菅直人首相が13日に記者会見し「原子力発電に依存しない社会を目指す。将来は原発のない社会を実現する」と語った。政府・与党で十分な議論をしないまま政策の大転換を口にし、代替エネルギーに関する十分な説明もなかった。国民生活などへの影響の大きさを考えれば、首相の発言は無責任である。
首相は政策転換の理由として「原子力事故のリスクの大きさを考えたときに、これまで考えていた安全確保だけでは律することができない技術であると痛感した」と強調した。
電力不足への対応に関しては「節電の協力などを得られれば十分にこの夏、この冬についての電力供給は可能であると耳に入っている」と述べるにとどめた。定期検査中の原発の再稼働の時期は明確にせず、電力の安定供給にどう責任を果たすのかという疑問には答えなかった。
政策を決定するうえで国民の安心や安全を重視するのは当然だ。ただ電力の約3割を担ってきた原子力への依存度を引き下げるのであれば、代替エネルギーをどうするのかや、温暖化ガスをどう減らすのかを含めた総合的な戦略が欠かせない。
太陽光や風力など再生可能エネルギーを増やしていく努力は重要である。主要国の中で日本は自然エネルギーの投資で大きく遅れ、水力を除くと電力供給の約1%をまかなっているにすぎない。政策を総動員するのは当然だろう。
一方で気象状況に左右される自然エネルギーは不安定で、現状では発電コストも高い。火力発電を増やせば天然ガスや石油の輸入経費がかさみ、国際的に割高とされる電気代の一層の値上げを招きかねない。国際競争力が低下し、産業の空洞化に拍車をかける恐れがある。
首相の原発事故をめぐる対応は一貫性を欠いてきた。5月には中部電力の浜岡原発の停止を要請。他の原発は再稼働に向けて自治体との調整を進めたが、突如として全原発のストレステスト(耐性調査)の実施を決めた。
全国知事会は12日にまとめた緊急提言で「政府は場当たり的な対応に終始し、国民の不信感はかつてなく高まっている」と指摘した。今回も議論の経過が全く見えないまま、重要な政策転換が発表された。
首相は震災復興や原発事故などの対応に一定のメドがついた段階で退陣すると6月に表明した。20~30年後をにらんだ国の重要政策の方向付けを行う立場にない。中長期的な国家戦略は新政権の下で、腰を落ち着けて議論するのが筋である。
菅直人、中部電力
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