doramao プロフィール
猫派。
あやしい健康情報の嘘を探るかたわら管理栄養士の仕事もしている。
専門は栄養学・食品健康科学
ちまたの旬な話題から、日本の未来像を問うテーマまで。
■それが何を意味するのか
味噌の輸出がその時だけ突出して増えたのは事実ですが、それが何を意味するのか正確なところを調べるのは実は相当難しいと思います。例えば、味噌を食べている人が10人しかいない国があったとして、それが3倍になっても30人になるだけですが、10万人の国で3倍であれば、30万人になり、増加数は前者が20人なのに対し、後者では20万人と大きく違います。それぞれの国の人口規模、味噌愛好者の数などを把握しなければ、どの程度の影響であったのかを判断するのは難しいと思います。
また、味噌の輸出量は確かに増えているのですが、それが本当に消費されたのかどうかはこのデータからはわかりません。もし放射線による健康被害への対策として用いられていたとしても、効果があった事を証明するような研究成果は知られていないので、結局何も謂えないのです。
■憶測
さて、ここから先はどらねこの憶測です。そんな風に考えることもできるんだな、程度に読んでくだされば幸いです。当時、ヨーロッパへの味噌輸出量は約200tであり、事故の年でも約400tにすぎません。これは日本国内の生産量60万tと比べるとお話しにならない程少ない量であることがわかります。ヨーロッパのごく一部の方々しか味噌を食べていない事は想像できるでしょう。では、この味噌を消費していたヨーロッパに住んでいる方々と謂うのはどんな属性だったのでしょうか。
想像に過ぎませんが、その多くは日本国籍を持つ方や日系の人、或いは日本食愛好家だったと思います。ところで、この日本食愛好家には普通の日本食ではない、マクロビオティックや玄米菜食愛好家が相当数含まれていたのではないかとどらねこは推測しております。マクロビオティックの創始者である桜沢如一氏は、ヨーロッパ・・・とりわけフランスに拠点をつくり、彼の主張する食事療法の普及啓発に励みました。
彼の著書には、玄米菜食を提供するお店や特殊な食材が売られている様子などが書かれております。また、マクロビオティックが健康に及ぼす影響について述べている研究を検索するとオランダの文献が結構な割合でヒットするのですが、このこともマクロビオティックがヨーロッパに於いて無視できない影響を与えている事を示す傍証といえそうです。どうも北ヨーロッパや低地諸国などで人気があるみたいです。
チェルノブイリ原子力発電所事故、秋月医師の体験談を紹介したのは、現地のマクロビオティック実践者ではないでしょうか。それと謂うのも、秋月医師は桜沢如一氏の教えを守り、持病を克服したというエピソードとともに語られる人物だからです。それ以来、秋月医師はマクロビオティックの考え方に賛同し、玄米菜食を採り入れた食生活を推奨するようになったと謂うことです。マクロビオティックを知る人の間では広く知られている人物なのです。
そうして、チェルノブイリでの事故後、現地のマクロビオティック実践者や食品販売者からの注文が増えたことを受けて、当年の味噌輸出量が倍増したのではないかと考えます。もしかしたら、現地のマクロビ実践者から、善意の支援物資として、旧ソ連へ味噌が大量に送られたというような可能性もありそうです。
■おわりに
放射線に対する不安は現在もおさまっておりません。その中で何となく味噌が放射線に効果があると理解してしまった人が結構いらっしゃるかも知れません。元々は特殊な食餌療法を行っていた人の間だけのおまじないのようなモノであったのが、伝言ゲームの末に、なんとなくもっともらしい対策法であるかのように認識されるようになると謂うのは、結構恐ろしいことだと思います。おかしいな、と思ったときに直ぐに調べること、簡単に広めないこと、その大切さはこんなところにあるのかも知れません。後になるほど、検証は難しくなるのですから。