児童ポルノ法改正へ向けた動きが慌しくなってきた。この問題をめぐっては、二〇〇八年以来、自民、公明両党は、単純所持罪を導入し、創作物規制も調査研究する規定も設ける法案を準備してきた一方、民主党は現行の児童ポルノの定義を限定化するとともに、有償ないし反復の取得罪を新設するなどの法案を提示してきた。

 そういうなか、自公は今国会でも法案を衆院に提出したが、民主党も先月末に児童ポルノ法検討ワーキンググチームで今国会に議員立法で提出する方針を確認した。

 〇九年、自公と民主の間の修正協議で単純所持罪が合意されたものの衆院解散で廃案となった経緯を考えると、今回改正が実現する可能性は決して少なくない。

 そもそも、現行の児童ポルノ法の枠組み自体が過剰な規制に傾いている。とくに、児童ポルノの定義として「衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの」という規定が置かれていて(二条三項三号)、これは規制対象が大変広く、また客観的とはいえない主観的要件も含んでいるなどの結果、いわゆる一般的なポルノや猥褻などだけでなく、それとかけ離れた単純なヌード、いわゆるソフトヌードと言われるような表現までも広く規制されてしまっている。

 この点、少なくとも、欧米では、規制は詳細なポルノ的行為ないし猥褻的なものに限り、また芸術等の例外も許容して、ソフトヌードのような単純なヌードまで過度に規制されていないことがわかる。

 日本では過度に広すぎる現行規制に単純所持罪や将来の創作物規制が加わるとどういうことが想定されるか。

 まず、市民の誰もが規制対象になるおそれがある。家族のアルバム写真、ヌードを含む写真集、雑誌のグラビア、家族・恋人の写真、本人の写真、さらにはメールで送り付けられた画像や悪意で送付された写真などの所持が広く処罰されかねない。

 また、芸術活動も広く規制の網にかけられるおそれがあり、作家や表現者の性をめぐる創作の自由は大幅に制約されることになる。

 さらに、書店や出版社には児童ポルノ的な本は少なからず置いてあり、それらが摘発されるおそれがある。また、児童の裸を含む膨大な書物が整理、処分、引き上げられることになる。

 この規制のもとで、恣意的、政治的な捜査機関の権限濫用も懸念される。対象がきわめて広く、主観的な曖昧な要件(「みだり」など)が多いからだ。また、起訴や処罰ができなくとも、逮捕や捜索などの捜査権限や、さらには行政的権限行使もフルに活用される可能性がある。

 過剰な規制を含む現行法をそのままにし、単純所持罪を新設したり、創造物規制の導入を図ったりする改正案は表現の自由への重大な侵害に他ならず、民主党は自公案に安易に擦り寄る修正に応じてはならない。

(田島泰彦・上智大学教授、7月8日号)

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