「原発賠償支援法案に関して、民主・自民・公明の3党が合意、早ければ来週26日に衆議院で可決される見通し」との報道がされているが、ここで国民が一番注目すべきは、国民の負担を最小にするために、東電を破綻させるスキームになっているかどうか。実際の法案はまだ一般公開されていないが、報道を見るかぎり「東京電力に対し、経営責任の明確化や徹底したリストラなどを求める」など、東電救済を前提の生温いものになっているようで、とても心配だ。
まず誤解してはいけないのは、東電を経営破綻させても電気は決して止まったりしないということ。JALを破綻処理しても飛行機が飛び続けたのと同じ様に、電力の供給は安定して続けながら破綻処理することは普通に可能である。
もう一つ誤解してはいけないのは、東電を経営破綻させても、被災者に対する補償はちゃんとできるということ。実際には東電をまず破綻処理し、一時的に国有化した上で国が被災者の補償を100%する、というのがもっとも速やかに被災者を救済する方法である。
そしてもっとも大切なことは、東電を経営破綻させることが、資本主義の原則から見てもっとも公平で、かつ、国民の負担を最小にする方法だということ。
原発事故の被災者をちゃんと補償するのには少なくとも数兆円が必要だし、福島第一原発を廃炉処理するにも相当なお金がかかる。問題はそのお金を誰が負担すべきか、ということである。
もちろん、どうしても足らない場合は、国が負担したり(これは国民の税金が財源)、電気料金を値上げしたりするしかないのだが、それをする前にできることは沢山ある。
国民に負担を頼むよりも前に、まず、すべきなのは、
1. 株主責任の追求 ー 100%減資し、一時的に国有化する
2. 経営者責任の追求 ー 経営者の解雇、彼らの退職金カット
3. 債務カット ー 年金のカット、銀行からの借金のカット
4. 使用済燃料再処理等積立金の取崩し
の四つである。これで、約10兆円ほど国民の負担が減らせる(
参照)。
そして、東電の抱える莫大な負の資産(被災者への補償、福島第一原発の廃炉処理の責任、電力債、カットし切れなかった負債)を国が引き取る代わりに、東電の持つ財産(発電所、送電網など)をすべて取得する。
これにより、責任の所在を明確にし、被災者の救済を国の責任で速やかに行う。その後、金のなる木である(原発以外の)発電所や送電網を民間企業に売却したり別会社として上場せることにより、被災者の救済費用や福島第一の廃炉費用にあてる。このプロセスで、発送電の分離を実現し、発電の競争原理を導入することにより、将来の電気代を安くすることも可能だ(例:阪神大震災の復興プロジェクトの一つとして作られた神戸製鋼の火力発電所の建設コストは、東京電力の同じ規模の火力発電所の約半分)。
もう一度繰り返すが、東電を救済するのと破綻処理するのでは、国民の負担が約10兆円違う。その違いが、税金の投入額、および、将来の電気料金の値上げという形で、直接国民に降り掛かって来る。
政治家が国民のことを第一に考えて行動しているのであれば、国民の負担を最小限にする東電の破綻処理を選ぶのが当然なのに、東電の救済に声を上げて反対している民主・自民・公明の3党の中の政治家は、河野太郎しかいない(
参照)、というのが今の日本の政治のなんとも情けない状況である。
菅首相には、ぜひともここで「東電は破綻処理させる。そうしなければ国民を納得させることはできない」と宣言していただきたい。「ストレステスト宣言」で玄海原発の再稼働をストップしたのと同じように、「東電の破綻処理宣言」で、国民の負担を10兆円も増やす「東電の救済」をなんとしてでもストップしていただきたい。