チラシの裏SS投稿掲示板




感想掲示板 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[28794] 【IS同士ガチバトル】 IS 幼年期の終わり 【SF風】
Name: のりを◆ccc51dd9 ID:583e2cf9
Date: 2011/07/14 15:15
ISに触発されて初SSです
以下の成分を含みます



一夏は人並みに好意に気がつく
セシリア超強化
鈴超々強化
全IS、パイロット強化
各国のオリジナル量産機を独自設定
各国にとって、ISとは原子力空母と戦略原子力潜水艦を合わせたほどの戦力、政治力であると考えており、それを預かる搭乗者もその責任を自覚している
原作の雰囲気からおおきく剥離


動力 推進力、ビーム、絶対防御、ブラックボックス内部 等々の独自科学設定有り

全試合、血と汗と涙と薬夾と金属片とイオンを撒き散らしながらの死闘ばかりになるよう頑張りたいです。


タイトルに釣られた方へ、まだしばらく人類の黄金時代が続きます。

設定、ストーリー、文体など、なんでも悪いところや矛盾 疑問があれば言ってください。



[28794] 第一試合
Name: のりを◆ccc51dd9 ID:583e2cf9
Date: 2011/07/12 15:16
二千某年2月某日、織斑一夏は焦っていた。
右手に握りしめているのは、彼がこれから受ける高校入試の受験票と、それに同封されて送られてきた要綱と受験会場への案内が書かれた紙だった。
左腕にはめられた腕時計の示す時間は、刻一刻と進むものの、要綱にかかれた時刻は何度見なおしたところでまったく進まない。
そして前者が後者に追いつき、追い抜くのは、まさしく文字通り”時間の問題”だった。

何度曲がっても似たような廊下が延々と続き、階段を上がっても下がっても光景がかわらない。窓もなく、今何階かの表示も無い。だれにもすれ違わない。
ところどころにある鋼鉄製の扉はどれも一つとして開かない。
鼓動は高鳴り、背中にいやなじっとりとした汗が広がる。

一夏は思い返す。確かに用紙で受験会場とされたビルの名前と、入口に書かれていた名前は一致していたし、入口横にはきっちりと高校名と受験会場と書かれた掲示がなされてあった。
建物に入り、ロビーを抜け、会場である4階にエレベーターで行こうとしたが使用停止の張り紙。仕方なく階段から4階へと行こうとした。そこまでは良かった。
しかしその階段がなかなか見当たらない。右往左往してなんとか階段への扉は見つけた。その安堵からか何も考えず扉をくぐり、覚えてきた歴史の事件・文化・よく出る図の順番を思い出しながら階段を上っていく。
そして途中で気がついた。この階段には階の表示が無いと。

扉にもなにも書かれておらず、踊り場にあるはずの階の表示が無い。しかし焦ることはない。一階からの階数を数えれば簡単に階はわかる。
地面を確かめるために階段の中央の隙間から下をのぞきこむ。床まで優に8階分はある。上った階数よりもあきらかに多い。
それが地下までを貫いていると気がつくまで軽く動揺してしまった。
そして、これまでいくつ踊り場を過ぎたのかが頭から完全にどこかへと飛んで行った。
そして予測であけた扉。それが間違いだったのか?

窓が無い。階を確認できない。今は何階だ?何階通路を曲がった?どれぐらい進んだ?
誰にも会わない。会場を間違った?いやそれは無い。入口にはちゃんと…
それにしてはこのビルの立地はおかしくなかったか?なぜこんな市街の入り組んだ中心地に?ロビーになぜ受験生がいなかった?
いや、間違うはずがない。とにかく誰かにあって会場まで案内、最悪出口まで案内してもらいたい。
もう間違っててもいい。だれかこのビルの人間に会えないのか?俺に出口を、せめて何階かだけ教えてくれ!
一夏の思考は切迫されていた。
立ち入り禁止と張り出された扉のドアノブに手をかけ、開いたことに喜んで、なんの考えも無くそこに入るぐらいには。
そこで見た。人だ。それもスーツを着て机に座り、書類に目を通している女性だ。しかも腕には入試係員の腕章。

「あ、あの!すいません!試験会場はここですか!」
「ええ、そうです。この奥で試験が行われます」
「はい!ありがとうございます!」

もはや入室完了の時刻まで1分もなかった。机の脇をすり抜けて、女性が顔を上げるのも待たずに奥の扉へと飛びつく。
一夏はその背後で女性がボールペンを素早く三度ノックしたことなど全く気がつかなかった。



扉をくぐると、まったく予想と異なる光景だった。
そこには並べられた椅子も机もない。教室ですらなかった。
教室の半分以下の広さ。無機質な鉛色の壁と天井。這わされた配管と配線。
いくつかの高価そうな電子機器。そしてそれに囲まれる銀色の鎧甲。
今入ってきた扉の反対側には立体投影が壁のように、「アリーナ入り口 Dゲートなどと書いている」

ただの甲冑では無い。これはおそらくIS「インフィニット・ストラトス」と呼ばれる、機械服だ。
受験を控えた自分の目の前に現れたのは人類の発展と安全と破壊を保証する、世界のパワーバランスを担う467騎のうちの一つ。
ちらりと腕時計を見る。

もはや自分は受験を控えている、では無く控えていた、になったようだ。

その場に足を崩して座り込む。

「おまえも、俺も、こんなところでなにをやっているんだろうな。」

そうつぶやく。もはや一夏には何の気力も起きない。
数年前から推薦入試という枠組みがなくなった。正確には「男子には」。
男が高校に進学するためには高い内申点と、優秀な学力が必要になった。そして男の中卒などまともな働き口は無い。
一夏は得意で好きな剣道で、全国大会で優秀な成績を残して内申点を確保し、勉学にも励んだ。

そして今

道に迷って会場にもいけず、ISと2人っきり。
一夏は今受けている「はず」の高校以外受けていない。
気力は尽き果て、これまでの人生を振り返り、これからの人生の転落を想像するしか、することが無かった。

しかしISの登場は一周回って一夏を冷静にさせていた。
突拍子のなさすぎるフィクションが、リアリティーの欠如のために感情移入を阻害するかのように。

一夏はおもむろにISをさわる。もはやなにも思考は行われていない。ただ何となく触ってみたくなったのだ。
鉄とは肌触りがやや違う。冷たくなく、何か硬くて軽い素材のように感じられた。一夏には知る由もないことだが、それは表面に張られている炭素繊維の感触だった。

ゴトンという音
ぎょっとして見れば籠手が地面に転がっている。
壊した!一夏の脳内にはISは単位質量で見れば金の15倍の値段をするというどこかでみた情報がぐるぐると流れる。
籠手をあわてて持ち上げようとするが、あまりの重さになかなか持ち上がらない。
持ち上げる前に直しかたを確かめようと、反対側をちらりと見て、籠手がどのように固定されたかを見る。
スネ当ての側面に籠手はへばりついているようで、そこへ持っていくために数十センチ持ち上げなければならない。
鍛えられた一夏の筋肉でも、そこに保持することは大変そうだった。
スネ当ての側面にはなんの突起も無い。
金具で固定されているというのでは無いらしい。
とにかく一度持ち上げてそこに籠手を近づけてみることにした。

「ふん!」
気合いを入れ、持ち上げ、反対側と同じようにスネ当てに押しつける、しかしまったく軽くならない。固定されない。
たまらず籠手を地面に(なるべくそっと)おく。

このままでは中卒どころかIS犯罪者か?そんな考えが一夏の頭にめぐる。

消耗仕切った精神はこう考えた

どうせなら一度ISを着てみたい。ここまでくればもうなんでも同じだろう。ISを着る・・・男のロマンだな

間違いなく神経は擦り切れていた。
とりあえず寝そべって、落ちている籠手に手をつっこむ。
内側は柔らかくシルクのような肌触りの布で覆われていた。
腕から伝わってくる感触は金属やとがった部品で無く、むしろ非常に柔らかい。
低反発寝具や、なにか暖かいゲルにも思えた。
気持ちいい!突っ込んでよかった!
そのまま気持ちよさに負け、欲望を奥まで差し込む。
しかし拳が細く絞られた部位に引っかかり、それ以上入らない。
それでも力を込めると、その絞りが引き延ばされてさらに奥へと入れられるようだった。
ここまできてやめる訳にはいかない。
めりめりという感触にあらがい、手を無理矢理に突っ込む!
拳が入りきり、その絞りは手首を覆うようにきゅっと閉まる。
籠手は肘までを完全に覆った。拳は籠手の拳まで届かない。指は全て機械で埋まっているのだ。肘から先が、柔らかいものに包まれて、暖かくて……

「き、きもちいい」

何かがぎゅっと腕全体を締め付ける!何かが指に絡みつく!
「うっ!…」

たまらずうめく。
そして異常に気づく。

自分の指を動かす感触で、籠手の指、すなわちISの指が動いている。

「いったい、どうなって」

視界の端で甲冑が揺れる。瞬間バラバラになったそれは宙を舞って一夏に飛びかかる

「うわぁあああああ」


気がつけば、一夏はその鎧甲を身にまとって地面に伏せていた。
なんだこれは?そう思うと
コアナンバー345、外装名「打鉄」IS学園所属
そう脳内に浮かび上がる。ただ覚えていることを思い出すかのように。

ふと思う。こんなに視野がひろかっただろうか。360度全体が上下左右鮮明に見える。自分の姿勢が完全にわかる。高度がわかる。重力加速度を体感する。地平が透けて見える。
頭から指の先までびっしりと神経の通っている感覚。
袴のような足周り、腰の装甲、鞘に収められた刀。背中を支える装甲、そして両肩に浮かぶ浮遊装甲、頭に乗せられた情報集積システム、それらの状態がてにとるようにわかる。
そして自分の表面を覆う力場。慣性制御率。
電磁波を感じる。紫外線赤外線が見える。建物を貫通した宇宙放射線を感じる。
手のひらにあたった地面からの振動。ドアの外にさきほどの女性がいる。
反対側。さっきまでただの立体投影かと気にしていなかったが、これは遮蔽スクリーンだ。競技場にまんべんなく張られた、対ハイパーセンサー用情報壁。”競技用IS”はこれを透視することはできないと条約で決まっている。
このスクリーンの向こう側はCクラス戦闘ISアリーナと読みとれる。
女性のいる部屋に、廊下からの扉が開かれて誰かが入っていた。おそらく少女。会話も振動で読みとれる。
扉がふと透明になって向こう側がぼやけてだが見える。
三次元情報に再構成されたのだ。やはり少女が入ってきたらしい。
(受験番号0102、トダ エリナです)
(え?あなた?)
(……えっと…?)
(じゃあさっきのは?)

一夏は反射的に部屋に入ってこられると困る!となんとか扉を閉じなければと考える。瞬間、打鉄は低出力光子を扉に照射。扉の4辺は加熱冷却され、溶接される。
そのことに驚く前に一夏は扉の向こうから140.85回線波長の電磁波の放出を確認。音声変換。
<<4番ピットの打鉄に強奪警報!>>

なにが起こるか一夏にはわかった。スクリーンへと躊躇い無く飛び出す。抵抗は無かったがスクリーンを通過するとき一瞬ハイパーセンサーがホワイトアウト。

飛びだした直後、背後のスクリーンは3メートルの特殊複合隔壁で物理的に閉鎖される。

着地を制御し競技場に降り立つ。そして20m前方にISを人の乗っているISを確認した。
全体の意匠としては打鉄に近しいものの、銀色では無く、黒。アクセントとして各所が紅く塗られ、浮遊装甲は無い。
打鉄はそれを、汎用機「鋼」系列発展機「銅(あかがね)」であると判断を下した。
またそのニュートリノ波形から、コア番号204、IS学園所属であると知った。

IS「銅」は、IS刀「緑(ろく)」を抜き放ち、その切っ先を打鉄へと、一夏へと向ける。その表面に施された特殊合金皮膜が赤鈍く輝く。

打鉄は、銅の胆力と緊張の充実、そしてこちらへの突き刺さるようなハイパーセンサーの指向とその圧力を感知した。
それを打鉄はどうとも判断しない。それはISの仕事ではない。ただ、ありのままを搭乗者の頭脳に、思考抽象言語で瞬時に伝達する。

そしてそれを一夏はこう解釈した。殺気であると。そして一夏の本能は痛みと死からの回避を強く望んだ。そして理性はその本能を当然のことと抑制しなかった。むしろ脳内にあった不安材料を拾いあつめ、その本能を肯定する方向に向かった。

打鉄は一夏の脳内に走った電流を正確に感知・解析し、搭乗者の意志を確認した。
ISは判断はしない。ただ搭乗者の意志を最大限に尊重する。そして、そのための提言は行う。
打鉄は一夏に、左腰に備え付けられた「武器」のことを教える。標準IS刀「富士」のことを。
度重なり襲いかかってきた事態に精神を消耗していた一夏は、ほとんど反射的に左腰に備え付けられた鞘から伸びる柄を握りしめる。しかしその手は、武士の抜刀のためのそれでなく、溺れるものが藁にすがりつくそれだった。そして、刀は、藁は、抜かれた。

不幸であったのは打鉄が試験モード、すなわちスタンドアローンであったことだ。



強奪警報が発せられたとき、銅は試験会場である競技場の中央で、受験者を待っていた。
その現場だという第四ピット方向へ通じる遮蔽スクリーンへ機体正面を向けた瞬間、そこから打鉄がはじき出されたかのように現れた。
そして打鉄は山の低い放物線を描いて、銅の20mほど前方に着地した。

銅は左腰に装着された大小のうちの本差に相当する、刃渡り2m60cmのIS刀「緑」を抜き放ち、次いで「ISから降りろ」と警告するつもりだった。
しかし、銅のハイパーセンサーの捉えたものがそれを、緑を突きつける段階で止めてしまう。
打鉄を起動しているのが「男の顔」をしていたのだ。

搭乗者から確認を依頼された銅はその顔を戸籍データに照合し、彼が実在すること、男であること、名前が織斑一夏であること、そして搭乗者の同僚の弟であることを返した。
それがますます搭乗者の動揺を広げる。もし打鉄で現れたのが女性であればなんらかの交渉や、正体への冷静な考察ができたかもしれない。
その突然の事態は、銅に、思考回路の混線と緊張を強い、かつ、あらゆる事態への対処のための気力の充実を強いた。

そしてそれは打鉄の抜刀を招く。

「緑」と異なり、鋼のように青がかった「富士」の光沢は、銅の思考からあらゆる雑念を払わせた。

武器を向けあったISに、戦い以外の結論は無い。

IS強奪をもくろむものは必見必殺が世界の大原則である。事情は彼を気絶させてから聞けばいい。
もし死んだとしても打鉄を回収すればその思考はトレースできる。そうすれば目的も正体もはっきりするだろう。
それだけ考えて、銅は考えることをやめた。


銅は機体表面に渡された力場で、足に地面を叩かせる。
その反作用は爆発的加速をもたらし、偏向重力場がそれを加速させる。
銅にとって、20mは一刀一足に満たない間合いだった。

時速二百キロを優に越える速度で接近してくる銅を、一夏は引き延ばされた時間の中で認識していた。
打鉄の演算装置と接続された一夏の脳が、普段の数倍の速度で思考を行っているためだ。
そこで一夏も思考を放棄した。そして彼を体に刻み込まれた鍛錬が守ろうとする。彼はそれに身をゆだねた。

銅の右手一本での、左上からの袈裟切りを、柄を左上にして受ける。「緑」の切れ刃は「富士」の刃上を刃先方向に滑る。
両腕で柄を支え、斜めに受けたというのに、両腕にはとてつもない負荷がかかる。

その斬撃をなんとか凌ぎきった一夏の目の前には、無防備な側面を晒す銅があった。
刀を回し切っ先を立てて一夏がそこへ切りかかろうとしたとき、打鉄の警告が右わき腹への触感となって一夏に伝えられる。
本能的に切りかかりをやめ、柄を腰に引きつけ、刃を垂直に立てて右側面を守る。

その瞬間、ドンという音とともに銅がコマのように回転し、水平に寝かされた「緑」がその円周方向の速度をもって「富士」にブチ当たる。

打鉄のハイパーセンサーが捉えたのは、そのとき一夏の意識外において、銅の左足が地面を蹴ろうとする予兆だった。
そこから推測される事象を警告として一夏に伝えたのだった。
もしこれがなければ「富士」が銅に届く前に上半身と下半身とが分離していた。

しかし、なんとか守ったものの受け流すことができず、その威力に数メートル吹き飛ばされる。

空中で打鉄は一夏の脳に干渉し、重力偏向場の刷り込みを行うと、重力偏向場での後ろ方向への加速を提案する。
一夏は了承。さらに力場を用いて体勢を立て直しながら、後退を開始する。

銅はその兆候と意図を一瞬で見抜くと、地面をけり、さらに偏向重力で加速。
慣れない一夏にあっという間に追いつき、再び切りかかる。

斬り結ぶだけならば一夏にもある程度はできた。
しかし空を飛びながら、などということは初めてだった。
相対速度を味方に付け、重たい斬撃を繰り出す銅の一撃目。一夏はそれをなんとか正面から受け増速に利用。相対速度をゼロにする。
これはさきほど吹き飛ばされた経験から、応用したものだった。
しかし二撃、一撃目でわずかに狂った体勢につけこまれたそれは、打鉄に全体で受けることを許さず富士と腕のみにその衝撃を受けさせる。
右手が柄を保持できず、大きく外側へと富士と左腕が弾かれる。
間隙の無い三撃目。右手方向からのそれに打鉄の富士は間に合わない。一夏は、自らの胴を容易に両断しうる緑の刃にたまらず肝をつぶす。

しかしそこで自身と緑の間に割り込む何かを認識した。
それは打鉄の右肩に浮かんでいた浮遊装甲だった。
厚さ100mmを誇る複合装甲を縦に易々と斬り裂きながら進む緑はしかし、切っ先の速度を低下させる。
それを認識した瞬間、一夏は右篭手を跳ね上げ浮遊装甲を叩く。
それは緑を巻き込んで上方向へ弾かれる。
この機を逃す一夏では無い。銅を狙って富士が払われる。

その状況に置いて、自身と富士に遮るものが無いというのにもかかわらず、銅はむしろ打鉄との距離を詰める!
銅の左拳はその運動量を利用して打鉄の右肩の付け根をしたたか打ちつける。
たまらず体勢を崩すものの、一夏は富士を振り切る。
しかし胴との胆力の連絡の無い、腕だけでふるわれた刃は銅の篭手に滑らされ、刃は銅の頭上を斬る。

浮遊装甲を払い捨てた緑が打鉄にせまり、それを防がんと富士が割って入る。
鍔迫り合い。
互いの刃が交わり、刀身が、腕が、ぎりぎりと音を立てる。こちらは両腕で押しているというのに、片腕の銅に岩のような手応えを一夏は感じる。
それまでの斬り合いから学習し、見事に富士を制御し、弾かれず緑の刃を捉えたそれは、一夏の剣術の才とISの才能を端的に示していた。

しかし一夏に才があったとして、それは銅に才が無いということを示さない。

一夏は鍔迫り合いを押し切ろうと胆力をさらに込めた時、胃のそこが持ち上がるような浮遊感、足下がおぼつかなくなる恐怖を感じる。
打鉄の警告。重力場のオーバーライド。
絡み取られた!剣士としての本能で理解する。

一夏の背が地面と平行になる。体勢を立て直せない。
二騎の絡み合っていた力場はもはや銅のものだった。
力場に守られてそれまで何も感じなかった相対的に運動する地面に、今一夏は本能的な恐怖を感じる。

さらなる浮遊間。合計3Gの重力加速度が地球方向へと指向され、打鉄と地面との距離が一瞬で詰まる。

その瞬間、墜落の瞬間、胴は鍔迫り合いの接触点を回転軸として緑の切っ先を天井へ、すなわち柄頭を地面へと向かせ、全質量をかけて、緑を地球方向へ滑らせる。

地面に背中を打ちつけられ、鳩尾に柄頭が突き刺さる。
競技場の特殊装甲がたわみ、すさまじい音が鳴り響き、銅はその反作用によってわずかに宙に浮く。

押し退けられた内蔵にぶされる横隔膜に、意図しない声が漏れる。
打鉄は早急に神経回路に干渉し、その気絶する強度の痛覚と、嘔吐をさせようという肉体の反射を遮断する。

銅の足は動きを止めた打鉄のわき腹を蹴り、鞠玉のごとくはねとばす。
放物線を描き地面にぶつかり一度跳ね飛んだ打鉄は空中で体勢を建て直し、両足で着地、いや、すぐさま膝から崩れ落ちる。

両者の間合いは20m。奇しくも最初と全く同じであった。

違うことは、打鉄が満身創痍であり肩で息をしていること。そして、銅は両腕で柄を握りしめ、緑の切っ先が天を向く上段の構えを取っていることだ。

ここにきて一夏の骨髄に氷を突き刺されたような衝撃が走る。これはただの上段に非ず!
初撃と全く同じ踏み込み。しかし両腕から繰り出される斬撃は、受けようとすればいかなる角度であろうと富士をたやすく両断し、一夏の面を割る。
回避しようとすれば再び絡み取られ容易に撃破される。
それは一夏の剣士としての本能が見せる幻視であり、打鉄のすぐれた演算装置がはじき出した結果でもあった。

なぜそれまで両腕による斬撃を繰り出さなかったのか?
それは銅は常時から片腕で緑を振るう戦闘スタイルであり、大小を”今は”一組しか持ち合わせていなかったことも要因である。
しかしそれ以上に一夏の、IS戦闘特有の騙し合い、電子情報戦、力学制御、それらの無い素直な「剣」が彼女の剣士としての心を呼び起こしたためだ。
一夏との切り結びは、戦闘でなんとか覆い隠していた内心の動揺を打ち消していく。
鍔迫り合いを経て、もはやIS乗りであるという責任・感覚はなく、ただの剣士。ただの刃。ただの「銅」であるという認識が残った。この時、彼女と「胴」の境界線は限りなくないに等しい。
彼女の一刀流は、この領域でなければ有用な戦法足り得ない。
またこの領域であれば、必殺に十二分に足り得る。

そして銅の踏み込み。頭上で水平に構えられた富士。
緑は一夏の正中線との間にある富士の鎬を斬り裂く。
しかし鎬の峰には、打鉄の左篭手の拳が当てられている。さらに左篭手には残った浮遊装甲が装着される。
指を斬り裂き、手を斬り裂き、手首を縦に割り、腕に刃を進入させ、肘まで切りさけば、薄い篭手といえど縦ならば緑はそこまでしか切り込めない。
力場で咲こうとする腕を縛り止め、緑を絡めとり、刃渡りが四分の一以下となった富士を手斧のように乱雑に首筋から入れこみ、その心臓を割る。

それは確かな勝利の幻視。

そして現実。踏み込み。
水平に構えられた富士。接触する富士と緑。あてがわれる篭手。
軽い衝撃。緑は富士を斬り裂かない。
腹の中を何かが右から左へと横切る。熱い。
ハイパーセンサーは水平に振り抜かれた右腕、そしてその延長でまっすぐに延びる、刀を見た。

一夏の失敗はその技の起こりを容易に晒したことである。
右手をあてがう時間は、銅にも与えられている。
その時間で銅の右手は技の起こりを察知させることなく左腰に残った脇差し IS刀「青(しょう)」を抜刀し、一夏の裏をついてその刃を一夏の腹へと

一夏は富士を放り出し、こぼれないよう必死に腹を抱える。
腹からの激痛。全身が重たい。立っていられない。
間もなく一夏の意識は、そこで途切れた

















闘いは、つづく



[28794] 学園の異常な校風 Mr.strength love
Name: のりを◆ccc51dd9 ID:583e2cf9
Date: 2011/07/18 01:42
一夏は、腹をそっと制服の上から右から左へとさする。
一夏の着る白亜の制服は特殊なガラス状の繊維で編みこまれており、これは普段は布と変わらない柔軟性を示すが、強い応力を受けると急激に硬化するという代物である。
また硬化した領域の周囲は、強靭なゴムのように変質する。
そのため銃弾やナイフでの刺突を受けても、接触部は硬化し凶器を通さず、その周囲の弾性変形が運動エネルギーを吸収する優れた防弾防刃作用を誇る。
さらに、通気性、着心地も優れ、表面には特殊な化学皮膜が張られており、汚れず肌触りもよい。
IS技術が応用された次世代機能服であり、完全オーダーメイドで価格は一着優に50万円を超える。

そのシルクのような滑らかな肌触りを指で感じ、そして、自らの腹を通過したモノの軌跡をなぞる。

一夏は回想する。
あの後、意識を取り戻した自分は医務室にいた―――――――――――
病室で無いと分かったのは、薬品が充実した棚があり、様々な機器と、医者が使うような机が置いてあったからだ。
その機器のいくつかは自分の頭や手首にコードでつながっており、心電図と脳波を計測しているように見えた。
そこで、それまでの事を思い出し、思わず服をめくる。その拍子に手首に付けられたクリップが外れた。

そこには、青と赤のまだらに痛々しく変色しただけの、たって“普通”の割れた腹筋のみがあった。
たまらず“そこ”をなぞる。たしかに感じた。そこの内側を通過したものを。
夢だったのか?
そう頭を過った時、医務室の扉が開かれ女性が入ってくる。
黒いショートの髪。鋭く芯の強そうな意思のの灯る瞳。歩き方だけでわかるしなやかに鍛え抜かれた肉体。
あの時はなんの価値もない情報として脳に留められていた画像情報が、表層に浮かび上がってくる。

「夢じゃなくて悪かったな。織斑一夏。そう私だ。「銅」だよ」

なぜ?なにがどうなっている?腹は?

「競技モードで助かったな。絶対防御の中和による搭乗者の致命的損壊相当……バイタルロスト判定での敗北だ。あれは打鉄の見せた幻覚だ。」

痛みは?

「あれは、直前に私が打ち付けたものだ。敗北状態になった打鉄が痛覚の遮断を止めたのが原因だ。今は痛み止めが効いている。」

……俺はこの人を殺そうとしたのか

「ああ、危うく殺されるところだったな。お前のように」

いや、けれどあのときはどうかしていて……ごめんなさい

「あの闘いを“どうかしていて”などと言うな謝るな。あれはいい試合だった。そうやって汚してくれるな」

あれ?俺喋って

「いない。お前の脳波は別室のISで全て解析されている私はそれを中継されておっとバンドを外すな。また傷めつけたくはない」
「非合法はお互い様だ。」

「さて、お前の名前は?家族は?どうしてここに来た?……フムン。」
「IS      さあ何を思い浮かべる」
「……こいつは。クリシュナ、どうだ?おい!クリシュナ!……!」

「これは想像以上に厄介なことに巻き込まれたな。私も。お前も。」

「すまんがしばらくねむっていてもらう」


気がつくと俺は自宅のベッドで寝ていて傍らには―――――――――――



「IS学園学長、神園公子より一言」

思考に潜行していた一夏をよく通る声が引き揚げる。
それまで素通りしていた視覚が、その役割を取り戻す。

今はIS学園の入学式だった。体育館に並べられたたパイプ椅子に座り、その式の開始を待っていたのだ。
そして周囲の状況を努めて遮断するために思考に没頭していたのだ。

浮上した一夏の意識は、年を召した女性が、壁に掲揚された国連章と学園章へ一礼し壇上に上り、こちらを、それぞれの組にまとまった新入生たちのほうを向くのを見た。
ピリとした儀礼服の着こなし、上品に当てられたパーマ、やや濃い化粧に栄える口紅もまったく淑やかだった。
目の周りと口元に皺をたたえているものの、その瞳には鷹のような眼光をそなえている。

新入生たちに一礼。実るほど 頭を垂れる 稲穂かな を体現する見事な礼であった。これには一夏も背筋を伸ばさずにいられない。

その眼光が一瞬一夏を捉える。しかしそれは急速に焦点を広げ、新入生全体へとむけられたものになる。

凛とした声が響く
「では、手短に。皆さん。まずは合格おめでとうございます。
しかし皆さんはただスタートラインに立ったにすぎません。ISは戦いを忘れた人々の剣であって、盾であります。
そして人類の行く先を照らす、広大な宇宙にともった奇跡の灯火です。
吹き消されぬ強靱さを身につけ、その力の正しい奮い方を学ぶ3年間であることを切に願って、これを学長からの挨拶とさせていただきます」
再び礼。

それだけであったが、新入生たちは万雷の拍手で応えた。
IS学園を統括する学長。並の人物で務まるものではない。新入生の間を気迫とも言うべきオーラがすり抜けた。

「では続いて校歌斉唱。全員、起立」

会場の隅に待機していた軍楽隊に準じる技術を持つIS学園音楽団がその重厚なオーケストレーションで書かれた伴奏を演奏し、校歌を歌いあげる―――――――――――


学長講話、校歌斉唱、主席への入学証書授与、それだけの入学式はあっと言う間に終わる。
「以上で入学式を閉式とします。続いて、生活指導員のほうから話があります。藤原ほのか先生、お願いします。」

促された彼女は壇上にあがる。
「みなさん!こんにちは!」

彼女についてひとつ付け加えるとしたら、一夏はこんなにでかい女性をみたのは初めてだった。
彼女はマイクも必要とせず新入生に話をする。

「はい!紹介もありましたが私は生活指導員の、藤原ほのかです!みなさんよろしくお願いします。」

身長190センチ以上、体重100キロオーバーの見事な体格。赤茶けた肌。スーツの上からでもわかる隆起した筋肉。どこがほのかであろうか?
声色は実に女性的だが、その腹から出される声は音の遠近感をどうにも麻痺させた。

「守るべき規則、風紀はこの!冊子に書いてあります!皆さん、よく読んで健康で健全な学園生活にしましょう!」
そうやって青い冊子を掲げる。一夏も持っているA4の冊子だが、あんなに小さかっただろうか?

「この学園では自主性を大事にしています!あまり細かいことをいうつもりはありません、が!あまりに目にあまる場合には!!
我々生徒指導部が修正することになります!」


「まあ、それだけではなんですので大切な事を言っておきましょう。
あなた方に渡された学生証ですが、構内においてはセキュリティーカード、成績証明書、電子財布、構外でも身分証明書、などなど様々な役割があります。決してなくさないように。」

「それと、冊子に書かれていないことですが、学園には不文律があります。すなわち『生徒は常にその心と理性に基づいて行動せよ』です。これはいかなるときも守る必要があります。」
「しかしそれを守るとどうしても、人は時としてわだかまりを生みますね」
にっこりと笑って
「決闘の作法については68ページに書かれています。IS乗りが主張の正当性というものは力により成されるものです。」
凄惨な笑みだった。これもまた、不文律――――――――――



さて、式はいよいよ解散となり、先生に先導され一夏たち一組の生徒たちはその教室へと収まる。各々机に張られた番号と学生証を見比べて、自分の机に座る。
一夏は中央最前列だった。

全員着席を終えると、先導していた先生は教壇に登り
「はい皆さん、初めまして。この一組の副担任の山田真耶です。これからよろしくお願いします!」
しかし無言。この異様な緊張感こそ一夏が努めて環境を無視する原因だった。

「ええっと、とりあえず自己紹介!自己紹介をしましょう。で、では「あ」の、アリア・テリジアさん!」
あわあわと慌てる彼女、山田は一夏の初めて出会うタイプのIS乗りだった。スーツもややサイズが大きめだろうか?
わずかながら一夏は心が休まった。そんな気がした――――――――――


自己紹介は淡々と続く。パチパチとまばらな拍手。
名前、出身(県or国)、特技。それだけ。
その理由は一夏には明白だった。

「じゃ、じゃあ、織斑一夏君……」
背中に圧力を浴びて教壇へ。そして振り向く。

目、目、目
少なくとも同じ人間をみる目ではない。そう一夏は感じた。
そしてそれは正しかった。同級生は一夏を“一般的な”IS乗りと同視はできない。かといって一般男性とも見なせない。無論女性でも無い。
では何という選択肢が残るか?扱い方のわからない珍獣か、興味深い観察対象か、宇宙からの新生物か。あるいは社会の生み出した“特異現象”とみる者もいた。
実際の所、同級生の 学園の生徒の ひいては社会の認識も、ほぼそれに準ずるものだったといっていい。一夏は二月のあの日以来、それを肌で感じていた。
それが無害であるか有害であるかの判断を早急にしたいというほぼ全員の考えがその緊張感のもとだった。

それを一身に浴びて、一夏の気が良くなるわけがない。
しかし一夏にはそれも理解できる。自分は、大混乱を経てやっと安定化しはじめた社会に投げ込まれた、再び混乱をもたらすかもしれない異物なのだ。
これで社会が何の抗体反応も示さなければその社会は実に免疫不全といえるとも思えた。自分は、異物なのだ。

「織斑一夏、K県Y市出身です。趣味と特技は剣道です。」
「……この学園では、自分がどう振る舞うべきか、というのを見つけていって。そして、みんなと仲良くしていきたいです。よろしくお願いします。」

とりあえず今はそれだけ言って席に戻る。拍手は無い。
一夏は自分の声が実に情けなく聞こえた。直接に受ける抗体反応は、一夏の想像以上に消耗させていた。
しかしその庇護を乞うような様は、幾人かの溜飲をさげ、警戒をわずかに解くことに成功したかもしれない、感心を薄められたかもしれない。
質問が無いことにほっとした後、そのような自分の考えを自覚してなんと情けないことかとさらに気落ちする。

一夏が終えてしまえば、緊張感はほとんど散霧してしまい、あっと言う間にすべての自己紹介は進む。
陰惨とした自己嫌悪の中で一夏の記憶にわずかに残ったのは首席入学をし、新入生代表を務め檀上にのぼったイギリス人の彼女だけだった。どうやら彼女はイギリスの代表候補でもあるらしい。
そしてもう一つ、聞き覚えのある名前が――――――――――

自己紹介を終えるとほぼ同時に、教室の扉をあけて女性が入ってくる。
「すまない、山田先生遅くなってしまって。」
「いえ、ちょうどいいタイミングでした。今自己紹介が終わったところです。」
黒いスーツにタイトスカート、黒く艶やかな長い髪。教壇中央まで歩く、ただそれだけでも絵になる。
なによりその姿勢が抜群に良い。そして流水のごとき足運び。すなわち筋肉の付き方が理想的であり、常々武道の奥義ともいえる脱力を心がけなければできない、無駄のない動き。

その動きに、あるいはその人物の歴史のために、教室はもう彼女に呑まれていた。
「諸君ら一組の担任、織斑千冬だ。」
教室に彼女の言葉が響く。そして一夏をちらりとみて
「全員知っていると思うが、私はこの織斑一夏の姉だ。かといって織斑を贔屓するつもりは無い。それだけは言っておこう。」
それは報道で周知の事実だった。そんなセンセーショナルな話題を放置するマスメディアは居ない。
「さて、私はISというものは、心で創り、心で振るう
剣だと考えている。」
「私は諸君の剣を研ぐこともできる、振り方も教えられる。お望みとあればその刀に宝石と装飾をほどこしてやろう」
「しかし、その前に諸君にはすることがある。それは芯鉄をその刀に入れ込むことだ」
「自分なりの通すべき筋、無い心は、いくら硬くとも容易に折れる剣しか生み出さない。まずは各々なりの筋、IS哲学をみつけてほしい。」
「もう一つ。心を振るうためにはしっかりと踏ん張る地面がなければならない。私はそれを正義と呼ぶ。そしてそれは私が用意するものでは無い。」
「その筋と正義を己の心に問うことをやめないかぎりIS乗りは成長する……私はそう考えている。以上だ」

返事は無い。よくわからないと思う者、なるほどと思う者、興味深いと思うもの、感銘を受ける者。
千冬はその反応で良いと思った。万人に当てはまる話ではないし、今の言葉で完璧に理解されても困る。しかし今蒔いた種は生徒に何らかを得させることはできるだろう、と。
そして千冬はなによりも一夏のことを想っていた。そして弟のために次の話題を切り出す。

しかし、姉の想いなど関係なく、一夏はその凄然とした姉の声に、口調に、あの自宅で目を覚ました時のことを思い出す。傍らにいた姉と交わした会話を。


一夏、ISがはじめて現れたとき、社会はそれをみとめたか?

「さて、早速だが、クラス代表というのを選出しなければならない。」

ISはそれはそれは社会に混乱をもたらしたな

「その主な役割は5月のクラス代表戦に出場すること、生徒会への出向、だ。」

でだ、最後に立るのは何だ?

「誰か立候補はいないか?推薦でもかまわないぞ。」

なにがISを社会に認めさせたんだ?


「はい、織斑君が良いと思います」
思考に埋没する一夏を無視して発せられたそれは打算に満ちた提案だった。
クラスメイトたちには一夏の戦闘力を早急に知る必要性があった。
かといって、それを測ろうと彼に直接決闘を挑んだとして、もしも彼に負けてしまったらどうなるだろうか?
それは「男」に負けた初のIS乗りとして後世に語り継がれるだろう。
誰がそんな役を引き受けるというのか。
ならばその役割をほかのクラスの誰かにおしつけてしまおう、というのが彼女の提案の真意だった。
そして雑用も引き受けさせる。まさに一石二鳥だった。
クラスメイトはその意図を掴み、一夏の反応を待つ。

しかし一夏の返答よりも先に手を挙げ発言するものがいた

「納得がいきませんわ」
「クラス代表というものは、クラスでもっとも強い者が慣例だそうですわね。では彼を選んでしまってはその慣例が壊されてしまいますわ」
そう声をあげるのは、イギリス代表候補、セシリア・オルコット
「Mr.織斑。代表は辞退していただけませんか?あなたにはあまりに荷が勝ちすぎるかと。」
呼ばれた一夏は、虚ろな目で機械的にセシリアを振り向く。
「死んだ魚のような目をして……あなたにはISに乗ることはもちろんコートに立つ資格はございませんわ」
コートとはIS競技場の英国流の呼び方である。
「古今東西のIS乗りはコートでこう主張してきましたわ。ISに貴賤も出身も人種も思想も無く、ただ勝敗のみがあると。」
「あなたはそこに性別も、と差し込む気概がありまして?無いのでしたら早急に出て行ってくださいまし。そのしみったれた顔は視界に入るだけで不愉快ですので」

すわとクラス中が色めきだつ。
これは公衆の面前での挑発である。それも真正面からの。
挑発した者とされた者、双方がIS乗りであるならば、その後のシナリオはたった二通り。
それを知るクラスメイトは、熱を持ってその双方を見る。

ここにきて一夏は、周囲から視線の変質に気がつく。それまでのドロドロとしたものが薄れただ純粋にその推移を見届ける視線。
それはセシリアにも注がれているものと同質であると気がついた。
その時、空回りしていたような自分の内なる歯車が、噛み合ったような感触がした。
一夏は理解した。ISを通じてその存在の正当性を主張しうる唯一つの方法を、世界の普遍的法則を

「決闘だ。セシリア・オルコット。」

一夏の顔を見て、セシリアは笑った。一夏も、笑う。それはそれは凄味を帯びた――――――――――



















学園の異常な校風/ または一夏は如何にして悩むのを止めて修羅になったか



[28794] 恋は盲目
Name: のりを◆ccc51dd9 ID:0b1218c2
Date: 2011/07/21 18:18
「よろしい。段取りはこちらで整えよう。詳細は追って通達する。」
そう言った千冬は
「さて、たぎっているところ申し訳ないが授業だ。頭と心を切り替えろよ。」
「では山田先生よろしくおねがいします。」
とそう言って教室をでていく。
生徒たちの、先ほどの見せ物による興奮は、音もなく教室の空気を震えさせていたが、その熱はさっと冷め、全員が山田に傾注する。

それを山田は見送って
「はい。ではみなさん、机の端末を開いてください」
山田が教卓の天板を上に開くと、それに倣って各々机の天板を開く。
開いたその内側は、天板の裏も机の上も二面とも全体がディスプレイとなっていた
「学生証をおいてください。そうすれば起動されます。」
山田は職員証を一瞬掲げて見せた後、端末の上に置く。

一夏は鞄に入っていた財布を取り出し、学生証を抜き取り真っ黒なディスプレイの中央に置く。
するとその学生証の輪郭をかたどるように淡い緑色の光が点る。
まもなく上面に学園章が表示され、下面には、両方の手のひらを画面につけろ、というテロップが流れる。
一夏がそれに従い、学生証を挟むように両手をつく。
端末は指紋と手のひらの毛細血管形状と生体反応を走査し、
データバンクと比較して一夏本人が端末を起動しようとしている、と判断してそれを許可する。

「では、今からIS関連条約の授業をはじめます。」――――――――――――


学園に入学すると決定したとき送りつけられた資料、
山田から配布された資料、
机のタッチセンサー型のキーボードとペンで自分で記した電子ノート。
一夏は、それらを机と同期されたブレット型の携帯端末(配布された学園標準仕様の物)に移し、先ほどの授業の復習をしていた。スプーンでカレーを掬い口に移しながら。
現在は正午から13時までの昼休憩の時間であり、一夏は第一食堂という、
一年生教室棟の近くに設置された食堂で昼食を取っていた。

学園の授業は1コマ90分であったが、山田のIS法の講義は事前学習前提のものであり、
2月3月と自室で腐っていて資料を読み込まなかった一夏は、そのうち30分ほどしか理解できなかった。
しかし、ISに乗ると覚悟を決めた以上は一夏は努力を惜しむつもりはなかった。
山田の発言を要約したノートと二つの資料を見比べながら、理解を少しでも深める――――――――――――


ISには様々な制限がある。単位時間あたり一定以上の電子、陽子の生成禁止、一定上の重力場電磁場の発動禁止、反物質生成禁止、等からはじまり、
主権国家領内では国連IS委員会無く決闘禁止、そして許可無く制限解除禁止。

アラスカ条約はその集約ともいえるもので、国連加盟国全員が批准している。それの主なものをまとめれば以下のようになる。
・太陽系の天体運行に影響を与えてはいけない。
・大気を一定以上変質、崩壊させてはいけない。
・一定縮尺以上の地図が書き変わるような地殻破壊を行ってはいけない。

それはさながらISという怪物の手綱を引こうともがくようであったが、ISに対して人類の社会的遺産や社会科学の英知などは過去のものだった。
ISは搭乗者の意志を最優先にする。その環境、所属する社会を無視して。いくら機械的リミッターをつけたところでそれ自体を永久に阻害することはできない。
この世界はISひとつとその意志ひとつで容易に崩壊するのだ。

ではどうするか?その答えはたった一つ。ISはISが裁く。

静止衛星軌道上には国連直下IS管理部の宇宙基地が存在し、その条約を破り、不特定多数の地球市民に被害が及ぶおそれがある、
と判断されたときに軌道降下強襲を以てその違反ISの制圧を行う。
それだけでなくすべての国が互いのISを監視しあい、その核を越える超相互確証破壊 のみが世界を一応つなぎ止めている。

この世界でIS乗りが愛する国を、家族を守るためには、敵性ISが大破壊を引き起こす前にその息の根を止める力が必要であり、そしてより優れたISが必要なのだ。

そしてIS乗りはIS乗り同士の守るべき国際的な条約、慣例を頭にたたきこむ必要がある
ISは人間社会ではその社会性など容易に無視できるが、IS社会ではそうはいかない―――――

これが授業のだいたいの概要だった。
次回からは個別の条約、判例から学習する、とのことだった。

それが一通り終わると、一夏は午後の授業である「ISの戦闘理論基礎」の資料を画面に表示させ、予習を行う。
一夏に周囲を確認する時間などただ惜しいだけだった。


その様は、周囲の生徒たちに好意を持って見られた。その真剣さはまさしく決闘を控えたIS乗りのものであったからだ――――――――――――


午後の授業は、戦闘基礎理論の他に、量子力学、数学があった。
山田の「量子力学・数学の概念の修得はIS操縦技術を向上させる」という言葉で一夏はそれらも真剣に取り組んだ。
最後の講義、数学が終わる時刻は6時。腹を空かせた一夏は、鞄を抱えて学食へ夕食を食べに行く。

注文するのはラーメンの餃子定食。学食においては、学生証を示せばあらゆる料理が無料で配給される。
邪魔にならぬよう、邪魔されぬよう二人掛けのテーブルに座り、ラーメンと餃子と白ご飯を乗せたトレイの横に端末を置く。

赤く輝きながら澄んだ醤油味の汁。それをよく麺に絡め口に含む。
見事な歯ごたえ。一口かむごとに味が染み出してくるかと錯覚するように麺が踊る。
そして生麺ならではの風味が一夏の口腔と鼻腔を満たす。それをさっぱりとしていてコクのある醤油味のスープが引き立てる。

濃くダシ色に染まった肉厚のチャーシュー、それを一度白ご飯の上に着地させ、スープのしみこんだ白ご飯とともに箸ですくい、口に持ってゆく。
ああ、お米とはこんなにも甘く、深い味わいだっただろうか?チャーシューは噛めばかむほどにうまみを発し、米と交じりあう。

それを飲み込むと、いよいよ餃子である。それぞれをつなぐぱりぱりとしたコゲを割り(その時割れ目からは肉汁があふれるように漏れる。)小皿に取られた、食堂特製という餃子のたれに付け、やはりご飯に着地。
肉汁とタレを浴びて輝くお米。餃子を上に乗せたそれを、一夏はゆっくりと口へと


残念ながら一夏の味覚はそこから完全に意識からはずれる。
はっきりと言ってしまえばそれまでも特に舌に意識をやってなかった。
原因は携帯端末に表示されている、IS戦闘基礎理論で配布された資料を見ていたせいだ。
端末の画面には、中国とカンボジアとの治水権を巡る、公式戦闘が表示されている。
(この戦闘はIS登場初期に行われたもので、この一戦により中国はメコン川の治水権をカンボジアに譲渡している。IS史でも重要な試合である)

その攻防が激しさを増し、二騎が交錯。その刹那に行われた攻防に、一夏が意識を完全に奪われたのだ。
映像を何度も再生しながら、まったく味あわずごラーメンを、ご飯を、餃子を胃に入れていく。

一夏は結局二時間近く学食に居座りそれを見続けていた。

ふとそこで、今日からは学園の寮に住むことことになるのを一夏は思い出す。
これも事前には通告されていたものの、なにしろその時の一夏は腐っていたのだ。
確認をするためにも。端末に構内地図を表示させ、割り当てられた部屋を探すと、鞄を持ってそこへ向かって歩きだした


学生証をかざすと、電磁遮断皮膜、振動吸収樹脂、対爆装甲がかさねられた分厚い扉が音も抵抗も無く壁に吸い込まれる。
玄関の壁には、靴を脱いで、とかかれたプレートがかかっている。
裏をめくってみれば、靴のままでどうぞ、とかかれている。これは留学生への配慮だろう。
一夏はプレートをそのままに靴を脱いであがる。
すぐ左側には洗面室へと続く扉。
のぞいてみると、きちんとトイレ、シャワー、浴槽が分離している。これは一夏には有り難かった。

奥の部屋へと足を進める。センサーで時間差なく証明がつく。
それに照らされた部屋には、右側の壁沿いにシンプルなベッドが部屋の奥行き方向におかれ、反対側の壁には教室と同等の個人端末、本棚、クローゼットが設置されてあった。部屋中央には中型の段ボールがおかれている。
奥の壁にはブラインドがかかっており、操作すれば日差しも風通しも自在だろう。


段ボールをあけると、下着、寝間着。それだけ。しかしこの学園では基本的にこれ以外には必要ない。
ふと一夏は段ボールの陰に愛用している薄汚れた竹刀が転がっているのに気がついた。


それを握りしめ、この世界で、必ず生き残る。その居場所を作り出す。そう誓うと、竹刀を机に立てかける。


クローゼットをあけると、カバーのかかったジャージ、に見える高機能運動服が二組に、もう一着の制服がかけてある。
引き出しにはまっさらなタオルが何枚かずつ何種類か置かれている。
このクローゼットは、学園内のクリーニングセンターに通じており、タグをつけてハンガーに吊すと
構内のダクトを通じてセンターに送られ、一晩できれいになってまたハンガーにかかっている、という代物である。

一夏は、12時まで二ヶ月の錆をとるための運動メニューを考えながら端末で資料を漁り、
風呂に入って、端末に6時に起きるとセットしてベッドに入った。


このベッドは、人間の体の体調、筋肉・骨格をモニターし、就寝の際に最適な圧力に制御される。
それは指圧と整体をあわせもった効果を発揮し、深い眠りへと一瞬で一夏を誘う。
寝ている最中にも筋肉のこりをほぐし、骨格をもっともよい状態にする。
枕元からは良い夢がみられるようヒーリング音が響き、一夏の体調にあわせた香りがアロマテラピーの役割を果たす。























学園は叫ぶ。さあ勉学だ訓練だ鍛錬だ。
強くなれ、もっと力を得ろ。



[28794] 第二試合 VSセシリア(2/10)
Name: のりを◆ccc51dd9 ID:583e2cf9
Date: 2011/07/21 23:55
俺の名前は織斑一夏、 平凡という名の代わり映えのしない毎日を愛する、剣道がちょっと強いことを除けばごく普通の16歳の男子高校生だ。
それがある日ひょんな事から女にしか動かせない超兵器「IS」を起動させてしまい、養成機関IS学園に強制入学させられてしまう。
もちろん、学園には俺以外には女の子しかいなくて ……俺の高校生活どうなってしまうのか!?


どうなってしまうのか?では無い。
鏡のごとく磨き上げられた「富士」の刀身を見る。そこに映る己の顔を、黒い瞳を見る。

「富士」日本国国防省IS技術研究所、新帝国製鉄、帝国セラミクス 共同開発製造の標準片刃IS刀。
刃は窒化ケイ素系セラミックス、刀身はニッケル基の超靱合金。刃は約5cmのチップを並べたものであり、それを刀身で挟み込むようにして接合がなされている。
それぞれのチップは接合されておらず、反る方向のたわみに対してその隙間が広がることにより、セラミックスの刃が破壊されることを防ぐ。
ISの武装で最も芸術的な量産品と称されるそれ。

手首を回転させ、その刃を前方へ向ける。柄は茎を隙間なく包み込んでいるために、ガチャなどという金属音は立たない。
中段の構えに移行。切っ先に意識を集中。垂直に振り上げ、振り下ろす。

どうするか?戦士に必要な言葉はただ、これだけである。
どうなりたいか、そのためにどうするか。

水平に、斜めに、垂直に、円を描いて。
頭の中で描く軌跡と、現実の刃の軌跡を重ね合わせる。

これはなんだ?
コアナンバー455、外装名「打鉄」IS学園所属。ただ自分の形容する言葉を思い出す。

心と体と神経を、じっくりと打鉄のニューロ回路と馴染ませながら富士で空を斬る。


このようなISと搭乗者の同期調整は、試合に臨むIS乗りにとって必須である。
これが十分でなければ、搭乗者の『人間的』心の動揺が、ISと精神との剥離を生じさせ、ISが意図しない動作をしてしまうこともあるのだ。

一通りの動作を終えた一夏は、今度はIS表面に渡された力場を全開にして富士を振るう。
富士の切っ先の速度は音速を越え、それが一ミリのぶれも無く、動から静、静から動へと転換しながら軌跡を変え、先ほどと全く同じ軌道を辿る。

ISは己、己はIS。一夏の心は、鋼鉄に武装されてゆく。

それを見守るのは織斑千冬。
ここはピットと呼ばれる、決闘に望むIS乗りたちの控え場であった。



コートを挟んだ反対側のピットでは、山田がセシリアに自動拳銃を向けている。
そして山田がわずかに指に力を掛けた瞬間、撃鉄が降りおろされる、それは薬室内に装填された弾丸の雷管を叩き炸薬を点火させ、
炸裂音を伴って直径9mmの弾丸を時速1300kmに加速させる。
銃身内部に刻まれた螺旋条が弾丸に回転を与え、その軌道を安定させる。黒々と空いた銃口から火炎が吹き出し、それとほぼ同時に弾丸が飛び出す。

銃口とセシリアの距離はわずかに5m、弾丸がセシリアの眉間に風穴を穿つまで0.014秒も無い。

その時、山田にはセシリアの右腕が消失したように見えた。
いや物質的に消失した訳ではない、それはすぐさま消失した瞬間と同じ格好でそこに現れた。

山田は躊躇無くもう一度引き金を引き、その弾装に納められていた弾丸をすべてセシリアへと放つ。
その度に、セシリアの右腕が左腕が、交互に山田の視界から消失する。
それは、もしも山田が、眼鏡をかける原因となった事故が無く視神経を痛めていなければそれは完全には消失しなかったかもしれない。

16回の炸裂音がピットに木霊し、山田が両手で保持する自動拳銃は遊底が後退しきって停止する。


セシリアは、最初とまっく変わらずそこに佇んでいる。
最初とまったく変わらず、青い装甲を身にまとって。


セシリアは右手を胸の前に持っていき、手のひらを上にして手を開く。

そこには8つのひしゃげた弾丸。
左手をその上で開き、16の弾丸を右手に集合させる。
右手を握り、開く。
それらはそれだけで一塊となる。

ピットの隅に設置された、ドラム管の天板を切除して作られたダストボックスにその塊を投げ込む。
ガコンと重たい金属音が響いた。


それはキャッチバレットと呼ばれるISの基本的なウォーミングアップの一つだった。セシリアはこれを同期調整として習慣にしていた。
銃口を向けられても震えひとつしない自分に、セシリアはISとの精神的な同期を感じ、
指で包み込んで弾丸をキャッチできることにISとの肉体的な同期を感じるのだ。


「Ms.山田、おつきあいいただいて感謝いたしまわ」
セシリアは山田に言う。
「いえ、生徒を助けるのが教師のつとめですから」
「それにしても良い仕上がりですね。……あなたにそう言うのは、かえって失礼かもしれませんが。」
そう言って山田はいたずらっぽく笑う。
「ええ、今日は特別、気合いが入っていますもの」
セシリアも笑う。
「では、良い試合を」
「そのつもりですわ。では、ごきげんよう」
山田は遮蔽シールドをくぐるセシリアを見送る―――――――――――



一瞬のハイパーセンサーのホワイトアウト。そして回復。
標準的なクレイ-シールドドーム型のアリーナ。本来ならば半径数百kmのあらゆる事象を観測できるHSは、そのアリーナの内側のみを一夏の脳に送る。

そしてHSは、アリーナ中央のセットラインに浮かぶそれを捉える。まったく同時に、それに捉えられる。

青き甲冑を着込む、セシリア・オルコット。
その見慣れた、しかし初めて視る鋭利なシルエット。

一夏は、電子情報が擦り切れるほど読んだ資料を脳内に再生する―――――――――――

ブルー・ティアーズ。英国製の、IS開発史に名を残す超革新機。
「ISは二種類に大別できる。ブルーティアーズの前か、後か」そう評されるほどの。

その主武装は、肩の上に浮遊する装置にマウントされる独立機動兵器「ブルー・ティアーズ」4基。(その浮遊する装置はBTマザーと呼称される)
そのコンセプトは砲台を機体から分離・独立して運動させ、搭乗者の思念で制御し、対象への全方位集中砲火を可能にする、というものだ。
単純、故に強力である。
無人であるBTは殺人的な加速度を可能とし、その動きは射撃点から射撃点の、点と点としかとらえることが出来ない。
BTは、サポーターで包まれたタングステン合金の矢を、炸薬で一時加速、銃身に設置された電磁石で二次加速(サポーターが磁性体である)してマッハ4で投射するハイブリットレールガンである。

そしてBTで追い詰めた獲物を、本体の持つ強力な火砲がトドメをさす。それがブルーティアーズの基本戦術である。

一年前、英仏の親善試合で初登場し、その際には一歩も動かずフランスのISを撃破している。
4つの火線はISの行動経路を著しく狭め、フランスのISはBTに撃たれるか本体に撃たれるか、
その選択を試合開始から試合終了まで選ぶほかすることが無かった。

BTショックとも呼ばれる衝撃が世界を駆け巡り、BTに対抗し得るIS・武装の開発に世界中がシフトしたのだ。
ブルーティアーズは全てのISを過去にした。

そして、ブルーティアーズに対抗しうる装備・機能・性能を持って産まれたISは第三世代又はBT級と呼称されるようになった。
打鉄の浮遊装甲も、その対BT用後付け装備の一つである。全方位攻撃に対応できる全方位防御を目指したのだ。

本体の持つ武装は、対軌道高射砲に開発された、プラズマ砲、レーザー砲、電磁加速砲をそれぞれ小型化、流用した
スターライトP、スターライトL、スターライトRのほか、基本的なIS銃は一通り利用出来、状況により使い分ける。

近接武装として、「インターセプター」。BTマザーとの間の浮かぶ板状の武器で、BTと全く同じ運動性能を持つ剣である。
不用意に懐に飛び込むISは、2枚のインターセプターに瞬時に両断される。

他に、背後バインダー及び腰部装甲に収納される、4基の思念誘導型超高速高機動ミサイル、「バリスティック・ティアーズ」
これは種々の弾頭があり、これも状況により使い分ける。


それを操るのは、英国稀代のIS乗り、セシリア・オルコット―――――――――――


アリーナ中空に、100mほどの距離をあけて相対する打鉄とブルーティアーズ。

打鉄は、肩から垂らされた砂色のマント、外套を装着している。膝まであるそれが背中と上半身を覆っている。
両腰部装甲にそれぞれIS拳銃(拳銃といっても口径20mmのハンドキャノンと呼ぶべき代物)を仕込み、左腰には鞘に収まった富士を佩く。
右手で単発式IS電磁小銃を提げ、その砲身とその下に取り付けられた銃剣が外套から覗いている。
マント以外は、標準的な打鉄の中-近-至近距離戦闘の武装である。
そして一夏は装甲に仕込んだ『隠し玉』を確認する。

対するブルーティアーズは、BTマザーは右部のみ、BTは二基、インターセプター無し、弾道型BT無し。
初心者の刃を恐れるようでは代表候補など務まるはずもない。セシリアはその心意気を示しているのだ。

そのハンデを一夏は妥当であると同時に、好都合とも考えていた
そして一夏は、8枚落ちですらとてつもない圧力を発するセシリアとブルーティアーズに底知れぬものを感じる。

「セシリア・オルコット、ひとつ礼を言わせてもらいたい。」
一夏はそう切り出す。
「うじうじと悩んでいた俺は、お前のおかげで吹っ切れた。ありがとう」

「ずいぶん良いお顔になりましたわね、“まるで”IS乗りみたいですわよ」
そうやってセシリアは微笑む。

「顔だけ、じゃない」

「期待していますわ」
なおもセシリアの笑みはそのままである。しかし、その目からは弛緩が消失し、鋭い眼光が一夏を射抜く。


<<では、これより織斑一夏とセシリア・オルコットの、クラス代表をかけた決闘を開始します。>>
<<校則第9条にのっとり、ここに、学園が正式な決闘見届け人となり、その決闘の正当性を認めます>>
<<結果の如何にかかわらず、双方遺恨を残さないように>>

二人の脳内に直接声が響く。

プランク長さに畳みこまれていた高次元を展開して、そこに波として記述されていた情報を素粒子へ、原子へ、分子へと再構成。スターライトRがセシリアの両手に収められる。その電磁加速機とコアを直結。

小銃のボルトハンドルを引き、薬室へと20mm強装弾を導く。コアで生成した電子を、手の平のコネクタから小銃内のキャパシタに供給

BTマザーからBTが分離。銃口が一夏を指向。

表面に渡された力場と、コアを中心に張られる二層の物理定数偏向場を滾らせる。

二層の空間偏向極大面が形成され、一瞬その球体が視覚化された後視界からは虚空に溶ける。

<<双方死力を尽くして、悔いのない決闘を行ってください>>
<<では、はじめ>>

瞬間一夏は体勢をそのままに地球方向へと万有引力に偏向重力を上乗せして一気に外套をなびかせ加速落下する。
スターライトRの放つマッハ8の弾体がその打鉄の予測位置に放たれる。
それを予期した一夏は重力偏向度を上昇させつつ斜め方向に持たせ、さらに加速、回避。

打鉄が地面に触れる瞬間、打鉄の降着装置が地球を掴み、蹴る。地面が爆ぜる。
BTによる撃ちおろし。着地の瞬間を狙ったそれを回避。これは接近戦を重視した、大容量の“膝”と降着装置を持つ打鉄ならではの芸当だった。

反作用から推測される未来位置に2基目のBTの射撃。
それを察知する打鉄は地球方向に偏向重力をかける。垂直抗力が増し、摩擦の増した降着装置は、打鉄の進路を運動量を無理やりに打ち消して変更する。
一機目のBT(以下BT甲)は高度2mに移動。打鉄が地面に沿った二次元的移動をするのであれば、射線を二次元に穿つ点でなく、面を薙ぐ線にすればよい。

地面と平行に放たれる射線を避けるために地面を蹴る。
その方向に、高度を落とした二機目のBT(以下BT乙)の地面と平行な射撃。

運動を打ち消しての方向転換はもはや不可能。それには時間も面積も足りない。前方への加速か、地面を蹴っての垂直飛び。二者択一である。
一夏は、二足目を地面に叩きつける。前方向にさらなる加速。射線を抜ける。

一夏が大きく位置を変えたところで、セシリアの射線がそれを追うために必要な操作は、銃口を僅かばかりずらすのみ。
その距離という次元を持つものと、無次元量である角度との差、そしてスターライトの弾速は後出しを許容する。

放たれるマッハ8の弾体。
そんなものはわかりきっている。
打鉄は自身と銃口の間に浮遊装甲を挟み込む。

圧倒的運動量を浴びて、紙のようにひしゃげた浮遊装甲は、打鉄の周りに張られた電磁場偏向帯の上を滑り、
虚空に見えぬ球を描き打鉄の背後へと弾き飛ばされる。
一夏はあえて電磁力による力連絡を絶ち浮遊装甲を吹き飛ばされるままにする。

浮遊装甲のかわりにセシリアの目に飛び込むのは黒々と開いた銃口。
BTと同じハイブリットレールガンである小銃は、マッハ5で弾体を射出する。
BTよりも弾速が速いのは、ISの腕という高性能な駐退機の存在と、長い砲身が、より大きな一次、二次加速を可能にするためだ。

しかしセシリアは浮遊装甲による防御の段階で機動を開始している。
加速度と軌道を時間変化させるその機動は、打鉄をまどわせ弾体をかわし、それを背後のシールドにぶつけさせる。

反撃とばかりにBT甲とBT乙による十字砲火。
しかしその中心は僅かに打鉄の外、打鉄に到達する前に交錯する。打鉄はほぼ本能的にその中心から逃げるような機動をとる。
乙の放った弾体と甲の放ったそれは、空中で接触。破片が打鉄の方向に飛び散る。
その一つ一つを正確に感知するHSは、光を浴びて輝く鋭利な断面を一夏の脳に見せる。

それは“人間”の長かった一夏の反射を誘う。
しかし打鉄は脊髄に介入。より正しい反射を一夏に強制する。
外套の端をつかみ、自身を覆う。外套に阻まれ、運動エネルギーを失った破片は打鉄表面まで届かない。

そのまま地面を蹴り体を丸めて転がるように、移動し、同方向から直射を狙った二基の射線から逃れる。
丸めた体の、外套の内側で高速のボルトアクション。転がりながら、背を地面に付ける一瞬でセシリアを狙っての射撃。
その射撃にセシリアは反応出来ない。弾体がセシリアの胸部を打ち付ける。機体がぶれる。

資料の通りBTと本体の同時精密操作は不可能!
その隙を突いた一夏の企みは一発の砲弾をセシリアの柔肌と鋼鉄を包む力場――絶対防御に届かせた。



セシリアは反応できなかった、ではない。しなかったのだ。
何故か?むろんBTの操作の為である。

回転を終え、しゃがんだ打鉄にBT甲の真上からの撃ちおろし。運動を開始できない打鉄は浮遊装甲で防御。
同時に側面からのBT乙の差し込むような射撃。
背中で受ける。
外套が裂ける。衝撃が胸まで抜け、息が詰まる。
BT甲の機動、射撃。それを追う浮遊装甲。防御。
わき腹への衝撃。肋骨がきしむ。BT乙の射撃。
BT甲の機動、射撃。それを追う浮遊装甲。防御。
左肩への衝撃。BT乙の射撃。

ひしゃげた浮遊装甲を傘に、うずくまる打鉄。
そこでぴたりとBTの射撃が止まる。
弾切れである。
BTをオートの帰還モードに移行しスターライトでのとどめを刺すべくかまえる。
そうしようとした瞬間、打鉄を爆発的に膨張する漆黒の煙幕が覆う。

フラーレンに電子を一つ閉じこめたものを散布する量子煙幕。これはHSを阻害しうる数少ない武装である。

セシリアはかまわずスターライトを撃つ。
音波センサーには地面を抉る音のみ。手応えはない。

しかし量子煙幕は双方のHSを分け隔てなく阻害する。
むしろ影響が大きいのは打鉄である。

BTマザーに接続されたBTは、コンデンサーに電子をためながら、銀色の筒を8つずつ、空薬夾をバラリと側面から落とし、再装填。
スターライトを片手保持。左腕に展開したサブマシンガンで、なぐように射撃。

弾丸が装甲にブチあたる音。
サブマシンガンを収納する時間すら惜しい。放りすて、スターライトを構える。
BT2基による射撃。経路をつぶす。
スターライト、射撃。まさしく複合装甲をぶち破る音。

しかしHSはあらぬ方向から小銃を構え煙幕を抜ける打鉄を見る。
その肩に浮遊装甲はない。

はめられたのだ。先のは煙幕中の浮遊装甲だった!
BTに打鉄側面からの挟撃を指示する。
スターライトの精密射撃と回避のために、思念操作ではなくプログラム機動。
小銃の射撃。回避。
スターライトで射撃。
背後の煙幕から飛び出すひしゃげた浮遊装甲がそれを防ぐ。破断。

瞬間、セシリアは混乱し、そして悟る。しかし間に合わない。
穴のあいた浮遊装甲が、打鉄からの電磁的力を受けて煙幕から飛び出し、BT乙の側面にブチ当たる。
本命は、おとりのおとりだった。

打鉄は地面を蹴る。

BTはオート迎撃。スターライトでそれを迎撃する。
ブルーティアーズの思念回路が二系統であることを忌々しく思うのは今に始まったことではない。
しかし機体の仕様を克服するのはいつでもIS乗りの役目なのだ。

打鉄は小銃を捨て、収納された二丁拳銃を構えてセシリアに突撃する。
セシリアは偏向重力で、打鉄に正面を向いて同加速度で後退。

一丁はセシリアに、もう一丁はBT甲に。
HSは銃身・銃口の方向を正確に察知し、演算装置がそれから射線を割り出す。
BT甲はオートでも、その銃口を自前の画像装置で判断して見事に回避する。
しかしその機械的な回避は、有機的な本体との連携射撃を阻害する。
射撃、射撃、射撃、射撃、射撃。
互いの弾丸は当たらない。
その軌跡は互いの射線嫌って複雑な模様を描く。


その時、BT甲の画像装置が銃口をロストする。
虚を突かれた。その瞬間、BT甲のレンズに直径20mmの穴が空く。飛び込んだ金属の固まりは変形しながら回転軸を回転させながら、あらゆる機器を破壊しながら進行する。
裂け目から弾頭が分離、変形。電装機器をずたずたに切り裂く。

腕は反対の脇の下に通され、拳銃が外套の内側から穴をあけて弾丸を射出したのだ。

牽制を受けなくなった打鉄は一気に直線的に加速。
二つの銃口を指向されるセシリアは、逆に、大加速を行えない。小刻みな加速をしなければ、射線に捕らえられてしまうからだ。

ここにきてセシリアは、逆に、前方方向に加速!
打鉄の拳銃が火を噴く。
それをスターライトを盾として弾丸を受けさせる。
セシリアは意味をなさなくなったスターライトを躊躇いなく殴りつけ、その拳の中心は弾装を捕らえる。
タングステン合金の弾体がサポーターをつけたまま打鉄に降り注ぐ。

それを打鉄は打ち払わない。直撃してもせいぜい相対速度は300km程度。ダメージは無い。
飛びかかる破片を無視してもう一度拳銃を斉射。

しかしその弾丸はスターライトの破片に衝突しセシリアまで届かない。

それは偶然ではない。
スターライトを破壊したねらいはもう一つ。
飛び出したコイルに、セシリアの電磁偏向場で電流を流し、それを偏向磁力により操作し、射線を塞ぐ、そのためである。

打鉄の再射撃は間に合わない。
左足による蹴りが、鋭利なシルエットを持つ降着装置が両腕をすり抜け打鉄の胴を捕らえる。
拳銃を投げ捨てた右手が、その足を捕らえる。
打鉄の指が装甲を抉り、その指を浸食させる。
セシリアを狙ったゼロ距離射撃。
その瞬間セシリアの右手には展開したサブマシンガン

ゼロ距離の撃ち合い。
数発の弾丸がセシリアの胸の上に着弾する。
打鉄の右腕にサブマシンガンの一弾装分の弾丸が打ち込まれる。
ゆるむ拘束に、セシリアは左足を軸に回し蹴り。装甲がメリメリとめくれ剥がれることにかまわず右足で一夏の側頭部を打ちつける。

たまらず手を離す打鉄の胸を左足で蹴り付け、間合いをとる。

両者の距離5メートル。
互いにボロボロであり、それでも二人は笑っていた。

セシリアは高揚していた。代表候補候補だったころ、英国製量産機セイバーに乗っていた頃を思い出す。
ブルーティアーズに乗って以降、数少ない拮抗した試合である。
そしてよく調査し、よく訓練している。肝が据わっている。
うれしい。決闘の準備をきっちりしてくるなんて。
それはIS乗りとしてのセシリアの気持ちだった。

一夏は自らが進むべき道を見つけた、その喜びが胸を満たしていた。
セシリアは強い。それこそ敬意を示したくなるほどに。
ISに乗ってわかる、力への純然たるあこがれ、勝利へのあこがれ、絶対的存在感。
俺は強くなる。力を持てば、たとえ世界が俺を残して崩れさってしまってもそこに俺という存在を確証できる。
その確信が今もてた。

セシリアはふと熱くなっている自分を客観的に見つめる自分がいることに気がつく。
ハンデを付け、相手のフィールドに飛び込んで拮抗する試合を演出したとして、それが何の意味を持つのだ?
そうやって熱くなることは悪癖ではないのか?
拮抗しているとはいえハンデ戦だ。
なにかがセシリアの中でしぼんでいく。

一夏は、セシリアの発する気迫ともいうべきものが急速に萎えていくのを感じた。
それまで拮抗し、無風状態であった二人の対峙は、その圧力差により一夏からセシリアへと吹く暴風となる。
一夏は反射的に鯉口を切り、抜刀。
その暴風に乗せ、刃をふるう。

その刃の軌跡は容易に予測できる。ブルーティアーズに頼るまでもなく。
それのかわし方と、それぞれからの一連の攻防がセシリアの頭の中で幹と枝のように構築される。
それは紙一重で自らの敗北を招くかもしれない。
こんなつまらないところで、敗北してしまっていいのか?
楽しい!無益だ

現実にブルーティアーズが行ったのは、腰部アーマーから円筒を投射し、その軌跡の上にそっと乗せてやることだった。

富士の刃が、その円筒に切り込むところで、一夏の記憶は途切れる。



青空。全身が痛む。
それが一夏の最初の感想だった。
どうやら地面に仰向けに倒れているらしい。
なにがおこったのだろうか?

視界が狭い。HSが切れている。
体を覆う力場が途切れている。

その喪失感が雄弁に一夏の敗北を物語っているように感じられた

しかしどこか爽快だった。

一夏の横に降り立つ、ブルーティアーズ、セシリア・オルコット。
その顔はどことなく浮かない。一夏にはそれが何か無性に悲しかった。

「おい、勝ったのにどうしてそんな顔をするんだ」
「……あなたに勝ったところで喜ぶ価値も無いからですわ」
それは嘘だった。しかし間違いでも無かった。
一夏はそれを言葉通りには受け取らない。

「最後の、切りかかったときか?」
セシリアはぷいと顔を背ける。
一夏は思い返す。あの急激に萎えた気迫。戦意が萎えていったといっても過言では無い。
しかしそのかわりに、なにか冷たい迫力がセシリアから発せられていなかっただろうか?
それまでセシリアは戦士や騎士として自分と戦ってくれていた。
それが、その瞬間、戦士としてのセシリアが隠れ、別の何かが現れたのだ。
戦士に成りきって戦おうとしていた自分はそれを関知できなかったのだ。

一夏は急に自分が恥ずかしくなってきた。
装備だけではない。精神的なハンデをつけてもらっていてあの体たらくだったのだと気がついた。
セシリアの、ブルーティアーズ本来の戦いはあの冷たい気迫で行われると気がついたのだ。

セシリアは己に戸惑っていた。
この決闘は、元々は英国からの「男のIS適格者を調査せよ」という指示が発端だった。
そしてクラス代表決定の時、あのままなにも発言しなくてもよかった。
しかし、そんな他力本願で、戦わぬ敵を恐れる選択を、国家代表候補ができるのだろうか?と自問した瞬間自分は行動していた。
もうひとつ付け加えるなら、織斑の様子に、IS乗りとしての自分が憤りを覚えたからもあった。
あそこで、織斑の中で変質が起こらず、IS乗りのくせに厭世的な表情をしていたら、フル装備でその尊厳を奪ってやっていたところだった。

しかし、あのときの顔、決闘までの気迫。
セシリアの中の戦士としての部分を妙に刺激され、このような決闘になった。このような決闘にすることにした。

確かに自分は楽しんでいた。それがあの瞬間、戦士としての己が冷めきって、英国軍人、英国代表候補としての自分が現れた―――――――――――

その時、体に染み込んだアクションが機械的に起こされた。
放出したのは、衝撃爆弾。圧縮した空間を閉じこめたシリンダーは富士に切り裂かれ、その亀裂から空間を放出する。
富士は音速を越えて吹き飛ばされる。

ブルーティアーズの拳が一夏の顎を捉え、脳を振動せしめ、その意識を奪い去る。

搭乗者の気絶を感知した打鉄は敗北を宣言すると同時に、重力場を調整して、地面にふわりと着地。
その最低限の機能を残してほぼ全ての戦闘能力を放棄する―――――――――――




「次は…いや、いつか、俺に勝った時、素直に喜べるようにしてやる」
セシリアは一夏を振り向く。
「今日は楽しかった。ありがとう」
「強くなるよ。強くなって、そして今度は全力を出させて勝たせてやる!」
真剣にきりりと決める一夏。

セシリアはたまらず吹き出す。
「それは変ですわ。」
「勝たせるなんて、しかもそんな格好つけて、負ける(キリッ)ププッ」

一夏は頬を紅潮させる
「あ、いやあ」

セシリアは倒れる一夏に手を差し出す。
「けれど、期待していますわ。」
一夏はそれをつかみ、なんとか起きあがる。
慣性質量低減を止めた打鉄は実に重たかった。
柔らかく笑うセシリア。それにつられて笑う一夏。
「素敵な笑顔だ。いつもその笑顔にしないか?」
「あら、そうやっていつも女性を口説いていらっしゃるの?」
「いや、もう口説いたよ」

遮蔽スクリーンは解かれ、ほぼ満員の観客席からは拍手が鳴っている。

「それもそうですわね」
「それまで、私以外の人に殺されないでくださいまし」
「その笑顔、怖いよ」
「そんな顔にさせたのはあなたですわ」
ブルーティアーズは打鉄に肩を貸しながらピットへと向かう。




「にしても、初めはどうしてあそこまで腐っていましたの?」

「……テレビの記者会見で俺じゃない自分がペラペラしゃべっているのを見たら、誰だってショックじゃないか?」
「あと、日にちがどう考えても数日吹き飛んだり、体に変な痕があれば。」

「今のは聞かなかったことにしますわ」
それを公にしていらぬ政治的ダイナミクスを引き起こさせるつもりは今のセシリアには無かった

「すまん……ところでどうして俺は負けたんだ?」
「あら、では、今晩にでも、今日の決闘の復習をいたしましょうか?」
「英国代表候補様の講評がきけるなら、よろこんで」
「セシリア、と呼んでいただいて結構ですわ。私も一夏と呼ばせていただきますので」
「それは光栄至極、ありがたきしあわせ」
わざと恭しく言い、それはセシリアの笑いを誘う。

二人は寄り添い、握手を交わした。































一夏の闘いは、今始まった。


感想掲示板 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.435141086578