経済産業省原子力安全・保安院は22日、九州電力が09年に提出した耐震性の安全性再評価(耐震バックチェック)の最終報告に2件3カ所のミスがあったと発表した。玄海原発3号機(佐賀県玄海町)の耐震性評価の前提となるデータが誤入力されていた。保安院は同原発だけでなく、電力会社など原子炉や原子力施設を保有する全国12事業者に再点検を指示。原発の再稼働を判断する「安全評価(ストレステスト)」の実施が全国的にずれ込むことが確実となった。【中西拓司、石戸久代】
九電や保安院によると、入力ミスは玄海3号機(定期検査中)の地震解析データで見つかった。原子炉建屋上部にある「復水タンク」の屋根の重さを、本来は2600トンなのに「260トン」としたほか、原子炉建屋に隣接する補助建屋の基礎と地盤との関係を示す定数を、2カ所で2倍の数値に誤入力していた。これらは九電の子会社がゼネコンの大林組(東京都港区)に委託して入力・解析した。
最終報告書では3号機の原子炉建屋などについて「安全上重要な建物や機器などの耐震安全性は確保されている」と明記。耐震性を「良」と自己評価していた。ミス発覚後、正しい値で再度解析しても「誤入力前との変動幅は1%前後で耐震安全性に影響はない」(九電技術本部)と結論付けた。今回のデータは、ストレステストにも使われる予定だった。
入力ミスは九電が08年に提出した中間報告にも含まれていたが保安院は気づかず「妥当」と評価。今回、最終報告書を独立行政法人「原子力安全基盤機構」が再点検する中で見つけた。保安院の森山善範原子力災害対策監は22日、発見に2年かかったことについて「活断層評価などに時間がかかった」と釈明した。
保安院は22日、ストレステストの実施を12事業者に指示したばかり。だがこの問題を受け、同日、九電に厳重注意するとともに、再計算結果を10月末までに報告するよう求めた。大林組が解析した他の原子炉についても再計算を指示。その他の原発については最終報告の再点検を8月22日までに実施、報告するよう指示した。保安院によると、大林組は九電を除き少なくとも3事業者の8基でデータ解析を請け負っていた。玄海3号機のストレステストは早くても11月以降になる。
耐震バックチェックは、内閣府原子力安全委員会が06年に原発の耐震指針を改定したことを受け、保安院が電力各社に新基準での耐震安全性を再評価するよう指示した。
==============
■解説
玄海原発3号機のデータ入力ミスが発覚したのは、皮肉にも菅直人首相が「安全評価(ストレステスト)」実施を表明した7月6日だった。今回のミス発覚は全国の原発に波及。ストレステストの実施はスタートからつまずく格好となった。
「大変申し訳ない。ミスの指摘を重く受け止める」。九電の山元春義副社長は22日午後、経済産業省原子力安全・保安院を訪れ、山田知穂原子力発電安全審査課長に謝罪した。同社にとっては眞部利應社長の進退問題に発展した「やらせメール」問題に続くダブルパンチになった。
ミスは「ケアレスミス」(保安院課長)とみられるが、原子炉建屋のデータは格納容器や圧力容器など重要機器の健全性を評価する前提となっており、ミスは許されない。九電は耐震性の計算をやり直す。
ケアレスミスならば1企業だけの問題ではなく、他原発にも起きうる。保安院はその点を重視し、全国の原発に再点検を指示した。
一方、保安院の検査態勢の不備も浮き彫りになった。九電の最終報告書は09年に提出されたが、ミス発見に丸2年もかかったうえ、見つけたのは保安院が再チェックを依頼した独立行政法人だった。
細野豪志原発事故担当相は来年度にも、保安院を経産省から分離することを目指しているが、器だけでなく安全規制当局としての「中身」の充実も重要な課題といえる。【中西拓司】
毎日新聞 2011年7月23日 東京朝刊