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平成の「悪党」はこう作られた

子供を守りたい親の気持ち? 知るかそんなもの!

眼光紙背

眼光紙背 プロフィール

 いろんな人が放射性物質に対して、てんやわんやである。

 私としては、定期的な健康診断とガン検診を国が全国民に対して提供すればいいだけの話だと考えているのだが、一部ジャーナリストやネットによって必要以上に煽られた恐怖に怯えている親たちは、決して少なくない。

 そうした親たちは工夫を凝らして、子供の健康を守ろうとする。その中には、効果があるかどうか分からない擬似科学的なものも含まれる。そうした中には、効果が疑われるどころか、子供をかえって危険に晒す可能性が高いものもあるようだ。


 メールマガジン「SYNODOS」に掲載された、「あやしい放射能対策」というコラム(*1)が、ネットで話題になっている。理学博士の片瀬久美子さんが、放射能を除去できるされる、各種の疑似科学を批判している。

 中でも私が衝撃を受けたのは 「米のとぎ汁乳酸菌」である。戦後の貧しい次代に米のとぎ汁を子供に飲ませたという話は聞いたことがあるし、大根を煮るのに使うことはある。しかし、ここで使われるとぎ汁は、そんな牧歌的なとぎ汁ではなく、とぎ汁に塩や砂糖を入れて、一週間近く常温で発酵させたものなのだという。これを霧吹きで肺に吸い込むと、乳酸菌や細菌などの働きによって、吸入された放射性物質が痰と一緒に排出されるのだという。

 ネット上で検索などをすると、本当に効果を信じて、一生懸命腐った米のとぎ汁を噴霧している親たちがいるようなのである。

 コラムに書かれた例だと、「顔にスプレーしたら、翌日に目が真っ赤になり、目ヤニも出てしまった」ことをなぜか「効いている証拠」として認識しているようだ。これはコラムにもあるように「好転反応」という健康系の疑似科学がよく使うまやかしの手法である。

 しかし、ネットを検索すると、もっとひどい例が出てくる。恐ろしかったのは、米のとぎ汁乳酸菌を信じている人たちの掲示板に、平然と「発熱」「咳、たん」「下痢」などの症状が起きたという書き込みがされていることだ。しかも、当人だけではなく、家族や子供にもそうした症状が出ているというのだ。

 にもかかわらず、親たちが子供を病院に連れていっている様子はない。なぜなら、こうした症状は彼らの中では「好転反応」すなわち米のとぎ汁乳酸菌が確かに効いている証拠として、理解されてしまっているからである。

 常識で考えれば分かる通り、彼らが散布しているのは、健康にいい米のとぎ汁などではなく、体を害する雑菌やカビである。彼らの病状もそうした雑菌やカビに対する、身体の反応に過ぎない。

 彼ら自身がそうしたインチキを信じこんで、肺炎を患ったりすることは愚かさに対する罰でしかないだろう。私は愚行権を認めるし、自ら信じたもののために命を落とすこともまた、個人の意志として尊重するべきである。

 しかし、そうした親の愚行に、子供が巻き込まれなければならない理由はない。


 そうした親たちは愚行の理由に口をそろえて「子供を放射性物質から守るため」に、こうした行為をしているのだというだろう。

「子供たちのために何かをしたい」という気持ちは重要だ。しかし、残念ながら「何かをすれば子供たちのためになる」ということは必ずしも真ではない。子供を守るために間違ったことをすれば、当然子供の健康は損なわれることになる。

 子供の健康を守るためには、そのためには子供の親であろうと、間違ったことをしていれば当然批判しなければならない。私たちは一部の愚鈍な親から子供を守るためにも、それを躊躇するべきではない。

 震災以降ということしか覚えておらず、どんな文脈だったかも忘れてしまったのだが、ツイッターで「子供を守りたい親の気持ちをないがしろにしないで」という旨のツイートを目にしたことがある。そのツイートを私は、「なるほど、ある種の人たちにとって、守りたいのは「親の気持ち」であって、あくまでも子供は気持ちを体現するための器に過ぎないのだな」と読んだ。

 自らの愚行に子供を巻き込む親たちにとって気持ちを表現するための手法が「米のとぎ汁を噴霧すること」であり、それによって子供が発熱や咳や下痢をしている事自体が、自らの「子供への愛情」を証明しているという考え方なのだろう。そしてその成果を掲示板などで報告して、仲間たちに褒めてもらったり、痛みを共有してもらうのだろう。

 こうして彼らの思考を真剣に考えるだけで、私の胃がムカムカして気持ち悪くなってくる。これ以上は親たちに対する罵倒にしかならないと思うので、話をまとめよう。


 今の日本において守られなければならないのは「子供の健康」であって、決して「子供を守りたい親の気持ち」ではない。そのことを絶対に見誤ってはならない。

*1: あやしい放射能対策(SYNODOS JOURNAL)http://news.livedoor.com/article/detail/5717711/

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