・・なんでお前が作るの?」
「え・・・・?」
「・・・・」
「・・・・」
お互い予想もしてなかったのか、立ち止まる。C棟に入って教室までこの階段を登り切ればいいはずだが、立ち止まり、お互い視線を交差させたまま時が過ぎる。
早い時間に昼食を切りあげたからか他の生徒はおらず、辺りは静まり返って、この雰囲気を一層重いものにしてくれる。
あれ?なんでこんな雰囲気になってるの?
すっごい気まずい。
何これ?
ジワ
泣いちゃった!アリッサ泣いちゃった!
小さい頃良く虐めて泣かしては兄貴かお袋にぶん殴られていた当時を思い出す。
あぁと・・あの時はなんと言って泣き止ませたっけ?
ジワ
ほらぁー!今にも零れそうじゃないか!早く、ほら思い出せ!
「ぐすっ・・」
おいおいおいおい!ガチ泣きだぞコレ!

瞼を決壊した水滴が頬を伝って落ちるのを、袖を使ってカバーしたアリッサ。だが、一度決壊した瞼はどうにも緩いらしい。そのまま小さい嗚咽を漏らしながらボロボロと泣きだしてしまった。
あぁ・・やっちまった。
「あぁ・・その・・なんだ。甘口カレーを頼む。後・・・スマン」
我ながらオロオロしていたと思う。いや、女子に目の前で泣かれて焦らない男なんていないだろ。あんなもんホストか極道の住人だけだ。
「ぐすっ・・・ぅぅ・・ぷ・・く・・」
ん?
「くくくくひぐっ・・」
コイツ、笑ってないか?
「・・・・」
「ひぐっ・・ぷくくうぇぇぇん」
うぇぇぇんとかわざとらしすぎるだろJK。
「チワーワ・・」
「キャン!」
「行け!かみくだく!」
「キャン!」
頭の上から飛び降りてちっちゃい牙をむき出しに広江さんに飛びかかる。本当に迫力の無い情けない姿だ。
「しかしチワーワのこうげきは外れた!」
眼鏡を取りながら颯爽と避ける広江さん。ちっ、チワーワのちっちゃい牙でかみくだかれる無様な姿を見たかった。
「やっぱ泣いてねぇじゃないか!殺すぞ!糞アマ!」
「甘口カレーね。砂糖入れてやるわ!」
「その口閉じろぉ!行けチワーワ!アイアンテール!」
「キュゥゥン」
「なんで無理です見たいな顔してんだよ!」
「行け百足ちゃん!まきつく!」
「キャンキャンキャンキャン」
「逃げるなチワーワー!!」

きょうのはんせい。
昼食後にバトルしてたら先生に怒られて保護者に連絡された。

―――――

この物語は主に会話練習のために作ってますので魔法設定とかほとんどおまけです。
後シュタゲでクリスティーナにブヒブヒしてたからヒロインがなんかクリスティーナっぽいけど仕様ですのであしからず。



[28812] 三-入らない
Name: なまにく◆3591bdf7 ID:aa15c546
Date: 2011/07/18 20:12
午後六時。授業が終わりみんなで出向くのは食堂。だがちょっとばかり人が多すぎるのはどういう事だろう。
少なくとも、えーあー・・・・150人くらい?丁度いいか。
別に学校終わって帰るがその前に夕食食ってこうぜ!というわけではない。最終授業前の夕食だ。
それを食べに来た。
ガッシ
夕食を食べようと券売機のカレー×10(倍数の高さで辛さが変わる)のボタンを押そうとしたら横から出てきた白い腕(鉄百足付き)に掴まれて止められた。
「広江さん。俺は今日激辛カレーを食べたい気分なんですが」
俺のささやかな希望はどうやら却下されたらしい。掴まれた腕から金属百足が這い上ってきた。
「待って!止めて!百足怖い!頼むから!甘口カレー食べるから!」
「・・別に・・食べたくないならそう言えばいいじゃない」
あっ、そう言う意味じゃないんだよ?本当に。ちょっと腹へって、激辛カレーで味覚を無くしとこうとか思ってないよ?
「んじゃ、とりあえずりんごジュース二枚・・と」
券売機のタッチパネルに指を走らせリンゴジュースを二枚。いい加減後ろが閊えている。何も買わないならそこどけよ見たいな事は言われたくない。
「ほれ、行くよ。広江さん」
相変わらず掴まれている手を引っ張り誘導するととぼとぼと付いてくる広江さん。駄目だこりゃ。なんでこうたまに仕草がかわいいのか。誘ってんのか?お断りです。
先程リンゴジュースを注文したのにはわけがある。持ち歩きが出来るパックジュースが良かったからだ。というか校内にも自販機あるのになんでここまで来たんだよ俺。
「はいよ」
「ん」
二人してリンゴジュース片手に歩き飲み。
ジュー
「最後の授業って何?」
「魔法データのインストールよ。最初に入れる魔法何にするの?」
あぁ。智坂先生がそんな事言ってたな。
さて、ここで最初の魔法とあるが、ウィザードにとって最初の魔法は何よりも重要なモノになる。
それはペットの方に問題があるのだが未だに解決してない場所で、簡単に言うと最初の魔法の属性。兄貴なら探知。イレーナさんなら解析。ベンなら自己修復。それぞれの魔法の分類に特化した状態になってしまうからだ。もちろん他の魔法も入れられるが精度がかなり落ちる。
ウィザードは最初に入れる魔法で一生が決まると言ってもいい。
他の生徒は随分前から決めているみたいだがどうにもそこら辺俺は曖昧である。
「どうしよっかなー」
もちろん候補もいくつかあるにはあるんだ。
まずはペット強化。
これはペットを戦わせるという概念の下ある魔法で、結構幅が広い魔法だ。
ペットとの感覚共有・ペットの巨大化・ペットの強化。最終的にはペットを操作して遠隔からの攻撃魔法発射等が出来る魔法だ。デメリットは他の魔法との相性が悪くてこれを取ると他の魔法の精度がかなり落ちる。
次に電算魔法。
ペットを端末に自身の意識を電脳世界にプラグインしてウィルスにロックバスターを浴びせる魔法である。
これは結構人気が高いし実際このインターネットが支配する現代社会にとっては十分に役に立つ魔法である。デメリットはネット内のウィザードの特権が少ない事。下手すると逮捕。随分前に出した日本の自称ハッカーキンチョールがこれに当たる。逮捕はされてないが。
最後に探知。
兄貴と同じ魔法だ。
探知はもうすごいらしい。
遠見に透視、過去視といった視覚的分野や地獄耳といった聴覚的分野。ソナーに生体感知。これ一つで家中のGを殲滅出来る。
まぁ便利には便利なんだがデメリットがスゴイ。
すごく疲れるのだそうだ。そりゃ脳みそは一つだからな。そんな感覚持ってたら脳みその負荷すごいだろ。
「やっぱり十治さんと同じ探知魔法?」
「んー。候補にはある。でもペット強化と電算も面白そう」
「そっちはどうせポケモンかロックマンしたかっただけでしょ」
「バレた?」
「遊び半分で魔法を使うな」
どうせ探知も碌な魔法ではない。俺が思うに覗き魔法。最近の家屋や建物は探知魔法防止が掛っているが、兄貴ほどの精度になるとスケスケだ。風呂も覗きほうだいらしい。
下心全開である。
「まぁ適当に考えるさ。広江さんは何入れるの?決めてる?」
「植物操作」
「毒でも作るの?」
「んー。それも出来るけど、植物操作は解析の魔法と相性いいから。最終的には薬剤師目指すわ」
「あんだけウィザードになりたくないって言ってたのにな」
「来ちゃったもんは仕方ないわ。あんたのせいだけどね」
「生贄だ生贄」
「・・・・ちょっと嬉しかったし」
「ん?何が?」
「なんでもないわよ」
丁度リンゴジュースが終わったのでそこら辺にあったゴミ箱にぽいして教室に向かった。

―――――

教室の外はすでに真っ暗。
時刻は7時半だ。
教室にはすでに最初の魔法をインストールしてそれぞれ発動具合を確かめている生徒が多く、インストールを完了していない生徒は一人しかいない。
まぁ俺だが。
「これは?」
「クゥゥン」
「こっちは?」
「クゥゥン」
俺とチワーワはインストールに苦戦していた。
俺が指し示すのは系統別に分けられた魔法のデッキが50枚ほど。
ここで簡単に説明。
デッキというのはインストールするための魔法のディスクだ。これをペットに読みこませて、記憶させるのだ。要はデッキがCDでペットがMP5プレーヤーみたいなもの。
これを読みこませて発動させるというだけのお手軽インスタントだが、最初に魔法を使うとショボい。火の魔法でライター以下。探知の魔法で視力0.2増加。電算魔法で一瞬だけプラグインとかそのぐらい。
すでに前述のペット強化と電算と探知はチワーワによって却下されていた。
「・・・・じゃあこれで最後だ。選べ」
50枚ほどあったデッキの最後の5枚を並べる。
右からサイコキノ・光燐・エアリアル・合成。そして疎通。
サイコキノとエアリアルはそのまま。サイコキネシスと大気操作。職場は工事現場かレスキューか宇宙空間か・・。俺は汗と血にまみれるから選ばない。
光燐は光度操作とフラッシュグレネード。あと光の屈折を操れる。
合成は原子単位での融合。
疎通はテレパスである。あとサイコメトリーだっけ?
並べた最後の五枚を一枚一枚吟味していくチワーワ。匂いを嗅いでいるがお前の鼻は疑似的なモノだぞ?わかってるのか?
「キュゥゥン」
「駄目なのかよ!!!」
結局気に入らなかったようで小さい尻尾を丸めて旬とうなだれた。
というか魔法がインストール出来ないとか金属生命体を飼ってる人なだけになる。
『ウヒャヒャヒャヒャ。ペットに魔法を選ばせるたぁ剛毅なこったな。オメェで最後だぜ?』
顔の横からむかつく笑い声がした。肩に載ってるのはエリマキトカゲ。もちろんペットである。誰のかって?
「金次郎。生徒をおちょくるな」
「澪せんせー。コイツ超ウゼー。火山に突き落してやりましょうよ」
智坂澪先生のペットである。
作ったばかりのペットが赤ん坊ならもちろん成長する。人語を解するし知識も付ける。しつけも出来る。だが澪せんせー。こいつのしつけ間違ってないか?
『アァ!?俺の澪がンナ事するわきゃねぇだろぉ。恥ずかしい妄想で頭が溶けたか?ンダラァ』
超口悪いな。廃棄物になればいいのに。
「しつけはしたつもりだったんだがな。金次郎を見てると自分が教師という職についている事が恥ずかしく思えてくる」
「先生は悪くないですよ。子供の非行の90%以上が厨二病です」
『アァ!?コラガキ!てめぇ誰様に向かってチュウニビョー言うとんジャゴルラァ!てめぇの兄貴ボコスンぞ?おぉ!!?』
うっせ―なトカゲ。焼くぞ。
「ちょっとすまない」
ガッ
『み゛お゛ぉぉぉぉぉおおぐるじぃぃぃ!!』
ポイッ
『ってぎゃーーーーーーーーーー!』

「・・さて」
未だに俺の耳元でギャーギャーいう糞トカゲの首を思い切り握って教卓に投げ飛ばした澪先生は一呼吸置いてから改めて俺を見た。
「何故コイツは魔法のインストールを受け付けないんだ?」
「しらねぇっすよ」
先程言ったが作ったばかりのペットは赤ちゃんである。
デッキも、魔法も全く意味を知らないし言葉もわからない。あるのは相棒であるウィザードを守る事とインストールの方法。そして魔力吸収だけ。
カードを・・魔法を選ぶなど出来るわけがないのだ。
なのにコイツは選んでいる。
「なんでですか?」
「ふむ・・・・考えられる方法が一つ」
あるんですか。そうですか。
「きわめて稀だが、例が無いわけでは無いな。それだとすると問題はペットでは無くお前自身だ」
「?」
「一種特化体質。お前は恐らく一種類の魔法しか生み出せない」
「?」
「わかってないのか・・・・まぁいい。明日の放課後でやるから、それまでインストールは無しだ」
なん・・・・だと?

―――――

「それで今日後半ずっと教室の隅で三角座りしてたんだ」
帰宅後に広江さんが夕食を用意した時点で9時。いい加減遅い時間である。昨日とは違い二人きりで向かい合ってカレーを食べるとはどこのリア充だ。とても残念だが俺は眼鏡をかけた女子と男に『鉛筆』をする女子。そしてドイツ人のくせに日本人見たいな顔をした奴は趣味ではない。畜生。もっと可愛い女子がよかった。なんでコイツ、うちでカレー食ってんだ。
「・・・・・・何その勝ち誇った顔。超うぜぇ」
蹴り倒してやりたくなる。
「えぇ~。べっつに~。私は植物操作魔法覚えたし、自分の事に精一杯だから~教室の隅で三角座りしていた惨めな姿なんて~みてないわよ~」
明らかに笑いをこらえる糞眼鏡。
「その眼鏡甘口カレーに漬けるぞ」
「えぇ~。こ~わ~い~」
その大げさな身振りを伴う人をおちょくる方法は・・・・俺をプチンさせた。
「てんめぇ、糞アマ!!あんま調子こいてんじゃねぇぞこ・・ら・・?――ヒィッ!!」
激怒して怒鳴りつけようとしたが、怒声が途中で止まった。ついでに言うと息も止まった。
俺の手を金属百足が悠々と我が物顔で這いまわっていたからだ。
一瞬で鳥肌が全身に発生し、背筋と額に冷たい汗が流れる。
「どぉしたのぉ?調子がなぁんだってぇえ?」
ぐ!がががが。
「ほらぁ、怒鳴ってみなさいよ?」
糞アマの顔は恍惚とし、頬を少し紅潮させ少し危ない人だ。
くっそ、殺したいのに動けねぇ。というかコイツ毒もってないよね?植物操作は毒物生成兼ねてたから使えたよね?使ってないよね?ねぇ?
「フフ・・フフフ」



[28812] 四‐溜めるか(加筆修正)
Name: なまにく◆3591bdf7 ID:aa15c546
Date: 2011/07/21 06:49
見直すといきなり脈絡が無くなってる部分が二か所。
かなりひどかったので修正です。

―――――

一種特化体質。
魔法素養のある1000人に1人の中でも1万に1人と言われる特異体質である。
その名の通り1つの魔法しか使えない欠陥体質。
ウィザード学会ではたびたび欠陥体質と揶揄されるが1つの魔法しか使えないという事は別の意味を持つ。
その魔法に関する熟練度の違いが顕著に表れるのだ。
ここでもう一度デッキについて説明する必要が出てくる。
デッキがなぜデッキと呼ばれるかは、一緒に使っても精度が落ちない魔法を一緒くたに纏めて行う。つまりひとつのデッキにはいくつもの魔法が入っているのだ。だからカードゲームの山札のようにデッキと呼ばれる。
一般ウィザードが何百もの魔法を抱える中一種特化体質ウィザードは自分との相性が最高値の魔法しか使えない。数か質かというわけだ。
魔法の強さは、魔法に対する理解・熟練度(使用回数)・元来のその魔法との相性・ペットとの信頼度などの複数のパラメータを使うが一種特化体質ウィザードは魔法が一つなので熟練度は魔法を使いさえすれば勝手に上がっていく上に元来のその魔法との相性は最高値だ。理解や信頼度は己次第だが概ね一般ウィザードと一種特化体質ウィザードを一つの魔法で比べるとたとえ一般ウィザードが一種特化体質ウィザードと同じ時間その魔法を行使していても倍近い出力の違いがある。
だが大量の魔法を使いこなす一般ウィザードと一種特化体質ウィザードは戦闘という括りでも仕事の括りでも一般ウィザードが強いのが現実。汎用性があまりに違いすぎる。そこら辺が欠陥体質といわれる所以なんだろう。

昨日の話だがチワワがデッキを受け付けなかった理由を澪先生と考えてみた。
1つの魔法しか使えないのにいくつもの魔法が入っているデッキをインストール出来るはずもなく(性格には入れる事なら出来る)、チワワはデッキをインストールしなかったということだ。
なんでチワワがそんな事を知ってたかは、やはり自分の血を分けたペットだからなのだろう。チワワは自分に入れる事が出来る魔法を知っているのだ。
だから、何10冊もある魔法の図鑑の中で3時間もかけた見つけた一つの魔法を見て鳴き声を上げたチワワを見た時、不思議とウザったさは感じなかった。
「なるほど。欠陥体質と言われる割には怖い魔法を備えたモノだ。さすが十治の弟といったところか」
図書館で夜中まで付き合ってくれた澪先生が、魔法の名を見て勝手に納得する。その傍らではエリマキトカゲの金次郎が腹を見せて寝ている。
「蓄積・・ですか?」
図鑑に載せられた魔法コードで描かれた現象変換フィルター陣の隣に載る魔法の解説の項目には蓄積の魔法についての効果が詳細に書かれている。
『蓄積魔法はサイコキノ・重力などのデッキに使われる魔法。一般にエネルギーと呼ばれる物理量を蓄える』
なんだこれ、どんな魔法だ。
「あぁ。熱エネルギー電気エネルギー力学的エネルギー辺りは中学の授業でやっただろう。そのエネルギーを蓄えて、必要な時に取り出す魔法さ」
「具体的にはどんな感じで?」
「ふむ・・。1期生の中では一人だけ使っていたな。例えば、コンセントから電気エネルギーをためるだろう」
「はい」
「それを操る事は出来ないが溜めた電気エネルギーを1カ所に放出してスタングレネードにすることが出来るな」
「電気魔法使った方が早いんじゃ?」
「何者も使い方次第さ。限界まで蓄積したエネルギーは圧縮され高密度のエネルギー体になるらしい。それこそ、触れた瞬間に消炭になるぐらいのな」
「怖いっすね」
「そこまでの錬度に高めた具体例が居ないからどうにもわかりずらいがな。試しに日中光エネルギーでも集めているといい。専用の機械があれば電気代がかなり浮くぞ?」
あっ、それはいいかも。俺払ってないけど。
「ですね。まぁちょこちょこやってきますよ」
「そうしろ。明日までに蓄積魔法をデータ化しておいてやる。今日は早い所帰るといい」
「お願いしまーす」
いい加減夜中の2時になる。早い所帰って寝たい。
あくびをしながら席を立つと、澪先生も一緒に立ち上がる。
「そ、そう言えばなんだが・・」
「?なんすか?」
「と、十治はまだ家に居るのか?」
頬を染め目線をあちこちに彷徨わせる澪先生は初めて見る慌てっぷり。いや待て。その仕種でそのセリフ。まさかたぁ思うが・・。
「いえ、もう東京に戻りました。仕事が忙しいとかで」
「む・・そうか。ありがとう」
明らかに落胆する澪先生。クール系美女だと思ったらとんでも純情ガールだったらしい。死ね兄貴。
「ま、そのうち来ると思いますよ。その時は澪先生も家でご飯食べます?」
押し倒されてなし崩しで結婚すればいいよ。2度と家には帰ってくるな。
「あ、ありがとう。・・コホン。よし、家まで送っていこうか?」
「まじっすか?ありがとうございます!」
いや、本当に結婚しないかな。義弟の特権で授業が楽になりそうだ。

―――――

家に帰ると自宅の電気が着いていた。
いや、なんで着いてるんだよ。なんか人の気配するし。
朝は消して出ていったはずだぞおいコラ。アレか、空き巣か?それともサンタさんか?まぁ後者でも警察に通報するがな。

だが、何故明かりが着いているのかは想像できる。
どうせ当たってるんだろうなと訳の無い確信を胸に玄関の扉を開けると玄関に入ってすぐ全部を見渡せる居間のテレビ前の机とキッチン側のダイニングテーブルの中央を陣取る我が家自慢の5連結革ソファ(50万)の上には眼鏡を外して寝巻に着替えたアリッサが眠っていた。
なんで自分の部屋で眠らねぇんだよ・・。
なんだ、据え膳?食えってか?いや、腐らせた方がいいな。
カビ生えたコッペパンも風流だ。
玄関に入ってすぐ、居間の電気を消し、キッチンの薄い電気を付ける。すると綺麗にされたキッチン台上にはラップを掛けられた麻婆豆腐。食えってか?わかった食うよ。
「お前も食うか?」
「キャン」
頭上のチワーワも食べるらしいので多めに冷たいご飯を持ってキッチンの電気を消すと自分の部屋に戻って静かに食べた。

次の日寝不足だった。

―――――

「んでこのアレキサンドなんちゃらが広めた文化がだな・・でな・・ちょっと困っちゃった隣の王様が・・で・・処刑しちゃったんだよ。わかるか?」
「先生。わかりません」
「はい。廊下に立ってなさい」
「横暴です」
「バケツ二つ追加だ」
「教育委員に訴えますよ」
「残念ながらここは教育委員の管轄外だ。はい、おまえもう今日欠席な。マイナス1」
「先生なんで死なないんですか?生きてる価値あるんですか?43で独身とかもう生きてる価値無いから死んでくださいこのタネナシ」
「はははは。停学無いからって調子コいて開き直るなよ糞ガキ。あと誰がタネナシだ」

授業は特に何も無く平和に終わった。眠かったのに眠れなかったのはきっと椅子の上に張り付けられた画鋲のせいだ。下手に座れなかった。
空気椅子もいい加減痛くなってきた頃に鳴り響いたチャイムの音が天からの迎えに聞こえた時、教室の後ろの扉から澪先生が入ってきた。手には1枚のカード。
「春原」
はて、春原とは誰だろうか。昨晩の蓄積魔法についてだと思ったら違かったな。
「おい春原」
というか春原君早く行けよ。澪先生困ってるじゃないか。
「春原五郎!」
ほら、春原五郎早く行けよ。授業開始3日目でそんな反抗的な事してたらぼっちになるぞ?
「春原、早く行った方が良いぜ?」
友達にも言われてんじゃん。春原。
「おい、いい度胸だな春原。善意で動いてやってるというのに無視か?」
澪先生の死刑宣告と同時に俺の肩に手が置かれた。おい、誰だよ。ビビるじゃねぇか。と後ろを振り向くと、鬼としか言いようの無い顔で俺を睨みつける澪先生の姿。
「あるぇー」
なんで春原君のトバッチリが俺に・・・・ん?春原?
「あ」
「なんだ、春原」
春原って・・・・俺じゃん。

「すいません。俺、春原でしたよね」
「そうだな。春原五郎。自分の名前を忘れるとは昨日は随分楽しい事があったらしいな」
『ギャハハハハハ!!愉快なオツム持ってんナァ!アルチンハイムは病院行ってこい!』
ちっ、うっせぇなトカゲ。アルチンハイムじゃねぇしアルツハイマーだし。てめぇのオツムの方が愉快だよ。
「ふぅ・・まぁいい。データ化してきたから後でインストールしておけ。蓄積だけなら自己練習で黙認できるが放出はするなよ」
偽名を忘れていた俺に呆れたのか自分のペットの馬鹿さ加減に呆れたのかは知らないが大きく息を吐きだしながらカードを俺にくれる。
「ありがとうございます」
「いや、いいさ。次の授業もあるからインストールは早めにしておけ」
「はい」
『ギャハハハハハハハハ!!!!』
「煩いぞ?」
本当に煩いなあのトカゲ。

―――――

澪先生が教室から去るまでの間静かにしていたクラスメイト達も澪先生がされば静けさも去り、また教室は喧騒に満ちる。
「チワーワ」
「キャン」
俺の呼びかけに応え、頭の上から机の上に飛びおりるチワーワ。
クラスメイト達も俺が一種特化体質である事を知っているからなのか何人かが俺を見つめている。
その中には無論広江さんも含まれていた。
「ほい。こいつはいけるんだろ?」
差し出したカードに走る電子回路は莫大な情報量を持つ魔法という存在を治める箱の証。
確かデッキ1枚で10テラ使うらしい。勿論高価なので生徒は特別な事が無い限り触れる事が叶わない。その数少ない機会の一つ。ウィザードへの第一歩。
俺は一つの魔法しかインストールできないから楽しみはもしかしたら少ないかもしれないが調べる限りじゃなかなか応用力がありそうな魔法だ。極めれば地球を吹っ飛ばせる威力だってあるかもしれない。
まぁ使い方次第だし、ペットの安全装置がそれを許さない。
一種特化体質は制約が多い上に珍しいから実験になる可能性だって否定できない。
逃げだせばいいかもしれないが生徒以外は俺の本名。つまり教師は持田十治の名を俺に被せている。ここで俺が逃げたりしたら間違いなく兄の名前を汚すがそれだけは絶対に出来ない。

なんとも、なんとも厳しい人生になったものだ。
ベンが悪いベンが悪いと言っていたがまぁあの人の発言だけが原因じゃない。悪い偶然が重なりすぎたのだろう。
持田十治の名を傷つけない。それだけのために絶対に嫌だったウィザードを頑張ろうとしている自分を酷く笑いたくなった。
もっとうまいやりかたあるんだろうなーと思うが自分は馬鹿なので思いつかないから居間できる事を頑張ろう。

だから
一つの魔法でいける所まで行ってみる。
兄貴を
ベンさんを
イレーナさんを
超えるたぁ言わないが、それでも食い下がってみせよう。

「キャン!」
差し出したカードに食いつくチワーワの口からカードのデータが抜き取られ、インストール中とでも言うかのようにチワーワの全身に回路が光った。




[28812] 幕間1- ヤフー知恵袋に相談しよう
Name: なまにく◆3591bdf7 ID:aa15c546
Date: 2011/07/23 08:49
幕間だから短いよ―

―――――

警視庁特務長の持田十治といえば世界に名だたるジャパニーズサムライデカとして有名である。
ペットの黒銀狼サツマを使役し自他ともに世界一と認める探知ウィザードの彼は先日入校式に立ち会った弟が入校早々自分の恋人の妹とペットを戦わせて遊び怒られたという報告を親友の一人から電話越しに聞かされ少し滅入っていた。
(あの馬鹿・・)
いつも調子のいい弟。恋人の妹が遠いドイツに帰ってからは静かにしていたがまた二人でつるむようになってから昔の光景が嫌な現実としてアリアリと浮かび上がる。
恋人の妹が日本に居た3年間は思い出すだけで胃が痛い。
初対面の数分後にバールのようなもので前歯を2本持って行かれ、救急車で搬送されていった弟。
二人で川遊び中に二人とも流された事。
近所の悪ガキ共を病院送りかひきこもりにしてしまった事。
恋人の妹をからかって泣かせるたびに報復とばかりに階段から突き落とされて救急車で緊急搬送されていった弟。
通っていた小学校の校長先生のカツラをぶんどり『校長のヅラ』という呪いのアイテムとして全校集会に投げ込み全校集会を阿鼻叫喚の地獄絵図にし、ついでに用務員の先生の頭に残った最後の一本をコンビネーションプレイでもって引き抜いた事。
3年を過ごした日本から帰る事になった恋人の妹が『また会おうね!』という一言の代わりに放った右ストレートで押し出された道路で軽自動車に轢かれて3日間生死の境を彷徨った弟。
・・・・あれ?うちの弟病院でお世話になりまくりじゃないか?・・何回入院したんだろうか?

まぁ兎角心配なのだ。
あの二人組が。
そしてその周りが。
比率的には1:9である。
本当に周りが心配である。
『なんだ。そんなに五紀が心配ならば家に帰ればよいではないか』
自分の執務机で一人ため息を吐くと、隣で黒銀の毛並みを舐めて整えていた大型犬より二回りほど大きな狼が見上げてきた。
「そんなに簡単に帰れるならすぐにでも帰ってる。それが出来ないからこうなってるんだ」
『ふん。ならば手元に置いておけばよかったではないか。何故長野にアヤツを置いてきた?』
普通の動物には出来ない笑う表情を浮かべながら話しかけるサツマの言葉に十治は眉間に皺を寄せた。
「出来るか。あいつは俺の事を嫌っているんだぞ?」
『クククク』
「なんだ、気持ち悪い」
『いーや。何でもないさ。貴様が他の人間と話していると面白すぎてかなわん』
本気で面白そうにクツクツと頭部を震わせて笑うサツマ
「・・・・」
『そんなに不機嫌そうにするな。愛しのメスが見ているぞ?』
「馬鹿言うな。どこから見てるっていうんだ」
ありえないとは思ったが周りを見渡す。だがあるのは事件資料の詰まった書架と崩れて辺りに紙を散らす部下の報告書の山。コンビニ弁当やカップ麺の残骸、空き缶、空きペットボトルの山。
とてもじゃないが恋人を招く部屋じゃない。
それに一応はドイツ国籍のウィザードだ。日本の警察機関に入り込んでいいはずがない。
ここにはいないという確信を持って何だ居ないじゃないかとサツマを笑い飛ばそうとそちらを見るとやはり黒銀の狼は気持ち悪くクツクツと笑っていた。
『随分汚いわね。十治。仮にもウィザード警察の長でしょ?』
えっ。
「イレー・・・・ナ?」
つけっぱなしのパソコン。見慣れた草原の画像は一瞬で最愛の恋人の顔を映し出す。
金髪のボブカットに切れ長の黒目。顔と肩しか映し出されていない映像ではわからないが十治に迫る175センチという高身長の美女。聖女と名高いイレーナ・リーヴィヒが画面から部屋を見ていた。
ついでに言うとディスプレイ上部に備え付けられたカメラがせわしなく動いているのでそれでこの部屋を見ているのだろう。
『ハロ、十治。サツマは2カ月ぶりくらいかしら?』
『久しいなメスよ。最後にあったのは貴様らの最後の逢瀬の時か』
『二ヶ月も恋人を放っておくなんて酷い男よね。日本では馬に蹴られて死ぬべきなのでしょう?るいに蹴って貰ったらどうかしら?』
「るいの仕業か・・」
こんな所まで乗り込んでこれる知り合いを十治は一人しか知らない。それに思い当たりやりそうだと諦めた。そのペットに蹴られる覚えはないが・・。
『ピーシーゲームをあげたら随分と喜んでくれたわ』
「ゲームごときで魔法を使わせるな!」
『ゲームひとつで核を発射してくれると言ってたわね』
「あの莫迦・・・・」
親友の一人の馬鹿さ加減を想い、アイツそろそろ逮捕した方がいいんじゃないかと思う。
『その辺はどうでもいいわ。本題だけど、アリッサとイツキが仲が良さそうで嬉しいなって事を言いたかったの』
「そんなことで・・わかりきっていた事だろう」
『わかってないわね。兄と姉で、弟と妹で結婚するって素敵な事だと思わない?』
「わからん。あの二人が仲睦まじくカップルをしているところを想像できん」
『まぁ・・確かに。一年に一回は救急車を呼ぶわね』
「一月に一回の間違いだろう?」
『ふふ。・・あぁ・・ごめんなさい、呼び出しだわ・・・・じゃあね』
ディスプレイの向こう側からアラームが鳴っていた。確か患者の急変を知らせるモノだ。
それとほぼ同時に当時の携帯電話も鳴り響く。
「ああ。また会いに行く」
『その時は婚約指輪をお願いね』
妖艶な笑みを浮かべさらりと結婚要求をしてくる恋人に笑い声が乾いて出た。そしてその言葉を最後に通信は切れる。
途中から気を使って黙っていた隣のサツマはけだるそうにあくびをしている。
「なぁ」
『なんだ?』
「るいを逆探知して捕まえるか」
『クッ。逃げる速度と追う速度が同じならば永遠と追い掛け続けるだけだぞ?』
「じゃあ恋人から逃げる事は?」
『ククッ・・出来ると思っているのか?あのメスは貴様を殺してでも自分の物にするつもりだぞ?貴様が諦めるまで追ってくる』
黒銀狼の言葉にサムライデカは大きなため息を吐いた。
「・・・・はぁ・・」
とりあえず。
遠くに棲む恋人の気を紛らわす必要性が出てきたのでyahoo知恵袋に頼むことにした。

―――――

(・ω・`)やぁ。ここまでみてくれてありがとう。
さて、前話を見てアレ?と思うだろうが別に気付かないなら気付かないでいいんだ。
余り多くの人に気づかれると可哀想で仕方ない。

そしてyahoo知恵袋は個人的には少し苦手だがまともに回答する人は好きだ。


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