ただ、今年に入ってからネットの世界で日護会が注目されているのは活動そのものよりも、それまで蜜月状態にあった在特会との「決裂」である。昨年、信濃町で共同生活を送っていた日護会会員の間で、男女関係のもつれによるトラブルが発生した。その過程である男性会員が自殺未遂を起こし、結果として除名される。これで事態は沈静化するものと思われたが、その除名された男性を在特会が会員として受け入れたことから、両者の間で罵倒合戦が展開されたのであった。両団体のトップが直接に顔を合わせることなく、ブログや動画を通して言い争うというところが、いかにもネット右翼らしい。
「ふざけんな、テメー」
「もういい加減にしろ!」
黒田と在特会の桜井が携帯電話で罵倒し合いながら、その様子をそれぞれが管理する動画で実況する。まるで子どもの口げんかだ。桜井と黒田の双方と付き合いのあった「元ネット右翼」が呆れながら言う。
「愛国だの何だのと主張しながら、リアルな人間関係が貧困な連中が大半だから、つまらないことで離合集散を繰り返す。仲間割れはしょっちゅう。男女間のトラブルも多い。結局、国家以外にアイデンティティを持たない者の集まりだから、大人として自立できていないんです」
シビアに過ぎる物言いではある。しかし、現実社会から遊離した「ネット右翼」の言葉を耳にしていると、あながち的外れな評価とも言えないような気がするのだ。
苦悩する“ダルビッシュ”
2月―。京都事件(第1回の註釈を参照)で逮捕された「四天王」(注1)の一人、中谷辰一郎(41歳・事件後無職)の自宅を訪ねた。大阪市内のマンション。居間の壁は6歳と7歳になる2人の娘が描いた絵で埋められていた。子煩悩であることが窺える。私にとっては2度目の訪問だったが、以前にも増して中谷は「運動」に対する躊躇と懐疑を深めているようにも見えた。
事件に関しては「戦略的な問題提起だった」と自己弁護に努める一方で、在特会や一緒に逮捕された者たちを「幼稚すぎる。単なるサークル活動にしか見えない。政治に関わろうとする自覚がない」と批判したのだ。
同じように私の前で迷いを見せたのが、徳島県教組襲撃事件(注2)で逮捕された星エリヤス(24歳・事件後無職・注3)である。188センチの長身、ハーフ(母親がイラン人)独特の端正な顔立ちが特徴の星は、在特会の仲間からは「ダルビッシュ」と呼ばれていた。確かにモデルとしても通用しそうな美男子である。意外なことではあるが、在特会の中にはわずかながら、彼のように外国人の親を持つ者も存在する。
注1 四天王
チーム関西で活動する中谷、荒巻靖彦(前出)、川東大了(前出)、西村斉の4名は、中心メンバーであることと、その存在感により、周囲から「四天王」と呼ばれていた。京都事件ではこの全員が逮捕されている。
注2 徳島県教組襲撃事件
10年4月、在特会メンバーらが徳島県教組事務所に乱入。「国賊」「腹を切れ」などと拡声器で暴言を吐きながら業務を妨害した。同教組が、街頭募金で集めた金の一部を朝鮮学校に「献金」したからだというのが、在特会側の主張。なお、同教組は組合員から募金を募っただけで「街頭募金」はおこなっていない。威力業務妨害で7名が逮捕されている。
注3 星エリヤス
趣味は音楽(レゲエ)。クラブでDJを務めることもある。「色々と考えたいことがある。中国や韓国を旅してみたい」(本人談)。徳島事件で逮捕され、懲役8月(執行猶予3年)の判決を受けている。
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