原発再開基準
原発依存度を段階的に引き下げ
菅首相
脱原発は、「今すぐ」に実行できるものではない
菅直人首相は13日、首相官邸で記者会見し、原子力を含むエネルギー政策について「原発に依存しない社会を目指すべきだと考えるに至った。計画的、段階的に原発依存度を下げ、将来は原発がなくてもやっていける社会を実現していく」と語りました。
すごい発言をしたものだというのが率直な感想です。突然、根回しもなくこのような発言をしてしまう菅首相のやり方には大きな問題があると私は感じています。
私は3月19日BBTの番組の一部を公開録画して、動画として一般公開しました。この内容について私は直接菅首相にも説明しました。菅首相はこの時の内容を非常によく記憶していると思います。
原子炉をテントで覆うことで放射性物質の飛散を防ぐべき、原子力はいずれ公営化して運営せざるを得ない、また福島第一原子力発電所の事故を受け、日本では新しい原子炉を作ることはできないだろうから、いずれ今存在する原子炉が終わったときに「脱原発」の道を歩むことになる、など全て19日の時点で私が指摘していることです。
菅首相の問題は、こうしたことを全て記憶しているにも関わらず全体の整合性を保てていないことです。
ゆえに、ランダムに「突然」話が出てきます。ソフトバンクの孫社長がメガソーラーと言えば、それに影響を受けて急に「再生可能なエネルギー政策」を打ち出し始めます。
また「脱原発」と言われれば、そういえば自分は学生の頃、脱原発運動に従事していたなどと口に出してしまいます。
モノには順序というものがあります。今この段階でそれを言うべきかどうか、その判断は非常に重要です。
私が3月19日に指摘した脱原発は、スリーマイル島原子力発電所で事故を起こした米国の例を見ても、一度事故を起こしてしまうと「将来的に」原子炉を作るのは非常に難しい状況に、「自然と」なっていくという話です。
それを突然思い出して「すぐに」脱原発を国会答弁として発言してしまうのですから、恐ろしい話です。
今すぐに、本当に日本が脱原発に向かったら、どのような事態が起こるでしょうか?
まず現在、定期点検中で停止している原子炉については、どうせすぐに止められてしまうなら稼働させるだけ無駄だと再開しないという道を選ぶことになるでしょう。これはエネルギー問題を引き起こします。
田舎の村には原発を近くに作ることを理由にしてお金をばらまいていましたから、脱原発となれば、再び「単なる田舎の村」に戻ってしまいます。こうした経済的な問題も噴出すると思います。
また、かなり揉めた挙句ようやく完成間近と言われている青森県六ヶ所再処理工場(核燃料の再処理工場)も必要なく、話題の高速増殖炉「もんじゅ」も実証炉として動かせる可能性はゼロということになり、ここまで動かしてきた全てが水泡に帰すことになります。
何の根回しもなく、突然菅首相が「脱原発」をしたためにパニックに陥った人は相当数いたのではないかと思います。
民主党議員でさえも驚いたと思いますが、それを受けても「自分の個人的な考えであり、政府の考えではない」などと嘯くとは、菅首相は一体自分の立場を理解しているのか?と聞きたくなります。
追い詰められた菅首相が暴走を始めた背景にある狙いとは?
こうした菅首相の短絡的かつ薄っぺらな対応の背景には、もしかすると首相のアドバイザーを務めている民間人の助言があるのでは?と私は睨んでいます。彼は、耳目を引くスローガンを打ち出すのが得意分野です。
今回、首相動静の前後に2度も彼が菅首相に会いに行った事実から推測しても、相当な影響力を持っている気がします。これには、さすがに民主党の議員も呆れてしまったのではないでしょうか。
暴走気味の菅首相は孤立する様相を見せ始めています。このような状況を見て、菅首相が解散総選挙にて、「脱原発」を国民に問うという方法を取れば良いと思う人もいるでしょう。
おそらく、それこそ今菅首相陣営として前述のアドバイザーが構想している
シナリオだと思います。
核を持たない世界唯一の核被爆国として、再生可能なエネルギー政策を進め、安全で安心して生活できる国を目指すべきだという主張です。メガソーラー発電計画を推進することを国民に約束するのだと思います。
菅首相がこうした姿勢を示しているのは、そもそもの自分の考え方に立脚しているわけではありません。「もし自分をこれ以上追い込むというのなら、“脱原発”という解散権を行使するよ」という、いわば脅しに近い行為だと私は思います。
例えるなら、雷管を左手に握り締め、右手に火の点いたライターを持って、すぐにでも火をつけて爆破することはできるぞ、と言っているのも同然です。
今このタイミングで脱原発というスローガンを掲げて解散総選挙に臨めば、
国民が受け入れる可能性は高いと思います。
しかし今から急に脱原発と言われても様々な問題が発生するため、民主党にしても自民党にしてもすぐに受け入れることはできないでしょう。
ゆえに自民党も民主党も、今はこれ以上菅首相を追い詰めないほうが得策だという方向へ傾きつつあります。
再生可能なエネルギー政策、補正予算、原発賠償法、いずれもとりあえず法案を通しておいて、8月にスムーズに菅首相に辞めてもらいたいと考えているのだと思います。
ところが、菅首相は9月以降も続投する可能性がある、あるいは8月で一度退陣しても「菅の後は菅」などと再びカムバックすることを示唆し始めています。
ここに来て、菅首相はこれまでの日本の首相にはいなかったタイプになりつつあります。
追い詰められた結果、敵も味方も巻き込んで自爆する姿勢を見せつつ、両者に対峙しています。私は常々、中曽根元首相、小渕元首相の後、日本にはまともな総理大臣は誕生していないと述べていますが、これは継続されそうです。
菅首相の暴走による脱原発は置いておいて、日本の原子力市場に将来的な希望の光はあるのかどうかという点では、国外に市場を求めることで原発メーカーとして生き残る道が残されているかもしれません。
日立製作所は14日、リトアニアが建設を計画しているビサギナス原子力発電所について、提携先の米ゼネラル・エレクトリック(GE)とともに同国政府から優先交渉権を得たと発表しました。東芝傘下の米ウェスチングハウス・エレクトリック(WH)に競り勝った形です。
リトアニアという国にとっては、日本で事故が起きたことなどは些末な問題に過ぎず、それよりもエネルギーに関して脱ロシアを図ることを優先するだろうと私は思います。
ロシアによってエネルギー源であるガスを止められ、何度も苦い経験を積んできているからです。
その切り札になるのが原子力です。おそらくリトアニアが原子力開発に乗り出したなら、仏アレバ社、もしくは日本勢が受注することになると思います。
アレバ社は三菱重工グループとこの分野で協調していますから、どちらに転んでも日本のメーカーがリトアニアの原子力開発に関わる可能性は高いと私は見ています。