「よし、こんなもんかな」
アナグラ内のある一室で、顔にやや幼さを残す少女がキャリーバッグに自分の荷物を押し込んでそう呟いた。
彼女の名前は柳葉・A・アシュリー、慣れ親しんだアナグラの同僚からはシェリーと呼ばれている。
現状、アナグラのみんなとはうまくいってる、給料についてももらっている方だし、お母さんも存命。同じゴッドイーターの弟が居るし、こっちも問題はない。
だが、唯一の悩みが、いくら呼びやすくてもあだ名にひねりがなさすぎるのはちょっと勘弁してもらいたい。
だって”重戦車シェリー”って女の子につけられるあだ名ではないと思うんだ。
といった、まあ実に普通な悩みも持っている。あだ名に関しては突っ込んだら負けだと思おう。
せめて極東支部では女の子らしいあだ名がついてくれるといいな、と彼女はまだ見ぬ新天地に思いを馳せる。
「……極東は一番つらいって言うけど、いくら何でもガツガツした人ばっかりじゃないよね。いい男(ひと)が居るといいなぁ…」
現世界で最強と呼ばれるゴッドイーターとて人の子、まして16歳の女子だ。今は彼女にとってまさに花盛り。
…しかし正直な話、彼女の戦闘スタイルのせいで同僚に彼女に友人としての感情は持てる異性は居ても、恋愛感情を持つ異性は皆無と言っていいのだが。
そんな事に気づかないのも彼女にとっては幸せなのだろう、…多分。
と、そんな妄想に浸っていた彼女に水をさすようにコンコン、と部屋の扉が叩かれる。
「シェリー、出発の時間よ。準備はオーケイ?」
「あ、はい!準備完了です、クライスさん!」
「ヘリの準備が出来たわ、急いで」
今までお世話になっていたアナグラもしばらく戻ってくることは無い。それなりに嫌なこともあったが、それよりいいこともあった。
今まで思っていたことは、踏ん切りをつけるためだったが、すっかり頭の中から飛んでしまっている。
感慨深い気持ちで今まで世話になっていた布団にばふっと顔を埋め、二度三度布団の上をゴロゴロ転がり、名残惜しくも立ち上がって部屋を出る。
現在は早朝、アナグラ内には人気が全くない、これも自分が選んだ選択という奴だ。今、同僚と顔を合わせたら間違いなく泣きたくなってしまう。
隣を歩くクライス教官にすら涙を見せまいと実はかなり必死だったりするのだ。
ヘリポートに着き、顔を俯けクライス教官に向き直る。
ヤバい、泣く。
「クッ、クライス教官、い、いままで、あり、ありがとう、ございました…」
クライス教官はそんな私の様子を見て、ふっと微笑い。
「後悔しないようにいってきなさい。ドイツの底力を極東にも見せつけるのよ」
「はいっ!!」
涙まみれの顔を上げて頷き、そのまま最敬礼をする。
ヘリに乗り込んだ後もしばらくどうしてだか涙は止まらなかった。
そこに終止符を打ったのはヘリの運転手の少々慌てたような連絡だった。
「お嬢ちゃん!まずいことになった!前方にサリエル一匹を確認!進路変更は出来ねえ!よろしく頼む!」
涙を拭い、シェリーは自分の仕事を再確認する。私の仕事は、荒ぶる神を屠ること。
そのために私は今ここにいる。
後方にあったキャリーから収納された私の神器をひったくり、割と広い機内でブン、と神器を振り銃形態にシフトさせる。
ガラリ、と音をたてヘリの扉が開き視界の端から青い空が垣間見えた。
「調子はいいみたいだね、……行こうか」
元は今ヘリの障害物となっているアラガミ、サリエルと同じものだったらしいコアを使った神器は、獲物を前にした狼の如く嬉しそうに奮えている。
くるりとドアに向き直り、シェリーは”ファランクス真”を片手で胸の高さまで持ち上げ、振り向いているサリエルに銃口を突きつける。
そこにいるのは口元に笑みを浮かべた戦士、別れに泣いていた少女ではない。
「イッツ、ショウ、タイム」
引き金が引かれ複数の銃口からオラクルのエネルギー光が迸った。
尾を引き、高速でサリエルまで飛翔した光弾は、サリエルの体を引き裂く。たまらずサリエルはヘリの逆サイドへ回り込もうとするが、もう遅い。
一瞬でヘリの縁を吹き飛ばさんばかりに飛び出したシェリーは蒼い刀身をサリエルの頭に突き刺し、そこから真っ二つに引き裂いた。
残骸をゴッドイーターとして強化された脚力で蹴りとばし、移動するヘリの操縦席に繋がるハッチのフックに飛びつく。
サリエルだった残骸は大量の赤い血をまき散らせ墜ちていく。
素材はできるだけ回収するのがゴッドイーターの仕事だが、今は緊急時なので仕方ない。
名残惜しいが、素材は諦める事にするしかないだろう。
『よくもまあ…、まあいい、これから予定どおりに極東支部にむかう』
元の席に戻り、刀身についた血を振り払うと、呆れたような声が操縦席から通信が入る。
ふう、とため息をつき、私はそばにあったキャリーに神器を置きながら返事をした。
「了解しましたー、私の活躍、どうでした?」
『ぶっ、くっはっはっは!格好良かったよ!』
ヘリの運転手は呆れを通り越したのだろう、私の言葉に大笑いをしてややスピードを上げた。
極東支部までもう少し、かな?
マタマタ>(・∀・)σ)Д゜)<イラッ☆
それから数時間、…全然もう少しじゃなかった。
ヘリは無事、極東支部のヘリポートに着き、私は極東、元日本と呼ばれていた血に降り立つ。
日本のアナグラの中に入ると大人しめの少年が歓迎してくれた。
「ええと、君が今日からこの支部に配属される柳葉・A・アシュリーさん?」
「ええ、そうです。あなたが第一部隊の隊長さんですか?」
「うん、まだリーダーって呼ばれるの慣れてないけどね。そうそう今からアナグラを案内するよ、ついてきて」
その後、しばらくアナグラ内を案内された、ドイツとあんまり変わらないんだな、と少しビックリした。
<あとがき>
何となく、二次創作したくなったんですよ…。
ゴッドイーターは神ゲーなのに時期が悪くて3rdに喰われて残念感があるからなぁ…。