ハンカチ王子も利用した酸素カプセルって効果あり?

高気圧酸素療法の対象となる病気はいろいろ

 通常よりも多い酸素量を取る必要があるのは、どのような場合か。例えば老人性肺気腫などで、呼吸だけでは酸素を十分に取り込めないという場合がある。この場合は、在宅用の酸素ボンベなどで、空気中の酸素量よりも若干多い22~23%くらいまでの酸素を取り入れる。在宅における喘息発作や急性の心筋梗塞のときも同様の治療が行われることがある。

 一方、病院における急性の心筋梗塞の治療、一酸化炭素中毒や潜水病などの難治性疾患の場合には、さらに多くの酸素を緊急に取り込む必要がある。その際、使用されるのが、高気圧酸素療法だ。

 高気圧酸素療法は、2気圧(大気圧は1気圧)以上の環境で、100%酸素を1時間以上、吸入する治療方法である。これにより血液中に取り込まれる酸素濃度は通常の十数倍となる。

 一酸化炭素中毒というのは、一酸化炭素を多量に吸い込んだために、本来は酸素と結合するヘモグロビンに、一酸化炭素が結合して、酸素が全身に行き渡らなくなり、そのため身体機能が著しく低下してしまう病気だ。一酸化炭素はヘモグロビンと結合すると離れにくいので、元の状態に戻すには、高気圧酸素療法で大量の酸素を血液中に送り込み、強引に一酸化炭素を酸素に置換させる必要がある。

 また潜水病は、高圧状態から急激に減圧したために、組織や血液内に気泡ができる病気で、高気圧酸素療法により、再び高圧をかけて気泡を溶かし、ゆっくり減圧することで再度気泡を作らないようにして正常に戻す。

 緊急ではないが、高気圧酸素療法はがん治療にも効果がある。例えば脳腫瘍の手術後に、再発予防のために、放射線治療や抗がん剤治療を行う場合、同時に高気圧酸素療法を行うことで、より効果的にがんの再発を防ぐ。ほかにも、さまざまな難治性の病気に、高気圧酸素療法が保険適用されている。

保険治療が適応される病気
救急的適応疾患 急性および間欠型一酸化中毒、これに準ずる中毒症
ガス壊疽などの重症感染症
急性脳浮腫
急性骨髄障害
急性動脈・静脈血行障害
急性心筋梗塞
重症外傷性挫滅創、コンパートメント症候群、重症外傷性循環障害
重症空気塞栓症
腸閉塞
重症熱傷および凍傷
網膜動脈閉塞症
重症の低酸素性脳機能障害
(再圧治療の適応疾患) 減圧症(潜水病)
比救急的適応疾患 遷延性一酸化中毒
難治性潰瘍および浮腫を伴う抹消循環障害
皮膚移植後の虚血皮弁
突発性難聴
慢性難治性骨髄炎
重症頭部外傷または脳血管障害後などの運動麻痺および知覚麻痺
難治性骨髄・神経疾患
放射線治療または抗がん剤治療と併用される悪性腫瘍
熱傷および凍傷
参考資料:日本高気圧環境医学・潜水医学会、安全基準による(日高圧会誌、Vol36(2) )

怪我をしたプロスポーツ選手の早期復帰にも有効

 保険適応にはなっていないが、スポーツ障害にも高圧酸素療法は有効だ。怪我などで組織がダメージを受けているところに、高分圧の酸素が送られると、これ以上の酸素供給過剰を防ぐために、血流量を抑えようとして動脈が収縮する。

 しかし静脈には筋肉がないので収縮しない。そのため浸透圧の関係でむくみや痛みの原因となる体液が静脈に流れ込み、むくみも取れて炎症が治まる。骨折、肉離れ、捻挫などの回復が早くなり、スポーツなどへの早期復帰が期待できる。そのためプロスポーツ選手も数多く治療に通うという。

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