羽柴秀吉殿 百九十四2009/07/23



《秀吉殿、慶長の役始む(三) 鼻塚》

秀吉殿、鼻切りを指示す。

  「当初秀吉、金吾(小早川秀秋)等を出送する日に令して曰く、年々兵を発し、尽(ことごと)く彼の国の人を殺し、彼の国をして空地となさん。(中略) 但だ人は両耳あり。鼻則ち一つなり。鼻を割きて以て首級に代えん。鼻は各(おのおの)一升に准(なぞら)う。然る後、生檎せしむるを許す云々と。故に今来たりて見れば、殺すと殺さざると、輒(すなわち)鼻を割く。其の後数十年間、本国の路上に鼻無き者、甚だ多し」(『乱中雑録』)。
  「異国軍兵ノ頸塚ヲ日本ニ仰付ラルベキ事、且ハ和漢後記ノタメ也。然ラハ則チ、戦場ノ高名ハ云ニ及ハス、老若男女僧俗ニ限ラズ、賤山カツ(賤民や樵)ニ至ル迄、普ク撫切テ首数ヲ日本ヘ渡スヘキ者也」。(『大河内秀元朝鮮日記』)

                      :

八月十七日、黒田長政、秀吉殿の命により、明、朝鮮軍戦死者の鼻を切り落とし、秀吉殿に送る。熊谷直盛ら、請取状を発給す。

   今日請け取る頸、鼻ならびに生け捕り数の事
  一、首     拾三
  一、鼻     弐十五
  一、生け捕り  弐人
     合四拾、内、金海上官の首壱つ、これ有るなり。
     右慥かに請け取り申す所なり
  慶長弐年
    八月十七日      熊谷内蔵允(花押)
               垣見和泉守(花押)
               早川主馬頭(花押)
      黒田甲斐守殿  まいる


 諸将、秀吉殿の令に随ひ、打ち捕りし明朝両国の兵は云ふに及ばず老若男女の鼻割き、塩漬けにして秀吉殿に送る。
  「日本人壱人役ニ朝鮮人の鼻三ツ宛、当てられ、其の鼻、高麗にて横目衆実験仕らる」(『清正高覧陣覚書』)、
  「判官ハ大将ナレハ、首ヲ其儘、其外ハ悉ク鼻ニシテ塩石灰ヲ以テ壷ニ詰入、南原五十余町ノ絵図ヲ記シ言上、目録ニ添テ日本ヘ進上す」。

 たとえば其の数、
 藤堂高虎殿「首数弐百六拾九打ち捕り、即ち鼻到来候」
 加藤茂勝殿「首数五十五打ち捕り、即ち鼻到来候」
 赤穴久内殿「鼻数参百六拾五、之れを請取る」
 鍋島信濃守殿「昨今の首代鼻九拾、慥に請け取り申し候」
 が如きなり。
                      :

豊後安養寺僧慶念、『朝鮮日々記』に日本軍の鼻切りと殺戮を記す。

  「十六日ニ城の内の人数男女残りなくうちすて、いけ取り(生け捕り)ハなし。され共、少しとりかへして有る人も侍りき。むさん(無惨)やな。知らぬうき世のならひとて、男女老少死して失せけり」。
  「同十七日にきのふ(昨日)までハし(死)すべき事もしらず、けふ(今日)ハ有為転変のならひ(習い)なれハ、無情の煙と成りし也。よそにやハある」。
  「たれも見よ、人のうへとハいひがたし。けふ(今日)をかぎりの命なりけり」。
  「同十八日ニ奥へ陣かへ也。夜明て城の外を見て侍れハ、道のほとりの死人、さこ(砂)のごとし。め(目)もあてられぬ気色也」。
  「なんもん(南原)のしろ(城)をたち出で見てあれハ、目もあてられぬふせい(風情)成りけり」。

                      :

九月廿八日、秀吉殿、西笑承兌(さいしょうじょうたい)を導師として鼻塚の施餓鬼供養を行はせしむ。

  「慶長第ニ暦秋の仲、大相国(秀吉)、本邦の諸将に命じ、再び朝鮮国を征伐す。是に於て大明皇帝、唇亡歯寒(しんぼうしかん:隣国が亡べば本国も危ういの譬え)の遠謀を運らし、数万の甲兵を出ぢて之を救う。本朝の鋭士、城を攻め地を略す。而して激殺すること無数なり。将士、首功を上ぐべきといえども、江海遼遠なるを以て之を□(鼻にリ:はなきり)大相国の高覧に備う。相国怨讐(えんしゅう)の思いを作さず。却て慈愍(じびん:何慈しみあわれむ)の心を深くす。仍て五山の清衆に命じ、水陸の妙供を設け、以て怨親平等の供養に充て、彼が為に墳墓を築き、之れに名づくるに鼻塚を以てす。(『鹿苑日録』)

                      :
                      :

ここに秀吉殿の悪逆非道きわまれり。朝鮮の人々の怨み、数百年をして猶おさまらず。
実(げ)に、人とは弱きものなり、権力とは恐ろしものなり。多くの戦は、此の如き愚かなる人の引き起こしたる所業なる哉。

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