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社説:オスロ連続テロ 「冷血の惨劇」許さない

 緑の豊かな島に点々と横たわる若者の遺体。逃げようとして水辺で息絶えた人もいる。ノルウェーの首都オスロ郊外で起きた乱射事件の、血も凍るような映像だ。逮捕されたノルウェー人の男(32)は乱射の約2時間前、オスロ中心部で爆破事件を起こした疑いが強く、爆発物と銃による前代未聞のテロが「ノーベル平和賞の国」を揺さぶっている。

 犠牲者は既に90人を超えた。この恐るべきテロを、私たちは強く非難する。欧州での大規模テロとしては、スペインの列車爆破(04年)、ロンドン地下鉄・バス爆破(05年)に次ぐもので、南欧から北欧まで全域にテロの魔手が及んだとの見方もできよう。まずは犯行に至った動機などを詳しく解明すべきである。01年9月の米同時多発テロから10年。オスロの事件は、国際社会として改めてテロ対策に取り組む必要性を見せつけるものだった。

 無論、テロの動機や背景は同じではない。国際テロ組織「アルカイダ」によるテロもあれば、その思想に影響された欧米人のテロ行為もある。これに対してオスロの事件は「容疑者は極右につながるキリスト教原理主義者」といわれ、イスラム世界の国際テロ組織とは無関係との見方が有力だ。爆破テロは政府庁舎を狙った可能性が強く、乱射事件の被害者は与党・労働党の青少年キャンプの参加者たちだ。自国政府への憎悪を感じさせる犯行である。

 だが、反発の対象が何であれ「異議申し立て」の手段として市民を無差別に殺すことは許されない。9・11以降、そうした邪悪な行為が広がりを見せているのは憂慮すべきことだ。イスラム原理主義者が「聖戦」を叫んで異教徒らを殺し、キリスト教の聖職者がイスラム教の聖典「コーラン」を燃やすなど、宗教に基づく過激主義が強まっていることも今回のテロの背景にあげられよう。

 ノルウェーでは移民規制を求める右翼勢力が台頭し、政府との対立が強まっていた。他方、この国は北大西洋条約機構(NATО)の一員としてアフガニスタンに派兵し、リビア攻撃にも参加している。イスラム教の預言者ムハンマドの風刺画を新聞が掲載して在シリアのノルウェー大使館が放火されたこともある。連続テロについて、アルカイダの領袖(りょうしゅう)ウサマ・ビンラディン容疑者が米軍に殺されたことへの報復という推測が流れたのも無理はない。

 オスロでノーベル平和賞を授与されたオバマ米大統領はノルウェー政府に対して捜査上の支援などを申し出た。日本も必要な支援や協力を惜しむまい。平和な北欧で起きたテロは、日本にとって決して対岸の火事ではないはずである。

毎日新聞 2011年7月24日 2時31分

 

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