2011年7月22日 21時36分 更新:7月22日 21時53分
経済産業省原子力安全・保安院は22日、九州電力が09年に提出した耐震性の安全性再評価(耐震バックチェック)の最終報告に2件3カ所のミスがあったと発表した。玄海原発3号機(佐賀県玄海町)の耐震性評価の前提となるデータが誤入力されていた。保安院は、同原発だけでなく全国の電力会社など12事業者に再点検を指示。原発の再稼働を判断する「安全評価(ストレステスト)」の実施が全国的にずれ込む可能性が出てきた。
九電や保安院によると、入力ミスは玄海3号機(定期検査中)の地震解析データで見つかった。原子炉建屋上部にある「復水タンク」の屋根の重さを、本来は2600トンなのに「260トン」としたほか、原子炉建屋に隣接する補助建屋の基礎と地盤との関係を示す定数を、2カ所で2倍の数値に誤入力していた。これらは九電の子会社がゼネコンの大林組(東京都港区)に委託して入力・解析した。
九電は正しい数値で再度解析、「誤入力前との変動幅は1%前後で、耐震安全性評価には影響がない」(九電技術本部)と結論づけた。
入力ミスは九電が保安院に08年に提出した中間報告の段階で盛り込まれていたが、保安院は誤りに気づかず「妥当」と評価。今回、最終報告書を独立行政法人「原子力安全基盤機構」が再点検する中で見つけた。保安院の森山善範原子力災害対策監は22日、ミスの発見に2年かかったことについて「活断層の評価などに時間がかかったため」と釈明した。
ミス発覚を受け保安院は同日、九電に厳重注意するとともに、再計算結果を10月末までに報告するよう求めた。大林組が手がけた他の原子炉についても同様に再計算を指示。その他の原発については最終報告の再点検を8月22日までに実施するよう指示した。
玄海3号機は再稼働をめぐる混乱で、本来の定期検査期間終了後も停止中。今回の件でストレステストは早くても11月以降となり、再稼働がさらに延びることが確実になった。
入力を担当した大林組は「今後はチェックする社員の数を増やすなど再発防止に努めたい」と謝罪した。
耐震バックチェックは、内閣府原子力安全委員会が06年に原発の耐震指針を改定したことを受け、保安院が電力各社に新基準での耐震安全性を再評価するよう指示した。【中西拓司、石戸久代】
玄海原発3号機のデータ入力ミスが発覚したのは、皮肉にも菅直人首相が「安全評価(ストレステスト)」実施を表明した7月6日だった。今回のミス発覚は全国の原発に波及。ストレステストの実施はスタートからつまずく格好となった。
「大変申し訳ない。ミスの指摘を重く受け止める」。九電の山元春義副社長は22日午後、経済産業省原子力安全・保安院を訪れ、山田知穂原子力発電安全審査課長に謝罪した。同社にとっては眞部利應社長の進退問題に発展した「やらせメール」問題に続くダブルパンチになった。
ミスはいずれも「ケアレスミス」(保安院課長)とみられるが、原子炉建屋のデータは格納容器や圧力容器など重要機器の健全性を評価する前提となっており、ミスは許されない。九電は耐震性の計算をやり直すことになった。
ケアレスミスならば1企業だけの問題ではなく、他の原発にも起きうる。保安院はその点を重視し、全国の原発に再点検を指示した。
一方、保安院の検査態勢の不備も浮き彫りになった。九電の最終報告書は09年に提出されたが、ミス発見に丸2年もかかったうえ、見つけたのは保安院が再チェックを依頼した独立行政法人だった。
細野豪志原発事故担当相は来年度にも、保安院を経産省から分離することを目指しているが、器だけでなく安全規制当局としての「中身」の充実も重要な課題といえる。【中西拓司】