doramao プロフィール
猫派。
あやしい健康情報の嘘を探るかたわら管理栄養士の仕事もしている。
専門は栄養学・食品健康科学
ちまたの旬な話題から、日本の未来像を問うテーマまで。
■もっともらしい根拠
デマは人々が不安な状態にある場合、通常時よりも大きく広まるとされております。しかし、不安な状態であればどんな情報でも信頼してしまうワケではありません。もっともらしく感じてしまうような何かがあったから大きく広まったに違いありません。その1つとして考えられるのが、過去の実績と伝統食品と謂うキーワードです。
もともと味噌は昔から日本で食べられてきた食品・調味料で、一般に健康食品として認知されていると謂う背景があると思います。そのうえで、過去に放射線の害を軽減したと謂う実績があると謂われたらなんとなく信用してしまうかもしれません。どちらか1つの情報だけでは説得されにくいのですが、この両者が合わさることで急に情報の信頼性が上がったように感じてしまうように思います。更に、この情報が緊急性を求められるモノであった場合にはデマは一気に広まっていくように思います。
では、味噌の場合はどのような情報があったのでしょうか?自身や家族も被曝した長崎の秋月辰一郎医師の体験談がそれにあたると考えられます。この体験談の中で、原爆症にあわずにすんだのは、『わかめの味噌汁のおかげ』と語っております。このエピソードを参考にチェルノブイリ原子力発電所事故の際にも、味噌が活躍したという情報も付加され、伝統食品の味噌に放射線の害を軽減する効果がある、と謂う情報に説得力が加わったのでしょう。これには『日本の伝統食品がヨーロッパで活躍』という、なんとなく嬉しく感じてしまう情報が含まれている事を見逃せないと思います。
■本当にヨーロッパで活躍したのか?
さて、ここからが本題です。味噌が効くか効かないかは不明ですが、現時点では味噌を沢山食べて放射線の影響を軽減できる事を明らかにした研究は無いと謂うところまでは良いと思います。尤もらしく感じられる割には実はあやふやという事ですね。では、この噂話につかわれた情報は全てあやふやで根拠の乏しいモノなのでしょうか?どらねこは、本当にチェルノブイリ原子力発電所事故の後、ヨーロッパで味噌が飛ぶように売れたのかを検証してみます。
ネット上でこのような記述*1をみかけました
1986年にチェルノブイリ原発事故のあと秋月医師のレポート『長崎原爆記』の英訳が西欧で広まり、味噌の輸出量が爆発的に増えました。
それまで約2トンそこそこであったものが、チェルノブイリと秋月医師のレポート以降に急増し、出荷量は年間14トンまで増加しました。
他には、輸出量などの数字の無いものもありますが、事故後にヨーロッパで味噌の消費量が急増したという部分は同じです。
■検証してみた
まず、味噌の輸出量全体を確認してみましょう。これは財務省から発表されている味噌輸出量の推移を抜粋したモノです。
味噌の輸出量はほぼ一貫して増加しており、輸出量は20年間で10倍ほどにまで拡大しています。チェルノブイリでの事故は1986年ですが、前年に比べて増加しているのはわかるものの、前後の増加ペースとほぼ同じであり、ここからは事故の影響は確認できません。ここから推測できるのは、チェルノブイリ事故は、日本の味噌輸出量に全体には大きな影響を与えていなそうだ、と謂うことでしょう。では、このときヨーロッパではどのような変化があったのでしょうか。同じく財務省の貿易統計を参考にして、その推移を表にまとめてみました。
まとめてビックリしたのですが、確かに前年に比べ、大幅にみそ輸出量が増えておりました。しかも、翌年は半減に近い減り方をしており、なんらかの特需があった事が予想されます。簡単に調べただけでは、原子力発電所事故以外の要因を見つける事が出来ませんでしたので、おそらくその影響で輸出が増えたのでしょう。実のところ、マクロビオティック及び、食養関係者が拡張して流した情報に過ぎないと思っていたのですが、本当だったようです。