このページを見てくださった方、ありがとうございます。
貴重なお時間を戴いているわけですから、少しでも楽しんでもらえるよう努力します。
それでは、La dernière promesse、始まります。
プロローグ
「良潤!死ぬなよ!」
「もちろんっ!こんなところでくたばるわけにはいかないんでねっ!」
僕は、背中に光の粒子を放出し、翼を構成して、「ファントム」の大軍に突っ込んで行った。
脳裏に、走馬灯のようにこれまでの出来事がよみがえる。死にかけているわけではないけど、危険なことには変わりないのだろう、大軍との接触までおよそ三〇秒。その短い間に、これまでの人生を振り返っていた。
それは、自分の事でありながら、誰か他人の回想ビデオでも見せられているかのように、おぼろげな記憶ではあったけど、僕の大事な思い出だ。
幼稚園で友達と喧嘩して大声で泣いていた時のこと、小学校の入学式。卒業までに体験した、貴重な思い出の時間。晴れて受験に合格した僕は、私立中学に通ってたなぁ。そこでも仲のいい友人もできたし、いい思い出がいっぱいある。
それでも、やっぱり一番思い出せるのは、この高校生活三年間のことだろうか。
専門高校どころか、『超能力』と呼ばれる、人類にとって天恵の光のような能力を身につけるための平穏台高校。
二〇一二年に起こるとされていた「人類の大きな転機」。本当に起こるとはだれも想像していなかっただろうな。
突如飛来した、謎の生命体。通称「ファントム」。
巨大な小惑星とともに降ってきた彼らは、アメリカによる核弾道ミサイルで迎撃され、細かな破片となってあちこちに降り注いだ。そしてそのカケラから生み出された異形の化け物、それが「ファントム」。
日本本土にはたまたま飛来してこなかった物の、数百の破片は、ロシアやアメリカなどの大国、ヨーロッパ全域、太平洋や大西洋などに落下した。
そのうちのいくつかが、日本付近の海岸や朝鮮あたりに着弾したため、日本も人事ではいられなくなった。
もちろん、自国の窮状を救うのに精いっぱいなアメリカや、実質機能を失った国連ではなく、日本を救うのは日本。すぐさま憲法を改めて軍隊を編成、迎撃に当たった。
この時は、まだ銃弾が有効打だっだのと、虐殺に対する復讐心からか、軍隊に入隊志願する人が多かったため、なんとか日本内部に侵入していたファントムは駆逐することができた。
いつの時代も、戦争は文明を発展させるというが、この時の日本も例外ではなかった。度重なるファントムとの戦闘によって、科学技術は飛躍的に向上し、仮想の兵器とされていた荷電粒子砲やレールガンなどもたやすく実用化され、非効率的として却下されはしたものの、ロボットアニメに出てくるようなモビルスーツまがいのものまで作られようとしていたらしい。
強力な個体を生み出すファントムと、超能力まで開発し始めた人間、誰も得をしない、狂った喜劇のようなイタチごっこは延々と繰り返されている。
しかし、ファントム側にも打撃を与えられていないわけではないけど、人間の被った被害はとても甚大なもの。
二〇三〇年、僕の高校入学のとき、世界中の人口は一億人にまで減少し、日本だけでも残り一千万人。地球の南半球はファントムにほぼ制圧されていた。
そんな人類の敵、「ファントム」は本当に様々な形をしているけど、共通点としては、同じ仮面を被っているところ。それがまるで【オペラ座の怪人】に出てくる「ファントム」みたいに見える、というところから名づけられた。
皮肉なことに、僕の名前は、永沙良潤。オペラ座の怪人では、「ファントム」の敵として、ラウル・シャニュイ子爵があげられる。良潤とラウル、どうも何かの因果を感じずにはいられない。
僕が生まれたのは、『対ファントム戦争』が始まってから、三年後の二〇一五年。
両親ともに自衛隊……いや、もうすでに名称は自衛軍に変わっていたか。とにかく軍隊に所属していた。
そしてそう、日々は流れて、僕の物語は、あの高校の門をくぐった日から、始まったんだ。
どうしてこうも、儚くも美しい世界の上で。
最後まで強かに足掻く、人間の希望と想いを乗せて。
+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。