飛ばない統一球導入は球界に大きな影響を与えているが、実は「本当の“統一球の恐怖”はまだこれからだ」との声があがっている。
前半戦が終了し、飛ばないボールの効果で、昨年セ・リーグに14人いた3割打者(規定打席数以上)が4人に激減。13人いたパでも5人に減っている。逆に、防御率1−2点台(規定投球回以上)の好成績を残している投手は、セは昨年の年間3人から12人、パも4人から15人に激増しているのである。
今のところ、統一球は圧倒的に投手有利に働いている。ところが、首位を走っているヤクルトの伊勢孝夫総合コーチ(66)がこんな後半戦予想を披露した。
「確かに今年の統一球は、去年に比べて飛ばない。打撃コーチ泣かせや。だが、投手優位とばかり言うのはどうか? 統一球は重い。実際、おれは選手の早出特打ちなどで打撃投手役をやっているが、去年とは肩、ひじにかかる負担が段違い。だから痛いんだよ。荒木(大輔チーフ兼投手コーチ)とも話をしたが、投手が完投した場合、去年に比べて20−30球分、ひょっとするとそれ以上余計に負担がかかっているんじゃないか。これが後半戦、投手陣にボディーブローのように効いてくる可能性がある。まぁ、ウチの館山などは人一倍スタミナがあるタイプだから、なんとかしのいでくれると期待しているんやけど…」
同・伊藤智仁投手コーチ(40)も「まだペナントレース前半を折り返した段階で、最終的にどれほどの負担がかかるかはわからない」とした上で、「おそらく問題になるのは、年間を通して働く投手。ウチでいえば、先発の館山、石川、リリーフの林昌勇、バーネット。この辺にかかる負担をいかに減らしていくかを考えないと」と危機感を募らせている。
今季5勝4敗、防御率2・56(セ9位)の石川雅規投手(31)は「僕の印象では、統一球は重いというより、滑る感じで、慣れるまでは、過去に張ったことのない箇所が張ったりしましたが、今は違和感がなくなりました。全体的に防御率がいいので、投手有利なのかなと思いますし、有利だと思って強気に投げられるだけでもプラスだと思うんですよ」と前向きに受け止めている。果たして後半戦はどうなるか。
もっともヤクルトの場合、苦労しながらもリーグ2位のチーム打率・254をマークしている打線が、4位のチーム防御率3・18の投手陣をカバーすることもできそう。
投手陣の疲弊を深刻に受け止めなければならないのはむしろ、原巨人だろう。チーム打率・244、チーム総得点208とリーグ最下位の貧打で、「リーグトップのチーム防御率2・76を誇る投手陣のおかげで、まだしも踏みとどまっている」(他球団スコアラー)とみられている。
巨人は打線に上昇の兆しが見えないうえ、ただいまリーグ2冠(10勝、防御率1・50)の内海、プロ経験の浅いルーキー沢村、中継ぎで大車輪の働きの久保ら、チームを下支えしてきた投手陣が疲労困憊で下降線をたどったら…。
現役時代に「伊勢大明神」の異名を取った伊勢コーチの“お告げ”の通りになるのか。とりわけ原巨人にとって不気味といえそうだ。(宮脇広久)