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[28914] 【ネタ、習作】マブラヴ オルタif USAに異変あり(×???)
Name: キャプテン◆3836e865 ID:16a4f0bc
Date: 2011/07/23 12:11
実験的習作。

・もしもあの国にある種の越時空情報が流れたら……

・もしあの国が空気読める国になってしまったら……

・多重クロスならぬ多重ネタです。全部わかる人いるかなぁ?

・原作設定は基本尊重しますが、意図的に無視ってるところがあるので細かすぎる突っ込みは勘弁してください。
 話自体がかなり変わってるんで。

・オリ多目。原作キャラは少なめ予定


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長いトリップつけたら感想板だと入力しきれない……どうしよう



[28914] 第1話 ○×情報が有用とは限らない
Name: キャプテン◆3836e865 ID:16a4f0bc
Date: 2011/07/19 19:38
 突然だが、前世療法というものをご存知だろうか。

 これは催眠治療の一種で本人の意識を過去そして生まれる前に遡らせていくものだ。
 もちろん本当に前世があるんだなんて治療を行う者達は考えていない。
 無意識下で作り上げた前世というイメージを引き出し、それによって今本人が抱えている問題を解決するヒントにしよう、というものだ。
 生まれ変わりだの前世だのが実在するという確たる証拠は1986年になっても一切発見されていない。

 それが常識のはずだった。
 だが、16歳の日系アメリカ人である僕がある事情から前世療法を受けた際にはかなり……いや、相当に規格はずれなイメージが浮かんだ。

 前世として浮かび上がってきた僕の人生は、日本人としてBETAなどいない平穏な世界でそれなりに楽しい一生を過ごしたものだった。
 現実にはお目にかかれないほど発達したゲームもかなり楽しんだのだが……。
 その中に『マブラヴ オルタネイティヴ』(全年齢版)というゲームがあった。
 まるで僕が現実に生きている世界のようにBETAに攻められる世界を描いたものだ。
 それはいい。
 問題は、その物語の中で描かれた我が祖国アメリカの姿だ。
 かなり非道でありまた身勝手である。

 無通告で友軍のど真ん中に新型爆弾を叩き込んだり、
 他国でクーデターを扇動し、そのクーデターがなんとか解決されようとした時に空気を読めない発砲したり、
 人類を救うための決死作戦において大ボス撃破よりもG元素確保を優先したりetc……

 前世の人間(ゲーム大好きなありふれた日本人)になりきっていた僕はともかく、アメリカ人としての素に戻った自分としては非常に腹立たしい描かれ方をしていた。
 意地汚い策謀をしているうえに、その動きはことごとく裏目に出てしまうのだ。
 もし、この前世の記憶が真実だったら頭が痛い。
 どうせ転生させてくれるのなら、悪役じゃなくて主役寄りであってほしかったと思ってしまう――もっとも望ましいのはBETAなんかがいない世界に生まれることだったんだろうが。

 前世療法が終わって僕が意識をはっきりさせると、施療した先生は非常に難しい顔をしていた。
 それはそうだろう、あまりにトリッキーなイメージだ。ここから問題解決のヒントを探せというのは無茶だろう。
 一応医者としての義務感からか「日系アメリカ人である君は、二つのルーツの間で微妙な感情を抱いている」などと言っていたが適当な感じしかしなかった。

 時間と金を無駄にしたな、と落胆して家に帰った僕はニュースを何気なくつけて絶句した。

『アメリカ政府、日本帝国より打診のあったF-15イーグルのライセンス生産・技術移転の案件について、拒否を正式決定』

 アナウンサーが読み上げる言葉に、僕は呆然とした。
 確か、前世療法中にやったゲームだとイーグルのデータは日本帝国にとって欠くべからざる重要なものになるはずだ。
 イーグルを徹底研究した成果がなければ、吹雪・不知火・武御雷といった日本製第三世代機は誕生できない。
 あわてて新聞を引っ張り出して、過去の関連記事を追った。
 G弾を国家戦略の主軸に据えることを決定したアメリカ政府は、戦術機関連の予算を削りその機密度を下げる措置を行っていた、という僕の記憶は確かだった。
 なら、なぜ日本帝国の提案を拒絶などしたのだろう?
 前世でやったゲームの中でさえ、アメリカと日本帝国の仲が決定的に悪くなるのはかなり先のはずだ。

 結局、僕は前世療法中に見たのはおかしな幻と割り切り、日々の暮らしに戻っていった。
 日系アメリカ人がれっきとしたアメリカ人として認められて久しいとはいえ、まだまだ差別感情は根強い。
 それを払拭する一助となるべく、僕はアメリカ陸軍士官学校を受験することに決めていた。
 志望はもちろん花形の戦術機搭乗者・衛士課程だ。
 G弾のために価値が下落傾向にあるとはいえ、対BETA戦の中核であるこの兵器の主になることは、合衆国でも少年少女達の憧れ。

 受験準備に励む僕は、合間を縫ってニュースをチェックした。

『アメリカ軍、海外展開軍の縮小を発表。在外基地の縮小・撤廃相次ぐ。地元からは歓迎と困惑の声』

『大統領、教書にて新孤立主義を提唱。アメリカと世界各国の不和を認めた上で、全人類の統一性を優先しアメリカが自主的に身を引くことを発表。
国内外からは賛否両論』

『アメリカ全軍、軍備再編に着手。新型第二世代戦術機を北米防衛軍に優先・集中配備することを決定。海外の輸入希望国家からは悲鳴』

『アメリカ大統領府、G弾がもたらす未知の危険性に警鐘を鳴らす科学者グループをホワイトハウスに招聘、G弾戦略見直しを示唆。
少数学派への優遇措置に、学会からは疑問の声』

 ……非常にまずい展開だ。
 あのゲーム内においてはアメリカは道化だ。間抜けな悪役だ。微妙なフォローはされているが……。
 だがその悪役の行為が思わぬ結果を引き出したり他者に利用されることで人類は勝利への足がかりを掴む。そんな展開だったはず。
 感情論を抜きにすれば、アメリカが悪者になって救われた世界のほうがみんなまとめて破滅よりはずっとマシ。
 だが『現実』のアメリカは対外不干渉主義に舵を切った。それも、かなり極端なほうにだ。
 米市民が他国のために犠牲になることに批判的な勢力は、大統領の豹変を歓迎したが。それ以外の勢力は非難轟々だ。

 これが一体何をもたらすのか?
 前世がどうしても気になり、混乱したが僕は士官学校受験のため自分の出自をまとめる作業に入った。

 名前:アドル=ヤマキ

 出自:日本人(後、アメリカ国籍取得)の父親・山木源之助と、日系アメリカ人の母・シズカとの間に長男として生まれる。
 父方の祖父・山木武雄は日本帝国軍人として米軍を相手に勇戦。戦後、アメリカ軍に召喚される。戦犯として訴追されるのを覚悟するも――呼ばれた目的は

『ガダルカナル攻防戦において、劣勢の火力を補うため密林を利用した貴官の迂回打撃運動は見事だった。是非、我が海兵隊に教授してほしい』

 というものだった。ドイツ軍からも相当数の人間を招いて話を聞いているらしい。
 自分達が打ち負かし降伏させた敵からさえ貪欲に学ぶ姿勢――
 祖父はそれまでアメリカに負けたのを国力のせいにしていたが、この一件で心底『負け』を確信。同時にアメリカに対する見方を一変させ、息子にアメリカ留学を勧めた。
 そこで父と母は結ばれ、僕が生まれたわけだ。
 なお父の職業はアメリカ陸軍嘱託の技術者。昨今宣伝されているG弾の研究に携わっていた。
 母方の祖父は、差別にめげず苦学しアメリカ屈指の軍需企業であるボーニング社の重鎮に成り上がった大物だそうだが……娘の結婚に反対だったらしく、ろくに会った覚えがない。

 ……正直、『僕は戦争とはいえアメリカ軍人を多くぶっ殺した人間の孫ですが、アメリカ軍の幹部になりたいです』というのは試験官達にすごい印象が悪いかもしれない。
 だが、出自を誤魔化すことはできない。これがあの『前世』のイメージを生み出した僕のコンプレックスなのだろうか。

 ――幸いなことに、僕の士官学校受験は成功。
 その後は、厳しい訓練をこなすのに精一杯で前世療法のビジョンなどすっかり記憶の底におしやることになる。
 米軍の士官は軍事の世界では『世界一優秀』と言われているが、その優秀な士官を作るための教育は世界一厳しいのだ。
 余計な話だが、アメリカ軍の士官学校では最も優秀な生徒グループは工兵とか兵站の、戦争映画などではあまり日の当たらないコースを勧められることが多い。
 このあたりは戦闘兵科偏重の国家とは一線を画すお国柄というやつだろう。
 そのせいで、あまりに優秀すぎると希望コースに入れないという喜劇(本人には悲劇)もよくある。
 ……僕は、そんな心配とは無縁だったがね。幸い、衛士適性も平均以上はあったし。



 僕と同じような前世療法をこっそりと受けに来ていたある合衆国高官が酷似した前世ビジョンを見ていた、と知るのは僕が卒業間近になってからだった。
 久しぶりに治療をしてくれた人を訪ねた際、茶飲み話の中で聞かされた。
 その高官はこういっていたそうだ。

『アメリカが世界を破滅させるぐらいなら、世界戦略を後退させたほうが良いに決まっているな。
まりもちゃんごめんよ、迷惑かけないから……日本帝国には徹底不干渉にするから。TDAは地獄だ』

 と。
 つまりイーグルを帝国に渡さなかったのは前世視点が加わったための善意の一環であったらしい。
 いやどこか間違えているかもしれないが、前世の世界を幻だと考えている僕にはその判断に対する明確な反論はなかった。
 (そもそも米高官に一士官候補生がオカルトがかった話をできるわけもない。望んでも会える可能性すら低いだろう……祖父のコネは期待できないし)

 さらに少尉任官を目指して訓練を積んでいる間も、いろいろどきりとする話が流れてくるようになった。
 前世の創作世界(漫画やアニメ)に影響を受けたとしか思えないような、奇妙な新兵器開発案がアメリカの軍や政府のあちこちから挙がるようになったのだ。
 この現実の技術では、明らかに無理なものまで。

 ゲッ○ーロボ開発。やめてくれBETAより危険な物体に成長するかも知れん。しかも試作機案からして名前に『真』とつくってなんだ。
 デモンベイ○製造。この世界に人に化ける禁断の書物はないよ。それ以前に魔術なんてないよ、人工超能力はともかく。
 モビル○ーツ研究。ミノ粉を発見してからいってください。あと月は抑えられているのでルナなチタニウムは製造無理だって。
 半人型・人型に可変する戦闘機提案。戦闘機開発自体が実質とまっているのに無茶ぶりがすぎる。反応弾なら一応あるが……。

 すべて兵器開発当局からは一笑にふされたものの……この世界、何かがおかしくなっている。
 SF的なアイデアなら何人だろうがふっと思いついても不思議はないが、その実用を目指す方向性が明らかにアメリカ人らしくないのだ。
 前世ビジョンを見て、かつそれを真に受けた人間が何人もいる様子だ、と思わざるをえなかった。
 僕はひそかにおののいたが、具体的な行動は起こせなかった。



 他国からいろいろと文句を言われながらも世界防衛の中枢を担っていたアメリカが消極姿勢に転じたことで、人類全体の戦況は悪化。
 だがアメリカ政府は『それでもアメリカがでしゃばり、引っかきまわすよりは良い』と(他人から見れば不可解なほどの確信を持って)いい続け、援軍を縮小する一方だった。
 特に在日米軍に関しては縮小と撤収が急ピッチで進んでいた。
 新孤立主義、あるいは『小アメリカ主義』といわれる政治方針だ。
 その代わりに前線諸国への支援物資の割当てを大幅に増やし、米軍で退役が決まったF-4やF-5などの第一世代戦術機を無料同然で譲渡するなど、後方兵站に徹する姿勢を強化。

 待望のG弾が実用化したものの、『G弾威力圏に取り込まれた物質がエネルギーに転化された場合、地球規模の大破壊が起きる』という危惧が強く主張されたため、継続研究対象となった。
 当然のように国連に提案していたアメリカ案も凍結だ。
 アメリカは一から国家戦略を練り直す事になった。

 そんな中、僕は正式に少尉任官し憧れの衛士となる。
 奇妙な前世ビジョンを見てから、四年の歳月が流れていた。



[28914] 第2話 ファン=設定魔とも限らない
Name: キャプテン◆3836e865 ID:16a4f0bc
Date: 2011/07/20 20:16
 世界にくすぶる反米の空気を読み、米軍は外国にでしゃばるのを極力避けるようになった。
 その一方で、国内ではかなり激しい動きが出ている。
 急激な戦略転換に賛成する側と反対する側は、連日アメリカの両議院で議論を繰り返しているし、政治団体は毎日のように自己の主張を訴える集会を開いていた。

 ――特筆すべき動きは、CIA(アメリカ中央情報局)に対する改革だ。
 CIAはいわずと知れたスパイ組織だったのだが、これが政治の思惑を振り切って工作を繰り返す例が少なくなかった。
 特にBETAの地球圏侵攻が明白になってからは、アメリカの国益を口実にかなりきわどい行為に出ているという噂が絶えなかった。
 忠誠を誓うべき大統領にさえ二枚舌を使い、他国の政権転覆の陰謀をめぐらせたこともある。
 僕が前世ビジョンの中でやったゲームでも、そのえげつなさは折り紙つきだ。
 歴代アメリカ大統領の中には、CIAの解体さえ宣言した者もいたが…… な ぜ か 解体を実施する前に暗殺されるという『事件』が起こったりしている。

 そのCIAの長官の首挿げ替え、予算削減、国家諜報機能の国防総省への移転といった指示が、矢継ぎ早に出された。
 大統領府とCIAの全面対決と連日新聞は書きたて、議会の激しい議論の中でも問題として幾度も取り上げられたが。
 結局のところ、大統領府が勝利した。
 決め手はいたって現実的な手段だ。

『逆らう奴からは、年金受給資格剥奪するぞ』

 という新CIA長官の宣言だ。
 泣く子も黙るCIAも生活……特に退職後の不安には勝てなかったらしい。
 拍子抜けする話だが、スパイとはいえ食っていかなければならないのだからこんなものかもしれない……。

 ……確かにあの前世のゲームで展開されるような、はた迷惑な醜態をアメリカが晒す芽はひとつ摘まれたのだろうが。
 本当にこれでいいのだろうか?

 ちなみに前世の存在は一事噂として広まったが、著名な心理学者が連名で否定する声明を発表した。さすが合理性の国、アメリカだ。



 さて、騒がしくなったのは僕が所属するアメリカ陸軍も同じである。
 国家戦略の転換を受けて、装備から戦術までの見直しに大わらわであった。
 アメリカ軍は軍幹部になるには大統領の推薦を受けた上で、議会の承認を得なければならないシステムだ。
 これがあるために強固な文民統制を誇っているが、政治が動揺すれば思いっきり軍も振り回されるということでもある。

 G弾が一度棚上げされたのは仕方ないとして……では、何をもってG弾の穴を受めるのか? というとかなり紛糾していた。
 真っ先に提案されたのは、XG-70シリーズの開発計画の再開だ。
 前世ゲームの中では、こいつのパワーで人類が救われたといっても過言ではない戦略航空機動要塞の実用化に再チャレンジ。
 しかしこれは即座に却下された。G弾は未知の危険性レベルだが、XG-70の危険性は実験で確定しているのだ。

「言い訳してるんじゃないですか? できないと、無理だって諦めてるんじゃないですか?
駄目だ駄目だ! あきらめちゃだめだ! できる! できる! 絶対にできるんだから!
もっと熱くなれよ!」

 中にはそう会議室の温度が真夏日並みに上がるほど、熱心に研究再開を主張した将軍がいたそうだが、やっぱり却下は変わらなかった。
 G元素転用兵器のような超兵器の代替となるようなモノが、そう簡単に提案されるはずもなく……いや、現実離れしたトンデモ案なら大量に出たそうだが……。
 戦術機をはじめとする通常兵器の研究を進めて戦力の底上げを図る、という面白みのない結論に達しそうだ、という。

 幸い、外国駐留軍が大幅に削減された上、G弾関連予算も縮小されたゆえに資金的には多少の余裕ができていた。
 外国に軍隊を置く維持費、人件費や現地の反米感情をなだめるためのもろもろの出費が不要になったからだ。
 ただ……アメリカ軍に出て行かないでくれ、と嘆願する国家が意外なほど多い模様。
 どうも外国からみると、アメリカが何らかの注文を通すためにゴネていると見られているらしい。
 ところが当のアメリカは、世界を引っかき回してまで通したいほどの提案をひとつも言っていない。
 G弾による対BETA反攻計画は、アメリカ自らが凍結したぐらいだ。
 これがアメリカの思惑がどこにあるかわからなくして、外国は戸惑っている様子。
 アメリカからすれば、嫌われ者の自分達が消えるのは諸手を挙げて歓迎されると思っていたのだが。

 ……まぁ今までの行いが行いなだけに、覇権主義を捨てて好意から撤収するといっても信じられないのは無理もないが……。
 元々、軍隊というのは一朝一夕に動かせるものではない。
 いくつかの外国駐留軍は、撤収速度を遅らせることにしたそうだ。
 もっとも遅らせたら遅らせたで、今度は国内が煩くなった。
 戦地に送り出した我が夫、我が父や息子達に会える! というのはアメリカ市民に歓迎された。
 最初は撤収に批判的だった者達も、連日涙の再会がテレビで放映されると声が小さくなっていく。
 このあたりの事情は、難民も同様だ。
 将来のためと腹をくくって軍に家族を送り出そうと、やはり戦死と隣り合わせの外地より内地勤務になるほうがいいに決まっている。
 アメリカ政府は、撤収してきた人員のうち、退役希望者の産業界への再就職を大々的に斡旋した。
 (アメリカが撤収した空白を現地軍や国連軍に埋めてもらう、という方針だから輸出向け軍需品は大増産がかけられていた)
 血を流さずモノばかりを売りつける死の商人に国家ぐるみで衣替えしようとしている、と見れなくもない。

 なお、既存機はともかくとして新型戦術機技術の海外輸出は下火のままだ。
 アメリカ国防長官があるジャーナリストに語った所によると、

「安易な技術提供は、その国の首に縄をかけるに等しい。その技術を使っている限り、知的財産権に気を使いライセンス料を上納しなければならないのだからな。
長い目でみれば、これは諸外国への圧迫になる。元より、我がアメリカと各国ではそれぞれ必要とする技術が違う。特にドクトリンがまったく違う戦術機においては」

 とのこと。
 さらにインタビュー後の雑談で、

「日本帝国あたりの技術は凄いんだよ! 瑞鶴っていう第一世代機の改良機で、イーグルを倒すほど優秀なんだ!
アメリカが余計な手出ししなければ、きっともっと強い機体を独力で作れるはずだ!」

 と述べたとか。
 この『配慮』には日本帝国やEU等、他国の技術担当者が涙を流したという――涙の意味はあえてツッコむまい。



 さて、国家レベルの動きは一旦置くとして僕、アドル=ヤマキ個人についても多少の変化があった。
 アメリカ本土の戦術機教育・訓練軍団に配属され、士官学校で習ったものとはまた別の実用的な技術取得に励むことになっていた。
 ……まあ、日系人ってことでいろいろとトラブルは起こるけどね、ここはぐっと我慢。
 ここでムキになって暴れたら、かえって相手を喜ばせるだけだってぐらいの人生経験はある。
 そこへ在外米軍縮小で、戻ってきた将兵が相当多く指導役に再配属されたのだが……。
 彼らは口を揃えて

「米軍の対BETA戦見積もりは温い! 衛士に甘い訓練を何時間やらせても、実戦じゃ役に立たない!」

 と断言した。
 訓練施設や燃料に恵まれているアメリカ軍衛士の技術は、総じて高いというのが世間の評判だったのだが、実戦経験者に言わせるとそういうことらしい。
 そんなわけで、実戦経験者を仮想敵とした訓練で僕はじめとする新人衛士は、滅茶苦茶にしごかれることになった。
 シミュレーターでの対BETA実戦想定訓練も、これまでの五割り増しのBETAが出現する想定になったりと、難易度は相当増した。

 なお、実用機課程に入った僕の乗機はF-16ファイティングファルコンだ。
 F-15イーグルは、アメリカ本土部隊が最優先になったとはいえ、その高い性能にふさわしいお値段から予定調達数を揃えることもできてない。
 ネリス基地あたりの戦技研究部隊や、北米防衛の肝となる精鋭集団に優先配備だ。
 いわゆるハイローミックス(高性能だが数を揃えられない機体と、安価で大量生産のきく機体を組み合わせる)構想によって採用されたF-16は、生産が順調に軌道に乗っている。
 戦時緊急量産機のようなものだったF-5(練習機に最低限の武装させて実戦投入)が欧州の実戦で思わぬ高評価を得たように、ハイスペックを求めないゆえの軽量な機体が、高い運動性を発揮するから安かろう悪かろうではない。
 今後しばらくはアメリカ軍の数的な主力になると思われていた。
 エリート(この場合は士官学校卒業など、軍内学歴での持ち主ではなく、純然たる優秀技量者を差す)ではない衛士にとっては、現実はこんなものだ。
 その安価なF-16でさえ世界的には一線級の性能を持っているというから、本当にアメリカ軍は恵まれている。
 また、外征軍出の教官は僕と同じマイノリティ出身だったり、それこそ市民権目的の難民だったりするから国内組に比べれば差別意識が低い(より正確には、差別している余裕なんぞない)。
 お陰で僕は心理的にもかなり楽になり、十分な訓練を積むことができた。

 ただ――

「装甲越しに『気』を感じるんだ!」

 とか、

「後ろにも目をつけるんだ!」

 とかの教官達のとんでもない発言には、ついていけないものを感じている。
 いや、あんたらどこの世界の実戦を経験してきたんだよ……。



 アメリカ軍は、内向きの防衛的な軍隊に変貌する第一歩を踏み出しつつあった。
 アメリカ軍が外地の戦場から撤収する際には、現地軍や国連軍に大量の兵器や物資を譲渡してきた(中には機密度の高い装備を除いて、基地を丸ごと明け渡した例もある)のだから、防衛線にもさほど悪影響はでないだろう、と見積もられていた。

 ところが、現実はそうもいかなかった。
 欧州・中東・アジア等方面で、アメリカ軍と同等の装備を渡されたはずの国連軍や現地軍が、大苦戦に陥っているという急報が相次いだのだ。



 事ここにいたって、僕は悟らざるを得なかった。
 前世なんていうオカルトは、実在すると確認されていない。
 しかし、前世ビジョンを見て、かつそれに影響を受けている人間は実在する。
 そして僕が見た前世ビジョンの中の『マブラヴ オルタネイティヴ』ゲームプレイの経験は、アメリカの幹部の相当数が共有している。
 だが、明らかに、

『たるい……もとい、細かい説明パートをスキップで飛ばして、戦術機と美女・美少女だけに萌えもしくは燃えて終わった』

 やつや、

『周辺展開とか追ってないで、設定を独断で思い込んじゃった』

 やつがいる!

 前世ビジョンの中では、全人類が総力を上げた桜花作戦の際にさえ、軌道降下兵力を八割投入にケチって足並みを乱したアメリカ軍だ。
 ……まあ投入された兵力はしゃ……展開の関係で即全滅したようだが。
 でかい面して身勝手(自滅含む)をやるアメリカがいなくなりアフターフォローで潤沢な補給をしてやれば、現地は団結や連携がよくなるだろう、とアメリカ政府首脳は考えていた、というのが僕の予想だ。
 特にアジアには、首都防衛の最低限の兵力さえ国連軍横浜基地救援に投入した日本帝国のような立派な国家があるのだから。
 EUにも七英雄という超人的な衛士をそろえた東西ドイツがいる。
 英雄達の足を引っ張らなければ大丈夫!

 大雑把なゲーム描写だけ追えば、そう解釈できないこともないだろうが……。

 いろいろ混乱する僕に、ついに実戦部隊配属の辞令が下った。
 配属先は――



[28914] 第3話 艦隊の湧き出す魔法の壷はない
Name: キャプテン◆1482383d ID:8b82b80b
Date: 2011/07/22 16:18
『アメリカを世界支配をもくろむ悪の組織みたいに捉えるくせに、その戦力と技術だけは当てにしようとする。
そんな連中のためになんで血を流さないといけないんだ?
新孤立主義、大賛成!』

 こんな愚痴が、僕が配属された部隊――第311戦術機甲大隊の中でよく囁かれている。
 この部隊は以前、反米意識が強い地域に派遣されていたので、とかく対外不信の気がある。

 例の前世ビジョンの中のゲームでは、確かにアメリカは世界支配路線を考えていた。
 米本土だけは無傷に保ったまま、G弾をばんばん使いたいだけとか香月夕呼博士に言われていたぐらいだ。
 アメリカが身を引くのが、アメリカ人にとっても外国にとってもありがたい事のはず。

 ところが、『現実』はそう単純には動かない。
 1990年現在、BETAは強力な東進を始めた。英本土・北欧や、アフリカの防波堤であるスエズ方面への圧力も相変わらずだ。
 それらに対抗する人類側の防御は、全面に渡り苦戦に陥っている。
 米軍というもう何か悪役補正が掛かっているとしか思えない存在が抜け、代わりに大量の軍需物資を届ければなんとかなるだろう、という(おそらく前世ビジョン持ち組の)判断は思惑通りにはいっていない。
 同じ装備や軍需物資を与えても現地軍・国連軍は、アメリカ軍ほどそれを活用し得ない実態が誰の目にも明らかになるのに、時間はかからなかった。

 例えばアメリカ軍は無能な指揮官は合法的に更迭するシステムが確立している。
 大統領が決断し、議会がチェックして承認すればどんな幹部も一発で交代だ。
 が、未だに身分制度や部族・民族単位の力が無視できない国では、駄目とわかっている指揮官を更迭することができない。
 能力以外の要素で高位につき、でたらめな指揮を繰りかえす阿呆のためにせっかく供与した装備が無為にすり潰され、しかもそれを自浄できない国が意外なほど多かった。

 そう、マブラヴ オルタのゲームの中で露出する貴族や武家は、(僕のビジョンで見た限りでは)例外なくひとかどの者達ばかりなので、ゲーム描写を基準にすると忘れがちだが。
 近代軍事というのは身分制度の否定から出発したのだ。
 皇帝は植民地の貧乏下級貴族出身・幹部は樽工だの製革職人だのの出だったフランス・ナポレオンの軍隊が、欧州列国の軍隊をフルボッコにしてまわった。
 これに刺激を受けた諸国は、旧弊を改革してナポレオンに逆襲して勝利し、この相克の中で軍事制度は大きく変化した。
 かつては士官になれるのは貴族様だけだった時代があったが、現代では厳しい試験や選抜を潜り抜けられるかどうか、が士官になるためのポイントになった。
 しかし、そういった『原則』を徹底している国は実のところかなり少数派だ。

 建前上は身分制度を徹底否定したはずの東側国家でさえ、今度は独裁政権党への近さなどで地位が左右されている。
 いろいろな差別や問題は厳然と存在するとはいえ、門地もコネもない移民二世などの『外様・下層』が能力と実績を武器に軍のトップに駆け上がれるアメリカのほうが、世界的に見れば異常なのだ。
 さらにいえば、アメリカ軍では士官学校→陸軍高等教育機関(陸大等)を出ていない他国で言う非エリートも、出世が可能だ。
 予備役将校訓練課程(大学生が、学業の傍ら予備士官としての教育を受ける制度)出身者が軍の最高幹部になることもできる。

 さて、ともかく米軍撤退路線が予想以上の世界戦線に悪影響を与えると判明したからには、対処が必要だ。
 新孤立主義に反対する一派の巻き返しもあり、いくつかの激戦地への米軍投入がささやかれはじめる。

 元々、現在のアメリカ合衆国軍の現役軍人トップである統合参謀本部議長・コリン=アーソニー陸軍大将(アフリカ系移民の二世かつ予備役将校訓練課程出身)は、

『アメリカ軍の展開は抑止的であるべき』

 としていた。
 同時に、

『だが必要があれば国際社会の同意を得られずとも、迅速かつ大規模な軍事行動を行うべき』

 という意見を持っている。
 要するに、なるべくなら軍隊は動かさないが、動かすべきなら誰がなんと言おうが全力でやる、という思考だ。
 世界中の戦況を再確認し、また国連を通じて情報収集した結果――以下の地域への米軍再派遣もしくは増派が検討された。

 第一に、スエズ戦線。
 スエズが落ちれば、人類に残された数少ない無傷の資源地帯・アフリカ大陸が脅威に晒されるからだ。

 第二に、英本土。
 ここが陥落すると、北米が直接侵攻を受けるであろうからだ。

 アジア方面はまだまだソ連等東側の威勢があるため、縮小方針は堅持されることとなった。

 だが、再度の大規模外征に対しては軍内から待ったの声が上がる。
 一息ついて外征軍のデータを精査した結果、将兵……とくに熟練兵の消耗が米軍の予測値をはるかに超えていたのだ。

 戦えば消耗する。
 これは当たり前の真理だ。
 特にBETA戦においては、捕虜として生存・後に生還するというケースはありえないために純然たる損耗率は常に高い。
 アメリカ軍のように、元々の大人口に加えて海外からの難民を兵士の供給源にしてる国でも、前線は苦しいのだ。
 実戦経験豊富な熟練兵を育てるのは困難で、せっかく育った兵も簡単に戦死していく。
 特に被害が出やすい戦術機甲部隊だと対BETA実戦を三~五年程度くぐりぬけた熟練兵の比率は、アメリカ全軍だと10パーセント以下という数字が出ていた。
 出撃二十回以上のエースにいたっては、1パーセントにも満たない。

 これでも世界最強の看板がゆるぎなかったのは、『鉄と火で壁を築く』とまでいわれた激烈な支援火力とそれを支える兵站能力のお陰だ。
 他に、『新兵は脱皮したが熟練兵とはまだいえない』層が厚いためもあった。
 (前線国家だと『運と才能に恵まれた一握りのプロフェッショナル』と『BETAの腹に収まるのを待ってるだけの、訓練さえまともに受けていない新米』だけになってしまったところも珍しくない)

 しかしG弾という切り札が暗礁に乗り上げた今『とりあえず超兵器実用化まで戦線を支えておけばいい』程度の戦力ではアメリカ軍は満足できなくなった。
 『もうしなくて済む』と思われたハイヴ突入戦すら、またやることになるかもしれない以上は戦力の質見直しは必須。
 外征軍上がりを各地に教官として配属し、訓練の質を見直してさらに新装備の第二世代戦術機への更新が十分進むまでは――
 最低でも三年は、大規模軍事行動は発起せずに戦力増強に専念したいというのが実戦部隊の意向となった。

 僕が見た前世ビジョンの中の日本帝国は、本土防衛戦の後さらに佐渡島ハイヴのBETAと戦いながら、2000年代においても帝都守備師団や斯衛軍に多数の精鋭を抱えていた。
 00式武御雷のような、熟練兵による整備と操縦を前提とした高難易度兵器を運用するほどの余裕を見せていたぐらいだ。
 本当にどんな訓練をしていたのか僕には想像がつかない……日本帝国式の訓練方法こそ、アメリカに技術提供されるべきではないだろうか。

 おそらくSAMURAIや、RIKISHIの伝統がないアメリカでは無理な訓練なのだろうが……。

 何しろアメリカ最高峰のトップガンであるユウヤ=ブリッジス(この世界にもいるなら、今は暗い差別生活真っ最中か)さえ、
 『トータルイクリプス』内で米軍演習と実戦の落差に困惑していたぐらいなのだから……。
 そのユウヤが同じ小隊の実戦経験者の対BETA戦での凄さを見せ付けられ、模擬戦で俺本当にあいつらに勝ったのか……と唖然とする事もあったが。
 そんな実戦経験者でさえ、斯衛の中尉に一蹴されているのだ。

 BUSHIDOU恐るべし。きっと明鏡止水で赤く燃えているに違いない。

 ……ここでもやはりどこかから練度問題の解決案として

「自己教育型コンピューターを作ろう!」

 とか、

「睡眠教育を推進すべき。
寝ている間に小学生でも合体変形ロボを操縦できるほどになるのが目標」

 とかかなりキている意見が上がったが、当然ながら無視られたそうだ。
 結局、陸軍は引き上げるが海兵隊・海軍の緊急展開・打撃艦隊はそのまま重要戦線に貼り付けることで、妥協案が成立した。



 さておき、政治・外交と軍事が複雑に絡み合う中で僕が配属された大隊は、精鋭部隊とかでもないごくありふれた戦術機甲大隊だ。
 装備は定数36機のF-16。
 かつては中東戦線に配置されていたが、大打撃を受けて本土に後退。
 僕のような新任の補充を受けて、ようやく陣容を立て直したところ。
 冒頭の愚痴に見られるように、部隊の士気はあまり高くはない。

『アメリカは全人類救済という大義に酔い、正義や自由を忘却していった。
我らの先達は、アメリカをこのような国にするために死んでいったのではない!』

 という新孤立主義推進議員の発言に、拍手喝采を送るような雰囲気。
 僕としては、前世ビジョン関係無しでも非常に居心地が悪い。
 これでも狭き門である士官学校を出た、気鋭の衛士のつもりだ。
 実戦で腕を振るいたいという願望は――身の程知らずかもしれないが――人並み以上に持っている。
 しばらくは大隊の根拠地であるテキサス州・ランドルフ基地で、訓練と書類仕事を続けるだけの悶々とした日をすごすことになった。
 が、やがてこの状況が変化する日が来た。
 退嬰的な気風になってしまった責任を取る形で大隊長が交代し、同時に日本への派遣が決定したのだ。
 もちろんクーデター起こすから帝国軍と戦え、という話ではない。

 やや長くなるが、我が大隊の対日派遣にいたる経緯を説明する。

『現在、合衆国の食糧需要は天然生産のもので賄えている……ように見える。
だが、サンプル調査を行ったところ、一定の購買力のある層を除けば年々国民の平均摂取カロリーは下がっており、特にスラム街や難民キャンプにおいて栄養失調が顕在化しつつある。
これを打破するには、通常の食糧増産策のほかにも手を打つ必要がある』

 こんな声が、新孤立主義を巡る論争から一歩引いていた、農業関係に基盤を持つ議員から上がった。
 彼らが目をつけたのは、海洋資源を合成食料に変える技術。
 これまで合衆国では軽視されてきた分野だ。

 安い合成食料が出回れば、コストの高い天然物を作っている農家が困る。
 その農家を支持基盤とする議員がこんなことを言い出すのは微妙な話だったが……。
 言っている事自体はまともであり、今後もアメリカに流入する難民は(不法含んで)かなり増える見込みなので、合成食料技術に優れた外国に打診することになった。
 具体的には、合成食料プラントの買取である。

 この話に、諸外国は目の色を変えた。
 商談を求める国家の使者が、合衆国国務省を連日訪れることになった。
 その勢いのすさまじさゆえ、実は関係議員を動かしたのは合成食料技術に自信のある外国なのでは? と噂されるぐらいだ。
 話はとんとん拍子に進み、最終的に日本帝国と韓国が商談候補として残った。
 合成食料の生成効率では日本製、導入コストでは韓国製のそれぞれ一長があったため、アメリカは両国から一基ずつ購入し比較試験をすることにした。
 (実は台湾製が一番バランスが良いと見込まれていたのだが、政治的事情から早い段階で脱落)

 ところが、ここで求められた対価が思わぬものだった。
 アメリカは当初、通常の貿易のようにドル決済で支払いを済ませようとしたのだが。
 日韓両国は、連名でアメリカに東アジアへの派兵を要請したのだ。

 現在、東アジア戦線においてBETAの矢面に立っているのは中華人民共和国(以下、中共と称する)だ。
 その中共は、核爆弾による遅滞戦術を取るほど追い詰められている。
 中共の主力兵器の主な供給元はソ連だが、そのソ連自身が本土をBETAに侵食されて苦戦中。
 そして中共が倒れれば次は韓国・日本の番だ。
 ここにいたり、日中韓は過去の歴史的対立やイデオロギーを一時棚上げして、共同でBETA迎撃戦線を形成することになったのだが。
 いざ戦力を計算すると、自前だけではどうしても不安だというのだ。
 さらにそれぞれがまた国内問題を抱えており、例えば日本帝国軍は派兵に帝国議会の承認を得なければならず、どうやってもそれは1991年にずれ込むとかなんとか。

 これにはアメリカ首脳もやや面食らった。
 日韓ともに国粋主義と反米感情が強く、米軍の撤退縮小がもっとも歓迎された場所だったのだ(青くなった政治家や軍人もいるが世論には勝てなかった)。
 安保条約自体の発展的解消さえ視野に入っていた状況で、増強を逆に求められてアメリカ軍首脳は困惑した。
 まして戦場になるのは中共――BETA大戦のためになし崩しに宥和に入ったとはいえ、もろに潜在敵国の共産主義国家である。

 アメリカ首脳の一部に強迫観念的なまでに存在する、

「俺達が出て行ったら逆効果にならん? これ光州の悲劇フラグだよね?」

 という謎の危惧もあり、議会や軍を巻き込んでかなり激しい議論が戦わされたのだが。
 最終的には派兵が決定した。
 なりふりかまわない援軍要請をするほど、現地国家に防衛の成算がないことを重大視したのだ。
 ただし、派兵反対派に配慮が必要で規模は決して大きくない。
 アメリカ本土から東アジアに移動するのは陸軍一個軍団(二個師団)程度で、しかも実際に中共領土内に出撃する時は国連軍指揮下に入る、という外交配慮が入った体勢だ。
 日韓両国の国粋主義勢力については、アメリカが一方的に踏み込むのではなく購入の代価という形で出るのなら自尊心をさほど傷つけないだろう、と判断された。
 そして、在日・在韓両米軍に補強される部隊の中に、僕の所属大隊の名も入ったというわけだ。



 出征が決まった後、大隊の将兵には特別休暇が出た。
 僕は実家に帰り、父母にいよいよ前線に赴く事を報告する。
 父は優秀な帝国軍人を親に持つだけに、落ち着いた言葉で「合衆国と人類のために全力を尽くすように」と言ってくれた。その手が少し震えていたのを、僕は見ない振りをした。
 母は、昨今のアメリカ軍の動向から息子が外征に出るとは思っていなかったらしく激しく狼狽した。
 普段は疎遠もいいところのボーニング重鎮の祖父の名を出し、かけあって出征部隊から外してもらおうかと口走ったほどだ。
 そんな母をなだめ、近所の写真屋にいって家族で写真を取った。
 僕の顔立ちは、ちょっと鼻立ちが高い以外は典型的な日本人顔で、一目ではアメリカ人だとは思われないだろう。
 髪は軍人らしく短く刈り揃え、体つきは細身だが筋肉はついている。
 見た目だけは、合衆国軍人として恥ずかしくない威厳がでてきた……と、信じたい。

 数日の間たっぷりと家族との名残を惜しんだ後、僕は隊に戻った。
 そして新任の大隊長の訓示の後、機体に乗り込んで基地を後にした。

 なお、戦意旺盛(一個大隊で一国に喧嘩を売れる男、という噂だ)を買われて就任した大隊長の訓示は、

「――諸君、私は戦争が好きだ。諸君、私は戦争が好きだ。
殲滅戦が好きだ。電撃戦が好きだ。ハイヴ戦が好きだ。防衛戦が好きだ……」

 で始まるやたら長くて、かつ内容的にかなりやばいものだったので、僕は出撃前にすでに冷や汗をかいていた。
 お陰で初の前線移動への緊張は忘れられたがね。



[28914] 第4話 主人公覚醒が常にカッコいいとは限らない
Name: キャプテン◆1482383d ID:3a680fe5
Date: 2011/07/23 20:23
 1990年12月。
 僕らを含む在日米軍への増派部隊は、大型輸送船団の腹に詰め込まれて米本土を出発。
 戦地に一日ごとに近づいているので、僕はなんとはなしに不安になる。
 これまでは、本土という安全地帯にいたこともあり国際情勢や国内情勢の情報をふんだんに集めていたのだが。
 近頃は、そんな気分ではなくなってきていた。
 輸送船の中では戦術機の訓練はできない。娯楽施設もほとんどない。
 不安な気分を抱えながら、暇をもてあます時間を過ごした。

 前世ビジョン、というやつも一衛士として戦う僕には何の役にも立ちそうにない。
 むしろ、今後人類がBETAに押し捲られ、朝鮮半島から日本へと侵攻される未来図が確信できて、不安と恐怖をかきたてるばかりだ。
 もしビジョンが正確に未来を予言していたとしても、すでに(他の前世ビジョン持ちと思われる)権力者達が条件を変えてしまった。
 だから、権力とは無縁の下級士官でしかない僕は大勢に流されるしかない……。

 そんな状態だから、日本の横須賀港についた時には自分的にずいぶんささくれ立っていたんだと思う。
 肌に触る日本の空気の冷たさがとてもうとましかった。

 ともかく、在日米陸軍司令部のあるキャンプ座間(神奈川県)に大隊一同出頭、現地の司令官に着任挨拶を済ませ、輸送船から下ろされた機材をチェックし……という雑務を行った。
 改めて大隊長(衛士にしてはふとっちょの白人少佐だ。いつも口元に不敵な笑いを浮かべているので、口の悪い隊員は『微笑みデブ』と呼んでいた)から説明があった。
 僕らは、アメリカ陸軍第1軍団の指揮下に入り、一ヶ月ほどは日本本土でアジアの風土に慣れることと、船旅で鈍った腕のさびを落とすことに専念。
 その後は戦況次第で大陸へ進出する可能性が大きい、ということだ。
 とりあえず、船旅の疲れを癒すための休暇が出た。

 さて、下世話な話だが明日をも知れない兵隊さんの楽しみといえば、昔から飲む・打つ・買うだ。
 特に前線近くである在日米軍の空気は、本土よりぴりぴりしているためか、休暇を与えられた兵士は有り金握りしめて日本の街に繰り出すという。
 ここでよく問題になる現地人との衝突、あるいは米兵が一方的に行う犯罪行為などの問題が起こり、米軍MPと日本の治安関係者がともに頭を抱えることになるのだが。
 士官はフリーダムに振舞うわけにはいかない。

 なにしろ士官というのは、僕のような下っ端少尉ですら場合によっては国家元首の代理になれるほど、国際的な地位が認められている。
 裏を返せば、何か問題になることをやらかせば国家間問題にすらなりかねないのだ。
 外へ出たなら、言葉ひとつでも気を使わないと駄目。
 士官学校の課程では特に政治思想・宗教・人種問題に注意を払い、相手国のタブーはたとえ自国の常識から見てどれだけアレだろうと、決して刺激してはならないと教えられる。
 ……まあ、そういった教えを百パーセント守るのは非常に難しいわけだが……。
 人間だもの、士官だって。

 スマートに外で休暇を楽しむ自信がない僕は、あてがわれた宿舎に入って寝て過ごす事にした。

 だが、その予定は脆くも崩される。



「…………」

 約一ヶ月ぶりの戦術機操縦席に座り、僕はF-16の起動シークエンスを行っていた。
 機体機能、すべてオールグリーン。
 網膜投影画面には、真昼の太陽に照らされた廃墟の街が映し出されている。

「――すまないな、ヤマキ少尉。昼寝の邪魔をして」

 画面の片隅がポップアップし、全然すまなそうに言うのは我らの大隊長・モンティ=マクシム少佐だ。

「別にかまいませんが……勝てる自信はありませんよ?」

 僕は、うんざりした声色を抑え切れなかった。

 在日米軍は、年明けにもある中国大陸進出に備えて日本帝国軍と頻繁に接触していた。
 高級士官同士の食事会から、実戦同然の激しい共同演習まで。
 本日も、キャンプ座間に帝国軍を招いてシミュレーターを用いたDACT(異機種間戦闘訓練)が予定されていた。
 ところが本来これに参加するはずの衛士が、前日の休暇で二日酔いになっていたり、急な病気にかかったりして参加人数が足りなくなってしまったのだ。
 なんとも締まらない話だが、とりあえず急場を凌ぐため基地に残っていた衛士が集められた。
 僕もその一人、というわけだ。

「なに、私は敗戦も好きだ。
部下が押し潰されて殲滅されるのも、敗北主義者の――」

「あー! 全力を尽くします! 交信終了!」

 危険演説の気配を察知した僕は、大声を上げながらスイッチを切った。
 画像が消える直前の少佐の表情は、なんとなくさびしげだった。

 ……士官教育本当に受けているんだろうか、あの少佐は。まぁ外向き発言じゃないからかも知れないが。

 僕は気を取り直し、画面中央に表示されたカウントダウンの数字を見つめた。
 今回のDACTは、廃墟が舞台であるということ以外、何の情報も与えられていない。
 敵の数、機種さえわからないのだ。
 と、いってもF-15の輸出がなかったのだから帝国軍戦術機は撃震か瑞鶴しかないのだが。
 変化球で海神が出てきても、ただの的だ。

「いくら海の上で鈍ったからって、第一世代機に遅れをとったらいい恥さらしだろうな……」

 僕の衛士としての技量は、はっきりいって並だ。
 前世ビジョンの中で見た娯楽作品の英雄達のような特異な技能があるわけでもない。
 いくらF-16に乗っているといっても、相手がベテランなら負ける可能性は高い。
 そうなったら、日系人ということもあり隊の同僚から何を言われるか……。

 苦悩する僕にかまわず、カウントダウンは進み。
 そして0になった。

「!」

 機体が操作を受け付けるようになってすぐ、僕は手近にあるビルの陰に移動した。
 シミュレーターとはいえ、機体を動かす際の振動は相当リアルに再現されてそれが否応なく緊張を高める。
 僕は、いきなり飛び上がったりはしない。
 情報がまったくない状況下では、迂闊な動きは死に繋がる。
 理想的には、隠密行動を続けて相手を先に発見、気づかれないうちに『据え物切り』にすることだ。
 第二次大戦の帝国軍エースであるOUZORAN-OSAMURAIの言う原則は、対戦術機戦でも健在――相手も同じ行動を取るだろう、と思いきや。
 いきなり振動センサーが、激しい物音をキャッチした。
 それも、要塞級あたりがまとめて移動しているのと同じレベルの、だ。

「――ぶっ!?」

 廃墟を貫くように存在する大通りに、敵は堂々とした姿を晒した。
 F-16のデータバンクに該当機種はなし。まったくの未知の機体。

 全長……50メートル以上! 廃墟の家屋がミニチュアに見える!
 一応人型ではあるのだが、サイズが違いすぎる!
 その白い戦術機――いや、戦術機といっていいのか? ――は、腕組みをするというふざけた姿勢のまま、ゆっくりと大通りを前進してくる。

 そのあまりの出鱈目っぷりが、僕の前世ビジョンの記憶を刺激した。
 あれは……。

 戦略合神機・火之迦具鎚(ヒノカグツチ)!!

 そういえば、オルタ本編とは無関係です的外伝にそんなのがいた!
 ○ッターと聖闘○を足して割ったようなのが!

 僕は我が目を疑い、何度も目元を擦ったが……網膜投影画面から、その常識はずれの機体が消えることはなかった。

「こんなのとどうやってやりあえっていうんだよ!
異機種間というより異世界間だろ!」

 というか、少佐が押し潰されるとかいってたのは比喩でもなんでもなかったのか!
 F-16の装備は、他の戦術機と同じ120ミリ砲と36ミリ砲を組み合わせた突撃砲だ。通じるのか、これ……?
 狼狽する僕のほうに、ヒノカグツチがゆっくりと首を向けた。

「っていうかこんなのがあるなら、F-15どころか戦術機いらねえだろ!?
むしろアメリカが土下座してでもこれ譲ってくれって泣くわ!」

 民間人レベルの素に戻って絶叫した自分を、僕は恥ずかしいとは思わなかった。
 同時にペダルを蹴りこみ、機体を急速後退させる。

 次の瞬間、ヒノカグツチが僕のほうへ突進してきた。
 その巨大な足が、廃墟に残った建物をダンボールでできたように簡単に踏み潰す。障害物にもなりはしない。

「この、このっ!」

 シミュレーターだということも半ば忘れて恐怖にかられた僕は、ほとんど狙いもつけずにF-16の両腕に持った突撃砲を乱射した。
 しかし、36ミリ砲弾が着弾してもヒノカグツチに応えた様子はない。
 むしろさらに勢いを増してこちらに向けて走りはじめた。

「日本帝国の機体は化け物かっ!?」

 巨大なマニュピレーターが、僕に向けて伸ばされる。
 ほとんど本能的な動きでF-16を操り、僕は機体を横っ飛びにさせ回避した。
 F-16の身代わりとなった廃ビルが、ぐしゃっと簡単に崩壊する。
 僕は噴射地表滑走で急速後退しつつ、今度は120ミリ砲弾を左右同時に発射してみる。命中!
 ヒノカグツチの胴体に、先ほどとは比べ物にならない爆発が起こった。

 だが、反則的巨体の敵はわずかにぐらついただけ。装甲に目立った傷さえできていない。

「…………」

 理不尽。
 その言葉の意味を、理屈ではなく肌で感じさせられた僕は、顔中から汗をだらだらと流した。
 管制ユニット内の空調なんぞ、何の役にも立ちはしない。

 ヒノカグツチは、ゆっくりと右マニュピレーターを拳の形に握った。そこへ、赤っぽい光が灯る。
 おそらく物理常識をあざ笑う攻撃を繰り出してくるのだろう。
 ここまで勝ち目が無いと、恐怖を通り越して僕はもう笑うしかない。

 そしていろいろな意味でいっぱいいっぱいになった僕は――

 切れた。





「……戦意喪失まで3分。ま、こんなものでしょう」

 仮想空間で展開される、F-16対ヒノカグツチ。
 棒立ちになったF-16に、ヒノカグツチが今にも止めを刺そうとしている。
 その光景が映し出される特設巨大モニターを眺めながら昼食を取っていたマクシム少佐は、肩をすくめた。
 ここは米軍司令部内の、高級士官食堂だ。

「それにしても、日本人は実にクレイジ……もとい、ファンタスティックな事を考えますなあ」

 少佐がついている円卓には、在日米軍と帝国軍の佐官以上の幹部が座り、めいめいに食事を取っている。
 ヤマキらとともにアメリカから到着したばかりの天然ステーキが焼かれ、昼食会のメインとして振る舞われていた。

「ヒノカグツチ……でしたか?
これが量産された暁には、BETAなどあっという間に叩けるでしょうに」

 米軍の将軍が笑いながら言う。

「いえいえ。所詮は空想的なペーパープラン。
推進者達は特異才能のある人材を集めればできる、と言っていますが果たしてモノになるのやら」

 と、日本側の司令官は口元をナプキンで拭きながらにこやかに応じた。
 ちなみに米軍幹部達はヒノカグツチの合体・変形シークエンスから見ており、米軍衛士が悲鳴を上げているにもかかわらず大喜びであった。

『自由の女神(本体の全長約46メートル)よりでかーい!』

 と食事の合間に拍手喝采だ。

 種をあかせば、戦略合神機というのはいまだデータ上だけの存在だ。
 そしてそれを実現させるための技術的問題は山ほどある――常識的な帝国士官達は、実現できるとはそもそも信じていない。
 それでも日本帝国がこの構想を開示したのは、

『日本帝国の、特定分野における高い技術力と発想力』

 をアピールするために他ならない。
 他にも、本来なら外国には開示すべきでないレベルの技術計画(多くはやはりペーパープランレベルだが)さえアメリカに見せていた。

 これは、日本帝国軍がアメリカの対日戦略方針変更を『国産戦術機路線に踏み切った事への怒り、反発』と捉えていたためだ。

 第二次世界大戦以来の反米感情、アメリカが欧州を優先したために日本へのF-4供給順位が下がったことへの不信感。
 日本独自の戦術機開発は、これらが根底にあるといっていい。
 開発計画も、表向きは既存機改良に過ぎないと装ったり、第三世代機技術をアメリカ機を研究して確立した後は、それを材料に欧州との関係を深めようと目論んでいたり――
 アメリカに探知されれば不審を覚えられるに足る要素はいくつもある、と自覚していた。

 そこへF-15の販売・技術移転ストップの話だ。
 日本帝国軍は、アメリカ首脳が言うような日本への好意と期待ゆえなどとは信じなかった。
 だからといってアメリカに『もう独自など目指しません』と泣きつくことは、感情からも戦略からもできない。
 帝国軍が苦悩の末に出した答えは、日本側からもなんらかの軍事技術を提供する代価として改めて第二世代の機体と技術を譲って貰おうというものだ。
 病気レベルに入っている右翼・国粋主義者はいまだアメリカなんかに頼るな、独自開発独自開発! とわめいているが、さすがに声は小さくなっている。

 と、いっても日本側がアメリカに出せる技術などろくにないのが現実だ。
 ほとんどやけっぱちの机上の空論レベルのものを提示せざるを得ないのが、帝国軍の苦衷を物語っていた。

 前世ビジョンを持ち日本に異様な期待を持っている連中ならいざしらず、在日米軍のごく一般的な幹部の考えもまた帝国軍の必死の働きかけにより、

「アメリカがG弾路線を変更して戦術機の価値が回復したのなら、尚更量を充実させるためのコストダウンが必要になる。
日本帝国にもF-15かF-16を売って、装備を共有化すれば兵站上も有利になるじゃないか。
……さすがに技術を好き勝手にコピーされるのには釘を刺したいが」

 という方向に変わりつつある。
 帝国軍と現場の米軍が一致して主張すれば、米軍上層部やさらにその上にある大統領府・議会も耳を傾けざるを得まい。
 その下準備のために、化け物と戦わされ道化を演じさせられる衛士こそいい面の皮だろうが……。

「ん?」

 笑っていた士官の一人が、ふとモニター内のF-16の異変に気づいた。
 シミュレーター内でしか存在しえないヒノカグツチに潰されるのを待つだけ、のはずだったのだが――

 アドル=ヤマキの絶叫に近い声が通信機から響き渡り、日米高級士官は揃って耳を押さえる事になった。

「本編を……戦術機を無礼るなぁぁぁぁ!!」



[28914] 第5話 地位と知性が比例するとは限らない
Name: キャプテン◆1482383d ID:8b82b80b
Date: 2011/07/24 22:52
 僕は喉が張り裂けんばかりの絶叫を上げて、自分の体内に巣食った恐怖感を振り払いながら機体を操作した。
 F-16の腰にマウントされたジャンプユニットが炎を吐く。
 数秒前まで僕がいた地点に、ヒノカグツチの拳から放たれた光弾が叩きつけられ、まるで200ミリクラスの重砲弾が落ちたかのようなクレーターができた。

「当たらなければ――どうということはない!」

 前世ビジョンの記憶の中から、定番の台詞を取り出し口にしつつ――もうそういう行為がオカルトじみている、とか恥ずかしいという感情は吹っ飛んでいる――僕はトリガーを引いた。
 空中に機体を踊らせながら、36ミリ砲を撃つ。今度は乱射せず、ヒノカグツチ頭部にあるセンサーを狙って集中射撃。
 ヒノカグツチの太い腕が、砲弾を防御する。その手を中心に淡い光の壁ができて、バリアのようにこちらの攻撃を弾いていた。

 先ほどの攻撃といいつくづく常識をあざ笑ってくれる敵だ。
 だが、僕の戦意は衰えない。
 防御した、ということはこっちの攻撃がまったく無力でもない、という表れだからだ。

「動きが予測できない奴らとの戦いこそ、衛士の本領のはずだ!」

 ――前世ビジョンの中の僕は、これに似た台詞吐いた漫画版マブラヴ オルタのキャラが大嫌いだったんだけどね。
 正当な命令に従い、反乱を起こした連中を止めようとした『俺の嫁』がいるヴァルキリーズを、自分達の虐殺と同胞殺しを棚上げして『売国奴』とか『BETAと何が違う』とか言うなんて許せ――

「っ!?」

 僕は一瞬、自分の意識に湧き上がるモノのために混乱した。
 今までは前世ビジョンの中の情報は摂取しても、それに伴うビジョン内の自分の感情の影響はほとんど受けなかったはず。
 記憶に対する認識、それに伴う感情はあくまでも日系アメリカ人のそれだったのに……。
 今まで抱いていた感情的なものは、「世界は今後、あんなふうになってしまうのか」という恐れ。
 あるいは「はいはい何でもアメリカが元凶ですか……そこまで嫌いか」ぐらいの諦念が第一だった。
 それが……嫁とかいって一部登場人物に肩入れ!? 明らかにあちらの世界の感覚じゃないか!

 僕の手足は訓練の賜物か、集中が途切れかけても機体を操作し続ける。
 ジャンプユニットを吹かして着地、すぐに噴射滑走に入って、防御姿勢を解こうとするヒノカグツチの右手側に回り込む。
 余計な思いを息にのせて頭から吐き出しながら、照準サイトの中に大写しになる相手を睨みつけた。

「こっちは動き回ってナンボだろっ!」

 おそらくヒノカグツチに対して戦術機が有利と呼べる点は、ほとんどない。
 力関係でいえば、象と蚊ぐらいの差があるかもしれない。
 だが、機動性なら……!

 案の定、ヒノカグツチはこちらに向き直る動作がやや鈍い。

 あの分厚い装甲と、手を中心に発生するバリアのようなものを避けて関節部に砲撃をぶち込めば、活路は開けるかもしれない。
 そう判断した僕はさらに機体を横に振り、ヒノカグツチの背後を取ろうとする。

 だが、絶好の砲撃地点に着く直前、僕の背筋に悪寒が走った。
 本能的にF-16に後方跳躍をかけさせた所で、思わぬ高速で振り向いたヒノカグツチが拳をまた光らせた。
 今度は、散弾のような無数の光弾が降り注ぐ。

「……っ!」

 レーザーでもなく、まして実弾でもない出鱈目な攻撃が地面や廃墟を抉りながら、こちらへ殺到してくる。
 誘われた。鈍く見せたのは擬態だ!
 僕は全身の毛を逆立てながら、ジャンプユニットのパワーを最大にした。
 空中で弾かれたように、さらに後退する機体。僕の体に押し付けられるG。

「のおおっ!?」

 攻撃がかすっただけで、機体ステータス画面の装甲がイエロー表示になる。耐久度が一気に半分まで削られた。
 僕は、機体を横転機動させて無理矢理に光弾の雨の中から離脱。
 だが全力機動を続けたため推進剤の残量が急激に減り、酷使されたジャンプユニットも高温限界に近い。

 素早さが失われたら終わりだ。あせった僕は機体バランスを立て直し着地させつつ必死に打開策を考える。

 ――その最中、またあの感覚が来た

 自分の中に、まったく違う価値観と感情を持ったナニカが流れ込んでくる。
 例えるなら、煮えたぎったタールを無理矢理脳に流し込まれたかのような異常な不快感を伴って。
 しかも……その異物は、本質的にまた「もう一人の自分」でもあることがわかるため、根本的な拒絶はしきれず……。
 僕は思わず吐き気を覚えた。

 そんな僕の視界内で、ヒノカグツチの全身が赤く発光しはじめた。
 まるでその光に呼応するように、僕の中の気持ち悪さは限界まで膨れ上がり――

 僕の意識は急速にブラックアウトした。





 アドル=ヤマキが理不尽な戦いを強いられていた頃から、半月ほど時間は遡る。

 アメリカ合衆国ラングレー基地(この基地名は人名にちなんでつけられたもので、CIAの本拠地があるラングレーとはまた別である)の飛行場に、無数の巨人達が立ち並んでいた。
 大統領はじめとする合衆国首脳らの閲兵を受ける戦術機達――それも、未だY(試作)ナンバーが取れていない新世代機だ。
 鋭い頭部シルエットが印象的なYF-22。
 今までの戦術機とは兵器担架の装備数さえ違う未来的なYF-23。
 さらには、G弾重視路線転換を受けて急ピッチで試作された、出来立ての新型機すらある。

 1980年代、アメリカ軍戦術機開発の基本となったのは、ATSF計画というものだった。

 ・第二世代機の性能向上とG元素利用兵器の開発進捗からみて、第二世代機の耐用年数前後で地球からBETAを叩き出せる可能性が高い。

 ・そうなると人類同士の争いが再燃、地下資源――特にG元素争奪戦が過熱する。その場合、アメリカが世界に輸出した戦術機技術がアメリカを襲うだろう。

 ・よって次世代機(第三世代機)は、対BETA戦の主力を務めつつ対人戦にもアドバンテージを得られる物が必要だ。

 ものすごく大雑把にいえば、このような想定に対応できるための新世代機開発計画だ。

 だが、アメリカのG弾開発が凍結されたことにより事態は当然変わってしまう。
 戦略航空機動要塞は失敗、G弾も駄目となるとBETA相手に有利に戦いを進められるカードがまったく消失してしまうのだ。
 新たなG元素利用研究を進めてはいるが……いつそれが形になるのかわかったものではない。

 G弾実用化に向けたアメリカの予算割り振り変動や、製作した機体の売り込み合戦で合併・吸収などの業界再編が進んでいた米軍需産業は、

「どうすりゃいいんだ……」

 と頭を抱えた。

 他にも財団系シンクタンクのような、世界全体の推移を計算するような団体は悲鳴を上げる。

『人類に残された生産力や資源を考えると、どう頑張っても2005年あたりから戦力が決定的に枯渇しはじめる。
後は、食い殺される順番を待つだけだ』

 と、絶望的な数字を以前から弾き出していたのだ。
 人類全体の経済力や生産力が持つうちに、G弾を中心とした新戦略(そして可能な限り短期間での決戦)で決定的戦果を挙げないと人類に未来無し。
 この意見はアメリカの識者の間では非常に根強かった。

 彼らからすれば、アメリカ首脳の一部が言う

「国連や日本帝国あたりが、アメリカが余計なことしなけりゃ何とかしてくれるさ」

 という言葉は、放言を通り越して暴言としか思えない。
 自国防衛に戦力を優先集中する方針は、国民の多くから歓迎されたが世界レベルでみればこれは自殺行為だ。
 アメリカが無事なのは、前線諸国が盾になっているからだ。
 本土決戦になれば、アメリカに匹敵する大国・ソ連ですら悲惨な撤退戦の一方になっている現実。

 前世ビジョン、その中のヒールなエゴイスト・アメリカの事を知らない(聞いても信じるわけがない)者達にとって悪夢のような日々は続いていた。

 さておき、政府が注文すればそれに答えなければならないのが、企業でありアメリカ軍の開発部門である。
 彼らはとりあえず完成の域に達していたYF-23およびYF-22の評価試験を続けていた。
 この二機種は米軍当局が期待した以上の高い性能を発揮した。
 当のアメリカ軍人さえ誤解しがちなのだが、決して対人戦特化の機体ではない。

 米第三世代機の本当の強さは、戦術機としての基本能力の高さにある。
 高出力・高効率のジャンプユニットが生み出す速度と機動力、衛士の判断をタイムロスなく反映する操縦性、洗練された索敵及び兵装管制能力等。
 ステルス性がほとんど効果を発揮しない近接格闘戦闘域もしくは対BETA戦においても、米自身のものを含む第二世代機の戦果を圧倒できる可能性が大であることが確認された。

 しかしG弾の投入前提が無くなった今、どちらを採用するかの決定的規準が無くなってしまった。
 生産や整備を考えた実用性で勝るYF-22を推す意見は相変わらず優勢だったが、革新的設計を持ち全局面で高い戦闘力を発揮し得るYF-23を支持する側の声も強い。

 この情勢に決着をつけるため、アメリカ軍は思い切った一手を打った。
 YF-22及び23、さらにはアメリカ戦略方針変換を受けて開発された他の試作機を、増加試作機として一個~二個中隊分ずつ発注、それらをもって試験部隊を編成。
 そして実際に戦地(つまり国外)で戦わせて最終的評価を決める、という荒業である。

 軍事機密漏洩の危険性を覚悟してでもこの判断が通ったことが、アメリカ軍が戦術機重視路線を回復したことの何よりの証明であった。
 試験場だけではなく、実戦の修羅場を潜り抜けたより『強い』戦術機を求めたのだ。

 ラングレー基地に整列したのは、その役目を担う者達だ。

 アメリカ大統領がゆっくりと演壇に上がり、居並ぶ将兵達を睥睨する。
 派遣される衛士の多くは、開発組からの横滑り。

「今、この時をもって、貴様らは『前線には存在しない、とサムライガールにこきおろされる役』を卒業する。
貴様らは合衆国実戦部隊の衛士だ」

 大統領の張りのある声に、一個連隊を形成するに足る数の衛士達はいっせいに応える。

「サー、イエッサー!」

「これから貴様らは最大の試練と戦う。もちろん実戦証明なぞゼロのお嬢様な試作機で、だ。
全てを得るか、地獄に落ちるかの瀬戸際だ……どうだ、楽しいか?」

「サー、イエッサー!」

「では……野郎ども! 俺たちの特技は何だ!?」

「殺せ! 殺せ! 殺せ!」

「この出撃の目的は何だ!?」

「殺せ! 殺せ! 殺せ!」

 どんどん上がっていく大統領(米海兵隊所属の経歴あり)と衛士達のボルテージに、大統領の左右に居並ぶ他の出席者はドン引きしはじめた。
 「いやこれデータ取りが目的の出撃……」というボーニング企業関係者の声は、空しくかき消される。

「俺たちはUSAを愛しているか!? アメリカ軍を愛しているか!? クソ野郎ども!」

「USA! USA! USAェェェェェ!!」

「よし……行くぞ!
レェェッッ、パァリィィィィイ!!」

 宣言し、颯爽と一番近くにあったYF-22に駆け寄ろうとする大統領(おそらくもっとも前世ビジョンに深く侵された人物の一人)。

『あんたまでいくなぁぁぁぁぁ!』

 副大統領はじめ、その場にいた冷静さ保ってた人間全員が、大統領に殺到して引きずり倒した。



 余談。
 この時、アメリカ副大統領は本気でクーデターさえ考えたという。
 元々彼は前世ビジョンなど見たこともなく、基本的にG弾推進論者だった。
 ただ波風立てたくなくて方針転換に同意したのだが、正直このままでいいのか深刻に悩んでいた。
 だが、腹心の

「普通に大統領選挙で対決すりゃ100パーセント勝てますよ、アレ相手じゃ」

 という常識的進言を入れて、次期大統領選挙に向けた運動を開始することとなった。


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