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[28146] 【完結】トトトトトリップ!~錬金釜で萌知魔E!~(オリ世界多重クロス)
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:9a8f54f5
Date: 2011/07/20 21:40
うん、また新作なんだ。ミケサイテー。
しかも書く予定の物とどんどんずれて行く……。
一年で全登場人物が追い出されるはずだったのに! 題名に沿った完全ギャグのはずだったのに!
さようなら、書く予定のシーン達。こんにちわ新展開。
そして最後になるに従って急速に短く、駄目になっていきます……orz
いつものミケと思ってご覧ください。
長い年月が経って気が向いたら二章書く事もあるかもしれません。






















「では、これより帰還祝賀会を始めたいと思います!」

 秋葉原のカラオケボックスで、女の子が元気よく言った。
 それに、パラパラと拍手がなる。そこにいるのは、随分と年や背格好の異なる者たちだった。彼らの様子がおかしいのは、それだけではない。
 一人はどこにでもいるような、肩までのストレートの黒髪に制服の女の子。
 顔は十人並で、名を櫻崎萌子という。
 
「ふ……随分掛かってしまった物だな。異世界に転生してはや二十年か……。私の世界ではたったの一年だったがな。お陰で、仕事探しから始めなくては。治療費を払うのが大変だ」

 インテリっぽい白衣の男が告げる。大体、三十半ば位だろうか?
 その腰まで届く長い髪は真っ白で、染めているにしては髪の根元から綺麗に真っ白で、その瞳は赤い。その顔立ちは酷く整っていた。名を、エルーシュ・ディガーという。

「……長い時間眠っていたからな。体が重い」

 赤茶色の髪の毛に茶色い目の、暗い顔立ちのローブを着た二十代の青年が不機嫌そうに告げる。こちらは三十歳位である。カリュート、と言う。

「しかし、二十年生まれ育った体を錬金の材料にした時は、心が痛みましたね。元の世界の体があるから、もう一つの体は必要ないとはいえ……」

 四十代程の金髪碧眼のフーデル・フォン・デルフィン。これも美しい壮年が言うと、それぞれ頷いた。
 それから、四人は色々な話をして、持ちよった様々な物を見せあった。
 一年眠り続けていたという事実は、四人の現実に重い影を落としていたが、彼らは精一杯笑っていた。
 宴会が終わった後、四人が互いに手を伸ばす。その指には、一様に同じ指輪が光っていた。

「じゃあ、ね。また一年くらいして落ち着いたら、皆で遊びに行こうよ。それまでに私、いっぱいバイトしてお金貯めるから」

 萌子が寂しそうな顔をして告げる。

「金儲けなら手伝おう。お前と私の世界は近いからな」

「あはは、いいよ、エルーシュ。大騒ぎになっちゃうから。でも、勉強は教えてね」

「約束しよう」

「とりあえず、今を精いっぱい生き伸びないといけませんね」

「……ふん」

 フーデルの言葉に、カリュートが鼻を鳴らす。
 そして、萌子以外の三人が消え去った。
 かつて、四つの世界から、ある世界へ転生してしまった者達がいた。
 彼らは、協力し合って帰還を果たした。
 ここに、物語は一つの終わりを迎えた。
 ……そして、新たな物語が始まる。これは、トリップでトリップでトリップでトリップでトリップな、カルチャーブレイク物語なのである。



[28146] エルーシュ・ディガー1
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:9a8f54f5
Date: 2011/06/02 00:22
 私は誰もいない森の中に降り立つ。
 全く、街中は監視カメラが多くて困る。
 療養所で一通り状況を確認した私は、予め相談していた他の三人への贈り物を買い、もしくは用意して、トランクに入れて山奥に来ていた。カラオケボックスとやらで帰還祝賀会が終わり、空のトランクをガラガラと近くのホテルに運ぶ。その後、荷物を預け、不動産会社に直行した。
 仕事は、首となっていた。幸い、一年の療養生活を差し引いても、やり直すだけの資金は溜めている。
 山奥の土地は安く買えた。都市が恋しくなったら、その時に旅行でもすればいい。
 後は、大工を雇い、物を買い揃えなくては。
 即決でとりあえずの手続きを終えて戻ると、かつての上司がホテルで待っていた。
 出来るだけ痕跡は残さぬように来たつもりだが。苦々しく思いながら、エルーシュは問う。

「奇遇ですね。どうしてここへ?」

「仕事を首になったと言われて、山奥に入ったと聞けば誰でも駆けつけるさ。その様子だと、死ぬのはやめたのかね? この付近に家を建てるようだが」

「ご冗談を。何故私が死なないとならない? まあ、ゆっくり療養と勉強をしますよ」

「そうするといい。君がまた我が社の門を叩くのを待っているよ」

 ついさっき契約したばかりなのに、もう上司に情報が漏れている。情報化社会はここが怖い所だ。下手な真似は出来ない。
 ……けれど、二十年の異世界での苦労と、友との思い出、それに原作知識とやらが今まで通りの生活をする事を拒む。
 あの二十年の異世界生活で、最も手に入って良かったと思うのは、萌子の原作知識だ。
 カリュートに教わった魔術よりも、フーデルに教わったエンチャントよりも、異世界で学んだ錬金術よりも、萌子がこんな知識しかないと蔑んでいた原作知識を私は尊ぶ。
業腹な事に、この世界は萌子の世界では漫画として出版されているらしい。
 この星は、エイリアンと敵対している。
 長年、エイリアンの目的は謎とされてきた。しかし、今ならわかる。
 事故によって地球にばら撒かれた奇跡の石、フレアストーンの回収が彼らの目的なのだ。
 あまりに貴重なものなので、人類が事情を話せば渡すとは毛ほども考えず、兵士を放って奪い取っているわけだ。
 ちなみに私は、いわゆる噛ませ犬の役どころらしい。
 馬鹿らしい。が、興味がある。それほどの力を持つフレアストーンとは、いかようなものなのか?
 山奥に入ったのは、それが理由でもある。原作知識から、ここにフレアストーンがある事はわかっているのだ。私は首尾よくそれを手に入れる事も出来た。
 ……私は、聖人君子ではない。
 地球の為にいずれはエイリアンの目的を告げる事になろうが、それは私の口からではないし、今でもない。
 私はフレアストーンを各地で集めると、自宅へ帰った。
 家にある機材で、萌子から貰った記憶媒体のデータを解析する傍ら、最新の学術のニュースを読む。
 勘を取り戻すのに大分掛かってしまった。
 その期間、三か月ほど。
 まだ新居が出来るのには時間が掛かるので、その間に会社を立ち上げ、各著作権会社と契約を結んだ。
 そして、萌子のくれた記憶媒体から取り出したデータから作った、会員制の動画視聴サイトを立ち上げ、無料で音楽作成ソフトや動画作成ソフトを流した。
 初めに流してある動画データは、萌子一押しのアニメや音楽、MADと言われる物である。もちろん、製作者の所は消してある。本来の製作者には申し訳ないが、存在しない製作者を出すわけにはいかない。
日本語しかないのが難点だが、ネット上なので遠く離れた国がターゲットでも問題はない。この世界では、通貨も大体の国で統一されている。
 システムは、動画ダウンロードを有料に、高画質視聴を有料会員にのみ開放とした。ついでに、動画がダウンロードされれば、金額の一割が動画を上げた者に行くようにセットする。
 この世界は娯楽が存外に少ない。食いつく者はいるだろう。
 この世界では通貨は完全データ制で、お金が動く時に税金が取られる為、個人の収入管理等に関しては非常に緩い。
 それゆえ、会社は匿名で立てられた。本来の製作者ではない為、私が製作者という事にすると、何かと困る事が出てくるのである。
 それらの作業が終わる頃、新居が出来た。
 引越しして、家を整える。家では人型兵器SGRが製作出来ない事に不満はあるが、どうせその位の規模になると一人で保守は出来ない。必要な時に外注すればいいだろう。
 ようやく落ち着く事が出来た時には、半年経っていた。
 私はまず、フレアストーンから調べる事にした。

「おいで、エル」

 私が虚空にそう声を掛けると、私にそっくりの子供が私に抱きついてきた。カリュートから教わり、錬金術を併用して作った、私の使い魔である。手先が器用で、中々重宝している子だ。他に、雷を操る。だが、真価はそこではない。

「酷いや、マスター。半年もほっとくなんて」

「お前が万一にも人に見られると大ごとだからな。フレアストーンの解析を頼む」

「わ、わ。と、……面白い石だね」

 なんとか投げ渡した石を受け取ったエルは、目を光らせて石を調べる。この子は、そういう力を持っている。そして、得たデータが私の頭に送り込まれた。

「正当な持ち主が他にいて、すぐに返す事になると思うがな。作れそうか?」

「そっか。ざーんねん。作れるかどうかはまだわからないな。完全な解析には一日掛かると思うけど、いい?」

 私は頷き、机の上に置いた雑多な物の山を指し示した。

「これも解析しておいてくれ」

「げっ」

 エルが呻く。手探りで錬金出来る物を探して行くのは面倒だからな。本当にエルがいて助かった。
 ついでにパソコンを開いて動画投稿サイトの様子はどうかみると、アクセス数と売り上げは順調に上がっていた。
 玩具会社やテレビ局からオファーが来ていたので匿名での交渉を条件に承諾する。
 そして、新たなSGRの構想を纏めていく。
 夕方、エルに食事を強請られたので錬金鍋に食材を放りこみ、魔力を込めてかき混ぜる。体力回復を目指して食事を錬金してみる事にしたのだ。食材だけで作れば、毒は出来ないだろう。

「エル、一応解析」

「うん! 大丈夫、食べられる」

 そこで食事の支度をしていると、チャイムが鳴った。

「ちょっと! そこにいるんでしょう、エルーシュ!」

 五月蠅いのが来た……。私はうんざりしながらエルを引っ込め、出迎えに行った。
 目に隈を作った女。脇にはパソコンを抱えている。
 原作では、主人公にしか乗れない機体を作った女だ。ヒロインの一人でもある。
 私に惚れている事も、いずれ主人公に乗り換える事も、私は知っている。
 今は、機体の作成で忙しいはずだ。

「リアラ。何の用だ」

 聞くと、リアラは口ごもった。

「そ、それは……。エルーシュが田舎に引っ込んだって聞いたから……。あ、貴方のポストは私が貰ったわ! 使ってやるから戻ってきなさいよ」

「いや、今は療養に集中したいからいい」

「貴方らしくないわよ! もう一年半、十分休んだでしょ!? ……ちょっと待って。いい匂いね」

「一人分しか作ってない」

 ぐぅぅぅ、とリアラの腹が鳴り、恨めしげにリアラは私を見た。
 
「……パンの一つくらいは恵んでやる」

「な、何よその言い草!」

 そう言いながらもリアラはズカズカと入って来る。
 リビングに行くと、目を丸くした。

「意外だわ。エルーシュが料理出来るなんて……」

「療養中に、な」

 パン一つと言ったのに、リアラは次々と皿に料理を選り分け、食べていく。
 私はため息をついて、それを眺めていた。

「何よ、食べないの?」

「食べる」

 全部食べ尽くしそうな勢いのリアラに、エルに心の中で詫びながら食事をした。
 またすぐに作ってやろう。
 そう考えていると、リアラは机に突っ伏して寝息を立て出した。
 私は深いため息をつくと、リアラに毛布を掛け、食器を片づけた。
 朝、しっかり朝食も食べてリアラは出て行った。
 さて、エルの為にまた料理を作ってやらなくては。
 一週間ほどでこちらの世界の物の解析は終わり、金属に錬金術を使ってみる事にする。
 目的は独自のSGRを作って、リアラの作った機体を撃破する事だ。
 地球を救うこと自体は、フレアストーンの波長を探知して捜索する機械を作り、集めて渡してしまえばそれで終わりなので心配していない。
 作中でも、そんな終わり方だった。意志疎通してしまえば、相手は音楽等も好む話のわかるエイリアンで、一時間程度の会談で済む話である。
 最も、それまでに非常に紆余曲折があったのだが、それは私にはどうでもよい事だ。
 エルに食事を作ってやり、サクサクと調合を進める。
 新金属が出来たので、それにふさわしい機体の作成。
 元々、異世界の者達の話を聞くのが面白くて、いい刺激になって設計図を何枚も書いていた。
 それを実際に出来るかどうか考えながら形にするだけの作業。ついでに、フレアストーンをエネルギー源にする機体も作ってみるか。
 満足が行くと頷いて、金属を調合していた頃にまた目に隈を作ったリアラが現れた。

「ご、ご飯美味しかったからまた来てあげたわよ。……あら、何これ?」

 数体のロボット分の金属の量は凄まじい物がある。玄関までも、インゴットで溢れていた。

「そろそろ新しい機体を頼んでみようと思ってな。上手く行ったら買い取ってもらう事になるだろう」

「嘘っ設計図は!?」

「何故お前に見せなければならん」

「わ、私だって! 私の機体を乗りこなせる人間さえいれば、私は、私は……!」

「日本の硬峰高校の遠坂星凪。塩くらい送ってやる」

「な、なによ。そいつがどうかしたの?」

「とにかく、そいつを誘ってみるんだな。……自己管理ぐらいしろ、また泊まって行け。どうせ明日そちらに向かう予定だった」

「エルーシュがそこまで言うなら仕方ないわ」

 リアラはいそいそと部屋に入り、私は再度ため息をついた。
 翌日、大きなトラックを呼び、荷物を積む。
 リアラに強請られ、職員全員に差し入れを持っていく事になった。その代り、開発部長権限で作成価格一割減である。
 この頃は錬金術を使った食べ物以外を食べ物と認めなくなった。悪癖であるが、どうしようもないので一か月分の保存食も作ってある。
 そして、午後遅くになって出発した。
 研究所につくと、憐れむような顔で見られる。非常に不愉快である。
 いずれ私は自分の立派な研究所を持って見せる。それまでの我慢である。
 しばらく受付で待っていると、上司のアルベルトが駆けて来た。

「新型ロボットの作成依頼という事だったが」

「ええ、ついでに特許申請と大会出場申請、競売登録もお願いします。材料はあそこに入っています。余らない様になっていますから、失敗しないでくださいね」

 設計図と特許用紙を渡してにこやかに答える。

「材料持ち込みか」

「私が開発した新金属です」

 アルベルトはざっと設計図を見る。リアラはそれを見たそうにそわそわしていた。

「……ふむ。大分繊細な作りだね。それにどう見ても装飾過多だ。これでは折れてしまうんじゃないかね」

「理論上は問題ないはずです。とにかく、その作り方の通りに作って下さい。こちらにしばらく滞在するので、宿もよろしく。ああ、リアラに言われて差し入れを作ってきました」

「そういえば、相当美味しい料理を作るらしいじゃないか。一つ貰おう」

 整備員に金属を、事務員に食料を運びださせる。
 私は久々に研究所で眠った。途方も無く懐かしい。やはり、私の為だけの研究所は欲しいな。
 ゆっくり眠っていた所を、アルベルトとリアラに叩き起こされた。

「あの材料の山、何なのよ!? とんでもない新素材ばっかりじゃない! あとサンドイッチおかわり」

「特許データに無かったが、どうやって作ったのかね!? 後サンドイッチをおかわりだ!」

「……私はここにはお客として来ているのですが。虎の子の新素材の作り方を教えるわけには、さすがに……。とにかく、作業場に行きますから着替えるまで待って下さい」

 眠い目を擦り、服を着替えて顔を洗い、保存食から干し肉を取り出して食む。意外そう、かつ物凄く物欲しそうな目をされたので分けた。
 作業場に行くと、インゴットを纏めて溶かして処理していた。
 傍らで実験をしている。

「実験はいいですから、指示されたままに作って下さい。昨日言いましたが、インゴットに余りはないんです」

「だって、あれを使えば私のナイトがさらに素晴らしい物になるわ!」

「貴方の物ではない、リアラ」

「いくらだね?」

「売りませんってば。私が売るのは、完成されたロボットだけです。インゴットからですから、作成には半年程ですか。仕上げは私自身がします。楽しみに完成を待っていますよ」

「しかし、このまま競売に掛けても、ほぼ間違いなくデータ取りをした後はインゴットに加工し直されるぞ。これはそれに値する素材だ。特に、フレアストーン。あれは素晴らしい。それに、どんな技術もいずれは解析される」

 私は顔を顰める。それは予想していなかったが、確かにあの頃は僅かに強度が上がるだけでも狂喜乱舞だった気がする。

「解析の心配はしていません。これを作れる者が私以外にいるのなら、作ればいい。しかし、せっかく作ったSGRをインゴットに戻されるのはいかにも辛い。わかりました。インゴットもお売りしましょう。ただし、あまり量は出来ませんよ。生産者が私一人なので」

「一人で作っているのか! なんとか大量生産は出来んか。特許を取って大量生産した方が、絶対もうかるぞ」

「そして製造方法がだだもれで、特許無視で各国で作られるわけですか。無理言わないでください。製法上、絶対に大量生産は出来ないんです。製法を誰かに教える気もありません。作れるとも思えない」

「残念だ……。とにかく、インゴットは買い取らせてもらおう。とりあえず今ある分全部」

「いやいやいやいや、私のSGRはどうなるんですか。駄目ですよ、一か月に一度トラック持って来て下さい」

「仕方ない……ところで、朝食はまだ作ってくれないのかね。徹夜明けだからがっつりかつあっさり食べたい」

「私も!」

 私はため息をついて台所へと向かった。
 そうと決まれば、色々買いこまなくては。
 そろそろ一年経つ。宴会の約束の時が近づいている。監視カメラで不審人物は即不法入国者として処理されかねないので、街は案内できないが、自宅で宴会位ならば出来るだろう。
 護身用と偽って、小型で旧型のSGRでも買って帰って萌子にくれてやってもいい。
 SGRが無くなった言い訳としては少々厳しいが、解体してインゴットに戻したという言い訳もある事だしな。
 



[28146] フーデル・フォン・デルフィン1
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:9a8f54f5
Date: 2011/06/02 15:45
 将軍職も、領主の座も、全て失っていたと知った時にはやはり寂しかった。けれど、それ以上に元気そうな陛下を見ると涙が滲み、今まで頑張ってきたかいがあったと思った。

「陛下。私は陛下がお元気な姿を再度見れただけでも無上の喜びでございます。夢の世界に囚われて以来、案じるのはいつも陛下の事ばかりでした。これ以後、私は陛下の為となる次代を育てる為に力を注ぎましょう」

 陛下に平伏してそう告げると、陛下は若干気まずそうな顔をして言った。

「元将軍のお前が、訓練官になるというか」

「いえ、見込みのある子供達を選び、小さな孤児院を開きたいと思います。水里の村で」

 ざわざわと広がるざわめき。

「師であるフーデルにこういう事を言う事になるとは思わなかったが、孤児院の経営は、貴族であるフーデルに出来るような簡単な物ではないぞ。そもそも、村で生活など、出来るのか? フーデルが?」

 陛下の言葉に、私は笑った。

「やってみなくてはわかりません」

 そして、早速必要な物の準備に入った。家を継いだ弟からは、心配そうに声を掛けられ、強がりはやめろと説得された。けれど、強がりではない。
 萌子は、私に原作知識という物を授けてくれた。
 いきなり錬金術とかいう技術の発達した世界に転生させられた事。
 同じく転生させられた三人の仲間。
 私を創作世界の人間だと言って腰を抜かした萌子。
 お伽噺に出てくるような魔法を使ったカリュート。
 そして、超科学文明とか言う、進んだ科学の所に住まうエルーシュ。
 最も、萌子の世界もエルーシュの世界も、私からしたら科学が進み過ぎているという点では同じである。
 あまりにも文化が違いすぎて、学ぶ点が無い。カラオケ装置など、いくつかの娯楽物と萌子の原作知識は別だが。
 とにかく、原作知識では、こうだ。魔物を統括する魔王を、水里の村の少年カラーレンが退治する。カラーレンは凄まじい才能を秘めており、彼は様々な人の助けを借りて成長して行く。私も彼に手を貸す一人らしい。
 そして、私は敵の手に掛かって死ぬ。
 私の命を奪うのが、魔王に魂を売ったパジーという少年である。
 最後に、カラーレンとパジーは力を合わせて魔王を退治するのだが、このパジーという少年の境遇が泣ける。
 パジーもカラーレンも、長らく魂具のエンチャントが出来なかった。
 しかし、それはレベルの高いエンチャントしか装備出来ないという制約があったからなのだ。
 魂具とは、文字通り魂の一部を使った人それぞれの道具である。これには力の籠った宝玉を埋める事が出来、それによって様々な能力を自身に付加できるのだ。これをエンチャントという。
 魂具がどんな形でどんな大きさなのか、宝玉は何を埋め込めるか、いくつ埋め込めるかは人によって大分違う。これが才となるわけだ。
 私の魂具は剣で、そこそこ大きく、宝玉を込める穴も多数ついている。
 とにかく、カラーレンは運命の導きにより、強力な宝玉を手に入れ、冒険へと出立し、その力ゆえに認められていった。
 対して、パジーは魔王に魂を売り渡すしか生きてゆく術すらなかったのだ……。
 ただ一回、誰かに抱きしめられた記憶さえあれば道を誤りはしなかったという言葉は泣ける。
 だが、今なら十分間に合う。
 パジーとカラーレンを強化しておけば、後の魔王退治もスムーズに進むだろう。
 すなわち、陛下の治世が平和になるという事だ!
 陛下の治世の為、私の死亡フラグをへし折る為、今更栄光の階段から転げ落ちる事になっても私は構わない。
 そういう事で、私は色々と買い込み、萌子の世界で一旦カラオケボックスとやらで帰還祝賀会をして、プレゼント交換をしてから、孤児院を作る準備を始めていた。
 パジーなど、原作で現れた才ある子供達も確保せねばならない。
 心配そうに皆が見守る中、私はせっせと物を買い集めて行った。
 そして、原作に書いてあった日時。パジーの最も最悪な思い出。
 初めて人を殺した日、人買いに捕まりそうになった所に行く。
 果して、そこには抑えつけられる少年と数人の大人がいた。

「何をしている」

 私の魂具を掲げると、そこから雷の雨が降る。
 人買い共を衛兵に引き渡し、私はパジーに手を伸ばした。

「大丈夫ですか? 少年」

 少年はその手を叩き落とす。

「同情なんていらない!」

「同情ではありません。この国の平和を守るのは私の義務です。そして、君を保護する事も。……怖い思いをさせて、すみませんでした」

 ひょい、とパジーを抱き上げる。よし、パジーを抱っこというノルマ突破。

「怪我をしているでしょう。元気になる食事を食べさせてあげます」

「放せ、放せよっ」

「子供はやんちゃが一番ですね」

 パジーを屋敷に連れて行くと、パジーに蒼い顔をされた。
 いかにも観念したという顔で大人しくなる。
 風呂に入れている間、私は台所に向かった。
 料理を錬金する為だ。台所に行ったら何故か慌てられたが、コックたちを追い出して小型の錬金鍋に水を入れ、火に掛ける。
 さて、と。……。ああ! こっちの世界の材料で作る時は一から錬金術が考え直しなのか!
 となるとまだ買い物が必要だな。
 とはいえ、初めの印象はいい方がいいだろう。
 私は今回に限り、向こうの世界から持ってきた食材を使う事にした。
 品数は五品目で良いか。本来なら一品で良いのだが、それはいかにも寂しいし、腹が膨れない。
 という事で私は、慎重に調合して行く。
 剣にかなり強力な料理上手のエンチャントをつけているので、失敗はない。
 出来た物を少年の所へと運んでいくと、死んだような目で見返された。

「どうぞ、少年。私の手料理です。それで、少年を私の孤児院に入れようと思うのですが。水里の村を知っていますか? あそこに立てる予定なのですが」

「お前、お貴族様じゃんか」

「ならば、君が手伝ってくれればいいでしょう。あそこで、私は陛下の為の人材を育てようかと思うのです」

「嫌だって言っても連れて行くんだろ」

「まあ、そうですね。食べなさい」

 パジーは、料理をじろっと睨んだ後に頬張る。その後、凄い勢いで食べ始めた。
 私も食べる。自信作だ。もちろん美味しかった。

「明後日、君のような子達を集める旅に出ます。戻る頃には、水里の村の孤児院も完成しているでしょう。子供には辛い距離を歩く事になります。ゆっくり休んでおきなさい」

「……お貴族様が孤児院経営なんてどういうつもりだよ。子供だからって、甘く見るなよ。もし食い物にしようとしてるなら……」

「私は、この事業が陛下の為になる事だと確信しています。そして、陛下の為に行った事を穢すような事はしません。絶対にね」

 その言葉に、パジーは首を傾げた。その後、彼なりに納得したらしく、頷いてくれた。
 お付きの者をつけなくてもいいのかと、弟の心配する声をよそに旅支度を整えて出かける。
 旅は六カ月ほど掛かる予定だ。その間に、じっくりと錬金術を試して行こう。
 そうして、水里の村についた時には、指示した通りの建物が出来ていた。
 管理してくれた者に礼を言い、手紙と食物や追加の物資の調達をお願いして送りだす。
 そして、六人程に膨れ上がった子供達と共に掃除をした。
 孤児院だが、お店としても使えるように注文した。食べ物も出せるよう、食堂も用意する。
 外には訓練用の人形や畑などもあって、至れり尽くせりだ。
 一か月ほどして、物資が届いたのでお店の品を作る事にする。あまり目立ちすぎる事はしない方がいいと言われていたので、治癒系統のは弱い物しか置かないようにしよう。
 その代り、疲労回復、目覚めの薬、睡眠薬、精神力回復の薬、各種装備品……。
 一応、錬金術師としての誇りとして、錬金術で作った物しか置く予定ではない。
 割高になるが、質はいいのだから仕方あるまい。
 パジーを初め子供達は料理に興味があるらしく、日がな一日私の料理の様子を眺め、真似をしている。だが、見よう見まねで錬金術は真似できる物ではなく、私の作った物との出来を比べて首を傾げている。
錬金術世界で貰った魔法の鞄はかなりの量のアイテムを収納し、時を止めていてくれるので食料の作り置きも出来る。
 準備が整うと、今度は子供達の修行だ。これが本来の目的である。
 村の少年達……もちろん、狙いはカラーレン……を誘い、特訓をつける。
カラーレンは訓練に食いつき、村の大人達も加わって必死で学ぶようになった。
だがしかし、心配な事がある。原作知識では戦闘狂だった子供達が、戦闘訓練を嫌がるのだ! そして料理を教えろと迫って来る。
ままならない。凄くままならない。
彼らの言い分としては、使えるエンチャントが無いのだし、それよりは料理や裁縫、鍛冶を覚えたいとの事だが、私としては彼らがエンチャント無しですらいっぱしの騎士と戦えるだけの才能を持っていると知っているので、引くわけにはいかない。
前に指を怪我させたら、料理に支障が出ると凄く怒られた。
そして、そんなある日の事である。

「パジー、凄いよなぁ……俺も料理人になろうかな。戦う料理人とか、格好良くないか?」
 
「ああ、カラーレン。そうなると、俺達はこれからライバルだな!」

 そうして、主要な登場人物は全員他の生きる道を覚えたのだった。


「聖騎士ナイトダンス」――完――
 フーデル先生の次回作にご期待ください!
 
「戦う料理人コックダンス」――新連載――

 いやいやいやいや、魔王はどうするんだ!?
 私は凄い勢いで首を振り、宣言した。

「魔王を倒すまで、私は料理の奥義を教えません!」

 カラーレンとパジーを筆頭に、子供達が凄い勢いでブーイングする。

「俺とパジーはエンチャントも出来ないのに、どうやって魔王を倒せって言うんだよ」

 そこで私は考える。水里の村が襲撃されて、祠に追い詰められたカラーレンがそこに収められていた光の宝玉を使うのが物語の始まりだ。
 そして、パジーの宝玉は魔物から得た物を自力で進化・浄化させた物。
 一応パジーの為の宝玉は用意してあるのだが、彼らにはまだ早すぎる。
 彼らには、幾多の危機が訪れる。それを救うのは、エンチャントが無かった時代に培った技量なのだ。

「……エンチャントの事は考えておきましょう。しかし、貴方方はまず、エンチャント無しでエンチャントした私に勝つ事が重要です。……そうですね。私に勝てた子には、ちょっぴり教えてあげますよ。戦闘以外の事をね。多少は卑怯な真似も構いません」

「マジか!」

 言ってカラーレンとパジーが襲いかかって来る。もちろん、私はそれを雷のエンチャントで迎撃し、再度盛大にブーイングを受けた。
 子供達のブーイングに耳を塞いでいると、隊商がやって来る。
 商品はあまり減っていないけど、一応買い足すか。
 ……むぅ。お金が無い。
 旅人があまり来ない為、物が売れないのだ。ここの村人は疲労回復の食事をしょっちゅう出来る程裕福ではないし。
 すると、商人の方からこちらにやってきた。

「フーデル元将軍のお店兼孤児院とはここですか」

「ああ、何か買っていく物はありますか? 食事処もやっていますが」

「そうですね。何を売っているのか、興味があります」

 そして商人達は品物を一つ一つ見て行く。

「割高ですね」

「質が良いですからね。子供達が作った物なら安くしてありますが」

 ひとまとめに纏めてある品を指し示して言う。

「ほう、これを子供達が? 確かにこちらは安い。しかし、私は将軍が作ったという物を買いに来たのですよ」

「私のネームバリューを使うなら、尚更割高でも我慢して下さい」

「はは、確かに。この薬は? かなり高いですが」

「私の経験上、かなり効く薬ですよ」

 商人は武具防具と薬をいくつか買い、パジーが食堂の方に客が来た事を告げる。
 子供達の格安料理を使用人が、私の割高料理を商人たちや傭兵の何人かが頼んだ。
 疲労回復系統の料理を作って出す。
 そして得たお金で、新しい金属や村では手に入らない食料、布などを買い取る。
 品は商人達を満足させたらしく、定期的に買い物をしてくれるようになった。
 旅人も寄ってくれるようになる。
 パジー達は全員揃ってなら私から一本を取れるようになり、錬金術の初歩の初歩の初歩を教えた。
 魔力を込めた粉を隠し材料として、それを溶かし入れながら料理を作る方法だ。

「こんな隠し味、使ってたっけ?」

「腕が上がれば、これを使わずとも出来るようになります。……これを、錬金術、と言うのですよ。誰にも教えてはなりません。私も、貴方達以外には教える事はないでしょう」

 ちょうど子供達が上手く粉を溶かして錬金術が使えるようになった頃。かつての部下、ルークスが買い物にやってきた。

「フーデル将軍……! すっかり所帯じみてしまって……。今なら陛下も許してくれます。大人しく謝った方がいいのでは」

「失礼な人ですね。子供達はすくすくと順調に育っています。エンチャントはまだ行っていませんが、その内立派な物を見つけてあげる予定です。陛下はきっと彼らの事を喜んで下さいますでしょう」

 パジーの頭を撫でて言うと、ルークスは胡散臭げな顔をする。

「この汚い平民の子が?」

「パジー、カラーレンに祠にある宝玉を使うように言いなさい。良いでしょう、それならば貴方とカラーレンを決闘させてみましょう」

「え、でも……」

「早くなさい」

 私の手塩にかけた子供達を、汚いだと? 汚いだと!?
 私はいらっとしてパジーを送りだした。
 パジーは戸惑った顔でカラーレンを呼びに行く。
 カラーレンはおどおどとしていたが、魂具である剣に光の宝玉をきちんと嵌めていた。

「この子は……! これほど強力なエンチャントを!?」

「カラーレン。勝て。絶対に勝て。勝たねば殺します」

「でもフーデル。フーデルは時が来るまでエンチャントはしないって……」

「今がその時です!」

「カラーレン、諦めろ。フーデルにもきっと意地とか色々あるんだよ」

 パジーが諭す。その瞳は、羨ましそうに宝玉を見つめていた。
 いいんです、そろそろ魔物の襲撃時期だし!
とにかく、決闘が始まった。
 技量はまだまだカラーレンが劣る。しかし、カラーレンの持つ光の宝玉の力は凄まじかった。
 完全な力押しで圧勝。
 その後、カラーレンは力尽きて倒れた。

「わわ、大丈夫か、カラーレン!」

「良し勝った」

 そこへ、新たな騎士がやってきた。

「ルークス様、フーデル様に食事のテイクアウトは承諾して頂けましたでしょうか……る、ルークス様!?」

「なんだ、買い物に来たのか。今ちょうど決闘をしていてな。食事はすぐに用意する。何人分だ?」

「五〇〇人分です」

 なんですと? 演習か何かか!?

「それを早く言いなさい! パジー、手伝ってもらいますからね。カラーレンはベッドに運んでおきなさい」

 そして、ふと思いついて料理上手の宝玉をパジーに投げ渡す。

「料理上手の宝玉です。装備出来ますか?」

 パジーは大釜の魂具に料理上手の宝玉を嵌め、顔を輝かせた。
 え。意味がわからない。パジーの魂具は物騒で禍々しい大鎌のはずだが。かまはかまでもかまちがいではないか。
 ええい! このままでは戦う料理人コックダンスが始まってしまう!
 これが終わったら絶対に鍛え直さねば。
 そう心に決めて、足早に食堂に入り、子供達を呼んで手伝わせる。
 一時間くらいして起きて来たカラーレンも容赦なく手伝わせて食事を運ばせた。
 そこで見たのは、溢れる怪我人と苦笑して手を振る陛下だった。早く教えろ、馬鹿ルークス!
 何か知らない間に強力な魔物が付近に来ていたらしく、私が滞在する村が近くだという事で陛下が様子見がてら兵を出して下さったらしい。だからって、御自らがいらっしゃらなくとも!
 そういう事情があるならば、こちらとしても礼儀を尽くさねばなるまい。
 カラーレン達に命じ、薬や食事を持って来させてかたっぱしから治療して行く。
 目立つからと使用を禁じていた癒しの宝玉も、子供に渡してふんだんに使わせた。
 ついでに、魔物が残っていると危ないので子供達に渡す予定の宝玉を配ってしまう。
 後の事など、考える暇はなかった。
 もちろん、陛下には疲労回復と傷を癒す効果を込めたフルコースを献上した。
 治療を終わらせれば、今度は夕食の支度をせねば間に合わない。
 孤児院に置いていた食料の貯蔵量ではとても足りないので、今までこつこつためていた食料、餞別として貰った種を除いた異世界の食材、作り置きしてある食事、異世界で大量に買いだめしていた食料を開放する事にする。
 本当は、魔王退治に使ってもらおうと思っていたが……。
 大体の調合方法は確立してあるし、また作りなおすしかないだろう。
 薬に関しては残す事にするし。
 子供達をフルに活用して、夕食を運び、明日の夕食の仕込み。
 全てが済むと、陛下やルークス、お付きの者達がこちらに泊まるとの事で、やってきた。

「陛下! 私は心臓が止まるかと思いました。貴重な玉体を危険に晒すような事は、断じておやめ下さい」

「まあ、待て。フーデル、馬鹿にしていて悪かった。お前にこんな才能まであるとは、思わなかったのだ。食事、美味しかった。旅の間に珍しい宝玉を沢山手に入れたらしいな。子供達と少し話したいが、いいか」

「話を逸らしますか。……まあ、いずれは陛下にお仕えさせたいと考えている者達です。どうぞ」

 陛下は、私が光のエンチャントで照らす中、子供達の戦う姿をご覧になり、どこまで学んでいるか質問なさった。

「よかろう。フーデル。お前の忠誠の証、確かに受け取った」

「は?」

「ん? この子達は余に献上するのだろう?」

「いくらなんでも、あまりに早すぎます。私は子供達にほんの一握りしか教えておりません。いずれ、この子らは魔王討伐軍を組ませ、魔王討伐の後、教育をして陛下に献上したいと考えております」

「魔王退治……そんな事を考えていたのか? それは子供達に夢を見過ぎでは……」

「この子達なら、出来ます!」

「わかった、わかった。ならば、王都で育てるがいい。……いい加減、帰って来い」

「陛下、私の試みはまだ始まったばかりではないですか。せめて十年は様子を見て頂かなくては。収穫が楽しみな作物もまだ実のってはいませんし、この後も色々とこの子達を鍛える計画が」

「駄々をこねるな。お前ほどの人材を遊ばせておくわけにはいかんのだ。どうやったか、癒しの宝玉まで手に入れていたそうだな。余の為を思うなら、その力、国の為に使え。騎士の子らを教育し、兵の食事を作ってやり、装備を作れ。お前の作った食事は疲労を吹き飛ばし、装備は異様なまでに頑丈だと聞いているぞ。実際に見るまでは信じられなかったがな」

「しかし、王都だと些か目立ち過ぎます。私のレシピが漏れでもしたら……」

「……あまり、心配を掛けるな。余が何故こんな田舎にまで遠征したと思っている」

 それを言われては、反論できない。私は平伏して、承諾した。
 カラーレンのご両親に話を通し、カラーレンは王都に行けば英雄になれるのだと諭す。
 ご両親はカラーレンの未来に半信半疑だったが、なんとか頷いてもらえた。
 そして、私は王都へと店を移す事となった。
 王都に行って、全く同じ作りの店がある事に驚く。付き人と世話をする貴族で騎士団入団前の子供も既に用意されていた。
 カラーレン達は昼は騎士達と共に訓練し、夜は孤児院に戻ってくる事になった。ちょっと待て、教育は私にやらせてくれるのではなかったのか? 
 作物も後で届けてくれるというし、集められた子供に偶然原作キャラもいたし。全く誰も芽が出ないという可能性は消えたのだから、頑張ってみるか。
 ああ、そろそろ一年だ。萌子達は元気だろうか。また、贈り物の準備をしないとな。




[28146] カリュート1
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:9a8f54f5
Date: 2011/06/03 20:57

 目覚めると、そこは埃だらけの寝室だった。
 やれやれ、掃除から始めなくてはいけない。誰かが入った様子はない。
 一人には慣れていたはずだ。以前だったら気にもしない事だが、萌子達との暮らしは俺を少しだけ変えていた。
 ……。ずっと、あのままでいられたら。そう願っていなかったと言ったら、嘘になる。
 萌子は、自分なんかを一番好きなキャラだと言ってくれて、何かとよくしてくれた。
 俺は小さい頃、老魔術師に買われた。
 老魔術師は厳しかった。世捨て人のような生活。
 老魔術師が死ぬと同時に魔術師ギルドに所属。そこで馴染めない自分。
 萌子の原作知識では、俺は悪落ちして利用され、最後に主人公を庇って死ぬらしい。
 その主人公は、俺が憎む全てに恵まれた魔術師、レイフォンだった。
 許せない。
 レイフォンも、俺を利用するだけして殺した敵役の魔術師、ガーディも。とはいえ、悔しい事に俺は実力ではレイフォン達に及ばない。
 だれよりも幸せになる事が復讐だよ。萌子はそう言った。
 復讐……。そんな綺麗かつ難しい復讐が俺に出来るだろうか。
 あの能天気なレイフォンより幸せになる事など、何より難しい事のように思える。
 そういうと、萌子は根暗なガーディの上なら行けるっなどと言って、俺は憮然として俺も根暗だと答えて、皆が笑って俺を小突いて。
 俺は溢れる思い出に首を振り、掃除を始めた。食糧庫や薬品庫が恐ろしい事になっていた。
 使い魔のコクエイを出す。萌子がつけてくれた名前。愛らしい黒猫。

「掃除済んだ? じゃあ、お買い物行こう! 僕、こっちでのお買いもの初めてだあ。プレゼント交換何買うの?」

「そうだな。少々懐が苦しいが、アレらには最良の物をやりたいな」

 この世界には錬金術は無いが、回復アイテムや魔法の道具はある。錬金術を使っても、さほど目立たずに済むだろう。一番錬金術世界に近い世界と言っていい。その上科学文明の遺産もあるから、萌子やエルーシュの道具も多少は使える。最も、優れた科学技術も魔法技術も共に退化してしまっており、めぼしい道具は全て古来の遺産となるのだが。
 萌子曰く超チート……というのは出来ないが、一番得をさせてもらったのは、俺かもしれない。萌子の場合、魂具でも魔法でも科学でも錬金術でも超チート出来るが、研究所と言う恐ろしい場所にさようならとなってしまう可能性が高いらしいから。
 とりあえず、買い物に行く事とした。
 少し背伸びをして、彼らの事を思いながら物を買う。自分の為の食料品も買わねばならない。
 異世界の食料品は喜ばれ、かつ安いという便利な物だが、そればかりではいかにも寂しい。
 魔法具を使い、宝玉を錬金すれば喜ばれるだろうか。
 魂具に嵌める宝玉はフーデルが沢山使う事は確定している。
 萌子は何でも喜んでくれるだろう。エルーシュには、どうしようか。
 そんな事を考えながら商品を物色して行く。
 家を整え直し、作業をして、カラオケボックスへと向かった。
 宴会後、貰った物を整理する。
 萌子のくれた物で目を引いたのは、「魔術師レイフォン」のカードだった。
 お守りとして、そして自分がわき役に過ぎないという戒めとして、肌身離さず持つ事にする。
 食料品やレシピの類は嬉しかった。早速、萌子の自慢していたハンバーガーをコクエイと二人で分けて食べる。美味い。
 その日は早めに休む事にして、次の日魔術師ギルドで依頼を受けに行った。
 大量の買い物で、金が無い。

「なんだ、カリュートか。依頼に来たのか」

 俺はこくりと頷き、なけなしの銀貨を酒場の親父に放る。
 思うのだが、何故酒場で受付をしなくてはならないのか。魔術師ギルドなのだから、知的な人間を受付にして欲しい物だ。
 親父はどさっと紙の束を出して、いくつか依頼を出して来た。
 そこから適当に選び、親父へと差し出す。他の依頼を覚えるのも忘れない。依頼は一度に一つしか受けられない。が、他の依頼を覚えておいて、必要な物を持って来て次々と達成して行くのはありなのだ。先に取られていても、その時は格安で魔物の部位を売ってしまえばいい。
 魔法の鞄ならば、たっぷりと素材を持って帰れるし、粗悪品の魔法の鞄ならば、高価とは言えこちらにもあるから目立たないので、わざと質を落としてそれっぽく作った物を二つ持ち歩く事にしていた。
 錬金術を使って、魔法の鞄を量産して売るという手もある。もちろん、高価な品なのでダンジョンかどこかで手に入れた事にしたり、小細工は必要だろうが。
 萌子に聞いた手つかずのダンジョンに向かうのも手なのだが、それはそれで手続きが面倒だし、護衛も必要になって来る。どうして知ったという話にもなるから、とりあえずは保留だ。

「……それは魔法の品か?」

 魔法の鞄を見て言われた言葉に、内心これほどすぐにばれるとはと思いながら答える。

「ああ、そこそこ物が入る物が数個手に入ったので、重宝している」

「みたいだな。昨日は相当な量の買い物をしたそうじゃないか。恋人からのプレゼントか?」

 俺なんかの情報がもう出回っているのか。しかも銀貨を渡してきている。なんとしても情報を得るつもりか。
 俺はそれを受け取った。魔術師ギルドの親父と揉めると、後で面倒な事になる。

「悪いが、あの方は売れない。けど、いくつかいい物を手に入れた。本当はもしもの時の為に取っておきたかったんだが、今回はここで優先的に売ってもいい」

 いきなりダンジョンを見つけたなんて言う事は出来ない。入り口だけでも荒らしておかないと怪しいからだ。かと言って、ダンジョンを見つけた、だけで帰っては襲撃される可能性がある。
 あの方は売れないと言ったのは、入手方法は売れないと言えば締め上げられる可能性があり、また俺の友達に敵対するのはまずいぞ、と匂わせる為である。

「ふん、高貴な方に貸しでも作ったか? いいだろう、出してみろ」

 少し迷う。しかし、既に集まっている視線を感じて、腹を決めた。
 魔法の鞄を三つ、魔法のランプを二つ出す。
 とりあえずは、こんな物で良いだろう。
 親父はそれを調べて、片眉を上げた。

「俺の知らない作者の物らしいな。ちょっと待て」

 親父は鞄に物をいくつか入れたり手を入れたりしてみる。

「重さと大きさ無効化か。中の大きさは結構あるみたいだな」

「小型のテント一式が限界だ。それ以上だとぐっと重くなる」

「ふん、十分だ。ほら、代金だ」

 渡されたのは金貨四枚。

「……魔法の鞄がたったの金貨一枚か。売ると約束したし、金が無いから売るがな」

 買いたたかれるにも程がある。戦士ギルドにでも持っていった方が高く売れそうだ。まあいい。次からそうすれば。急に、無理にこの町の魔術師ギルドにしがみつかなくてもいい気がしてきた。
 あまり仲が悪くなりすぎて利用させられなくなっても困るから、図書室は先に覗いておくか。
 まあいい、まずは依頼だ。
 俺はその足で街の外へと向かった。旅の準備は既にしてある。
 誰もいない事を確認し、魂具を出す。白銀の大鎌が俺の魂具だ。萌子が大騒ぎだった。
 それに、フーデルを殺す事になるパジーとか言う奴と同じ武器だとかで、良く特訓させられたから使い方に自信はある。
 魔物に向かい、大鎌を振る。フーデルに貰った斬の宝玉が輝く。
 補助特化の使い魔であるコクエイが援護してくれたから、問題なく敵を倒せた。
 保存食を食べる。精神力や体力回復のアイテムが必要な程弱っているわけではなかったから、錬金術で作った物ではないから、物足りなかった。
 魔物の肉の処理をして、それを狙ってきた魔物を返り討ちにする事一週間。
 依頼どころか、自分の使う分としても満足のいく量の魔物の素材が揃い、俺はホクホクと魔術師ギルドに向かった。
 そこで、魔法の鞄が売られているのを見る。金貨五十枚か。へぇ……。
 とにかく、酒場の親父の所に行き、依頼の達成を告げる。
 魔物の素材専用の魔法の鞄から依頼の部位を取り出す。半分ほどの依頼が既に達成されていた。魔物の素材は魔術師ギルドに売るのはやめた。
 他で売りたいが、そのつてがないし、自分で使うというのもありだ。
 金貨一枚で図書室にいられるだけいて、その後こちらの世界の物を使って錬金術の練習。これは予算金貨二枚。後の一枚で準備を整えて、ダンジョンにでも行くか。

「これは結構強い魔物のはずなんだが。腕を上げたか、仲間を見つけたか? それにしても、魔法の鞄がまだあるとは思わなかったぞ。まさか、まだあるのか?」

「魔物の素材を荷物と混ぜておくわけにはいかないだろう」

「贅沢者め。金貨十枚でどうだ」

「馬鹿にしてるのか?」

 ぽろっと漏れてしまった言葉に、酒場の親父は乱暴に肩を叩いた。

「そう言うな。お前を見誤っていたのは謝罪するさ」

 俺は金貨一枚差し出して、告げる。

「これで出来るだけ長期の図書室への入室を求める」

「おいおい、何か調べものでも出来たのか?」

 欲に濡れた酒場の親父の目を見て、下手にはぐらかさない方がいいと判断する。親父は嘘を見抜く魔道具をつけているから、嘘もつけない。萌子達の事を思い浮かべる。

「魔術を軽く教える相手がいる」

 それが主目的ではないが、嘘でもない。

「金貨百枚でいい奴をあっせんしてやろうか」

「金を取るつもりはない。そんな大金払える相手でもない」

 なにせ、異世界人だからな。こちらの世界の金はない。途端に酒場の親父は興味を失う。

「とんだお人よしだな、ほらよ、鍵だ。一週間ほど開放してやるよ」

 俺は頷き、魔術師ギルドの図書室へと向かった。
 魂具に記憶と速読の宝玉を事前に嵌めていた為、読み進めるのが早い。
 復習という面もあったし、異世界人である萌子達とあって、興味の幅も広がっていた事もあり、一週間はあっという間に過ぎた。
 その後、買い物をする。
 錬金術に使えそうな物を吟味する。エルーシュの使い魔のエルがいれば楽なんだが……。
 まあ、ない物ねだりをしても仕方ない。
 色々と買い込んで、錬金術を試す。
 錬金術を試す時が、一番寂しかった。わいわい言いながら、皆で作った思い出が懐かしい。どうしても寂しくなった時は、四人と使い魔の集合写真を眺めた。
 錬金術と買い物を繰り返し、お金が予算オーバーすれば依頼や素材集めに行った。
 結局、とりあえず満足が行くまで三カ月くらい掛かった。
 その間に、ダンジョンの入り口も覗いてみた。
軽く入口を探索してみただけだが、一人で行くのはやはり無謀すぎる。
 魔術師ギルドに斡旋を頼んでもいいのだが……。いや、やめておこう。
レンジャーギルドと戦士ギルドに直接依頼をしに行く。
まずレンジャーギルドに向かうと、やはり注目を集めた。
俺は周囲を伺いながら、酒場の親父の方に銀貨を投げた。

「……魔法の鞄のカリュートか。魔術師様が、何の用だ?」

「旅に出るので、銀貨五十枚プラス、働きに応じてプラスアルファで護衛を頼みたい。期間は一週間。これから何度も頼む事になるだろうが、とっかえひっかえはしたくない。仕事が一通り出来て、こちらに関わり過ぎない者が良い。二年後に友人とダンジョンツアーもしたいから、それまでに信頼できる者を見つけたい。他に戦士も一人見つけるつもりだ」

「ふぅん。ダンジョンツアーねぇ。要するに、おもりが出来る奴か。パーティを組みたい訳じゃないんだな?」

「今は、そこまで考えていない。おもりが出来る人間が来てくれれば、非常に助かる」

「……危険はあるのか? プラスアルファは。まさか銀貨を少しなんてオチじゃねぇだろうな」

「ある。引き返せと言われたら引き返すが、力が足りないという事でメンバー変更は覚悟してくれ。プラスアルファの方は、そうだな……。一週間の護衛依頼だから、そう大した物は渡せない、かな。ああ、そうだ。口の硬い者が良い」

「物って事は魔法具か?」

「大した物は渡せない。期待はしないでくれ。ただ、二年後のダンジョンツアーで全員無事で楽しませてくれたら、この魔法の鞄をやってもいい。それぐらい大切な友達なんだ」

「サバラン。どうする」

「俺か。まあ、銀貨五十枚は安すぎるが、魔法の鞄が手に入るとなると魅力的だな。戦士を俺に選ばせてくれたらいいぜ」

「構わない。これは前金だ。出発は明後日だ。門の前で七時に待ってる。それまでにダンジョン探索の準備を整えるといい」

 サバランに銀貨を五十枚渡す。
 そして、二日後。
 サバランが連れて来たのは、戦士ギルドでも熟練のガーバスという男だった。

「こっちだ」

 人気のない場所に二人を呼ぶと、俺はコクエイを呼んだ。

「随分と可愛らしい使い魔だな」

 サバランが言う。

「コクエイ、例の場所へ連れて行ってくれ」

「はいはーい。三名様、ごあんなーい」

 そして、次の瞬間ダンジョンの目の前に立っていた。

「場所移動か! ……って、どこだ、ここは?」

 サバラとガーバスが周囲を見回し、驚愕した。

「まさか、こりゃ……新ダンジョンか!?」

「そう言う事だ。サバラン、期待してる」

「っばっか野郎! 新ダンジョンの探索ならそう言え! 知っていたらもっと準備して、人数集めて……! ああったった一週間とも言ってたな!?」

「新ダンジョンか……。国への申請はしてあるのか?」

 ガーバスが、驚きながらも聞いてくる。

「二、三度探索してからだ。それまでは誰にも知られたくない。……実力が足りないというなら、戻ってメンバー交代に応じるが」

「ふざけんな。誰が代わるかよ。だが、銀貨五〇枚じゃ足りねーぞ」

「プラスアルファはあると言ったし、今後も長く付き合いたいと言ってある。……何より、新ダンジョンの探索自体が大きな報酬だと思うが」

「違いねぇな。よし、二人とも俺の前に出んじゃねえぞ。罠を探知していく」

 俺とガーバスは頷き、探索は始まった。実を言うと、ここの詳しい地図は萌子から貰っている。上手く宝箱の所に誘導しなくては。欲しい物がいくつかあった。
 一週間後、その成果はまずまずの物だった。サバランとガーバスなど、その成果に声も出ない様子だ。これより奥にはもっといい物もあるのだが、魔物を突破するのが難しいのでこのメンバーでは無理だろう。珍しい薬草や魔法の書が取れたので、これだけでも満足だ。杖などもあった。一年後のいい土産が出来た。
 洞窟の外で、俺は道具をより分ける。

「これだけ探索出来たら、もう国に申請しても構わんだろう。ガーバスへの報酬は、これと、これと……。ああ、サバランはこれが良いな。これは俺が貰う。……どうした、二人とも。希望が全くないのならこちらで追加報酬を勝手に決めるぞ」

「あ、ああ。こんなに貰っていいのか?」

 サバランの言葉に、俺は頷いた。

「今回は大分成果も上がったし、それだけの働きはしたろう。ただ、毎回こんなに報酬はやらないからな。今回が特別だ。これからの手付金と思ってくれ」

「俺はむしろ、カリュートが洞窟内で使っていた回復薬が欲しい。味の良い薬など初めてだ。あれはどこで手に入れた?」

「んー。秘密だ。それは報酬とは別で、その分の料金は貰う。それと、腐りにくくはあるが、劣化しないわけじゃないから気をつけるんだな」

「その短剣、出来れば俺が欲しい。お前にはあの大鎌があるだろ」

「いや、短剣は短剣で欲しいと思っていたんだ」

「これと交換で、どうだ」

 差し出されたのはサバランの短剣と幾ばくかの金貨。これはこれで業物だが、やはり探索で手に入れた物には劣る。以前の俺だったら問答無用で突っぱねている所だが、仲間との付き合い方はあの二十年で学んでいた。

「うーん……まあ、俺が強力すぎる短剣を持っていても宝の持ち腐れか。どうせ魔術師ギルドに持って行っても金貨一枚だしな。それでいい」

「冗談だろ?」

「ははは。次、古銭を分けようか」

「まて、武器を譲ってもらえるならあの大鎌がいい。金貨なら払うし、今回の剣の報酬を全部諦めてもいい」

「残念だな、あれは術みたいなものだ」

 久々の団体行動に心が弾み、少し喋り過ぎてしまった。次は気をつけようと自分を戒める。
 大体の道具の選別が終わり、荷物を纏めると街へと戻る。
 その足で役場に行ってダンジョン登録を行い、疲れきった俺は自室へと向かった。
 ダンジョン発見の報酬を支払われるには、三か月は掛かるだろう。
 ダンジョン発見者は伏せるように頼んだので、騒ぎにもならずに済む。
一週間ほどゆっくり休んで、ダンジョン探索で見つけた古銭を換金しに行く。
これは古物商でも出来るので、そちらで換金して、魔術師ギルドに向かった。
魔力関係の道具は、いくらお金があっても足りない。が、今回はこれを優先すると決めていた。

「栽培をお願いしたい」

 種の入った袋をどさっと置く。魔法薬の材料など、魔術師ギルドで栽培の斡旋をしているのだ。
 いろいろと注文をつけ、お金を払う。

「カリュート。新ダンジョンを見つけたそうじゃないか。魔法具をしこたま見つけたんだろう。換金してやる」

 酒場の親父に大声で声を掛けられて、眉をひそめる。

「換金予定の魔法具はない」

「馬鹿言うな。サバランとガーバスはかなりいい魔法具をギルドに売ったって話じゃないか。お前は相当取り分を取ったんだろう?」

「自分で使う分以外は渡したからな。古銭があったがそれはもう換金した」

「新ダンジョンの探索の成果を殆ど人に渡しちまったのか!? 馬鹿じゃないのか!?」

「どうせ売っても金貨一枚だ。それより、その情報を誰から聞いた? サバランとガーバスが話したなら、次の契約を考え直さないといけない。あれだけ報酬を渡したのに裏切られたというのは信じ難いが」

「お前当てに依頼が来たんだよ。新ダンジョンの探索だ」

 開けられた手紙を見る。内容は新ダンジョンの確認の報と、国の探索の第一陣に俺を誘う言葉。
 それは明らかに俺宛てで、目眩がしてきた。
 栽培員の受付に、俺は追加料金を払う。

「外部依頼でお願いする。今日で魔術師ギルドはやめだ」

「おい、ふざけるなよ。後悔するぞ」

「既に後悔している。よく考えれば、割高にはなるが魔術師ギルドの機能は外部の人間でも利用できる事は出来るんだ。依頼は安くても城の役場でもやっているしな。戦士ギルドや冒険者ギルドに入ってもいい」

「はっ! 本当にそう上手くいくと思うのか! 仕事が出来ないようにしてやるぞ!」

「何を言い争っている。ああ、カリュート。ちょうどいい所に」

 ギルド長が現れた。

「なんでもない。魔術師ギルドをやめると言うだけだ」

「何故だ? まあいい、こちらで少し話したい。ホリスも来い」

 ギルド長に小部屋に案内される。小部屋にいたのは、魔術師レイフォンに出てくる悪役、ガーディだった。

「さて、カリュート。少し大事な話がある」

「ギルド長。わかるだろう、俺は魔術師ギルドを抜けるんだ。大事な話が何か分からないが、聞くつもりはない。親父もいるし」

 ホリスを言い訳にして、逃げようとする。ガーディとギルド長は片眉を上げた。

「何か揉め事があったのか」

 ギルド長の言葉に、俺と親父は同時に喋った。

「カリュートが悪いんだ!」

「言いたくも無い。とにかく、俺は戦士ギルドに所属する」

「まあ待て。ホリスは珍しい魔道具を使えるから、重宝しているんだ。何があったのかは知らないが、お前にはホリスの力を使って聞きたい事が……」

「この上尋問か? ホリスの力は嘘はわかるかもしれないがな。人の心を操れるわけじゃない。どの道俺は協力しない。それとも何か? 俺は法を犯したか? 尋問の権利があるのか?」

「落ち着け、カリュート」

 ため息をつくギルド長。とにかく、俺は勢いに乗って逃げようとする。
 そこで、足が止まった。凄まじい殺気を感じたのだ。四人だったら、何だってできた。でも俺は、今一人のか弱い魔術師でしかない。今ここで逃げて、一人の時に追われたら終わりだ。

「……ホリスはここにいる。お前は尋問を受ける。事情は後で聞き、悪い方を裁く。いいな」

「……よほど大事な用らしいな」

 俺は考える。新ダンジョンの事だろうか? 魔法の鞄の出どころだろうか? ガーディは、俺がたまたま悪落ちしそうだからじゃなくて、何か目的があって近づいてきていたのか?

「お前が金貨三十枚でギルドに売りつけた鞄の事だが……」

 俺は再度席を立つ。その途端、ガーディが俺を拘束する呪文を掛けた。
 
「逃げようとしても、そうはいかない。あの鞄をどこから盗んだか教えてもらおう」

 ……そうか。俺はそう見られていたか。ははは。孤立して悪落ちするわけだ。
 俺が真実を言っても、ホリスが良い様に改変するだろう。
 鞄を作れる事を話す? この状況で? 冗談だろ。詳しく作り方を説明しろと言う話に絶対になる。
 こんな奴らに渡すのはごめんだ。
 
「お前達には関係ない。俺は魔術師ギルドをやめる。三カ月したらこの町も出て行く。それで良いだろう」

「カリュート、あの鞄は新しいんだ。この意味が、わかるな? なんとしても作り主を見つけたい。この際、罪には問わないから知っている事を教えてほしい」

 ああ、俺は馬鹿だ。そうだよな、新しいか古いかはすぐわかる。

「関係ない。俺にそれを教える義務はない。これは違法行為だぞ、ギルド長」

 萌子の顔が浮かぶ。幸せになる。最高の復讐。
 駄目だよ、萌子。俺には無理そうだ。
 空気が険呑になった時、ガーディはごほん、と咳払いした。

「どうやら、私も焦っていたようだ。これでは意固地になるだけ。こうしよう。謝礼は払う。金貨百枚でどうだ。盗んだ場所、時間。何でもいい。知っている事を教えてくれ」

「……殺して、家ごと燃やしたよ」

 自嘲気味に言ったジョークに、間髪いれずに酒場の親父は答えた。

「事実だ、殺しちまえ!」

 ガーディが長剣を振るう。
 切られた瞬間、コクエイが俺の影から飛び出して、転移の術を使った。
 ああ、最初から転移して逃げていればよかったんだ。馬鹿だ、俺。
 意識が遠のく。
 気がつけば、俺はレンジャーギルドの中にいた。
 服は変わっていたが、魔法の鞄は脇にちゃんとある。

「お、目覚めたか。お頭を呼んでくるから、待っててくれ」

 俺はこっくり頷き、待っている間に魔法の鞄から回復用のジュースを飲む。
 人心地つくと、レンジャーギルドの長がやってきた。

「おー、大変だったらしいな。とりあえず、庇ってやった代金は貰うぞ。金貨二十枚だ。新ダンジョン発見の報酬を考えれば安いもんだろ?」

「ああ、コクエイがここに連れて来てくれたのか。……。そうだな、状況説明とこれからも保護してくれる事を条件に払う」

「良し来た。まず、お前、正式に殺人犯として家が捜索されたぜ。作りかけの魔法の鞄やら未知の魔法具やら薬やらが発見されて、魔術師ギルドの連中は血眼でお前を探してる」

 俺は呻いた。家には何があったんだったか。
 錬金釜と、道具と、作りかけの魔法の鞄と、ああ、回復効果のある食事も用意していたな。基本的に魔法の鞄に片づけていたので、他にはなかったはずだ。
 それに……それに、写真! 四人一緒に撮った写真があった!

「取りに戻らなくては」

「諦めな。お前にゃまだ殺人者としての嫌疑がかけられているし、道具はあらかた魔術師ギルドが持って行った」

「道具じゃない。写真だ。精巧な絵。大切な物なんだ」

「ああ、被害者として捜索を受けてたな。まあいい。金貨十枚上乗せで取りかえしてやる」

「頼む」

「……あの三人が、お前がサバランに言ってた友達か。殺したってのはホリスの嘘なんだろ? 二年後に会う予定らしいじゃねーか。魔法具の師匠はそいつらか?」

「皮肉のつもりだったんだ。そうしたら、真実だ、殺せと言われて……」

「うかつだったな。で、魔法の鞄、作れんのか?」

「道具は魔術師ギルドなんだろう?」

「道具さえありゃ作れるのか……どうだ、うちのギルドの専属魔術師にならねーか。金貨一枚よりは多く払うぜ。うちのギルドは仕事に正当な対価を支払うんだ。嫌疑を晴らすのは、サービスしとくぜ」

「よせ。魔術師ギルドと敵対するつもりか?」

「こういう事は初めてじゃないんだ。それに、古代の技術を復活させた魔術師を囲い込めるんなら、安いもんだ」

「そんな凄いものじゃないさ……何?」

 俺が聞き返すと、頭はにやりと笑った。

「ホリスに潰されて逃げてくる奴は初めてじゃねーんだよ。気付かねーのは研究馬鹿のボンクラばかりさ。ま、証拠も出揃いつつあった所だし、見てろって」

「……お願い、する」

 深々と頭を下げる。
 三ヶ月もすると、裁判に勝って、ホリスが牢屋行きになったとサバランが教えてくれた。
 ついでに料金を支払う。

「で、おたくのギルド長とガーディとか言う男が会いたいと言っているが」

「冗談だろう。散々人を盗人扱いしておいて、か? そんな事より道具を返せ」

「それはもちろん、取りかえして置いたが。なあ、二人は騙されただけなんだ。確かに、派手な騙され方して切られて、腹は立つだろうけどよ」

 俺は聞こえないふりをして、急いで道具を確認し、いそいそと魔法の鞄にしまう。
 そこに写真を見つけ、大切に胸にしまった。
 
「俺は他の町に行くが、渡した報酬では気が済まん。これを鎧の下に着るといい。かなり丈夫な服だから」

 十着程の服をどさっと渡す。

「貰えるもんは有難く貰っとく。けど、残念だな」

 俺は旅の準備をする。そこで、ガーディが現れた。

「……私とした事が、相当焦っていたらしい。仕方あるまい。無理やり連れて行く」

 俺が身構えると同時に、ガーディと、第三者の放った呪文がぶつかった。

「無理やりナンパは関心しねぇなぁ! な、カリュート。お前、凄い術を覚えたらしいな。助けてやるから、俺を弟子にしろ」

 俺は無言で走り出す。

「待てカリュート殿! ワシはドワーフのドーガ! ぜひうちの里にカリュート殿を……」

「貴方はカリュート様ですか? 王がお呼びです」

「コクエイ! コクエイ! 逃げるぞ!」

「なんで逃げるの? 皆に認められて、孤独じゃなくなるよー」

「それの代償に求められるのが何か、わからない程馬鹿ではないさ」

 コクエイの転移で逃げる。
 それから、逃亡生活を続けた。
 段々と加速度的に大きくなっていく噂と現れる偽物に、戦々恐々とする。
 もう、異世界に移住してしまうか……。
 ああ、一年がたつ。買い物しないと。



[28146] 櫻崎萌子1
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:9a8f54f5
Date: 2011/06/05 08:32
 私は目を覚ます。そこは病院だった。
 隣にいたお父さんが、目を丸くする。心なしか、げっそりとしていた。

「萌子! 萌子!!」

「お父さん……おはよ。あれ、お母さんと旅行に行ったんじゃ? ここ、病院? どうしたの?」

 お父さんの目からは涙が零れ、そしてお父さんは急いでお医者さんを呼んできた。
 お医者さんは、奇跡だって言ってた。
 そこで私は、一年もの間眠っていた事を知った。

「うっそ最悪! じゃあ私、留年じゃない! も、もしかして退学?」

「いや、籍は残してある。父さんは絶対萌子が元気になると信じていたからな」

「良かったぁ。ありがとう、お父さん。お母さんは?」

 そう聞いたら、お父さんは困った顔をした。
 とにかく、私はいくつかの検査を終えて退院する事となった。
 退院の時、お母さんが弟の浩太を連れて来てくれた。

「あっお母さん! 心配させちゃったみたいで、ごめんなさい。浩太、いい子にしてた?」

「わあああああん! おねえちゃあああああん! ばかああああああ」

 浩太が私に抱きついて泣く。
 お母さんは、しゃがみ込んで泣く。
 お父さんとお母さんは、離婚していた。
 私の治療費の為に、家は売られていた。
 私の物はお父さんが頑なに捨てないでいてくれたらしいが、ショックだ。
 
「我儘、一つだけいいかな。退院祝いにさ。私、眠ってる間、外の事はわからなくても、ずっと夢の中で意識あったんだよね。ここは夢だってわかってるんだけど、中々起きられなくてさ。お母さんの手料理、ずっと食べたかった。お願い、今日だけ!」

 お母さんはこくこくと頷く。向かったアパートはぼろかった。私の荷物が大半を占めてしまっている。
 こんな状態でも、私の貯金に手をつけないでくれた事に深く感謝した。
 お母さんの手料理を食べた時は、不覚にも泣いてしまった。

「帰って来たんだ、私」

 ご飯を食べている時に、緊張の糸が切れたお父さんが倒れた。
 過労だった。
 私は病院でこっそり、あらゆる回復の効果を秘めた食べ物を出す。

「じゃじゃーん! 私の手料理なのです! 食べて食べて、お父さん!」

「萌子……。何か、妙な色合いをしているんだが……」

「味見はしてある。だいじょぶ!」

 あえて明るくふるまっているが、家の壊れっぷりに私は激しく動揺していた。
 このまま、お父さんが私のせいで死ぬなんてありえない。
 お父さんは食事を食べた後、全快してくれた。
 
「お父さん、家事ならまーかせて!」

 私は胸を叩く。今度から、お父さんの食事は全部錬金術にしよう。
 家に戻り、お父さんを職場に送りだす。仕事先も変わっていた。
 そして、家事をしているとマスコミが押し寄せて来た。
 一年眠り続けた少女、奇跡の生還とかいう特集をやるらしい。
 私は困りますと言い続け、なんとかマスコミの人が帰ると、私は買い物に出かけた。
 本当はお父さん達の為に使うべきなんだろうけど、私には三人の仲間も大切だ。
 それに、一度錬金術の世界に帰って、荷物を取ってきて、元の体も錬金術の原料にする予定だし。
 ああそうだ、錬金術のテストをする為に、こっちの世界の様々な物も買わなきゃ。
 あらかた欲しい物を買い終わると、私は指にはめられた指輪にキスをして、呪文を唱えた。指輪は、ボロボロと壊れて行く。

「萌子、遅かったな」

「ごめんね、皆。なんかお父さんが過労で入院しちゃってさ。じゃ、錬金しよっか」

 錬金釜に二十年間使った私達の体を入れて行く。
 そして、世界移動の為の、ちゃんとした指輪が出来あがる。

「これで、いつでも行き来可能だね」

 エルーシュが指輪を満足げに撫でる。

「次は宴会ですか。最初は、萌子の世界ですね。服は……」

「ごめん、服、買えなかったんだ。大丈夫! 秋葉原ならコスプレしている人がいても!」

 そして私はカラオケボックスへと案内する。
 たのしい時間はあっという間に過ぎる。
 けれど、それが終わると私の前に立ちふさがったのは、厳しいまでの現実だった。
 家に帰ると、私に人生や、私の友達へのインタビューが流れていた。
 重度のオタクである事もしっかり報道されている。
 何か、ショックだ。
 心臓が壊れる程ドキドキしながら行った学校。
 当然、オタクなの? とか、インタビューの時の事を聞かれてくる。
 パンダのような扱い。正直、馴染める気がしない。元から友達は多い方じゃなかった。ううん、凄く少ない。
 ……バイトしないと。私は現実逃避し、その日のうちにバイト先を見つけた。
 学校で猛勉強して、帰ったらバイト。それが終わったら家事と錬金術の研究。
 忙しい日々が続く。
 けれど、洗濯機と言う文明の利器のあるこの時代。前の世界より断然家事は楽だ。
 問題は、お金が稼ぎ難いという事。
 エルーシュの、お金儲けを手伝うという話を思い出し、そして急いで首を振る。
 駄目だよ、大騒ぎになっちゃう。
 教えてもらった知識なんて、すぐに馬脚を現してしまう物だ。
 未来の発明品を出したとして、それについて質問されたらどうするというのだ?
 良い職業に就こう。
 その為に、今、一生懸命勉強しよう。幸い、勉強漬けの毎日には慣れている。
 ああ、使い魔の白閃に会いたい。でも駄目だ、なんで竜の形なの。
 カリュートの黒影みたいな黒猫ならば楽だったのに。
 そんなこんなで二カ月たった、見事に私は孤立し、いじめが始まっていた。
 あああああ。こんなの魂具を使えば一発なのに、それが出来ない。
 ストレスがたまる。
 疲労は食事で吹っ飛ぶけどさ。休みが無いから、その分鬱鬱とした物が溜まっていくのだ。
 けれどその日は、バイトの帰りに浩太が会いに来てくれた。
 お母さんに電話し、黙って出て来た事を叱りながら、手を引いて帰り途を行く。
 地面に横たわるそれを見て、私は戦慄した。

「お姉ちゃん! 何か倒れてるよ!」

 小さくて可愛い、羽の生えた子犬。

「浩太。後ろに下がってなさい。危険かもしれないわ」

『助けて……』

 喋った。それに私は目を細くする。どうやら、この世界も創作物の世界だったようだ。普通、こんな異常は存在しないのである。皆に……いや、エルーシュに聞いてみなくては。この時代を舞台にした二次創作なんぞ、フーデルやカリュートの世界にあるわけない。

「お姉ちゃん!」

 浩太を押しとどめる。何かあったらすぐ反応できる距離まで近づき、私は観察した。

「貴方は何故ここにいるの? 侵略しに来たエイリアンじゃないでしょうね」

『そんな、僕は……げほっ 悪い奴らに追われているんだ』

 僅かに血を吐く子犬。浩太が走っていこうとするのを止める。
 制服、錬金しておくべきだった。アパートでも使えるような小さな道具だと服を錬金するのは少しきついけど、背に腹は代えられない。
 私は更に近づき、抱き上げた。

「包帯巻いて、食事を上げるだけだからね。事情は聞かせてもらうから。浩太、ミルクとタオル、パン買って来て。私はあの公園にいるから」

 鞄から包帯を取り出して、手早く巻く。
 浩太が走っていくと、私は公園へと向かった。
 風が、吹く。悪寒がする。悪い事が起きると。

「さあ、事情を手早く話してくれるかしら? 嘘は出来るだけつかない方が良いわね。あんたにとって悪い奴らが警察って可能性がある事も考えて、怪しいと思ったらすぐ突き出すわ。こっちの警察でも何でもね」

『ダークネスって一族がいるんだ。彼らは、僕らの能力を狙っている。僕らの能力は、夢の武器を現実に呼びだす力、夢想石を生みだす事。お願いだ。夢想石を使ってダークネスと戦い、僕を守って。君と、特に君と一緒にいた男の子から、強い夢の力を感じたんだ』

「他人に血を流せって、正気? それで、私にメリットは? 夢想石を使うデメリットは?」

『ダークネスがやってきたら、地球人も危ないよ! 夢想石を使えば疲労するけど、デメリットはないよ』

「ねぇ、宇宙を移動できるエイリアンが、地球人なんかの科学力に屈するの?」

『……お願いだ。奴隷は嫌だよ。助けて』

「貴方達って、複数なの?」

『そうだよ。逃げる時にバラバラに散らばっちゃって……。この国にはいると思うけど』

 ここで問題なのは、浩太が私の預かり知らぬ所で抗争に巻き込まれる事である。
 断っても、夢の匂いとやらで別口が現れる可能性も高い。
 それに、私は他の三人に与えられる物が原作知識以外に何もないのをすまなく思っていた。
 デメリットがある可能性もあるけど、エルーシュの使い魔のエルに調べてもらえば済む事だ。
 それに、問題が一つ。エイリアンの技術がどの程度かわからないけど、小娘一人で対応できる事ではなさそうだという点だ。少なくとも私は、エルーシュがレーザー銃持ち出したら、勝てる気しない。
 相手エイリアンを武装解除して警察に突き出せれば、一番良いのではないだろうか。

「夢想石、いくつか私に預けてくれないかしら。動物実験してみたいし。それと弟を巻き込まない事、巻き込まれない様にする事が、貴方を匿う条件よ」

『……わかった。僕の名はホスラギ』

「櫻崎 萌子。弟の名前は八住浩太よ」

「お姉ちゃん、持ってきた!」

 浩太がパンと牛乳を持って来て、私はホスラギに食べられるかどうか聞きながら食事を与えた。

「浩太。私、ホスラギと約束したの。ホスラギはある種族と喧嘩してるんですって。事情を聞いて、お姉ちゃん個人はホスラギを庇う事にはしたけど、浩太は絶対にどっちにも加担しちゃ駄目よ。何かあったら、お姉ちゃんに携帯で電話して。……家族に何かあったらどれだけ辛い思いをするか、浩太はわかるでしょう?」
 
 この時、明るくヒーローになるんだと告げて誤魔化すという選択肢もあったけど、やめた。ヒーローになるかどうかは、まだわからないんだし、良く考えたらそんな嘘では浩太はヒーローに憧れてしまう。それに、人の死を良く理解しなかった浩太も、今では誰かが傷つけばその家族がどんな事になるか、良く知ってくれている。きちんと受け止めてくれるはずだ。
 私の言葉に、浩太は不安げな声を上げた。

「お姉ちゃんは? かたんすると、危ないの? またお姉ちゃん、病院で眠るの?」

「そうね、最悪、もう会えなくなるかもしれないわ」

「駄目だよ! お、お母さんだって、お父さんだって、喧嘩したり、毎日泣いたり……!」

「そうね。お姉ちゃんも、出来るだけそうならない様に気をつける。でも、喧嘩に加担するってそう言う事なの。ホスラギさん達は、必死で仲間を引きいれようとするわ。その時、その中に浩太を入れないでくださいってお願いするには、必要な事なの」

「駄目だよ! ずるいよ、そんなの!」

『お願い、助けて』

 優しい浩太は、私とホスラギを見比べ、涙を目に溜めた。

「もう、巻き込まれるのは確定みたいなの。浩太が戦うより、私が戦った方が生き残る目はあるわ。大丈夫。お姉ちゃんを信じなさい。あ、この事を大人に話したら、お姉ちゃん、研究所ってところに連れていかれちゃうから、黙っててね。さて、ホスラギ。貴方、偽装できる?」

 言いながら、こっそりと浩太の影に私の使い魔、白閃を移す。
 
『出来るよ』

 ホスラギがストラップへと化けて、私はそれを鞄につけた。

「話は済んだようだな」

 私はとっさに浩太を庇う。
 一言で言えば、ダークエルフに蝙蝠の羽をはやしたような男が私を見ていた。
 ……ちっ気付かなかった。学者野郎なら、戦闘なんて出来そうもな……駄目だ。エルーシュもカリュートも全然武道派だったじゃない。
 ダークエルフ野郎は、こんな状況じゃなければ見とれている程の美形だった。エルーシュ並みに美しい。

「浩太、逃げて。ねぇ、ホスラギの言っていた事は事実なの?」

「事実だ。それに、この星の者がホーピアスの力でどんな武器を作るか……興味がある。さあ、戦おう。行け」

 トカゲの化け物見たいのが追いかけてくる。エイリアンっつーより、魔物じゃない!
 期待されてるけど、まだ夢想石は使う気はないっつーの!
 私は、人通りの多い方向に浩太を連れて走った。

『夢想石を使うんだ、萌子!』

「動物実験も終えてないような物、使えるわけないでしょ!」

『動物なんかにあれは使えないよ!』

 私はホスラギの言葉を無視して、声を上げる。

「助けて! コスプレした変質者に襲われる! 警察呼んで!」

 ざわざわと人々がざわめき、携帯のフラッシュがたかれた。
 もういいか。十分に人目は引いたし、他の人を巻き込んでも寝覚めが悪い。
 
「こ、殺される……!」

 わざと相手の爪を受けて怪我をする。浩太がお姉ちゃんと叫んだ。
 折りたたみナイフと、手の中にこっそり雷の球を取り出す。
 そして私は折り畳みナイフを足元に投げた。
 幸い、今日は曇り空なんだよねー。遠くで雷鳴もなっている。
 ナイフめがけて雷が直撃しても、仕方ない、よねぇ?
 特大の雷がトカゲを直撃して、私は悲鳴をあげて丸くなった。
 カリュート特性の、ボスクラスにも通じる雷玉。これを食らってまだ生きていたら、諦めて魂具を出そう。

「今のは、偶然か……? まあ、いい。今はひとまず撤退しよう」

 警察が駆けよってきて、トカゲ人間の死体の為に救急車を呼ぶ。
 私は、事情聴取をされて、またマスコミの餌食となった。

「弟がいるから、助けなくちゃって……とにかく、必死で……。ナイフは、テレビに憧れて、持つだけ持っておくつもりで……。まさか、雷が落ちて来てエイリアンに直撃するなんて……。で、でも! いきなり追いかけて来たんだから、悪いエイリアンだと思います! この星の奴らの強さを見せてみろって言ってました! なんで、浩太みたいな小さな子や、私みたいな女の子を……。私、病弱で、お父さんにも凄く心配されていて……」

 私は泣きじゃくって見せる。
 一応、ナイフは持ち歩いても法的問題のない小さなものですよっと。
 私をいじめている人達も、私がナイフを持っているとなったら引くだろう。
 その日、ぐっすりと眠る。
 夢の中、私は草原で、巨大な化け物に追われていた。
 嘘、しかも真っ裸!?
 私は武器を求める。
 とりあえず、雷玉が欲しいっ
 私が思うと、手の中が熱くなって、私は目覚めた。
 手の平がバチバチ言っていて、ホスラギがそれを眺めていた。
 起き上ると、手の中に夢想石。

「ホスラギ……あんた、本当に目的は逃げるってだけ? 私は方法はどうあれ、貴方を庇ったわよね? 言ったはずよ、怪しければ突き出すって」

『だ、だって! 君は僕を庇ってくれるって言ったじゃないか! なのに夢想石を使わないなんていうし……しかも、他の夢想石も取りあげるし。雷、本当に偶然かも確かめないと』

「私が約束したのは貴方を助けることで、夢想石を使う事じゃないわ。それとも、その夢想石を使う事で何かあるわけ?」

『……』

「警察に連れて行くわ」

 私が着替え始めると、急いでホスラギは言った。

『わかった、言うよ! 見つけた人間に一番手柄を立てさせた人が、族長になれるんだ』

「……本当にあいつらが悪い戦争なわけ? 殺し合わせて最後に残った者を選んだのが、族長だーとかやったんじゃない?」

『……ギブアンドテイクは出来ていたはずだった。なのにあいつらは、それ以上を求めて来たんだ』

 私は呆れた。

「自業自得じゃない。やっぱり警察に突き出しちゃ駄目? まさか夢想石が命を掛けて助けるに値する者だと思っちゃいないわよね?」

『浩太がいる限り、君は僕に協力するよ。望むなら、データを操作して君の口座に大金を振りこんでもいいけど』

 私は腕を組む。

「……まあ、そうなんだけどね。データ改ざんはやめて頂戴。その代り、そうね、勉強を教えてよ。それと、のりかえられたら困るから、夢想石はこのまま貰っておくわ。安心してよ。方法はどうあれ、守るからさ。あんたの言う通り、浩太がいる限りね」

 私は夢想石を放る。一度使ってしまったらもう同じだろう。特に変化はないし。
 呪いかなんかがあったらカリュートに泣きつこう。
 翌日、私の家に柊健太がやってきた。
 健太は、私が昔、密かな憧れを抱いていたイケメンだ。
 最も、私には不似合いだってわかっていたから、見ていただけだったけど。

「柊くん、どうしたの? あ、もう先輩か」

「櫻崎さん、久しぶり。ちょっと、良いかな。喫茶店で話したいんだ」

 柊君の言葉に、私は心臓を跳ねさせた。それと同時に、何故か三人の仲間の顔も浮かんだ。
 喫茶店に行くと、がっかりする。
 他にも女の子達がいたからだ。男の子もいたけど、女の子の方が断然多い。何期待してるんだろ、私。
 
「君が、これを持っていたのがテレビに映っていた」

 そうして取り出されたのは、可愛らしい羽の生えた子犬のストラップ。

『初めまして。あたしはホシータよ』

『ホスラギだ』

「ふぅん。それで?」

「僕達は、仲間だ。一緒に戦おう」

「いいの? 協力し合うなんて。ホシータは族長になりたくないの?」

『私は、一族の存続の方が重要なの。一般兵だったとはいえ、貴方みたいに一撃でリザードマンを倒せる人は戦力として貴重よ。あの雷、いくらなんでも偶然過ぎる。貴方の力なんでしょ?』

「……悪いけど、暇、ないから。私、バイトで一週間予定が埋まっているのよね。今日もこれからバイトだし。自分の身くらい、自分で守れるわ。相手のエイリアンも、警察が何とかしてくれるんじゃない?」

「お金がありませんの? ならば私、雇いますわ」

 お金持ちで有名な石動雅の言葉に、私は考えた。群れた方が危険性は少なくなるだろう。バイトの日々は膿んでいた所だ。毎日バイトするよりは楽かもしれない。

「……わかったわ。条件を確認しましょう」

 いくつか条件を確認していると、柊君が問うてきた。

「テレビのあれ、演技だったの?」

「ま、ね。警察に任せちゃった方が良いと思って」

「……櫻崎さんて、以前とイメージちょっと違うね。なんか、クールだ」

 むっとした女の子達。特殊能力を持っている女の子達を敵に回すのはないわー。柊君てやっぱりもてるのね。

「恋人が良いのかなぁ。誰にも内緒ね」

「恋人、いるんですの? どんな方?」

「コスプレ仲間。遠距離恋愛だけど、ね。次会えるのは半年後かな」

「まあ。浮気が心配ではありませんの?」

 私はカリュートを思い浮かべる。

「すっごく素敵な人なんだけどね。世の中、わからず屋が多いから。実はあんまり、心配してない」

 そして心の中で、カリュートに手を合わせた。

「どんな方?」

「言って惚れられたら困るじゃない」

「まあ」

 私の言葉で、空気は少し和やかになった。柊君は少し不機嫌になったけど。
 バイトは一か月ほどでやめる事なり、携帯番号を交換した。
 浩太にも忘れず連絡する。仲間が出来たから、心配しないでと。
 バイト帰りの夜、公園で夢想石を使う。
 ぶわっと夢想石が光り、その光を纏うかのように私の服が変わっていく。
 手には杖が現れていた。
 
「こんなもんか」

 杖に力を込めると、帯電した。
 あえて、雷玉の効果に似せてある。
 一応、力の事は黙っていた方が良いだろうと思ったからだ。
 しようと思えばもっと色々出来ると思うのだが、どこまでやっていいかわからない。
 魔術の知識や錬金術の知識、魂具の能力を前提とした物も多いからだ。無意識にでも、他の力を持っている事を示唆してしまうのはどうなのだろうか?

「やはり、夢想石の力か」

 ダークエルフっぽい男に声を掛けられて、私は呆れて見せる。

「気配を消していきなり話しかけるの、やめてくれない? ねぇ、敵対はどうしようもない事なの?」

「我が一族は戦いを好む。こんな楽しい宴を終わらせるなんて、冗談だろう?」

 今度は犬人間みたいのを連れて、ダークエルフっぽい男は言った。

「私はダークだ。櫻崎萌子」

「覚えたわ。ねぇ、ダーク。私がワンちゃんに勝ったら、ご褒美に手を引いてよ」

「それはないな。少なくとも、もう少し遊んでからだ」

 へぇ、手を引く可能性はあるわけか。ある程度したら、ダークを倒そう。
 私の力全部を使えば、なんとかなるでしょ。
 考えている間に、犬人間が私に襲いかかって来る。
 帯電させた杖で、私は犬人間と戦う。
 しばらく時間は掛かったが、何とか倒せた。ああ、もう!
 こういうのはフーデルの役目だよ。肩で息をしながら、怪我した部分を包帯で縛る。

「……ほう。櫻崎萌子、多少は武術が出来るようだな」

「ま、ね。貴方には及ばないけど」

「……私にはわかる。お前はもっと大きな才を秘めている。花開け、櫻崎萌子。そうすれば、私が直々に手折ってやる」

「あら、ナンパ? やだ、人生初めての経験ね。しかもイケメン。でもごめん、恋人いるの」

 イケメンなので一瞬喜んだが、何かやばい空気を感じたので一応けん制しておく。ダークは失礼な事に僅かに驚く。そして、笑った。

「奪い取るのも嫌いではない」

 まあ。ここまで言うなら、考えておこう。
 そこで別れて一ヶ月後、私達は互いの能力を見せあった。
 うん、力を小出しにしすぎたみたい。私が一番弱いや。あの雷の一撃は偶然って事に落ち着いた。皆のを参考に、後でパワーアップイベントを用意しよう。どこまで出来るか試してみたいけど、ホスラギが邪魔なのよね。
 浩太も力の披露会に呼んでやると、目を輝かせた。そして、私の怪我に気付き、心配そうな顔をする。

「心配しないで、浩太。私、強くなるから、さ」

『萌子。しばらく、ホシータと行動したいんだけど、いいかな』

「構わないわ」

「櫻崎さん。ならば、私達の戦いを少し見て下さらない? 能力は弱いけど、何か手慣れているんですもの」

「オタクを甘く見ちゃーいかんよ。私って結構危ない奴ですから」

 まあ、これぐらいはいいか。雅の言葉に笑って承諾して、指導をしてやる。
 しかし、まあ。これは警察にエイリアン情報を渡したのは失敗だったかな。
 何か、私達で解決できるし、解決した方が良い雰囲気だ。
 そんなこんなで、小競り合いをしつつ、一年が過ぎようとしてきた。
 なんか、良くわからないけど空気が桃色になってきたんですけど!
 柊君、片っ端から女の子に手を出してるみたいだ。
 ダークも私以外の女の子にもガンガン粉を掛けてくる。私が助けなきゃ、女の子が一、二回、浚われてたかもしれない。
 そして、待望の宴会の日。都合良く、夏休み。
 魔法の鞄にプレゼントも贈り、周りに私は用事があって場合によっては一週間は留守にする! と告げ、雅達に応援され、カモフラージュ用のプレゼントの箱も持ち、皆に見送られて駅へと向かっていた時。
 ダークが攻めてきやがった。
 しかも、悪い事に結構大勢で!
 必死で戦うが、結構不味い。そんな時、通信が来た。
 
『萌子。皆もう集まっているぞ』

「ごめん、今ちょっと変質者な戦闘狂に襲われててっ」

 冗談めかして言った言葉に返された反応は顕著だった。
 三人が心配してすぐに次元移動の術を使って来てくれたのである。
 連れていかれそうになった雅を、フーデルが助ける。

「ご婦人。大丈夫か?」

「は、はい……」

 雅はぽおっとした顔でフーデルを見た。

「さっさと片付けて、デートに行くとしようか、萌子」

 エルーシュの言葉に、私は頷く。

「うん! あ、こ、この人達にはね、夢想石を分けてあるんだ。だって、想像した武器や技が何でも使えるって素敵でしょ?」

 私はとっさにごまかしの言葉を吐く。

「夢想石の力、受けて見よ!」

 カリュートがそれに乗ってくれて、敵を一掃できた。ああ、またダークを逃がしちゃったよ。

「では、デートに行こうか」

「待って下さい! お礼と、後、お話を聞かせて下さいませ……!」

 雅が言うが、フーデルは首を振った。

「悪いが、こちらが先約だ。行くぞ、萌子」

「うん」

 後始末が大変そうだと思いつつ、私達は移動した。



[28146] それぞれの原作
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:9a8f54f5
Date: 2011/06/06 20:52
萌 櫻崎 萌子。夢蠱毒(エロゲ―)の隠しステージの正ヒロイン。

 想像力を物質化する石、夢想石を持つ一族ホーピアスと、それを追いかける一族ダーキスがいた。
 ダーキスの狙いはあらゆる技術の習得であり、ホーピアスは彼らから逃げていたのだ。
 ホーピアスは自ら戦う力を持たず、強い想像力をもつ少年少女に助けを求める。
 主人公の柊健太は、夢想石を使って仲間達と協力し、あるいは恋愛しながらダーキスと戦っていく。
 二週目から、ダーキスの首領ダーク視点でプレイが出来る。

萌子の役柄
萌子は、高校一年生の時に事故で両親を失い、一人で浩太を育てていた。
明るいオタクで、力が弱く、無理やり弟の浩太から夢想石を奪い取ったり必殺技を考えたりする愉快な性格である。敵に捕まったりもするが、スパイを公言して何事も無く戻ってきたりもする。最後に、格好良い所を見せて散る。
健太視点では完全なわき役でギャグキャラ。攻略もできないが、ダーク視点では正ヒロインとなり、どうやってもシナリオに入って来る。
ダーク視点だと、萌子の明るい笑顔とオタクな会話は全て偽りだとわかる。ただ一人残された弟を守る為、自分がやりたいとギャグタッチで夢想石を奪い取り、必死で戦う為の努力をし、浩太を庇って敵に捕まったり輪姦されたり孕まされたり多くのルートで死んだりと踏んだり蹴ったりである。トゥルーエンドでは、浩太の死によって心が折れた萌子がようやく素顔を見せ、初めて真実の愛を知ったダークの猛アタックにより結ばれる事となる。


知 ロボット大戦(漫画)の科学者。エルーシュ・ディガー

事故でフレアストーンがばら撒かれてしまった。焦ったシェランゼ星人達は、急いで回収に兵を差し向ける。
 たまらないのは、不定期ランダムにエイリアンの大群が押し寄せて暴れられた地球だ。
 人型兵器スペースガーディアンロボット、通商SGRを使って防衛を始める。
 リアラは、天才科学者だ。しかし、新システムを使いこなせる人間がどうしても見つからなかった。所が、そのシステムを盗んだ者が日本にいた。天才ハッカー、硬峰高校の神崎麗華だ。ハッカーを捕えに、また、自らのセキュリティを突破した者を自分の目で確かめに行ったリアラは、遠坂星凪がそのシステムで遊んでいるのを発見する。
 そして、パイロットに抜擢し、シュランゼ聖人と戦い、和解にまで持ち込んでいく。
 フレアストーンは人類にはまだ使い道が無く、早く言ってくれればいいのにと談笑してエンド。

 エルーシュの役割

 遺伝子をいじって、天才たれと作られた人間。
 ロボットしかない人物で、完全な噛ませ犬。リアラに敗れてからは、出番も無い。



魔 魔術師レイフォン(ゲーム)の魔法使い。カリュート。

 魔術師レイフォンは、百年に一度と言われた才の持ち主だ。
 本来は貴族の跡継ぎだったが、広い世界が見たいと弟に家督を譲って飛び出した。
 優秀な師につき、旅をしながら魔術を教えられる。
 冒険を続けるうち、古代の叡智を求める魔術師ガーディとぶつかっていく。


 カリュートの役割

 暗い魔術師。闇魔術が得意であり、阻害され気味だった。レイフォンに嫉妬し、よく突っかかって来る。冤罪事件をきっかけにガーディの誘いに乗り、悪に身を落とす。
 レイフォンの明るさに嫉妬しつつも羨望を抱いており、最後、ガーディに裏切られ、レイフォンを助けて死ぬ。



E(エンチャント) 聖騎士ナイトダンス。フーデル・フォン・デルフィン

 水里の村の少年、カラーレンは魂具にあう宝玉が無く、いつも劣等感を感じていた。
 それでも負けん気の強い性格で、魔物を相手に腕を上げて行く。
 ある日、かなり強い魔物に村を襲われ、逃げ込んだ祠の中で宝玉を発見する。
 駄目もとで魂具に嵌めて見ると見事にエンチャント出来て、見事魔物を退治する事が出来る。
 しかし、その時には村は滅びていた。魔王を殺す決意をして旅に出る決意をするカラーレン。
 運命の元に仲間が集い、最後には魔王の側近でライバルであったパジーを味方につけ、ついには魔王を倒すのであった。

フーデルの役割
 領主フーデルは、カラーレンに才を見いだして後ろ盾となる。
 カラーレンを援助し、よい君主であるフーデルは魔王にとってもにも目の敵であり、また、パジーにとって嫉妬の対象であった。
 同じ才を持つ自分は孤児で、カラーレンは何故領主直々に保護するのかという思いである。
 パジーはフーデルを暗殺する。
 パジーは、闇の宝玉を振るうパジーを見て化け物と言ったフーデルを何度も剣で突き刺すのであった。



[28146] 閑話 1
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:9a8f54f5
Date: 2011/06/06 08:22

 エルーシュの自宅で、萌子は事情を話した。

「萌子の世界も創作世界である可能性か……なるほどな」

エルーシュがお茶を入れ、エルに夢想石を渡して、皆で一服する。

「私で萌子の役に立てるなら、手伝おう。櫻崎萌子で検索すればいいのだな。お、あった」

 ネットを見て、エルーシュは固まった。

「見つかった?」

「あったのか!?」

「見せて見ろ」

 乗り出す三人を、エルーシュが牽制する。

「まず私が見る! 同一人物か、わからないし」

 そして、調べるごとにエルーシュの顔色は悪くなっていく。

「萌子、悪い事は言わない。フーデルかカリュートの所へ行け。文明社会で暮らすのが無理なようなら、私も一肌脱いでみる」

「弟を置いて、そんな事できるわけないでしょ。多少の事で自分の世界に住む事を諦める位なら、20年も掛けて帰る手だてを探さないわ。……見せてよ」

「しかし……」

 萌子はパソコンを奪い取る。そして、動きが止まった。

「嘘……」

 そこにあるのは、夢蠱毒というゲームについての説明であった。
 あられも無い姿の女の子達が並ぶ。
 そこには、雅や萌子の姿もある。
 ……萌子のいる世界、それはエロゲーの世界だったのだ。
 攻略情報には、浩太殺害ルートと浩太人質ルートと書かれている。
 そのゲームでは、仲間との恋愛を楽しむ主人公サイドをクリアすると、ヒロイン達を陵辱するダークサイドがあるらしい。萌子は、ダークサイドでのみ攻略できる、裏の正ヒロインだった。
 事故で両親を無くし、浩太が唯一絶対の家族となり、表向きは明るくふるまいながらも浩太を必死に守っていく。
 主人公サイドでは徹底したギャグキャラとして描かれており、ダークサイドでは浩太を人質に取ればどんな痴態も演じ、常に明るいキャラを維持する。
 一変するのが、浩太殺害ルートを選んだ場合だ。
 かりそめの笑顔は砕け、そこに獰猛な獣が現れる。戦闘力も大幅にアップし、それにダークが心を奪われ、調教して行くのがトゥルーエンドとなる。ちなみに、トゥルーエンド以外に萌子の生存ルートはない。
 並ぶ卑猥な選択肢に絶句する萌子。
 萌子は、それでも笑った。

「や……やー。異世界転移で、良かった事もあったんだねぇ。お父さんとお母さん、死んでないもん。私が倒れて旅行中止になったから。それに私、結構可愛いじゃん。それに……それに……」

「萌子」

 カリュートがおろおろとしてそこらを歩き回り、フーデルが萌子の頭を胸に抱きしめた。

「泣いていい。怖がっていいんだ、萌子」

「……いいえ。いいえ、泣くのは後よ! だって、浩太を助けなきゃ。浩太を……エルーシュ、このエロゲ、取り寄せて。どのルートか、どんなフラグか、調べなきゃ。弱点が載ってるかも……」

「協力しよう」

 エルーシュは頷き、データ化されたそれはすぐに届いた。
 それをプレイしようとする腕は、酷く震えていた。

「ごめん、その……あの……は、恥ずかしいけどさ。二次元と三次元は別と割り切って、い、一緒に見てくれないかな……」

 エルーシュとフーデルは頷き、カリュートは動揺した。

「いや? なんか、腕ふるえちゃってさ……」

「い、嫌ではない」

 どもりながら言うカリュート。

「カリュート、鎮静剤を飲んでおけ」

 エルーシュが鎮静剤を渡し、カリュートは一気飲みする。
 ゲームの分析が始まった。

「……で、ルート的にはどうなんだ」

「大分違いが出てるけど……ハーレムルートに行ってると思う。二人とも……柊君になびいてないのって雅くらいだったし」

「ダークとのフラグは、ダークを傷つける事だったか。そして、追い出す方法は囚われていた萌子がその間に得た知識を使って、宇宙船を破壊する事……絶対に駄目だな」

「……。正面から、叩き潰してダークを殺すわ」

「出来るか? かなり強い設定のようだが」

「やる」

 それから、萌子の装備の再点検が始まった。萌子が主として装備していた補助系統の道具が、全て攻撃に置きかえられる。そして、危ない時は遠慮せずに呼ぶという事で一致した。
 一通りそれが済んで、ようやく萌子は他の三人に問うた。

「それで、皆はどうだった?」

 それぞれの一年を、順に説明して行く。

「そう言うわけで、一年後には私の新作を見せられると思う。萌子、旧型のSGRで悪いが、受け取って欲しい。ああ、武器は外してあるから安心してくれ」

「どうしろって言うの……まあ、ロボット大戦のファンです。受け取って下さいって紙張って会社の前に置いて逃げちゃうか? あ、新たな動画取って来たから受け取ってね」

「どうなったかはぜひ報告してくれ」

 エルーシュが笑いながら言う。
 
「あー、お金に変えられればなぁ」

「そこで、萌子に朗報だ。勉強を教えると約束したろう。VRMMOの事、話してくれたろう。錬金術で鉄作る片手間に作ってみた。とりあえず、加速時間と仮想空間だけは成功した。さすがに手間を掛けてゲームを作る気はしないが。データの頭へのダウンロードの試作品もある。ここでみっちり私の知識を伝授してやる。基礎は教えてあるしな」

「うわ、科学者か。でも私なんかじゃ、先が続かないんじゃない?」

「私がサポートするさ」

「そうね……。なんか普通の生活難しい気がしてきたし、頑張ってみちゃいますか!」

 エルーシュと萌子の話は、カリュートとフーデルには少々理解しがたい。
 カリュートは、今度は自分の話をしだした。最近包囲網が狭まりつつある事も。

「カリュート、表舞台に出ればいいのに。カリュートなら出来るよ。ずっと逃亡生活なんて出来ないでしょ? それと、カリュートも困ったら呼んでね」

「そう、思うか。萌子」

「うん、カリュート、自分を信じて!」

「……頑張ってみる。けど、フーデル。駄目だったら受け入れてくれ」

「歓迎しよう。私の一年は……」

 フーデルの話を聞いて、萌子は首を傾げる。

「パワーアップイベントはどうするの? 命がけの死闘とか、存在しなくなるよね」

「実は、話に聞いていたより弱い気がする……」

「ああ、新しく宝玉を作っておいたから受け取ってくれ」

「私も新しく宝玉を用意していたんだ」

 宝玉を交換するカリュートとフーデル。
 それぞれの話も終わり、エルーシュと萌子はVRMMOに入った。
 その間、カリュートとフーデルがエルーシュの調合を手伝う。
 その後、エルーシュの世界の様々な記録映像を肴に、各世界の食べ物を持ち寄って宴会をして別れた。
 密度の高い一か月だった。



[28146] エルーシュ・ディガー2
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:9a8f54f5
Date: 2011/06/06 20:49
 有意義な一か月を終え、部屋の片づけをした私の元に学会からの誘いがきた。
 ぜひ来てほしいという事で参加する。
 すると、ディガー博士の新鉱石を解析する会が設立されていた。
 何か、話が巡り巡ってこの金属を作れるか! という私からの全世界への挑戦状的な企画と懸賞金が掛けられているらしい。
 新技術に科学者達は燃えに燃えており、そんな科学者達を抱えた企業は私自身に答えを教えろと言うに言えなくなっている。そんな状況らしかった。
 
「では、新金属ミスリルについて私が発見した事を述べたいと思います。私は、全く新しい粒子を観測する事に成功しました! これと鉄やアルミなどの金属とがミスリルを構成しているのです」

「マナが発見された!?」

 私は思わず立ち上がる。まさか科学的方法で発見されるとは思わなかった。
 
「マナですか。ファンタジーにちなんだ名付けとは、ロマンチックですな」

「さすがはディガー博士。と言う事はこの粒子が新金属を作るにあたって重要となるのですな」

 そんな話し声がする。
 壇上に上がっていた研究者が、挑戦的に私を見つめる。

「それで、マナとやらの特許を博士は取りますか?」

 私は座って腕を組む。

「いや。それでも、私以外にミスリルを作れる人間はいない。特許を取る必要はない」

 ざわめきが走る。

「後悔しますよ。私は必ずミスリルの秘密を暴いて見せます」

「不可能だ。だが、一つ約束しよう。ありえない事だが、貴方が製法を発見した時、だからと言って私は製法を人に教えたりしない。金属を作って売る事はするが」

 ざわめきが最高潮に達する。
 科学者達の新金属に対する研究は、面白く聞く事が出来た。
 私とした事が、科学という側面から、そんな風に解析した事はなかったのだ。
 これは面白い研究テーマが出来た。
 学界から帰ると、錬金術で金属を作ったり研究をする日々が続く。
 テレビでは、新金属についての特集が組まれていて、アルベルトが盛大に新金属を称え、開発を煽っていた。
 そして、私の新作のSGRのおおよその部分が完成したと連絡が来る。
 カリュートに教わった魔術の文様を全身に刻印した、新SGR。思った以上の出来の良さに、私はため息をついた。
 そして研究員を全員追い出し、監視カメラを停止して私はSGRに魔術を掛け、一部錬金術を掛け、一部自ら工具を使って手を加える。
 
「さて、と。こんな物でいいかな」

 整備員とパイロットを呼び、動作テスト開始。
 色々と思った以上に上手く働く点や、思わぬ失敗が出て来た。でもまあ、許容範囲内だ。

「個人だとそれほど試行錯誤は出来ないからな。こんなもの、か。ロボットの大会には出せる範囲だろう」

 フレアストーンを乗せた機体に関しては、失敗だった。予想以上の出力に、機体がついていっていない。
 まあ、これに関しても要研究だな。
 準備が出来たので、国際ロボット競技会に出品する。
 パイロットは適当な者を雇った。それほど有名ではない方が、パイロットの補助具による底上げが聞いているのかどうかわかっていい。
 リアラは遠坂星凪と出るようだ。
 ふむ、万全の体制ではないが、それは向こうも同じ事。
 勝負と行こうではないか。
 私はアルベルトに誘われ、リアラと共に特等席で戦いを見る。

「なんて優雅で滑らかなの……! 金属とは思えないしなやかさだわ。丈夫なのに柔らかいなんて……! それに、攻撃しても攻撃しても全然効いた様子が無い!」

「……早い、な。力も強い」

 拮抗しているのは、魔術面による強化があるからだ。それが無くては負けていただろう。私は唇をかむ。翻ってリアラはキラキラした瞳で戦いを見つめていた。
 追う者と追われる者。リアラが負けても、失うものはないのだ。
 今戦っている機体のほかに、数体の機体を用意しているが、怪しいものだ。

『うおおおおおおおおおおお!』

 遠坂星凪が一点集中で攻撃して、偶然にもSGRに描かれた最も重要な呪言を傷つけた。

「……私の負けか」

「え、何何? 今の一撃は、かすり傷をつけただけじゃない」

「張ったバリアを破られた。後はやられる一方だ。例えここから勝っても、後が続かない」

「バリアですって!?」

 私のSGR、ブラックキャットの動きが目に見えて悪くなる。
 呪言は傷つけられれば当然、その力を減じ、酷い時には力を失ってしまう。
 一撃を通されれば、それまでなのだ。ただでさえ、実戦用の武器は使用禁止となっている。そんな攻撃が通った時点で問題外だ。
 今回は、負けてしまった。けれど、改良の余地は多大にある。
 私がこのまま終わると思うなよ?
 ゆったりと私は歩く。この胸に溢れ出る怒りを悟られぬように。
 私は、戸惑っていた。自分にこんな感情があるとは、思いもよらなかった。
 噛ませ犬など、ごめんだ。
 新たな案を考える為、帰る準備をしていると、大騒ぎになった。
 某動画サイトにアップロードした音楽を流しながら、エイリアンの群れがやってきたのだ。
 ああ、フレアストーンを狙ってきたか。音楽を流しているという事は、音楽ジャンキーのシャルジーア将軍か? あいつはいつも音楽を流しながら登場するから。最も、人類からは演説だと思われているが。
 私はパイロット達に指示を出す。

「こんな事もあろうかと、即時戦闘準備が整うようになっている。目の前の赤いボタンを押してくれたまえ。それで飛び道具と隠しナイフが使えるようになる。他のSGR達が戦闘準備を整えるまで耐えてくれ。ああ、レッドバズーカに乗った君は、ボタンを押した後、すぐに脱出してくれ」

 ブラックキャット達が手の平から雷玉を射出する。
 放りあげられたちっぽけな球は、特大の雷を落とした。
 ああ、貴重な雷玉をよくもほいほい使ってくれる。
 その間に各国のSGR達が戦闘準備を整え、迎撃した。
 フレアストーンを乗せたレッドバズーカからは、フレアストーンが射出された。
 私はそれを受け取る。
 戦闘データを取れるだけ取って、ちょうどいい所でフレアストーンを投げ渡そう。奴らはそれさえ手に入れたらすぐに逃げて行くはずだ。
 まあ、死人は出ないようにするさ。
 SGRとエイリアンの操るロボットがぶつかり合う様は爽快だ。
 後で記録映像を貰って、萌子に渡せば喜ぶだろう。
 戦闘を眺めていると、白兵が出て来た。出てくるのが早いな。まあいい、潮時か。
 私はフレアストーンを持って、白兵と対峙する。そして、私は驚いた。白兵の中に将軍がいたからだ。

「シャルジーア・ピスガス?」

 ピスガスとは、将軍の意らしい。萌子がくれた本から、ごく僅かな単語はわかる。シャルジーアは、かなり驚いた顔をしていた。
 まあいい。

『目的はコレだろう。持って行け』

 そういって、私はフレアストーンを投げた。それを受け取ったシャルジーア将軍が兵を差し向けてくる。

「桜動画。作者。神! キャッチ」

 うん、凄く悪い予感がするね。
 私は魂具を出した。マントを出して羽織る。
 戦いが始まった。
 
「桜動画! シャルジーア! 忠誠! 音楽!」

「拒否! 否定! 駄目! ありえない! ドン引き!」

「選択、忠誠、死!」

 戦いながら、片言で交渉をしてくる将軍。そこまでして私の忠誠が欲しいか!
 私は、もう少ししたらカリュートとフーデルに渡そうと思っていたIDとPASSの書かれていたストラップを投げつけた。

「投稿、仕事、忠誠、雇用条件、報酬、お礼! 返答、トップ」

 戦いながら言うと、シャルジーアはようやく矛を収めて帰って行った。
 何か、どっと疲れたので、私は一足先に会場を抜け出して帰る事にした。
 私の機体は、競売でかなりの高額で売れた。
 その後、テレビの解説ではリアラの機体、シューティングスターと私の作った機体を特に念入りにされた。

『信じ難い事に、ディガー博士が今回作ったSGRはかなり華美ですね。見て下さい、一面の彫刻。元から若干奇抜なデザインを使っていましたが、これは凄い。独特の感性と言っていいでしょう。しかし、それを補ってあまりあるのが、この機体の柔らかさ! ロボットが柔らかいと表現される異常、お分かりになりますでしょうか。ほら、この着地で僅かに足が伸縮しているのがわかりますね。これで衝撃を吸収しています。そして次に、バリアシステム。あれだけ攻撃を食らっても、全く傷ついていなかったSGRが、一度かすり傷を食らっただけで急に傷がつくようになりましたね。伸縮性、運動性、頑丈さ、全てのパラメータがすとんと落ちています。バリアシステムと新金属に頼りに頼った機体と言う事です。次に、リアラ博士の機体ですが……』

 痛い所を突かれて、私はため息をつく。
 その後、エイリアン襲撃のニュースなどが続いた。
 そして桜動画を立ち上げて、IDで検索する。
 あった。
 絵と片言の言葉と文字が書かれている。エイリアンが映っているが為に、わりと動画は盛況のようだ。作り物と言う意見が大半を占めているが。
 ええと、毎日新曲を進呈する事。無理だな。報酬は。向こうの音楽か。ふざけるな。
 一日一曲探してくるとかなら、まだわかるが。いや、それも研究する時間が無くなるから嫌だな。
 一か月くらい押し問答して、フレアストーンと曲譲渡の代わりにエイリアンの技術ゲットという所まで話が詰める事が出来、雷玉や魂具の知識を渡すまいと頑張っていた頃。政府から怖い人達がやってきた。

「なにかな?」

「桜動画の作者、エルーシュ・ディガーさんですね」

「……個人情報保護法は……」

「そんな物はエイリアンとコミュニケーションを取ることのできる人間にはない」
 
 あまりといえばあまりだが、当然と言えば当然と言える返答に私は押し黙る。
 
「まず、エイリアンとの交渉には我々も絡ませてもらう。知っている事を全て話してくれたまえ」

「……別に、職業柄エイリアンとは因縁深くてね。いくつかの単語と、目的らしき物をおぼろげに発見した、それだけだ」

「目的だと!? それに単語!? そ、それは一体……」

「フレアストーンの収集です。それを何に使うのかはわかりませんがね。単語帳見ますか? 少ししか書いてありませんが」

 一緒に来ていた白髪の学者が奪い取るようにそれを読んだ。
 その日を境に、フレアストーンの捜索が始まった。フレアストーンを投げ渡せば、エイリアンは引くのである。
 それと、動画を媒体に必死の交流が始まった。
 私は桜動画を政府に譲る事にした。向こうの要求する物は政府にも出来るし、まだ契約はしていなかった。それに、まだあげていない動画データも渡したからいいだろう。フレアストーンは国に接収されてしまった。
 フレアストーンの調査が求められたため、有償でデータを渡したら科学者達が目の色を変えた。
 どうやら、フレアストーンは出来るだけ渡さない方向で行くらしい。何故だ? 史実では使い道が無いからとそのまま渡していたはずだが。
 あー。使い方は私が発見して説明したな。そのせいか。そういえばレッドバズーカも射撃でかなりの好成績を残していた。
 ……さて、次のSGRでも作るか。
 二、三ヶ月研究しつつ錬金していると、マスコミがやってきた。

「著名なディガー博士の特集を、ぜひ組みたいのです! それにぜひ、全国の科学者にミスリルのヒントを!」

「断る。クイズ番組ではないのだ。製法がばれたら特許を奪われるのだぞ。自力で見つける分には構わないが、私が教える義理はない」

「施設だけでも見せて下さい」

「駄目だ」

 そんな押し問答からさらに三ヶ月後。
 エイリアンと共にエルーシュ・ディガーの秘密に迫る! というテレビ番組があったから見てみた。というか、いつのまにそこまで仲良くなった。
 それを見て、私はお茶を拭いた。上空から、屋根を透過して私の事を見ているではないか。
 無駄に高いエイリアンの技術に舌打ちする。
 鍋に色々放りこみ、錬金術を使っている私。鍋が発光する。
 エルが虚空から現れて、食事の手伝い。
 食事の後は、設計。
 薬草と金属を手でこねて混ぜて溶鉱炉で焼き上げ。
 小さな魔法の鞄から、出すわ出すわ様々な道具を。
 音声も取られている。

『雷玉がカリュートに比べると弱いねぇ』

『まあ、カリュートは凄腕の魔術師だからな。私のような駆けだし魔術師とは違うだろう』

 VTRが終わると、ゲストの文化研究者が涙を流していた。

『まさか、魔女狩りで滅んだと言われた魔女が本当にいたとは……しかも、本物の魔女だったとは……この目で見るまで信じられませんでした。これはぜひとも箒で飛ぶ姿を見せてもらわなくては』

『魔女が科学者をする時代、ですか……。だから金属は自分以外に作れないと言っていたわけですね』

『しかし、マナは観測する事が出来ました。魔術も、科学的に解明できるはずです』

『ぜひ弟子入りさせてほしい』

『エルーシュは、確かに怪しい魅力を持っています』

『我が社に魔女がいた! 素晴らしい事だ。ぜひ彼には我が社に戻ってきて欲しい』

 ……逃げるか。私は、せっせと旅支度を始めた。フーデルの辺りが統治がおおらかで良さそうだ。



[28146] フーデル・フォン・デルフィン2
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:9a8f54f5
Date: 2011/06/07 17:32
 ちょっと仕入れをしてくると言って一か月ほど出て言ったらかなり怒られた。
 最短一日、最長一週間と言っていたから仕方がない。
 一応、いない間の教育プログラムとかは用意していたし、カリュートからいい物を貰って来たから嘘ではないのだが。
 ちゃんとカモフラージュ用の食材積んだ馬車も用意してある。

「心配したんだぞ、フーデル! しかも俺の事勝手に王宮に売りやがって。隠し味のあの粉、切れたから寄こせよ!」

 パジーがぽかぽかと私を殴って来る。

「まあまあ、待って下さい。ほら、食堂で待っていなさい。今、お土産を温めますから」

「俺も手伝う」

「待っていなさい」

 さすがに異世界のパッケージを見られるとまずいから、全てかまどで焼却処分である。
 私は料理を食堂に並べる。異世界の料理は美味しいし興味もあるが、錬金術の込めた食材と混ざってしまって紛らわしい。前回の宴会で貰った食事もまだ残ってしまっていたし、こういうのは皆で楽しんでさっさと消費してしまうに限る。
 料理を並べると、子供達は歓声を上げた。
 何故か陛下と弟、お付きの者達もいた。

「へ、陛下!?」

「元気そうだな、心配を掛けるなと言ったはずだが。安心したら腹が減った。フーデル、毒見しろ」

 陛下も食べるという事である。

「どれをお食べになりますか?」

「全部」

 ……私は既にお腹がいっぱいなのだが。陛下を見ると笑っていた。絶対に嫌がらせだ。
 私は一つ一つ味見をして、陛下の分を取り分けていく。
 
「見たことも無い食事だな」

「友人に無理を言って色々もらいました。いや、実は大分前から約束していたのです」

 パジーは真剣な顔をして一つ一つ味を確かめながら食べている。
 他の子供達はがつがつと食べている。訓練でお腹がすいているらしい。
 結構な量があった食事は、綺麗に平らげられた。
 私はその間、魔術で作った冷蔵庫を設置して、そこに入れてあったアイスクリームを取り出した。卵や牛乳、砂糖に似た素材はこちらにもあるので、これからはこちらでもアイスクリームが作れる。
 
「陛下、ぜひこちらをお食べ下さい」

 まず陛下に持っていき、毒見をし、他の者達に配る。
 異世界の料理は賛否両論だったが、アイスは全員に好評だった。

「冷たい! どうやったんだ!?」

「氷の宝玉を作る技術を使ってごにょごにょ、と言うわけですよ。一応、私の友人の秘伝です」

「すっげー! 料理の幅が広がるな!」

「小さい冷蔵庫なので、店に出す料理を作る事は出来ませんがね。アイスの作り方も聞いて来たので、期待していて下さい」

 パジーはこくこくと頷き、アイスを頬張った。
 陛下達を見送り、開店の準備をする。
 馬車の食材を移動させ、種を農民を雇って栽培する。
 翌日には、店に商品を並べ、買出しに行って食料品を買い込んだ。
 子供達の鍛錬を見ながら、メニューを作り、商品作りをする。
 夜は訓練から戻ってきたパジーが下ごしらえを手伝ってくれた。何でも、毎日帰ってから皆の分の食事を作っていたので問題はないという。
 翌朝、開店の札を扉に下げて、客が来ないか見ながら子供達の相手をした。

「じゃあ、私はエンチャントするから、エンチャント無しで私に勝ってみなさい」

 何気なく言った言葉に、子供達は驚きの声を上げる。

「どうしましたか。パジー達は全員揃ってなら私から一本取れますよ、やってやれない事はありません。私は強い方ではないのですから」

 子供達が遠慮がちに飛びかかって来る。もちろん、雷のエンチャントで返り討ちにした。
 あ、少しやり過ぎた。やはり主人公クラスは違うな。カラーレン達はこれくらいならぴんぴんしていたのに。
 カリュート特性の薬を飲ませて、さてもう一度、と言う所で、客が来た。

「エンチャントだけに頼る戦い方はしてはなりません。エンチャント発動前に襲われる事や、宝玉を敵に奪われる事もあります。基礎は鍛えておいて悪い事はないです。私は客が来たから行きますが、エンチャントありと無しで戦ってみてください。ああ、怪我には気をつけて。薬はそこに置いてあるから、好きなだけ使いなさい」

 そして私は客の応対に向かう。

「あ、これはフーデル元将軍! フーデル元将軍の店が開いたと言うので、ぜひ伺わねばと……」

 騎士が直立不動で言ってくる。

「ええ、ぜひ見て行って下さい」

「カラーレン達ですが、優秀ですね。パジーなど、魂具の形から見ても明らかに戦闘向きでないのに、強い。料理上手の宝玉装備の大釜で殴られて昏倒すると、さすがにへこみます。本来はもう少し大きくなってからなのですが、特例で魔物の討伐に参加すると聞きました。エンチャントは、もう少し活用した方が良いとは思いますが……」

「そうですか……。それでは、精一杯の準備をしてあげなくてはね」

 これは、史実で宝玉手に入れる神殿とか名家に手紙を送らなくては。そろそろ装備品を整えてやってもいい頃だ。
 エンチャントを使わなくても勝てるようにとは言ったが、かといってエンチャントを使えないのも困る。
 休日にその辺の事も教えよう。
 考えながら、商品の説明をしていく。
 
「この服って、フーデル元将軍が縫ったんですか?」

「ええ。仕立てる事も出来ますが」

「じゃあ、お願いします。これは……短剣?」

「溶鉱炉の扱いも完璧です」

「フーデル元将軍……何者なんですか……じゃあ、短剣も一つ」

 簡単にサイズを調べる。ふふふ、ジャストフィットの服を作って差し上げますよ!
 戻って来て子供達と戦っていると、また客が来た。なんか、ここだとお客の来るペースが速いな。
 店番を立てた方がいいのかもしれない。
 そして昼。カラーレンとパジーが一足先に戻ってきて、仕込みを手伝ってくれる。
 何か、いっぱい来るらしい。
 料理上手のエンチャントのお陰もあって、パジーの手際が凄まじく良くなっている。
 しかし、そんなに大量に来るのか?
 魂具の大釜まで使って料理している。
 私も錬金術の大釜でスープを作る事としたが、そんなに沢山来るのか?
 昼。来た。どっと来た。ルークス、またお前か!

「お前、店の許容量を考えろ!」

「フーデル! お昼休み中に全員に行きわたらせないと!」

「何ですって!?」

 パジーに言われて、今朝大量に作り置きしたパンがどんどん運ばれていく。大釜に作られたスープの盛り付けを子供達に任せ、三人で肉を切って焼く。

「いつかは、メニューを聞ける位、余裕を持ちたいもんだよなっ」

 客は店の外にまで溢れる。
 それを捌き終わると、二人は笑った。

「あー、フーデルがいるから、人数はいつもより多かったけど楽だったな」

「ほんとだな。さて、洗いものするか! 午後の訓練もあるから急がないと。フーデル、食料これじゃ足りないから買出しと仕込みお願い。夜も来るよ」

 え。毎日これをしていたのか、二人とも。
 というか、これから仕込みをしなくては間にあわないではないか!
 急いで買出しをして、仕込みの最中にお客がちらほら。
 私は早々に、明日休みますという看板を掛けて、カラーレン達にも休むように伝えた。
 作戦会議が必要だ!
 夜。

「冷温スープをお願いします」

「肉! 肉が食べたい!」

「フルーツジュースだ」

「酒が飲みたい」

 今度は、メニューを聞く余裕があった。しかし、大変なことには変わりない。
 酒は錬金に時間が掛かるんだぞ、がぼがぼ飲むな。

「フーデル将軍。勝手に私の部下に休むように取り計らっては困ります」

 ルークスが文句を言っているが、私は相手にしなかった。

「五月蠅いですね。作戦会議ですよ、作戦会議。あれだと忙しすぎて子供達の面倒を見る暇がありません」

「食堂と店と孤児院ですからね」

「孤児院をやめるのは本末転倒です。私は、陛下の駒を作る為に野に下ったのだから。しかし、収入源の問題もあるし、店をやめるわけにはいきません。何とか両立の道を探らなくては」

「陛下に援助をお願いすればいいのでは。カラーレンと言う成果も出しているのだし」

「陛下の手を煩わせるなど。やはり、元陛下の教育係たるもの、自らの足で立たねば陛下の顔に泥を塗る」

「もう充分煩わせていると思うのですが……。そういえば、食事に何か薬を混ぜているとか」

「ああ、パジーから聞いたのですか。調合によって効果が千差万別になるから、なんの薬だ、とは言えないのですが」

「安全なのですか? 副作用は?」

「さっき言いました。千差万別です。ちなみにルークスが飲んでいるワインは精神高揚。副作用は若干酔ってしまう事です。……まさか、私が陛下に食べさせた物を疑うのですか?」

「いや。そう言われればそうですね。それでも、少し調べても?」

「だから、調合方法によって効能が毒にも薬にも変わるんです。子供達には、薬になる方法しか教えてませんし、絶対に他の調合を試すなと厳命してあります。調合方法は部外秘です」

 その後も適当にあしらい、ルークスが帰る。
 次の日、私は問題を提議した。

「このままではカラーレンやパジーの魔王退治の訓練や私の子育ての時間が無くなってしまう。どうしたらいいと思う?」

 パジーが手を上げる。

「俺達が魔王を倒せるとも思えんが。実は料理上手の宝玉を欲しがっているコックや弟子入り希望のコックがいるんだけど……いいかな?」

「低レベルエンチャントであれば10個ほどありますが。ふむ、しかし……私の弟子はパジーにしようかと思っていたのですが」

「お、俺が一番弟子に決まっているだろ! まさか、今更外すなんて言わないよな!」

「魔王を退治するまで奥義は教えないという話も忘れてませんよね」

 パジーはぐっと黙る。
 とりあえず、店には商人を置き、コックの弟子に錬金術の初歩の初歩を教える事になった。
 そこに、ひょっこりと王宮付きのコックが顔を出す。

「フーデル将軍、アイスを陛下が御所望なのです。それで、作り方と冷蔵庫をお借りしたいのですが……」

 私はレシピブックを取り出して、アイスの項目を探しだす。

「ここです。書き写して行ってください」

 それにパジーがかみついた。

「な、何だよそれ!?」

「レシピブックですよ。様々なレシピが載っている物です。異国の食べ物が多いので、適当な物で代用して下さい。一応、欲しい食材があれば差し上げますが」

「丸ごとお借りして行ってもいいですか?」

「だ、駄目に決まってるだろ! レシピは料理人の命だぞ」

 料理人の言葉に、パジーがかみつく。
 
「そこにあるレシピは大したものではないので構いません。陛下の為になるならどうぞ、書き写して行って下さい。なんだったらその後、パジーに譲りましょうか」

「い、いいのか!?」

「必要な時に見せてもらえばいいだけですし」

「お、俺も欲しい!」

「仲良く使って下さいね」

 カラーレンとパジーがはしゃぐ。
 
「それと、一回手合わせした後、騎士組の装備を新調します。魔物の討伐の準備です。エンチャントもちゃんと出来ているか見たいですし。エンチャント使わないでも勝てるようになれといいましたが、それは訓練の話です。実戦では、持てる力をあらゆる方法で使いつくして、確実に息の根を止めなさい。子供達は戦い方をよく見てなさい。まずは、私がエンチャントあり、貴方達が無しから」

 カラーレン達と激突する。さすが主役級の子達だ。その伸びは目覚ましい。
 しかし、私も負けはしない。雷、炎、吹雪、斬撃など様々なエンチャントを使う。
 子供達はそれを上手く避け、石や砂つぶてを使ったり、普通の武器で応戦したりする。
 パジーが剣を喉元に突き付けて、勝敗はついた。

「大勢で掛かれば、強い奴も倒せんだ……」

「エンチャント無しで、倒せるんだ……」

 子供達は呆然とそれを見る。

「次は、双方エンチャントありですよ」

「大丈夫かよ、もう年なのに」

 パジーは勝てた事に少し驚いた後、意地悪な笑みを浮かべて言う。

「ふふふ、貴方達がエンチャントありなら。私は裏技ありです」

「裏技?」

 ていっ雷玉投擲!

「ほ、宝玉!? うわー! 凄くもったいねー! み、皆、さっさと倒して散在回避だ!」

 カラーレンの言葉に子供達が頷き、戦いが始まる。
 結果は、勝ったと思った所をカラーレンの死んだふりに騙されて負けた。
 卑怯な方法ありだったので何も言えない。
 子供達は目をキラキラさせて見ているから、無駄ではなかったらしい。

「いいか、これでもフーデルは俺達に怪我させない様に手加減してる。敵は人質とったり、躊躇なく急所を狙ったりしてくるから、この戦いを参考にしすぎるなよ?」

「はいっ」

 カラーレンの言葉に頷く子供達。

「どうしてこんなに強くなったんですか?」

「フーデルと戦い続けて、フーデルの料理を食べ続けたから、かな。俺達が田舎にいた頃は、食堂と店と俺達の教育が両立できたんだよ」

 そう言われるとくすぐったい。

「さて、戦いで一通り見させてもらいましたし、宝玉のバランスを考えますよ」

 子供達のサイズを測り、やや余裕を持って仕立てる事にする。
 異世界の道具も使い、全ての装備を一から作ってやろう。
 手紙も書いたし、魔物退治の準備は万端だ。
 早くもコックの子達や商人が訪れ、私は彼らの教育をカラーレン達に任せた。
 翌朝からは奔走するコックたちで騒がしくなる。
 私は、子供達の料理を作るだけで良かった。

「だーかーらー! 錬金術を使う食事は、絶対にレシピを変えちゃ駄目なんだって! 分量を守れ、余計な物を入れんな!」

 カラーレン達は忙しそうだが。
 午前は子供達を見てやり、午後は食事を作った後は受けた注文の品の錬金に集中した。
 たまに商人から仕立てに呼ばれて、サイズを測定する以外は穏やかに時が過ぎる。
 夕飯を作った後は勉強の時間。
 陛下の元教育係として、ここはいい所を見せなくてはならない。
 貴族の子だけあって、カラーレン達に教えるよりは楽だった。
 子供の一人が手を上げる。

「なんですか?」

「錬金術ってなんですか?」

「物を作る時の、ある人に習ったスペシャルな技です」

「僕達も学べますか? 裏技とか。どうやったら宝玉を爆発させられるんですか?」

「カラーレン達にも言いましたが、魔王を倒せたら極意をお教えします」

「それじゃあべこべです! 僕は魔王を倒す為に錬金術を知りたいのに」

 私はその言葉に、考えた。

「では、私に一体一で勝てたら考えましょう」

「絶対ですからね!」

 私はそれに頷き、勉強の続きをした。
 二週間ほどで、カラーレン達の出立の時がやってきた。

「なんだよ、フーデル。この服……鎧? すっげえデザイン」

「フーデル様。私、これ恥ずかしい。ミニスカートじゃない」

「カラーレン、文句を言うのではありません。ルークスには話を通してるので、制服ではなくてこれで行きなさい。フィリア、下にはくズボンを用意してあります。それと、困った時の為にこのポーチに色々と詰めておきました。ちょっとでも困った事があったら、鞄を漁ってみなさい。どんなに困って荷物を捨てる事になっても、これだけは捨てない様に」

「そんな小さなポーチに何が入るんだよ……宝玉とか?」

「隠し味の粉を溶かす時の要領で、力を込めて熱くなったら投げるのですよ。他にも、おやつが入っています。困っている時以外は使ってはだめですよ」

「へー……有難くもらってく」

 可愛い子供達の初陣だ。頑張れ頑張れ。
 私は精一杯手を振って子供達を見送った。

「初陣に手作りの服に手作りの剣に手作りのおやつか」

 陛下が怖い。何故こんな所にいるのか。

「陛下の時は、私が共に行ったではありませんか」

 陛下のじと目が怖い。

「……陛下にも一式プレゼントいたします! お望みとあらばいつでも手料理を!」

「格好良い物を用意しろよ」

 そうして陛下はサイズだけ測って帰って行った。……はっこれが二番目の子供が出来た時に起こるという幼児返りか!
 そんな事を考えていると遠くから石が飛んできた。痛いです、陛下。
 初陣は、時間が掛かった。五ヶ月も掛かれば、心配になって当然だと思う。
 主人公達だから、心配はないと思うが……。
 四ヶ月目から、カラーレン達の分の食事を作って、魔法の鞄に貯蔵する日が続いた。
 どんどん精度の上がって行く料理。疲労回復、傷回復、状態異常とつけられていく効力。
悶々と日々を過ごしていると、ようやく子供達が帰って来た。
 ぼろぼろだった。あれだけ強力に作った装備が破れているとか、ありえない。

「カラーレン! パジー! カルドン! フィリア! ミリー! ケイリア!」

 私が走って子供達の所に行くと、子供達は私に縋りついて言った。

「お腹減った……寝たい」

「料理は出来てる。お前達も、少し食べていけ。報告は心配いらない。子供達に人を呼ばせる」

 兵を率いていたルークスは疲れた顔で頷き、食事を食べた後に全員眠ってしまった。傷が酷い証拠だ。カルドンの傷が特に酷い。食事を食べたら治るだろうが、全部食べきれるかが問題だ。はらはらして見守る。
 ルークスが眠る前に報告書を預かったので、やってきた伝令に渡す。
 一番に目覚めたのは、ルークスで、それでも一日掛かった。

「私は!」

「一応、伝令に報告書は渡した。早く報告に行くんだな。引きとめて悪かった」

「体が、軽い……。こうしてはいられない、陛下に報告をしなくては」

 逸るルークスに身支度をさせ、朝食を食べさせる。ルークスは走って向かっていた。
 次々と目覚める兵士達の為に身支度を手伝い、食べさせる。
 何故か王宮に呼ばれたので、参内する。
 
「来たか。ルークス、もう一度説明してやれ」
 
 ルークスは深々と頷き、語った。

「私達が向かった所に行ったのは、魔王の側近でした」

「初陣で!?」

「予想もできない事だった。そいつは更に、魂具を取り出せなくした」

 いたな、そういえば。

「我々は敗走しました。逃げる際に荷物を投げ捨てて、飢えかけた。その時、パジーが言ったのです。おやつを少し貰って来たから、分け与えると。そして、ポーチに手を突っ込むと、出てくるわ出てくるわ、全員に行きわたる分の傷薬やら飲み水やら食べ物やら武器やら服やらが。残らず物を出させると、フーデル様の字で書かれた戦いの書まで出て来たのです」

「えっ必要な分だけ出せばよかったのに」

「そして、それを読んだカラーレンが言ったのです。なんとしても、自分達が奴の魂具封印の宝玉を壊して見せると。食事を食べると、不思議と元気が湧いてきました。不自然なほどに。そして、我らは舞い戻り、カラーレン達は宝玉のような物を投げまくり、それは雷や爆発を呼び込み、さらに果敢に剣や大鎌で応戦しました。そして、ついに宝玉を壊す事だが出来たのです。後は、我らも加わって大激突でした。所が、不思議なのです。酷いけがをしても、フーデル様の字で全快と書かれた小瓶の薬を飲むと、たちどころに元気になったのです。フーデル様の手作りの服は、魔物の一撃を受けても決して破れないどころか、薄い膜を張ってそれを防いでくれるのです。戦闘中に着替えを敢行するなど、それらをふんだんに使い、魔王の側近とそれを助けに来た魔王の軍団と激しい戦いを繰り広げ、ようやく掃討し、食べ物を荒らされた街の住人に分け与え、帰って参りました。ポーチの品物は、全て活用させてもらいました」

「あんな高級な薬をがぶがぶ飲んだのですか! 魔王退治用が……っていうか、ポーチの中身を全部使ったって、ええ? あれだけの物を全部消費って……け、経費が……貴重な薬が……」

「必要だったのです、フーデル様」

「待って下さい。考えを整理させて下さい」

 もったいなさ過ぎる。あれだけ詰め込んだ物を全部って……。

「まさか、魔王退治にはもっと経費が!? た、大変だ。今のままでは貯金が尽きてしまいます。もっと稼がなくては……! 大体、たかが側近程度にこれだけ苦戦するとは完全に計算外です。訓練を見なおさなくては!」

「フーデル、違うのだ。余が言いたいのはそんな事ではない。余が言いたいのは、魂具を使えなくする敵がいる事も予期していたかのようなフーデルの特訓と、いくらでも物が出てくる不思議なポーチと、そこに入っていた不思議な道具の数々と戦いの書に入っていた魔物の分析と戦闘の仕方の事を言っているのだ! 名家や神殿にも、子供達に宝玉を貸せと手紙を送っているそうだな。なにより、たかが側近? たった五ヶ月で魔王の側近を死者なく退治したルークスに掛ける言葉が、たかが側近か!?」

「ああ! いやしかし、きちんと訓練を積んでいればカラーレン、カルドン、ミリー、フィリアの四人で倒せたはずです。あの子達は本来、それほどまでに強い。それに、正直あれだけ物資があれば……」

 だって正史だもの。なんでこれほど弱体化が著しいのかわからない。こんなに鍛えて、色々与えているのに。

「馬鹿な。そんな事。できるはずがない」

「このフーデル、陛下の為なら不可能も可能にする所存です! 魔王を退治し、陛下の御代を平和に溢れた物にする為ならば、私は手段を選びません」

「……フーデル、お前に何があった。何がお前をそうさせる。錬金術を、どこで手に入れた」

「一年の間に、私の魂はある場所に囚われていました。そこで仲間達と、元の世界に戻る為、それこそ陛下には決して言えないような、どんなにあくどい事にも手を染めました。そして、戻る際に櫻崎萌子と言う者からこの世界の未来を聞きました。カラーレンが九人の仲間と共に、世界を救う物語を。だから、私はその仲間の一部を集め、鍛えようと思ったのです。放置は出来ませんでした。パジーは孤児として一時魔王軍に身を落とす事になるし、私は命を落とす命運だったから。私は運命を変えたかった。そして運命を変えた以上、私はカラーレン達に絶対に魔王を倒させねばならないのです」

「ほう、お前を導いた神はサクラザキモエコと言うのか」

「え!?」

「未来を見通し、技術をもたらすなら、神であろう。魂具の知識を与えしシースティーアも神となった。ああ、お前も神として祭らねばな」

「え、あの……」

 何か神になった。

「ふむ、しかし、魔王が倒せるか……倒せるのならば、倒してやる。フーデル、いや、フーデル神よ、我らに装備を与えたまえ。とりあえず騎士団の制服作れ。費用は出す。それともう王宮から出るな」

「ええええええええええ!?」

 苛めですか、素材集めとかどうしろと!? うう、仕方ない。新たな、強い調合を探しだすしか……。
 神として祭られるのは断固拒否したい。拒否したいが、慣例なので逆らえない。
 陛下のいい笑顔が恨めしい。
 しかも、後でパジーが大鎌から大釜にクラスチェンジしたと聞いて苛められた。
 陛下に神殿が完成するまでは孤児院にいてもいいというお許しを貰ったが、人が押し寄せて大変だった。

「フーデル、神だったのか!?」

「駄目よ、カラーレン! フーデル神様って言わなきゃ!」

「うう……子供達よ、これから陛下に奴隷の如く装備作りに走らされる予定なので、それまではみっちり訓練つけますよ。それと、錬金術、ちょっと本腰入れて教えます」

「俺、鍛冶やりたい!」

「私、縫い物やりたい!」

「料理人!」

 騎士団付きの子供達から、瞬殺された。
 成長著しくて、私は少し泣きたい。
 そんなこんなで、一年がたつ頃に渋る陛下から休暇を貰った。
 カリュート達とダンジョン探索するのである。
 ひさびさに四人でダンジョン探索をすると思うと心が躍る。素材を沢山融通してもらおうと、心に決めた。



[28146] カリュート2
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:9a8f54f5
Date: 2011/06/12 12:24
 萌子の姿が頭から離れない。フーデルは絶対に枯れている。エルーシュは絶対におかしい。
 誰だって、女の子のあんな姿の絵を見たら興奮するはずだ。俺は正常なのである。
 萌子、ああ萌子。
 俺は一人悶々としていた。
 俺は萌子が好きなのだろうか? わからない。
 けれど、萌子が出来ると言ってくれたのだから、俺は頑張ってみようと思う。
 世話を頼んだ植物も、そろそろ実った頃だから受け取りしないと。
 俺は目深なローブを着て、魔術師ギルドへと向かった。

「頼んでいた収穫物が欲しい。これに詰め込んでくれ」

 身分証明と魔法の鞄を渡してそう頼むと、受付の人間はパラパラと台帳をめくり、頷いて奥に消える。
 それを待っていると、ギルド長から肩を叩かれた。

「戻ってきたか、カリュート」

「……考えてみれば、何故私が逃げなくてはならないのか疑問に思いまして。旅にも疲れましたし」

「……すまなかったな。まさかお前が古代の魔術師だったとは……」

「どんな噂が流れているんだ……。俺はそんなんじゃない」

「では、どんなものなのだ、お前の知識とは。お前の知識があれば、魔術師ギルドは更に発展できる」

 俺は、しばし考える。

「表舞台に出ると決めた。けれどそれは、誰かれ構わず知識を垂れ流すって事じゃない。家を改装して、店を作ろうと思うんだ。そこで研究しながら品物を作って売ろうかと思う」

「魔術師ギルド内に住まないと、危ないぞ。お前は少し有名になり過ぎた」

「護衛を雇うさ」

 なおも引きとめるギルド長を置いて、俺は大工に家の改装を頼んだ。
 その足でレンジャーギルドへと向かう。ちょうど、酒を飲んでいるサバランがいた。

「サバラン。この通り、戻ってきた」

「おお! 随分有名になったじゃねーか、カリュート」

「そんな大した物ではないんだがな。それなりに信用出来る人間を雇いたい。交代でも、同じ者がずっとでも構わない。契約更新は一か月単位で、護衛任務だ」

「戦士ギルドか魔術師ギルドの方がいいような気がするが……」

「お前は人を見る目がありそうだし、人脈も広そうだったから頼らせてもらったんだが……迷惑だったか?」

「いや、かまわねーぜ」

「頼む」

 しばらく待って現れたのはガーバスと魔術師集団だった。その筆頭がレイフォンである。
 もっと言えば、レイフォンとそのハーレムである。

「帰ろう」

「待て待て待て待て! レイフォンがあんたを追っかけていたのはわかるが、そんなの魔術師を雇う上じゃ誰でも同じだ! 弟子にする条件は避けられん。その中じゃこいつが一番信用置けるんだって」

「その取り巻きはどうなんだ!? 俺はこんな大人数を雇うつもりも、無制限に弟子を取るつもりも無いぞ。ソロで信頼のおける奴はいないのか」

「なによ、けちんぼっ 私はレイフォンの弟子で、あんたの弟子なんかになる気はないわよ」

「あ、あたしはレイフォンを見張らないと……」

 女達が口々に言うのを、レイフォンが宥める。

「まあまあ。今回は俺だけ依頼を受けるって事で……な? 埋め合わせは後でするからさ」

「その埋め合わせは俺の錬金術を教える事ではあるまいな」

 俺は警戒した眼差しで言う。
 図星だったらしく、レイフォンは駄目かな、と頭を掻いた。
 別に、広めた場合著しい損害が俺に生じるわけではない。
 それでも、俺を出汁にしてレイフォンが錬金術の始祖となる事を考えると、許容できる物ではない。そしてそれは作中で例がある事である。レイフォンは将来、魔術師学校の校長にまでなるのだから。もちろん、カリュートは始祖ではない。始祖ではないが、それでも二十年かけて得た技術を安売りしたくはなかった。

「わかりましたわ。これは王女からの命令です」

「嫌だ」

 神速で答えて、しまったと思う。
 レイフォンのハーレムの一人……カトレア王女は、目を瞬かせた。
 
「あ、貴方、命令に逆らいますの?」

「何の代償も示す事無く、人が積み上げた物を一瞬で横から奪い去る。そんな人間が王女である事が恐ろしい。知らないと思ったか。レイフォンには魔術師学校の長になる話が持ち上がっているのだろう。そこで、錬金術がどう扱われるか考えたくもない」

 そこで、カトレア王女は気付いたように首を傾げた。

「ああ、貴方も教師になりたいのですね。よろしい。貴方の腕前によっては、教師の一人として加えてあげてもよろしくてよ」

「その条件が最初から出てこない時点で、交渉に値しないと言っているんだ。言っている事がわからないか? 最初から相手を尊重するつもりのない、最低限の事も交渉で引き出さないといけないような相手と契約をしたくはない。知らない所で「それは契約に無かった」とどんなとんでもない事が行われているかわからないからな。今の返事だって、初めから錬金術を俺に無断で広めるつもりだったと認めている事がわからないか。俺は俺に地位を与えるつもりが無かった事を怒っているんじゃなくて、俺の意志自体を全く考慮しない事を怒っているんだ。こういう交渉は、普通だったら錬金術を学校で使いたいから教えてくれと言う所からスタートする話だ。護衛してやる代わりに教えてくれなんて所からスタートする話じゃ絶対にない」

「うーん……。腕は文句なしだし、身元もこれ以上ないくらいしっかりしているぜ、レイフォンは。恩を売って悪い相手じゃないし……。技術ってのは秘匿しきれるもんじゃない。俺は便利になった方がいいと思うが……」

「そもそも恩義に感じる物か。命じたら言う事を聞いた。それで終わりだ。適性者がいないなら、魔術師の護衛はいらない。俺は確かに弱いが、転移が使えるんだし、護衛がいないと絶対に身を守れないってわけじゃないんだ」

「わかりましたわ。後日、武闘大会があります。そこで勝った方が負けた方の言う事を聞くというのはどうでしょう」

 さすがにサバランとレイフォンがこれは不味いという顔をした。

「……馬鹿にしているのか?」

「悔しかったら、勝ってみる事ですのね」

「……話にならん。そんな大会は出場しない」

「なっ! なんて意気地なしなんですの!」

「……帰る。お前達とは絶対に交渉しない。ガーバス、護衛を頼む」

 俺は踵を返し、そしてふと振り返った。

「実は俺は、お前が嫌いなんだ。魔術の神に愛されし男、レイフォン。初めてだろ。お前を嫌いな奴がいるなんて」

「おい、カリュート。今のは不味かったんじゃないのか」

「構わんさ。処刑されそうになったら逃げればいい」

 俺は家に帰って、荒らされた部屋を綺麗に整える。ガーバスも手伝ってくれた。
 大工も来て、忙しく店を整えていると王家からの使いが来た。
 もう、俺は逃げるつもりはない。だから、軽く身支度を整えると、ついて行った。
 謁見の場で、王は人の良い笑みを浮かべて言った。

「その方が古代の魔術を復活せし魔術師か」

「違います。俺が使うのは、全く新しい学問で、俺が始祖と言うわけでもありません」

「しかし、魔法の鞄や絶対に破けない布、その他の不思議な道具を作れる。そうだな?」

「絶対に破けないという事はありませんが……はい」

「余の魔術師の学校を作る計画は聞いているそうだな。単刀直入に言おう。そなたの技術が欲しい」

 俺は迷った。表舞台に出るとは言った。学生時代の輝くような日々に、憧れもある。しかし、大勢の生徒をさばき切れるとは思えないのだ。
 
「錬金術は、俺が老いた頃に一人二人の弟子を取って細々と伝えていこうかと思います。ただでさえ、俺はまだ若く、未熟です。まだ弟子を取るのにも早いかと思います」

「古い考え、だな。それで失われた魔術の知識は、あまりに多い。一つの場所に知識を集め、解放し、切磋琢磨をする事こそ重要なのだ。カリュート、そなたも魔術師ならば、他の者の知識に興味を持たんか?」

「……興味が無いと言ったら嘘になりますが……あいにく、私は根暗で人とやって行く自信がありません」

「レイフォンやカトレアとぶつかったそうだな、あれらと手を取る事は出来ぬというか」

「陰と陽が交わらぬのと同じように、彼らとは交わる事は出来ません」

「残念だ。気が変わったら、いつでも言って欲しい」

 王の部屋を辞す時、子供が二人走ってきてぶつかる。

「いたっ無礼者」

「無礼者!」

 王族……それ以前に原作キャラだという事に気付き、助け起こすと後からお付きの者が走ってきた。

「冒険ごっこなど、危ない真似はおやめ下さい! 殿下達は魔力も無く、お身体も弱いではありませんか」

「カトレア姉上はやってるじゃないか!」

「カトレア様には才能がおありなのです」

 子供達は、途端に顔を歪める。

「才能、僕達にだってあるもん!」

「そうよ、きっと……きっと何かの才能が……だって、でないとずるいじゃない!」

 必死に言い募る子供達。双子のマロイとマリーだ。彼らが魔物の手に掛かって死ぬ事が、カトレア王女の成長イベントとなる。
 気になってはいたが、他人が手を出せるものでもない。その時はそのまま別れた。
 そして、次の日。
 大工たちが作業を終えるまで町の外でガーバスと素材集めをしていた時、カリュートは驚いた。
 魔物に二人が襲われていたからだ。
 魂具を出し、雷撃をセットする。
 落ちた雷に魔物は倒れ、ガーバスとカリュートは子供達に駆け寄った。
 怪我をしていた子供達に回復効果のある食事を食べさせ、さすがに注意をする。

「子供がこんな所に来るものではない。死ぬ所だったんだぞ」

「嫌だ! 僕達も冒険者になるんだ」

「冒険者になるよりも、王族としての勉強をする方が、よほど民の役に立つ」

 そう言いつつも、冒険者として名を上げたカトレアが次代の王国を継ぐ事をカリュートは知っていた。最も、カトレアが王国を継ぐ事について、カリュートは苦々しく思っていたが。

「でも、父上はケルト兄上より、カトレア姉上を王として選ぶつもりだ……」

 目を見開くカリュート。そうだ。当事者である子供達が知らぬはずはない。
 しばし考えた後、カリュートはこう答えていた。

「……俺の試験を受けるつもりがあるか」

「試験?」

「そうだ。それに受かれば、そしてちゃんと国の偉い人としての勉強を学ぶのであれば、冒険者としてのノウハウを教えてやってもいい」

「受ける!」

「受けるわ! ケルト兄上も受けていい?」

「国王としての勉強をサボらないのであればな。一週間後、準備をしておくから俺の家においで。カリュートの家と言えばわかるはずだ。……何、冒険者にも色々いる。適性があるのも、一つくらいあるだろう」

 子供達と別れ、ガーバスの方を振り向く。

「忙しくなるぞ。ちょっとダンジョンの方にも足を延ばして薬草採集に付き合ってくれ」

「お前、カトレア様と敵対するつもりなのか?」

「そんなんじゃないさ。ただ、このまま見殺しにするのも後味が悪い」

 俺は、せっせと素材を集め、わかりやすい調合探しを開始した。
 一週間後、マロイとマリー、それに手を引かれたケルト、お付きの者、レイフォン達が家に勢ぞろいしていた。
 秘密にしろと言わなかった自分に腹が立つ。

「……部外秘の技術を使う。関係のない者は出て言ってもらおう」

「そうはいきませんわ! マロイとマリー、ケルトお兄様を変な儀式に使われては困りますもの。ここで魔術の知識を持つ私達が、確認させて頂きますわ」

「……勝手にしろ」

 ため息をついて、床に描いた魔法陣の上にまずマロイを誘った。

「心を静かにして……大丈夫。怖い物はない」

 そう言いながら、儀式を行う。フーデルの世界では、赤子が産まれた時にする儀式である。これで、魂を分割するのだ。
 魔法陣が発光し、風が吹く。

「カリュート、熱い。苦しい」

「産みの苦しみだ。心配はない。赤子でも出来る事だ」

 五分ほど待っていると、光が収束した。

「少し長かったな。手を、こちらへ。一つ言っておくが、この儀式では、その者の心の形がわかる。それによっては、俺はマリーに物を教える事が出来ない。冒険者としてふさわしくないものが出たら挫折するだけだし、まだ心が固まりきっていない子供に危険な業を教えるのは怖い」

マリーは真剣な顔をして頷き、手を伸ばしてきた。
 その手を繋ぎ、魂具を引きだす。
 それは、大きな弓だった。スロットルも十分な数がある。
 カリュートは、それにいくつか宝玉を嵌めては外した。

「結構レベルの高い物も問題なく嵌められるな……。一次試験は合格だ、その中から一つ好きな宝玉をくれてやる」

「これは、何? 私の心は弓なの? 宝玉って何? 嵌めると気持ちがいいわ」

「色々教えるのは全部の試験が終わってからだ。気にいったのを選ぶといい。そうだ、これだけ。これは大切な弓だ。命と同じと思って、絶対に壊さない様に」

 マリーは視線をさまよわせ、氷の宝玉に目を止めて、それを嵌めた。
 マロイは双剣。ケルトは空の甲冑だった。試してみた所、着て戦う事も戦わせることもできた。

「凄いな! こんなタイプの魂具は見た事がない!」

 俺は思わず声を上げる。それぞれの手を握るついでに錬金術に必要な魔力も測ったが、三人とも問題はなかった。
 萌子から貰った夢想石は使う必要が無いな。

「次は私の番ですわね」

「じゃあ、次の試験だ。そこに小さい鍋が三つあるな?」

「私の身で試してみなくては、安全かどうかわかりませんわ!」

「それなら最初に言えば良かっただろう。安全かどうか確かめる? ケルト様達がもうしてしまった後で、どんな意味があるんだ?」

「まあまあ、カリュート。試験ぐらい、試しに受けさせてくれたって構わないだろ? 俺も自分の心がどんな形なのか興味がある」

「……私がマロイ様達に術を教える意味を、本気で理解していないのか?」

 その言葉に、レイフォンは気付いたらしい。

「カトレアと敵対するつもりなのか? そんな事をしなくても、ケルト様が国王になるのは自明だと思うが」

「何の話ですの?」

 カトレアが可愛らしく小首を傾げる。

「とにかく、これ以上邪魔をするなら出ていってもらうぞ」

 そして、レシピを王子達に渡す。

「回復薬のレシピだ。このレシピにそって作ってみるんだ。分量は絶対に守る事」

「わかったわ」

 彼らは食材を混ぜ、鍋で調合して行く。
 魔力の塊を粉にした物である魔力粉を入れると、慎重に鍋をかきまぜた。

「その粉が溶けるように念じて……そうだ。うまいぞ」

 完成した回復薬を小瓶に入れ、効果を試した後に三人に配った。

「試験は合格だ。俺が教える内容はこんな所だな。興味を持ったなら、更なるレシピを教えよう。道具は貸してやる。……ただし、技術は門外不出だからな」

「回復薬とは随分簡単に作れるのだな」

 ケルト王子の言葉に、俺は苦笑する。

「レシピを見つけ出すまでが大変なんだ。その道具も、全て特殊な物だ。しかし、素材集めを部下に任せれば、王宮から出ずとも錬金術は探究できる。戦闘訓練は城でも出来るのだし、マロイ様もマリー様も、しばらく王宮で鍛錬を積まれてはいかがか」

「貴方がついていれば、魔物退治も問題ないのじゃないの?」

「基礎を積まれてからの方がいい。それともマリー様は、弓矢を獲物に当てられるのですか?」

 俺の質問に、マリーはうっと言う顔をして首を振った。

「俺で良ければ、王宮でなら相手をする。問題なく強くなったら、素材の採集に行こう。それまではお付きの者無く王宮の外に出ては駄目だ」

「うん!」

「私は城を開けるわけにはいかないが、それでも出来るだろうか」

「もちろんです、ケルト様」

「それで、お前の秘術を教わる礼はなんとすればいい?」

「調合方法を守る、俺の許可なく錬金術を広めない、危険な事はしない。この三点で十分です。……対価を貰えば、錬金術に値段をつける事になる」

「カリュートは本当に錬金術を大事に思っているのだな。わかった」

 そして俺は、魔力粉といくつかのレシピを渡す。
 レイフォンは、それを興味深く見ていた。俺はこの時、原作キャラを甘く見ていたのだ。
 王宮に戦闘学を教えに行った時に、マリーは困惑した顔で言った。

「魔力粉が少ないの。ちゃんと管理してたのに……盗まれちゃったかも」

「ならば、レシピも書き写された可能性があるな。まあ、その内動きがあるだろう。次からはレシピは渡さず、口伝にしよう。覚えきれるか?」

「頑張る!」

 二ヶ月後、回復薬は暴落して、俺の店に魔法薬を作っていた薬師達が殺到した。

「錬金術とやらのせいで俺達の商売あがったりだ!」

「俺も王族にしか教えていない。それも、限られた生産しか出来ない形でだ。約束を破る方達でもないし、誰かが王族から盗みを働いて、解析したんだ。錬金術だが、どういう形で広まってる? 犯人探しに協力してくれ」

「犯人捜しなどどうでもいい。俺達にも錬金術を教えろ!」

「あのな。錬金術で扱うのは回復薬だけじゃないんだ。犯人を見つけない限り、暴落は他の商品にまで及んでいくぞ。俺も王子達に一般に害を与えうる錬金術を教えるのは一旦ストップするが……」

「いいから錬金術を教えろと言っているんだ!」

「……誰か、高貴な方か高名な冒険者にでも頼まれたのか? そう言って俺を脅して知識を奪い取れと。確かに、奴らならやりかねんな」

「何をわけのわからない事を言っていやがる!」

 薬師達が手を上げる。
 俺はコクエイを呼び出し、その場を逃れた。
 マロイ達の所へ行って匿ってもらう。後で、俺の家が燃やされた事を聞いた。
 一か月もした頃、レイフォンが、駆けこんでくる。

「カトレアが倒れた! なんとかしてくれ」

「暴落しまくっている回復薬があるだろう」

「どんな回復薬も効かなかったんだ!」

「俺に何の関係がある。俺は医師じゃないんだ」

「魂具を作る術の最中に倒れたんだ!」

「尚更知るか。何故俺が盗人のフォローをしなくてはならん」

「カリュート! そこまで俺やカトレアが嫌いか!? 俺達がお前に何をした!?」

「技術を盗んだ。回復薬の技術を勝手に広めた。お陰で薬師達に俺は殺されかけた。ちなみに家は全焼だ。大体、未知の技術を盗むなら、それなりの覚悟をするのが当然という物だ。盗んだ相手に泣きつく? 馬鹿も休み休み言え。お前達は今まで全てに愛され、何でも許されてきたがな。俺はそうはいかんぞ」

「カトレアは……! あいつは、そこまでするつもりじゃ……」

「やっぱりカトレアか。そんなつもりがなければ何をしてもいいのか? もう一度言う。カトレアが王女など、ぞっとするな。俺達がお前に何をした、か。笑わせる」

 そこで、マロイとマリーに袖を引かれる。

「カリュート……お願い」

「俺と王子達以外の全ての者達から錬金術と魂具の儀式の知識を抜く事が出来たなら、許してやるが?」

「カリュート……頼む。俺達は、魂具の知識も広めてしまったんだ。そこまですれば、観念してお前が教えるはずだとカトレアが……」

「下種が。一つ教えてやる、あれは、魂の一部を裂いて道具とする儀式だったんだ。それほど難易度のある術じゃないが、だからって素人が使っていい業じゃない。間違えて裂いたり、何度も裂くと死に至る上、転生も出来なくなるからな」

「さ、最初から教えてくれていれば、俺達も……」

「そういう事をするお前達だから、教えなかった。断言するが、教えていたら教えていたで何か問題を起こしていたろうな。学校で錬金術を教える事は既定路線だったようだし」

 レイフォンと言い争いをしていると、王から呼ばれた。その場には、ケルト王子や王妃もいた。
 王は、頭を抑えて言った。

「カトレアが倒れた。錬金術でどうにかなるか」

「恐れながら。それは王女でありながら危険な術を試みた事が原因と聞いています」

「治す方法はないというのではなく、治す気が無いという事か」

 ケルト王子の言葉に、俺は頷いた。

「症状にもよりますが、治すのは難しいのです。高価な薬と高度な治療が必要となってきます。しかもカトレア王女は、その危険な業を一般に広めた様子。全員を助ける事が出来ない以上、その元凶たる方を助ける事もまた、出来ません」

「……カトレアの所業は、聞いている。技術が安価になる事の弊害など、考えてもいなかった。それはそれで考えなくてはならないが、全員を助けられないから一人も助けないという理屈はあるまい」

 ケルト王子はため息をつく。

「カリュートは、カトレアが勝手に技術を、それも危険な技術を広めた事を怒っているのです。そうだろう、カリュート」

「……取り返しのつかない事です。半端に成功するのがまた、悪い。後は広まって行く一方でしょう」

「今回はワシの顔に免じて許すつもりはないか」

「恐れながら、そんな段階は通り越しています」

「カリュート。カトレアの罪は罪で、明らかにし、裁こう。一般の者達の治療代も責任もって城で払い、別に報酬とお前に対する慰謝料も払う。これは錬金術の対価ではなく、カトレアの暗躍で燃やされたお前の家の保証だ。それでどうだ」

 ケルト王子の言葉に、俺は考えた。

「カトレアの罪を裁くとは……カトレアは臥せっているのだぞ」

「では、カトレアは全く悪くないと? そう思うなら、今ここでカリュートを説得して下さい。カトレアは王族だから、勝手に物を兄弟から盗もうが、人から盗んだ危険な業をそれとしらせず民に広めようと罪ではないのだと」

 俺とケルト王子の視線を受け、王は渋々頷いた。
 早速魂具を作る儀式は危険な業であり、カリュート以外の使用を禁ずる、また命の危険があるから診察を受けるようにとの城の交付がされた。
 早速俺は薬を調合する。
 カトレア王女に薬を飲ませ、特殊な儀式を行って体の中の魂具を全て出す。
 すると、出るわ出るわ、魂具の山が。
 その全てから宝玉もどきを外し、分解してカトレア王女に戻す作業をする。
 もしもの時の為に、フーデルに対処法を学んでいて良かった。
 しかし、それでも難しい術に、俺は汗を流した。
 レイフォンは我儘を言ってカトレアの傍にずっとついている。

「いいか、これはもっと難しい儀式なんだから、間違っても真似するなよ」

「……わかってる。けど、お前一人に大勢の治療が出来るのか?」

「お前達が原因だろうが! あまりふざけた事を言うと本当に怒るぞ」

 どうやら、原因不明の奇病と民の間では取られていたらしく、交付が広まるに従って城に人が溢れた。関係のない病の者もいるから、選り分けるのに大変だ。
 人々をそれぞれ診断していると、卵を投げつけられた。

「カトレア様を騙した悪い魔術師! 皆を治療したら、この国から出て行け」

 慌てて卵を投げた子供を下がらせようとする周囲の者。しかし、俺は子供に視線を合わせ、問うた。

「城下町ではどういう話になっているのか、聞かせてくれないか。一応、俺は被害者なんだが」

「嘘だ! 皆言ってるもん。聖母カトレア様が、技術を独占する悪い魔術師にお願いして、回復薬の画期的な作り方と武器の作り方を広めて下さったって。でも、魔術師は悪い奴で、欠陥のある術をカトレア様に教えて、それを広めたカトレア様に罰を受けろ、お嫁さんになれって迫っているって」

「はっはっは。あんな性悪女を嫁にするなどごめんだな。盗みがお願いだと初めて知った。……それは正式に広められているんだな? 俺に約束した罪を明らかにするというのは、そう言う事なんだな? ちょっと待ってろ、カトレアの魂を切り刻んで以前と同じ状態にしてやる」

「そうは行きませんわ! よくも私を罪人にしましたわね」

 カトレアが、杖を構えてそこに立っていた。既に元気なようだ。

「盗人猛々しいとはこの事だ。予想していたが、命を助けられて感謝のかけらも無いとはな」

 俺も大鎌の魂具を出す。

「待て、カトレア。たった一人しかいない医師と事を構えるなど、正気か。お前も自分の罪を自覚して、大人しく罰を受けろ」

 ケルトがカトレアの杖を抑える。

「だって! 私はレイフォンが……! こんな奴の夫になるなんて!」

「待て、夫となるのは既定路線なのか? 俺がカトレアに惚れる事なんてありえない」

 キャンキャンと吠える俺とカトレアに、ケルトは爆弾を落とした。

「それがいちばん良いんだ。カトレアのやった事が、カリュートの責任になるから」

「ふざけるな! 何故こんな女の悪行の責任を俺が取らなくてはならない!」

「こんな女ですって!? 悪行ですって!? 侮辱は許さなくってよ!」

 ケルトは頭を抑えた。

「カリュート。もう、広まった知識を回収するのは不可能だ。危険だとわかっていても、人々は新たな技術を探求するだろう。ならば、犠牲者を増やさない為には正しい知識を広めるしかない。魂具だけじゃなく、錬金術での事故の報告も相次いでるんだ」

「なんで俺が!」

「そこで、カトレアを嫁にする事で責任を発生させるわけだ」

「俺には好きな人がいるんだ。それは出来ない」

 咄嗟に言って、わかった。俺は萌子が好きだ。

「安心しろ。カトレアは第二夫人で良い」

「なんですの、それ!?」

「良しわかった。ケルト様、貴方に俺の知識を授けます。そして俺は逃げます」

「旅に出るのはいいが、あまり妻に寂しい思いをさせるなよ。父上には先手を打たれたが、真実はちゃんと記録しておくから。……結婚は既定路線だ。さすがに今回は城内でも問題になってね。カトレアは人気も高いし。反感を最小限にしつつ罰を受けさせる。これが唯一の解決方法なんだ。別に、レイフォンと駆け落ちしても構わないよ? それでもカリュートが王家の親戚になった事実は変わらないし、この場合、レイフォンの校長の話は立ち消えになるだろうし、カトレアの王位継承権は剥奪されるけど」

 ケルトの言葉に、カトレアは蒼い顔をする。
 
「確実に浮気するとわかっている妻などいるものか。俺の財産がレイフォンとカトレアの子の物になるなど、ぞっとする。暗殺されるかもしれないし、嫌だ」

「そこら辺は僕が何とかするからさ。学校に銅像も建てるし。不出来な妹を頼んだよ」

 逃げる。俺は絶対に逃げてやるからな。今すぐ患者を置いて逃げると言えないあたり、悔しいが。
 後日、公衆の面前でされたこの言い争いが広まり、俺への憎しみは、そうか、こいつ暗殺されるんだ……という同情に変わったが、そんなの全然嬉しくない。
 余談だが、翌年から立ち上がるという魔法学校の生徒名簿にガーディも載っていて脱力した。もちろん、魔法学校の専攻科目に錬金術があるのは言うまでも無い。



[28146] 櫻崎萌子2
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:9a8f54f5
Date: 2011/06/13 01:18

 家に帰ると、お父さんが鬼の形相で待っていた。お母さんと、心配そうな顔した浩太までいる。うん、一方的にやっぱり泊まりは一か月にします、携帯連絡通じませんは怒るよね。

「萌子、お前、年上の恋人が三人もいるってどういう事だ。お父さんに紹介しなさい!」

「あ、あはは……なんで知ってるの?」

「萌子、お母さんは萌子をそんな子に育てた覚えはありませんよ!」

「だ、だーい丈夫だって! 三人ともいい人だから」

「萌子っ!!」

「萌子!!」

 二人に同時に怒鳴られて、私は肩をすくめる。仕方なく、私は集合写真を出した。
 それを見て、母さんが顔を輝かせる。

「なんて……美形!」

「えへへ、でしょう? 遠距離恋愛でね。一年に一度、一緒に遊びに行くのが精々なんだ。お互い、詳しい事は教えない様にしてるの。あ、もちろん、物やお金のやりとりとかも無いよ!」

「それで、ちゃんと清い仲なんだろうな」

 心配したお父さんの言葉に、私は顔を赤くした。

「や、そりゃ、まあ……。全部曝け出せる仲ではあるけど、そんな生々しい関係じゃないよ。そこまで持ち出すと、関係が変わっちゃいそうだし、うん……」

「じゃあ、友達なのね? もったいないわー。一か月も何してたの?」

「お前!」

 お父さんはお母さんにストップを掛ける。
 
「勉強を教えてもらっていたのです! エルーシュ、あ、これはネットで使ってる名前なんだけどね。凄く頭がいいの。私ももう二年生なんだし、受験に備えて、ね。といっても来年の夏休みは遊び倒す予定だけど!」

「まああ。お母さんに、どんな人達なのか教えて?」

「僕も知りたい!」

 その日、私は何とか危機を乗り越えて楽しく会話する事が出来た。
 問題は、学校である。
 雅が私の机の所にやってきて、大声で言い放ったのだ。

「お願い! 櫻崎さん! あの金髪碧眼の素敵な御方の名前を教えて下さいませ! さ、三人も恋人がいるんですから、その一人の名前を教えて下さるぐらいいでしょう?」

 ざわっと教室がざわめく。
 
「あ、あの、雅、落ち着いて……貴方には好きな人が他にいるはずよ、そうでしょう?」

「嫌ですの! 大勢の内の一人なんて! 何人にも思われるなんて、卑怯ですわ、ずるいですわ、お名前と、御趣味と、好きなタイプと、好きな食べ物と、普段の写真でいいですから!」

「多いよ! ……まあ、写真くらい渡してあげてもいいけどさ」

 私が写真を取り出すと、雅は奪い取る。
 クラスメイトが寄ってきて、その写真を見て声を上げた。

「すげー!」

「かぁっこいい……」

「やだ、凄い大人な人ばっかり……」

「それで、本命は誰ですの!?」

 すごい剣幕で言ってくる雅に、私はつい、ぽろっと言ってしまった。

「カリュートかな……」

 指差したのは、陰気な男。
 雅はあからさまにほっとした顔をして、クラスメイトは驚きの声を上げた。

「な、何よ! カリュートって、凄く頼りになって格好良くて、それで……」

「それは全員でしたわ」

「ま、まあそうだけど……」

 その後、当たりさわりのない話をする。どうしよう、一年後の密会に雅がついてくる勢いだ……。
 でも、久々のクラスメイトとの会話は楽しかった。
 その後、授業を受けていると、急に空が暗くなった。

『ホーピアスの祝福を受けた人間に告ぐ! 今日、三時間後に森が丘公園で決闘をしよう。もしも来なければ、女を一人ずつ浚っていく。まずは萌子、お前だ』

 嫌な事に、フラグはしっかりと立ってしまっていたらしい。私は、ゆっくりと立ちあがり、準備をする。

「あの、萌子さん、まさか……」

「戦わないと浚われちゃうみたいだから、行きます」

 私は先生に告げ、教室を出る。
 準備の時間があるのは有難い。
 私は着替えをして、その上を覆うように夢想石の衣服をまとい、公園に向かった。

「うええ。やっぱりマスコミが来てる」

「あ、また一人、祝福を受けた者らしき学生が来ました! ゲームに出てくるような可愛らしいローブの上に薄いカーディガンを着ています!」

「お姉ちゃん!」

 アナウンサーが喋り、浩太が走って来る。

「こらっ浩太! 危ないから、帰りなさい」

「嫌だっお姉ちゃんが戦うのを見てる」

 まあ、白閃もいるからちょうどいいか。

「気をつけて見てるのよ。お巡りさんが来てるわね。あの人の言う事をちゃんと聞いて、逃げろって言われたら逃げるのよ。それと浩太。こうなったらもう手遅れだから、事情がを聞かれたら話しちゃって構わないわ」

「う、うん……」

 浩太の頭の上にポンと手を置き、私はダークに声を掛けた。

「随分派手な真似をしてくれるのね、ダーク? 今度こそ、約束してくれない? 貴方を倒したなら、ホーピアスから手を引くって」

 焚かれるフラッシュ。
 ダークは、目の覚めるような笑みを浮かべる。

「ああ、来たな。萌子。恋人三人衆はどうした」

「あの人達は、一年に一度しか会えないの。ロマンチックでしょ?」

「あの三人なしで、この私に勝つつもりか?」

「勝つわよ」

 私は魂具を出す。やたらと短い双剣……ううん。短剣が私の魂具。名を、双牙。
 一見すれば弱そうにしか見えないそれに、ダークは、面白そうな顔をした。

「ほう……なるほど。それがお前の本来の武器か。萌子、お前は会う度に、違う面を見せてくれる」

「魅力的な女でしょ?」

「くくく……全くだ。すぐにでも組みふせたいが、役者がそろうのを待とう。正々堂々、力強き乙女たちを物にしたい」

 よりすぐれた女を浚い、一族全体でかわるがわる孕ませてよりよい遺伝子を持つ子を生みだすのもダークの役目なのだ。こちらとしては、溜まった物ではない。

「ねぇダーク、それで、約束の件はどうなのよ」

「そうだな。私を殺せば、部下達は撤退するだろう。それで満足か?」

「……復讐に来たりしない?」

「それはないさ」

 そうしている間にも、人は集まって来る。
 雅が、柊君が、仲間達が集まってきていた。

「ダークを倒せば部下が撤退するそうよ。そう言う事で私はダークを狙うわ」

「気をつけろよ、萌子」

 柊君の言葉に頷き、私は双牙を構えた。
 引き絞られるように、飛び出して行くと、皆が目を見張る。
 身体強化と剣技の魂具だ。
 双牙はダークの変わった形の剣と真正面から激突した。
 受けられたらこちらの物! 雷の宝玉!
 双牙から雷撃を発生させると、剣を弾き飛ばされる。

「……驚いた。この一か月で、何があった?」

「ああ……手を抜いてたの、わからなかった?」

 不敵に笑って見せれば、何故かダークはごくりの喉を鳴らした。
 双牙で切りかかり、謳うように呪文を唱える。夢想石で作った雷の雨で、邪魔をする。
 出し惜しみしない。私はそう決めた。
 闇の触手でダークの足を掴み、私は思い切りダークに切りかかった。
 明らかな手応え。
 けれど、それはダークの腕を裂いただけだった。

「私を……傷つけた……だと……? は、ははは……ははははは! よもや、こんな極上の女がいるとは思わなかった。しかもその力、夢想石だけではないな!? 未知の力! 萌子! お前は絶対捕えて見せる!」

 エイリアンの一部が、のんきに見ていた野次馬に向かった。
 狙いは、浩太!
 でも、私は決めた。出し惜しみしない。

「白閃」

 浩太の影から出た小さな竜が、可愛らしい口を開ける。
 そこから出るのは、凶悪な光のレーザー!

「やだ、アキレス腱をそのままにしておくと思った? ダーク、貴方、私がそんなにずぼらな女だと思っていたの?」

 そう言って見せれば、エイリアン達が歓声を上げた。
 明らかに欲情に濡れた瞳と、言葉がわからなくとも感じ取れる卑猥な野次。
 追いつめれば追いつめるほど、ダーク達のテンションが上がって行くのは何故だろう。

「まあいいわ。貴方好みじゃないし。この場で首を落とさせてもらうわ」

 双牙をしっかりと握りしめ、走る。
 激闘は一時間ほど続いた。そして、ダークの上に馬なりになり、双牙を振りあげたその時、お巡りさんの声が私の耳に届いた。

「君! 待ちなさい! その男は重要参考人として国で預かる!」

 私はため息をついた。殺人罪にされては、浩太が大変な目に会う。

「命拾いしたわね、ダーク。でも、負けたんだから手を引きなさいよ」

「ああ、ホーピアスからは手を引く」

 ダークは素直にそう告げて、警察の人しょっ引かれていった。
 柊君達が、駆けよって来る。

「櫻崎さん、凄いよ! いつのまにそんなに強く!?」

 柊君のキラキラした瞳に、私は引く。あのエロゲの内容を知って以来、柊君は苦手だ。今も順調に進んでいるなら、雅以外の全員と肉体関係にあるはずなのである。
 
「女は秘密を持って美しくなるのよ。ま、夢想石数個使っただけなんだけどね」

 一応、そういう使い方が出来ない事も無い。適当に嘘を言って、私達は政府の人達に保護された。
 ……ここまで大ごとになると、しょうがないよね。
 私達は精密検査を受け、警察に簡単な尋問を受けた。
 と言っても、悪い事をしたわけではないので、取調室に閉じ込められて……と言う事はない。その代り、子供達だけで危険な事をしていたと、凄く怒られた。
 お父さんとお母さんも来ていて、説教は深夜まで及んだ。
 翌朝、起きるとアパートがまたしてもマスコミに取り囲まれており、私はため息をついた。
 この分だと、学校も危うい。今日はテストだから、絶対にさぼれない。
 私は両頬を叩き、気合を入れてドアを開けた。

「学校に行くんだから、通して下さい!」

「ぜひインタビューさせて下さい!」

「それは学校のテストが終わった後で、リーダーの柊君に言って下さい!」

「それはないでしょ。相手の首領と話していたのは君だよね?」

「私達、学生です。学業優先ですから」

 ぐいぐい人の波を掻きわけ、学校へ着いた。
 クラスメイトが集まって来るのに、手を合わせて断る。

「悪いけど、テストで良い点取らないと内申がやばいの。わかるでしょ? 私、留年してるし」

 そして、勉強に集中した。
 数学はエルーシュに教えてもらったが、数学や物理以外にも、国語や歴史、政経、英語と色々な科目があるのだ。
 翌日。不良っぽい人に絡まれた。

「お前、色んな奴と付き合ってるらしいな。俺らも楽しませてくれよ」

「あのね。エイリアン相手とは言え、殺しをした事のある人間をナンパする事が出来るなんて、脳みそお花畑なんじゃない?」

「なんだと!?」

 殴りかかろうとした不良の真横に雷が落ちて、不良は腰を抜かした。
 どうやら、好ましくない形で私の噂が広まっているらしい。
 学校で、雅が話しかけてくる。

「あ、櫻崎さん! 大変でしたのよ。昨日の放送、酷いものでしたわ。櫻崎さんを攻撃するような事ばかり……。しかも、マスコミの方達、インタビューを受けないから、どんな子かわからないし真実を流してるだけだって。しかも、私達に対してもインタビューを受けなければそういう放送をするって脅すような事を言うんですのよ」

「そうみたいね。そういうやり方、好きじゃないわ。まあ、その内飽きるでしょう。ねえ、雅。私は貴方に雇われているから、忠告するわ。そういう方法を使ってくる人達って、何してくるかわからないから気をつけた方がいいかもしれない。盗撮とかは平気でしてくると思うわよ。柊君達とか、まずいんじゃないかな」

 私が言うと、雅が頷いた。

「ええ、気をつけるように言っておきますわ」

 それから一か月。私はインタビューを断り続け、女の子達はアイドルにスカウトされたりした。雅は断っていたけれど。マスコミは騒ぐ一方だが、私はそれを無視し続けた。
 そんな時、私は警察に呼ばれた。そこには浩太と、にやにやしたマスコミの人もいた。

「どうかしましたか?」

「ああ、君の夢想石? の作りだした竜が、人を襲ったんだよ」

 おまわりさんが、苦笑して言う。

「精々威嚇射撃でしょう? それも、正当防衛の」

「まあ、そうなんだが……ほら、君の竜は少し強すぎるだろう?」

「力の加減ぐらい教えてあります。正当防衛で非難される筋合いはありません。正当防衛の範囲を過ぎているというなら、前例と法的根拠を示して下さい。そもそも白閃が怪我をさせたんですか?」

「いや、しかしね……」

「話はそれだけですね。行きましょ、浩太。今度、変な人が近づいてきたら、ちゃんと110番するのよ」

「うん、お姉ちゃん」

「おい、調子に乗るなよ。今回の事、報道してもいいんだからな!」

 マスコミの人が脅すように言う。

「どっちにしろ報道するつもりでしょう? その上、警察で脅しですか? 一般人だから訴えられないと思ってるんでしょうけど、浩太にまで手を出すなら裁判を覚悟して下さいね」

「この人達、僕をむりやり車に入れようとしたんだ」

 私は、冷たい目でマスコミの人を見つめた。

「お巡りさん。浩太はこう言ってますけど。ちゃんと両者の意見を聞いたんですか?」

「どういう事ですか? 私には、インタビューを迫ったらいきなり竜がレーザーを出したっていいましたよね」

「もちろん、目撃者の話を聞いてくれるんですよね。私だってわざわざ呼ばれて調べられたくらいだし」

 私が畳みかける。

「お嬢さん、お嬢さんからもお巡りさんに言ってもらえないかな、なんでもありませんて」

 そして、そっとアイドルになった女の子が奉仕させられている写真を見せる。
 私はさっとそれを取り上げ、お巡りさんに見せた。
 さすがに私がそんな行動をするとは思わなかったらしい。

「すみません、たったいま、私は脅されました。これ、証拠写真です。どうみても犯罪ですよね、この写真。実は私達、インタビューを受けなければ酷い報道をするって言われてたんですけど。アイドルになった子達って、騙されるか脅されて皆こんな事させられてるのか知りたいんですけど。少なくとも浩太を人質にとって私にこう言う事させようとしていたのは確定ですよね?」

「これは……! ちょっと話を聞こうか」
 
「い、いやこれは……!」

 さすがエロゲ世界。罠はどこにでも転がっているのね。白閃は絶対に浩太から外せない。
 私もその子に悪い気はしたが、正直ここで言う事を聞いたら私まで泥沼である。
 私が守れるのは浩太だけだ。
 後日、学校に調べが入り、結構な騒ぎとなった。
 割と大きな犯罪が明らかになり、何故か個人が悪い事になり、私の叩き報道は加速した。
 被害者の女の子に対する報道も酷い。
柊君と雅は仲間の女の子達を守る事が出来なかった事を酷く落ち込んでいた。
 
「俺達、善い事をしていたはずなのに、どうしてこうなるんだろうな……」

「まあ、世の中、力より権力って事ね。柊君、女の子達、しっかり守ってあげなさいよ。口封じあるかもしれないし」

「!! そんな……」

『僕達も守るよ。君達には助けてもらったからね』

 ホーピアス達が言い、それぐらいはしてもらわないとね、と私は呟いた。

『とりあえず、犯罪の証拠映像流してみちゃう?』

「あら。意外と頼りになるのね。それなら、毒牙に掛かる前に助けてあげればよかったのに」

『まだこの星の犯罪基準は勉強不足なんだ。教えてくれればその映像を流すよ』

「柊君、お願い」

「あ、ああ。やってみる!」

 こうして、報道合戦が始まった。
 私達ホーピアスの祝福を受けた者たちに危害を加える者の犯罪映像を放映したのである。
 二、三ヶ月不審者に襲われたりだの報道の叩きだの脅しだのがあったが、私達は励まし合って撥ね退け、ついにホーピアスとその他の勢力に休戦協定が結ばれた。
 その間に私達は三年生になった。これだけ色々あって退学にならなかったのは、ホーピアスの根回しのお陰である。
 ようやくマスコミにつけまわされる事の無くなった私は、浩太と雅を誘い、深夜、某アニメ会社に潜入していた。と言っても、会社の前の広場に来ただけだけど。

「ここで何をしますの?」

「ふふん。見てなさいよ」

 魔法の鞄から大きなSGRを取り出し、「ファンです。受け取って下さいV」とプリンタで書かれた紙を張り付け、私は言った。

「逃げるわよっ」

「え、ええ!?」

「すごーい。でかーい。本物のSRG?」

 翌日、思った通り凄いニュースになった。
 試しに乗ってコックピットを面白半分にいじっていたら動いたとの事で、慎重に一度解体・研究される事となったらしい。
 エルーシュへのいい土産話になりそうだ。
 さらに、テレビでは捕虜になったダークに対する観光案内や、オタク文化と言う事でSGRの紹介など、色々されていた。
 その後、ダークへのインタビューが行われる。

『我々の目的は新たな可能性の探求だ。ホーピアスは諦めるが、我らと戦った戦乙女達はぜひ、我が星に来て子を産んで欲しい。強い女は強い子を産む。だから、強い女は何よりも尊ばれる。特に私に勝った萌子には、複数の部族が求婚に来るだろう。このSGRについてだが、これもまた興味深い。これはエルスの部族が調査に来る事になると思う。これを作った者が年頃の女なら、求婚が為されるはずだ』

 ……ちょっと待て。
 ホーピアスからは手を引くけど、私達からは手を引かないって事?
 ぬかったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
 結局、地球で色々と報道されてしまった子達は、地球にいる事に耐えられずにダークの所に嫁入りする事になった。
 犠牲にならなかった子も一人いるので、柊君には彼女だけで我慢してもらおう。
 政府間で話がとんとん拍子に進んでいるので、私には今更止めようも無い。
 私の手は、浩太しか守れないのである。
 一応、雅には絶対にエイリアンに嫁入りするなと言っておいた。
 私の所にはまたマスコミと、今度は政府関係者まで日参するようになった。
 曰く、嫁に行って異星人外交の礎になれと。
 絶対に嫌である。
 ……逃げちゃおうかな……。でも浩太がいるしな……。
 一応、高跳びの用意はして魔法の鞄につめているが、踏ん切りがつかない。雅もフーデルにプレゼントなんて買って、一か月お泊まりセットと共に私の鞄に詰めてるし。
 夏休みが始まる直前。悩んでいた私は、学校の上を飛ぶ円盤達に気付いた。
 多い、多いよ!
 しかもダークより強そうな人が続々と!

「先生! ちょっと大変そうなのでちょっと長い夏休みに入ります!」

 私は白閃を呼び、教室を駆け出る。足早に走りながら、両親に謝罪のメール。
 雅もまた、走ってきた。

「大丈夫ですの!? いっぱい来ましたわよ!」

「ちょっとカリュート達の所に高跳びするわ」

 屋上につくと、近くの小学校から、白閃に引っ掴まれて浩太がやってきた。

「浩太! ごめん、一緒に来て。カリュート達の所」

「ほんと!? 僕会いたい!」

「フーデル様の所なら私も行きますわ!」

 雅はしっかりと私に捕まって離さない。
 ああ、やっぱりこの展開。

「後悔しても知らないからね、雅!」

 そして私達は、この世界から消えた。
 とほほ、いつ戻ろう……。戻れるのかな……。




[28146] 閑話 2
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:9a8f54f5
Date: 2011/06/14 08:32
 カリュートの家に、萌子達三人と雅と浩太は現れていた。

『ここはどこですの?』

『萌子。ご婦人達も連れて来たのですか』

 フーデルが問うと、雅は凄い勢いで髪を整え、魔法の鞄からフーデルへのプレゼントを出した。

『フーデル様、あの時は助けて頂いてありがとうございます。こちら、ささやかなお礼ですわ』

『一年前の事で随分丁寧ですね。ありがとうございます』

 エルーシュは非常用の大容量の鞄を抱えていて、萌子に嫌な予感が走る。
 エルーシュもまた、萌子の非常用の鞄に嫌な予感を覚えていた。

「萌子! 良く来てくれたな。皆も、出迎えが遅れてすまなかった。あ、客人が来ているのか? 言葉がわからなくて大丈夫か?」

 カリュートが萌子に問い、その言葉の意味がわからず雅は戸惑う。

『ようこそ。萌子の客なら、歓迎する』

 そうカリュートから言われて、ようやく雅は安堵する。

『櫻崎さん。ここは外国ですの?』

『あー。その内わかるかな。私達、ちょっと積もる話があるから、しばらく待っててくれない? 白閃と遊んでて』

 カリュートはいそいそと魔法の鞄から料理を取り出し、お茶を入れた。
 雅は不思議そうにしながらもそれを食べる。
 その間、私達は互いの状況を話しあった。
 まずは私の番だ。皆に心配を掛けていたから。

「萌子が無事で何よりだ」

「そこのご婦人と萌子と子供一人くらいなら、私の力で匿えます」

「あー。それなんですが、私もお願いしたいな、と」

 言ってエルーシュは現状を話した。

「む……。マスコミとは恐ろしいものだな」

「さすがにあれは逮捕者出たがな。明らかに盗撮だったし」

「ですが、大丈夫ですか? 文明無しでの生活なんて」

「ある程度は我慢するしかあるまい」

「エルーシュ、SGRの無い生活なんて大丈夫?」

「どうにかするさ。それより、私のSGRが迷惑をかけたな」

 エルーシュは萌子の頭をくしゃっと頭を撫でる。

「ううん。元から詰みだったのよ。で、カリュートの所はどんな感じ?」

「あー……」

 カリュートは躊躇した。躊躇したが、どうせばれる事である。

「凄く嫌いな相手と結婚させられた……。第二夫人だけど」

 三人は大いに驚き、先を促した。
 カリュートは淡々と話す。

「酷いな」

「カリュートには責任はないと思いますが……」

「でも、学校の先生なんて素敵ね」

 萌子の言葉に、カリュートは気分を持ち直す。
 そして、最後にフーデルが現状を話した。

「うわ、フーデルの所だと神様扱いか。カリュートの所に泊まろうかなぁ。奥さん大丈夫?」

「いいのか!?」

 嬉しそうに声を上げるカリュートに、却って萌子が驚いた。

「わ、それ私のセリフじゃない?」

「私も来るから二人きりではないぞ」

 エルーシュが釘をさす。

「わかっている。服を色々と用意していたんだ。ゆったりしたサイズだから、そこのお嬢さんにも合うと思う。少年の分もすぐ錬金しよう」

「手伝うわ」

 そして、萌子は困った顔でお茶を飲んでいた雅に言った。

『こっちでの服を用意してくれたらしいから、先に選んでくれる? 浩太の分は今から作るって』

『あら、そうですの? では、遠慮なく』

 そして、カリュートの渡した何着かの服やアクセサリーを、フーデルの好みを聞きながら自分なりにアレンジしだした。ついでに、カリュートに許可を貰って部屋を色々と見学する。
 萌子も浩太の服を手早く作り、そして皆で着替えてカリュートから軍資金を貰い、外に出た。
 雅は、家の外に出て、声を上げた。

『まああ。見て! あの方の耳、本物ですの? カメラ! カメラをお出しになって!』

『ああ、獣人ね。本物だよ。今日はね、色々カリュートに案内してもらって、ダンジョンで冒険するの。通訳はしてあげるから安心して』

 雅と浩太はもちろん、エルーシュやフーデル、萌子もカリュートの世界は初めてだ。
 それぞれ興味深く見渡す。
 でも、一応この世界の服を着ているはずなのに、注目を受けてしまうのはなぜだろうか。
 カメラが珍しいのかな?

「ここがレンジャーギルドだ。これから町案内と洞窟探索の依頼を出すんだが、依頼を出してみるか?」

『レンジャーギルドだって。町案内とダンジョンを探索する為の護衛依頼を出すんだけど、雅と浩太、出してみる?』

『ゲームみたいですのね。チャレンジしてみますわ。あ! あれはなんですの?』

『食べてみるか? ああ、サバランがいるな。やたら驚いた顔をしているが、どうしたのやら』

 カリュートは適当に食べ物を注文し、サバランに声を掛ける。その間に雅と浩太が紙を提出する。

「ちょ……おま……どうしたんだよ、この美形集団は!? あ、この前の精巧な絵の友人か! にしても、実際に見るとこの嬢ちゃん達、すっげーな! すっげーよ! 外国の女か!? どういう知り合いだ!?」

 サバランの瞳は、雅と萌子の胸に釘付けだ。

「友人その家族やまたその友人だ」

「はぁー……。気をつけろよ。こんな美形集団、浚われてもおかしくないぞ」

「だからここで護衛依頼を出している。いいか、今度こそレイフォン関係は駄目だからな。特にあいつは女たらしだからな」

「わかったよ。あんな事になって、こっちも反省してるんだ。で、嬢ちゃん達の護衛か? 任せとけ! なあ、親父! 俺に受けさせてくれるよな!」

「ダンジョン探索はサバランに任せるが、観光案内の仕事はお前のランクが高すぎて駄目だな」

 酒場の親父の言葉に、酒場全体が色めきたった。
 男も女も、我こそが、と名乗り出る。

『どうしましたの?』

『なんか、私達もててるみたい。私達が可愛いから、エスコートしたいって』

『まあ』

 結局、護衛は一人の所を三人程雇う事となった。
 その三人に案内してもらい、町の名所を巡って行く。
 カリュートも、あまり出歩かない性質だったので新たな発見を楽しんだ。
 市場での買い物を楽しんだりもして、最後に案内と学校で別れた。

「ここが、カリュートの教師をしてる学校?」

「そうだ。ちなみに教師はレイフォンのハーレムプラス俺で形成されてる」

「ありゃあ……それは居づらいわね」

「もう慣れた」

 そう言いながら、カリュートが学校を案内する。
 すぐにレイフォンが駆けて来た。

「カリュート、知り合いが……来たって……凄いな……」

『誰ですの?』

『校長で、ほとんどの教師を囲っている柊君みたいな人』

『まあ』

「お嬢さんたち、お茶はいかがですか?」

「俺の友人をナンパするな。遠方からの客人だ。そこら辺を案内してくる。問題はないな」

「ああ、それはもちろんだ。もしかして、彼女達のどちらかがカリュートの言っていた好きな人か?」

 カリュートは顔を赤くした。
 萌子は、え、とカリュートの方を見る。

「本当、カリュート。もしかして私の事好きなの?」

 カリュートはレイフォンに苦々しく思いながら、ぎこちなく頷いた。

「やだ、嬉しい……」

『どうしましたの?』

『校長が、カリュートが萌子が好きだってばらしたんだ』

『まああ。櫻崎さん、とても嬉しそうな顔をしていますわよ。もちろん受け入れたんでしょう? 櫻崎さんも好きって言っていましたわよね』

 雅としては、カリュートが萌子とラブラブでいてくれた方が嬉しいので、サクッとばらした。
 カリュートと萌子の間に桃色の空気が漂い、どちらからともなく手をつなぐ。
 雅もさりげなくフーデルの手に手を絡ませ、レイフォンに入り込む余地が無い事を示した。
 そして、色々と学校を見て回る。
 生徒達も教師も、驚くことこの上ない。カトレアの夫でありながら、カトレアやレイフォンに敵対的で暗く獰猛なイメージのあるカリュートが美形集団を連れて来て、しかも可愛い女の子がカリュートと手をつないでいるのである。

「明日は俺の魂具と錬金術の混合授業がある。学校が始まるまでに王子達に全てを教えられなくてな。手伝ってくれると嬉しいんだが……」

「本当に? 嬉しい!」

 案内も終わりを迎えようかと言う所に、カトレアがやってきた。

「カリュート。あ、貴方、私と言う者がありながら……」

「お前はいつもレイフォンとひっついているだろうが」

「貴方は平民! 私は王族ですわ!」

「王族ならば、政略結婚の相手の子を産むのは当たり前の義務だと思うが。互いに義務の行使をする気なんか、ないだろう。その上、カトレア。お前は第二夫人と言う事になっているはずだ。それも刑罰で」

「カトレア、カリュートが好きなの?」

 言い争う二人に割って入った萌子の言葉に、カトレアは怒る。

「私はレイフォン一筋ですわ!」

「ならいいじゃない。それとも、カトレアはカリュートに子供を産んで欲しいって言われて、頷くの? 王族の女性は、夫の子を産むのが第一の義務だと思うけど」

「女をなんだと思っていますの!?」

「その為に国税を使って贅沢な生活をしてきたんでしょう? 権利にはいつも義務が伴うわ」

「わ、私は国民の為に頑張っていますわ!」

「そうね。盗んだ知識を広めて被害を出して、無理やり正式に教えさせるようにしたわね」

「そうですわ。身を挺してカリュートに言う事を聞かせましたのよ!」

 これでもカトレアの言葉に頷く生徒がいるのだから、カリスマとか権力とか噂って素晴らしいものである。

「……はぁ。カリュートも大変ねぇ。カトレアの犯罪って全部カリュートの責任になるの?」

「……ちょっと待て。新たな犯罪は考えに入れていなかった。ちょっとケルト様に聞いておく。全く、なんでレイフォンと駆け落ちしなかったんだか」

「ハーレム男が一人の女の子選ぶはずも、野心ある女の子が王位継承権を捨てるはずもないじゃない。それはないわよ」

「なんですの、人を犯罪者みたいに!」

「盗みを働いて刑罰を受けた人は、犯罪者って言うのよ。所でカリュート、本気で全く反省が無いみたいだけど、いいの?」

「それを言うと早く子を作れ、妻の手綱を握る事からやれ、話はそれからだという話になるから嫌なんだ。国王陛下もカトレアの事は溺愛しているしな」

「カリュート、それ絶対おかしい。カリュートだけ損してるじゃない」

「俺もそう思う」

 雅はそんな二人の会話を、こっそり通訳してもらい、事情を聞く。

『カトレアもカトレアですけど、王族にそんな口を聞いてもよろしいの?』

『うーん、こっちの文化はわかりませんから……。ただ、私のように仕える人間が輝ける人間でない事は、可哀想に思います』

 その後、一行はケルト王子に目通りする。ケルト王子もまたカリュートの連れに驚き、また事も無げに爆弾発言をした。

「心配しなくても、カトレアの犯した罪でカリュートが死刑になる事はないよ。それは僕が絶対に防ぐ。でも、尻ぬぐいはカリュートにやってもらうよ。魂具の件と同じと言う事になるね。……レイフォンでも、カトレアの抑えにはなりえなかった。カトレア相手に罵詈雑言を吐ける君には期待しているんだよ」

 実際には、カトレアは自分が遠因で兄弟が死ぬという重い経験とレイフォンの長きにおける説得でようやく成長するのである。それを取り除いた今となっては、成長は難しいと言えた。
 カリュートはため息をつく。

「あの女、話が通じすらしないぞ。何故俺が面倒をみなければならん」

「あれを処刑すれば内乱がおきる。それぐらいのカリスマは持っている子なんだ。ここは冒険者の国だし、あの子は強いしね。正直言って、君の事はカトレアとレイフォンを嫌えるという一点だけでも認めていいくらいだ。この件については、生かさず殺さず、少しずつカトレアの力を削いでいくしかないんだよ。……ああ、これはここだけの話だから。いや、本当に君と言う武器が手に入って良かったよ。マロイ達には感謝しないとね。その分、国が後ろ盾となるから頑張ってほしいな」

「やれやれ、本当に厄介だな」

 謁見を終えて、家に戻る。
 カリュートの家はそれほど部屋数が無い為、雑魚寝である。
 雅は早速、恥ずかしがりつつもフーデルの隣に陣取った。
 浩太と雅に錬金術について教えつつ、夜中まで色々な話をする。楽しい、そして永遠になるかもしれない夏休みはまだ始まったばかりだ。
 そして、翌日。
 
「魂具を既に持っている者は、必ず申告する様に。命にかかわる事だから。まだ魂具を持っていない者は、儀式を行う。今回は、その道のプロが来て下さった。フーデルだ」

 カリュートが紹介すると、フーデルが前に出た。
 
「フーデルだ。では、魂具を持っている者は魔法陣から出てくれ」

 フーデルの指示に従い、決して少なくない数……魂具を作る術は国で禁じられている……が魔法陣から出ると、カリュートはため息をついた。
 フーデルが儀式を行うと、生徒達の前に魂具が形成されていく。さすが、その道のプロは違った。雅と浩太も、ついでに魂具の儀式を受けた。雅は弓、浩太は銃である。

「次に、全員に雷の宝玉を一つずつ支給する。並んで、ここから一つ取って行って、くぼみに埋めるんだ。その後、旅立ちの森に戦闘訓練を兼ねて採集に行く。旅立ちの森は冒険者の初心者が行く、弱い魔物しか出ない森だ。採集するのは……」

 カリュートの説明が終わり、コクエイが出てくる。

「コクエイ、頼んだぞ」

「ちょっときついなぁ。まあ、やれと言われればやるけどさ」

 そして、旅立ちの森に移動する。

「では、雷を落としてここにでてくる牙兎を無傷で一匹、解体に慣れていない者は三匹ずつ取って来るように。他の素材も忘れるなよ」

『私達は三匹ですわね。浩太君、行きましょう』

『うん!』

「……雷が出せない」

「魂具が出てこん!」

「どうやってしまうんだ、魂具は」

 複数からあげられた声に、エルーシュ、フーデル、萌子が動いた。カリュートは全体を見て、生徒達を見守る。やはり、適性のあるなしでは大分違う。
 捕獲が終わると教室に戻り、カリュートの指示の元、解体。
 これはフーデル達も初めての獲物なのでカリュートに従った。
 そして、錬金である。
 出来あがった物は兎のスープだった。

「回復効果のあるスープだ。上手く出来ていれば、色が変わっているはずだ。では、錬金術の理論を書いておいたので、それを理解して最低一つは具が違う回復効果のある料理を一つ作る事。ただ具を変えただけでは、同じ効果のスープは出来ないぞ。それと、危険な物が出来ない様に、俺がここに置く材料と今旅立ちの森で採集した材料以外の使用を禁じる」

 大分スパルタだが、錬金術の一期生は、他の学科と事情が違い、ほとんどが薬師や魔術師、鍛冶士達だ。これは、錬金術が広まり次第、彼らの仕事が阻害されるが故の王の計らいである。他の学科は上級クラスと下級クラスに分かれているが、錬金術のクラスはそうではない。当然、武器の扱いが得意なもの、調合が得意な物が揃っており、苦手分野で躓く事はあっても基本的に食らいついていた。

「ガーディのが一番回復力が高いな。効果の高い物を作るにはコツがある……」

 生徒達の手際がいいので、時間が余ってしまった。
 思ったよりも優秀な事を受け、次の授業は飛ばして内容を宿題とする事と決め、理論をせっせと書いていると、生徒達によるフーデル達への質問タイムが始まっていた。
 ダンジョンに遊びに行く事を知っている耳聡い生徒がいて、萌子はつい漏らしてしまった。

「明日、アガトゥース平原のダンジョンに行くの。サバランが罠を解除した後に私の手で宝箱を開けさせてくれるって。未発見だから、素敵な物がいっぱいあるはずだって」

「そこの魔物の素材を剥ぐ手伝いも頼まれていたな」

 フーデルも何でもない事のように言う。
 生徒の中には冒険者を兼ねた魔術師が何人もいる。この話題に、食いつかないわけが無かった。
 結局、絶対に無理をしない事と自分の身を守るだけの力はある事を条件に、生徒達も連れて行く事になってしまった。
 この話は即座に広まり、レイフォン達教師陣や他の学科の生徒までもついてきて、それを護衛するレンジャーギルドや戦士ギルドのメンバーもついてきて、大所帯となった。

『ごめん。ほんとごめん、カリュート』

 平謝りする萌子。

『いや、元から萌子に教えてもらったダンジョンだし、まだストックはある。構わんが、萌子にと思っていた宝箱は取られるかもしれない。すまないな』

『確か、あの洞窟も珍しい薬草採取出来たわよね。私はそれが楽しめればいいけど……雅、浩太。ごめん』

『私は構いませんわ』

『皆と一緒の方がきっとたのしーよ!』

 と言う事で、遠足である。
 翌日、コクエイを使って大人数が移動する。
 ダンジョンを見ると、レイフォンの気をつけるようにとの訓示もそこそこに、いそいそとレンジャーや戦士、魔術師達は入って行った。
 浩太を守るように戦いつつ、カリュート達も奥に入って行く。
 幸い、ダンジョンは楽しめた。大体の道はわかっているし、久しぶりに四人揃っての戦いだ。楽しみつつも、目当ての宝箱や、それ以外の宝箱をいくつか開けるという幸運にありつく事が出来た。光が乱反射する水晶の山を見る事も出来、女性陣はご満悦である。
 
『宝箱があるって、不思議ですのね』

 言いながら、雅は宝箱を開け、そこに入っていた可愛らしい女物の服を抱きしめて顔を綻ばす。
 一週間ダンジョン観光をして、アガトゥース平原も観光し、生徒達が戻って来ると数を確認して戻る。ダンジョン登録を済ませての帰り道、フーデルがふと言った。

『そう言えば、陛下にお土産を約束していたのだった。以前話していた、覇王の鎧を欲しいのだが』

『あそこ、モンスターレベル高いわよ? 宝箱まで長いし』

『陛下にはそれぐらいが相応しい』

『雅と浩太も戦力になったし、このメンバーなら構わないだろう』

「サバラン、二週間ほど空いているか? 極秘で出かけたい所があるのだが」

「まさか、また新ダンジョンか!?」

 押し殺した悲鳴のような声を上げるサバランに、カリュートは当然の様に頷いた。
 そして二週間後、目的通りの物を手に入れると、その場で解散となった。
 その後、話しあいの末、雅は戻る事を拒否し、フーデルの世界へ。
 エルーシュは雅の護衛としてフーデル世界へ。
 浩太と萌子はカリュートと共にカリュート世界へ滞在する事となったのだった。



[28146] フーデル&エルーシュ&雅
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:9a8f54f5
Date: 2011/07/06 00:12
『ここが、フーデル様の世界……』

 雅が感動したように声を上げる。

『ええ……さ、帰りましょうか。カリュートの世界へ』

 壮大な神殿を目にして、フーデルはくるりと身をひるがえした。
 フーデルの銅像まで立っているが、フーデルは頑なに視線を合わせようとはしない。

「フーデル、ようやく戻ったか。早速装備を作ってもらうぞ。……そこの美しいご婦人と青年はどうした?」

 陛下が自ら出迎えて言う。陛下、貴方はフットワークが軽すぎです。

「私の友人のエルーシュと、友人の友人の雅です」

「しばらくフーデルのお世話になる事になりました。よろしくお願いします」

 エルーシュが頭を下げると、雅も頭を下げる。

『よろしくお願いしますわ』

「ふぅん……まあよい。せっかく神殿を作ったのだ、案内しよう」

「あ、あの陛下! お土産がございます!」

 その言葉に、陛下は目を輝かせる。

「ほう、なんだ?」

「これです! 手に入れるのに苦労しました。覇王の鎧と言う物です」

 陛下は早速身につけて下さり、喜んで下さった。

「ありがとう、フーデル。大義であった。さて、神殿に行くか」

「あ、あの、陛下! 他に、食べ物を持って来てございます」

「うむ、美味い。大義であった。さ、神殿に行くか」

「陛下! 私は装備を作りに行かなくては……」

「その場所も神殿内にある。大人しくついて来い。命令だ」

 話を逸らそうとしたが、無理だったようだ。そして、神殿へと連れていかれた。
 装飾過多で、所々に私の銅像が立っているその神殿を見ていると、非常に胃が痛くなる。
 神官たちも用意され、教義の草案ですと神の束を差し出された時は泣きたくなった。
 なんだろう、この美辞麗句に装飾された壮大な物語は。
 これが後世に伝えられるのかと思うと、頭が痛くなる。穴に埋まりたくなる。
 シースティーア様も同じ思いだったのだろうか。まさか、異世界人だったのか?
 真実を知るすべはない。
 雅が銅像を見て顔を赤らめ、ため息をついて、陛下が言葉が通じないながらも、立派だろう凄いだろうと自慢し、雅とエルーシュがしきりに頷く。
 エルーシュも巻き込んであげましょうかと目で訴えると、巻き込んだら泣かせるとこれもまた目で返された。
 カラーレン達を紹介したかったが、あの子達は遠征に出たらしい。
 それも予測して道具は渡していたので、心配はしていない。
 しかし、代わりに弟子になる各種専門家を百人程紹介された時には泣きたくなった。
 苦痛ばかりの案内を終え、早速装備作りに入った。
 もちろん、エルーシュにも手伝わせる。
 大量に、かつ強力な物を永続的に作らなくてはならない。前者を満たす為にはやはりこの世界の物でなくてはならず、やはり地道に調合を試して行くしかない。
 そこで役立つのが、やはりエルーシュの使い魔のエルだ。
 エルーシュが、私にも使い魔召喚を促した。
 久々に出した巨大な三つ首の狼、ケルベロスは不満げに吠えたてた。

「悪かったですね、ケルベロス。ほら、好きなだけお食べなさい」

 食事を分け与えてやると、一心不乱に食べる。魔力は好きなだけ食べさせているつもりなのですが……。
 とにもかくにも、雅は私の国の言葉の勉強、エルーシュと私は調合をする事が続いた。
 布、糸、皮、果実、葉、枝。……様々な物を調合して行く。
 エルーシュや萌子からも材料を分けてもらっていたが、実験の結果わかったのは、材料として優れているのは、カリュートの世界>錬金術の世界>私の世界>萌子の世界=エルーシュの世界と言う事だった。
 なので、陛下に相談をして、少数精鋭の制服と他の制服の二種類を作る事とする。
 二ヶ月位して、ようやく目処がついて、デザインを決めるのみとなった。
 少数精鋭の制服を着せるのは、もちろんカラーレン達だ。
その頃になって、ようやくカラーレン達が帰って来た。

「超きつかった、側近の直属の配下クラスが現れてさ、前よりは楽だったけど……。うわ、すげー綺麗。このお姉さん、誰?」

「あの、私、雅って言いますの。フーデル様のお世話になってますの。よろしくお願いしますわ」

 雅が、拙い言葉で答える。二ヶ月で言葉を片言でも喋れるようになった雅は凄い。
 今では雅も、可愛い娘の一人だ。

「私はエルーシュだ」

 子供達と雅、エルーシュは問題なく打ち解けた。

「はいはい、話はそこまで。カラーレン、サイズを測らせて下さい。新しい制服を作る事になったんです。それと、いくつかデザイン案があるので、選ばせてあげますよ」

 子供達は途端に真剣になって制服を見る。
 前の服のデザインは気にいらなかったのだろうか。地味に落ち込んでしまう。
 まあ、今回は女の子である雅の意見も取り入れたから大丈夫だと思うのだが。
 デザインも決まり、調合に入る前にカラーレン達の道具をチェックした。

「またこんなに使ったのですか!? 予算と言う物を考えなさい、予算と言う物を!」

「命がけの状況でそんな事考えてられないって!」

「俺らだって頑張ったんだよ!」

 ため息をついて、道具を補充する。
 作らねばならない物が増えてしまった。まだ在庫はあるが、どんどん使いなさいと言える量でもない。
 それに、カラーレン達に作らせるにはまだ難しい物ばかりだ。
 カラーレン達と新たな弟子には課題を与え、制服の調合に入った。
これは難しい調合なので、カラーレン達に手伝ってもらう事は出来なかった。
 エルーシュやエルに手伝ってもらい、集中して調合する。
 二ヶ月かけて、カリュートから分けてもらった素材でカラーレン達魔王討伐隊と近衛兵の制服、装備。覇王の鎧改及び陛下の装備数着を作りあげた。
 魂具が武器でない物もいるし、もしもの時の為の武器が必要だと前の戦いで痛感したから、武器も作ったのだが、そのせいで時間が掛かってしまった。
 更に、二カ月かけてこの世界の物だけでできた制服を幾種類か作らせる。
 積極的に弟子に調合方法を教えたが、まだ手伝わせる事は出来ず、調合する事を見せるのと簡単な課題を与える事に終始した。
 戻ってきて半年。馬車馬の如く錬金し続け、ようやく一息ついて本格的に弟子達に錬金術を、子供達に武術を教え始めた。雅は言葉をあらかた覚え、色々と手伝ってくれている。
 ちなみに、もう私などではカラーレン達の相手にならない。
 仕方ない事ではあるのだが、やはり悔しいな。
 半年かけて頑張った甲斐あって、少しずつ人間勢が、もっと言えば我が国が押し始めて来た。
 一か月もすると、他国からも依頼が来た。
 他国の要人、それも幼い頃からよく知っている相手に神様っぽい服で謁見させられた時、思わず泣いた私は悪くない。
 錬金と物を教える日々が続く。
 いずれ、この勢いのままに魔王は駆逐されるだろうとなんとはなしに思っていた。
 私は、結局自分はどこか無関係だと思っていたのだ。
 主役はカラーレン達で、魔王と戦うのもカラーレン達なのだと。
 その日、カラーレン達は遠征に出かけていた。






囮だった。




走る。走る。陛下を探して。
まさか、魔王が直接城に来るなど、思いもしなかった。
しかし、考えてみれば当然の事だ。人間が不可思議な道具を使うようになり、少し調べればここから全ての品が供給されている事。嫌でも気付くだろう。
雅もついてきてくれていた。エルーシュは、SGRで外のドラゴンを片っ端から落としている。

「陛下!」

 倒れた近衛兵。陛下は、覇王の鎧改を着て、魔王に魂具の武器、大剣を向けていた。
 既に疲労しているようすで、片膝を突いている。私は急いで回復薬を使った。

「馬鹿か、貴様! お前の技術の継承はまだ済んでいない! この世界に必要なのは余ではない、お前なのだ、フーデル!」

「私は陛下の作る太平の世の為に身を粉にしていたのです。陛下の支配されない世界に意味など無い! 陛下こそ、お逃げ下さい」

 私は魂具を出す。
 雅も、夢想石を出した。
私は呪文を詠唱しつつ、雷玉を数個纏めて魔王へと投げた。
 雷玉は時間稼ぎ。本命は呪文で強化した魂具で切りかかる事だ。
 雅が、光る弓で援護をしてくれた。
 戦いが始まった。陛下は逃げては下さらなかった。
 やはり、私はカラーレンに比べれば大分劣る。
 呪文を、錬金術を、エンチャントを、剣術を駆使するが、苦戦し、押されていく。
 魔王が鋭い一撃を陛下に放ち、考える間も無く地を蹴った。
 胸に衝撃が走る。陛下を押しのけた私を更に庇う雅。雅ごと貫通する魔王の触手。
 陛下が、僅かに驚いた顔をする。

「フーデル……? フーデル――――――――!!!」

「へい、か。これ、を」

 雅が夢想石を震える手で陛下へと渡した。

「フ、デル様、が、大切、なのは、私も、大切、にげ、て」

 意識が遠くなる。その時になって、カリュートと萌子を呼べば良かったと後悔した。
 なんで思いつかなかったのだろう。二人は怒る。きっと怒る。泣きながら怒る。
 大切な預かりものである、雅すら巻き込んでしまった。
でも、もう取り返しがつかない。
 その時、更に陛下に攻撃せんとする魔王の触手を、眩いばかりの閃光が城の壁ごと纏めて薙ぎ払った。
 エルーシュのSGRだ。
 エルーシュの怒っている視線が感じ取れるようだった。
 そして、ゆらりと陛下が立ちあがり、淀んだ瞳で魔王を見つめた。
 夢想石を、魂具へと嵌める。きっと、宝玉と勘違いなされているのだろう。

「……いもの。無礼者。調子に乗る出ないぞ、魔王ごときが……」

 夢想石が発する光で、何も見えなくなる。

「余に跪け、魔王!」

 陛下の力強いお言葉を最後に、私の意識は途切れた。
 気がつくと、胸のあたりにパジーが頭を載せ、眠っていた。その瞳には涙がにじんでいる。

「ここは……陛下は!? エルーシュは、雅は!」

 その声に飛び起きたパジーは、驚いた顔で私を見上げ、顔を崩して泣きじゃくった。

「よかったぁ……よかったっ……っ!」

「陛下はどうなされたのだ、パジー!」

 パジーの肩を揺さぶると、パジーは答える。

「陛下も、エルーシュも、雅も、皆無事だよ。近衛兵さん達の中には……残念な人もいたけど……。み、雅は昨日起きて、また眠った。エルーシュと陛下は部屋に立てこもってる」

「何故です? 魔王はどうなったのですか?」

 私が心配して問いかけると、パジーは、目を輝かせて答えた。

「あのね、凄かったらしいんだ。エルーシュが神の巨人兵を操って、光をバーンって。それで、陛下が六つの輝く羽を生やして、凄く神々しいお姿で戦ったって。それで、神官長様が、外国の人も、陛下とエルーシュを神と称えなくてはって。でも、銅像作るのに協力してくれないんだ」

 それに、思わず笑ってしまう。

「慣例ですから、仕方ありませんね。陛下を呼びに行きます。それと、雅の見舞いとエルーシュのご機嫌伺いに行かないと」

「まだ寝てろよ! すっごい大けがだったらしいんだからな! 待ってろ、医者呼んでくる」

 その後すぐに、カラーレン達子供達が大挙してやってくる事になったのだった。
 体の具合が良くなると、祝いの式典と掃討戦が行われ、神殿が物凄い勢いで建設されていく。
 エルーシュも陛下も胃が痛そうだ。
 貢物が激化して来た頃、待ちわびた約束の日が訪れた。

「では陛下、例年通り友人に一か月ほど会いに行ってきます」

「多分もう戻らないと思うが、よろしく」

 そして雅をそっと抱き寄せる。大けがをしたのはだいぶ前だが、それでも慎重になり過ぎる事はないだろう。私と違い、雅は女の子なのだ。
 雅も、進んで体を寄せて来た。あれ以来、雅は良くこうする。きっと立っているのが辛いのだろう。悪い事をした。

「余も行く」

「あの、陛下……」

「余も行く」

「しかし……」

「もう崇められるのはごめんだ、息が詰まる。フーデルは余の息が詰まって死んでもよいのか!」

「いえ、そんな……。しかし、一か月も国を開けるのは。それに御身は何よりも尊いもの、他国に行くなどと……」

「一か月分の指示は出してある。それに、フーデルとエルーシュ、雅、余の四人をどうにか出来る相手なら、城に籠っていてもひとたまりもなかろうよ」

 私はため息をついて、陛下に手を差し出した。
 陛下がわかればいいと手を取る。
 雅がクスクスと笑う。
 そうして、私達は転移した。



[28146] カリュート&萌子&浩太
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:9a8f54f5
Date: 2011/07/18 23:53
 カリュート達ががフーデル達を見送ると、カトレアが現れた。
 
「なんだ、カトレア」

「……また新しいダンジョンに行ってきましたの? いくつ知ってますの? 発見したダンジョンは、必ず国に申請するのが決まりですわ!」

「その前に、二、三回荒らす権利はあるな。一回荒らすごとにダンジョン申請している俺は、比較的真面目な方だと思うがな」

「! ……何故、そんなにダンジョンに詳しいんですの? そもそも、発見したダンジョンを全く荒らさずに放置するなんて真似、出来るとは思えませんわ。元からダンジョンの場所を知っていたとしか……」

 カリュートは肩をすくめる。
 カトレアが、カッと顔を赤くした。
 何それ意味がわからない。カリュートと雅は、とりあえずスル―する事とした。
 
「じゃあ、萌子。今日の食事は、俺が作る」

「嬉しいわ。今日は何を作ってくれるの?」

「お待ちなさい! カ、カリュートは私の夫なのだから、ダンジョンにも連れて行くべきですわ!」

「何を今更……。仮面夫婦も良い所だろうに」

 カリュートが首を傾げるが、カトレアはごり押しした。
 
「駄目ですわ! 私も行きます!」

 こうなると梃子でも動かない。
 
「んー。カトレア達って結構強い魔術師なんだよね。私、聖女の首飾り欲しいかな」

「言えば良かったのに」

「ちょっと遠かったしね。でも、いい加減授業が滞っているし、授業をある程度進めてからじゃないと駄目だよ」

 カトレアは顔を輝かせ、カリュートはため息をつき、浩太は無垢な瞳で大人達を見上げた。
 そして、授業の時間である。
 授業は、カリュートと萌子と共に授業を行っている。

「まず、初めに調合するのは……」

「あら、ここ違うわよ。正しいのはこっち」

 カリュートが説明し、萌子が見て回る。違う材料を手にした男の手に手を添え、萌子が笑う。ぼっと顔を赤くして、男は頷いた。周辺の男共が、急に手際を悪くしてあれがわからない、これがわからないと言いだす。
 カリュートはため息をつき、間違ったら減点と言う事を容赦なく告げた。
 浩太はその間、大人しく教室で待機だ。
 最近の調合は、浩太には難しいので、見ている事しかできないのだ。
 それでも、浩太が苦に思う事はない。
 カリュートも萌子も、時間が出来たら色々な事を浩太に教えてくれた。
 最近、数学を教えないかという話まで萌子に来ている。
 一人にするのは不安だと言う事(実際、萌子が一人でいるとよく口説かれる)で、それは実現していないが、時間の問題だろう。
 二ヶ月後、カリュートはレイフォンとダンジョンの前にいた。
 なし崩しに、遠足にはレイフォン達もついて行く事になったのだ。
 ただし、前と違って決定的に違うのは、今回は同じ道を行くと言う事である。
 今回はダンジョンのレベルが高いと言う事で、生徒達は連れて来ていない。

「じゃあ、装備を確認するぞ」

 レイフォン達は魔術のスペシャリストだ。宝玉を一目見て複製したその腕に間違いはないし、錬金術や魂具の授業をするようになってその技に磨きは掛かった。しかし、それでも、カリュート達の方が二十年の年季の分、強力な魂具を持っていた。
 装備についても同様である。魔術の最高峰の物より、魔術の中程度の物を高度な錬金術で補強した物の方が強力な物となる。
 ただでさえ、レイフォン達は旅が非常に中途半端……そう、ハーレム要員が出そろった辺りで中断されているのだ。
 自然、カリュート達の方が強い装備を多く持っていた。いや、そのカリュート達よりも強い装備をいくつか所持している所が、さすが主人公と言うべきか。
 最も、カリュートはそれを予期していたし、レイフォン達の装備も事前に把握して、分け与える装備は予め用意していた。

「とりあえず、この装備を貸すから、装備しろ。で、戦いの最中に慣らしてくれ」

「……これ、元から私の服だったみたい……」

 可愛らしい鎧を着て、くるりとミレアが回る。レイフォンがそれをそつなく褒めた。
 
「悪いな、カリュート」

「ダンジョンに入る以上、安全性を確保するのは当たり前の事だ。それに、どうせあまりものだ」

 レイフォンは苦笑するが、カトレアはむっとした。
 そんなカトレアに、シールがこそっと何事か呟き、カトレアはそれならそうと言えばいいのに……などと呟きながら、いそいそと着替えた。
 錬金術で、そして萌子の監修付きで作られた装備である。
 それはもう可愛らしくて、カリュートですら目の保養になると思った。
 そして、ダンジョンへと向かう。
 カトレアは、大鎌で戦うカリュートを真面目に見るのは初めてだった。
 以前一度見た時は、それは自分へと向けられていた。
 カリュートと萌子、白閃と黒影の絶妙なコンビネーション。
 それはまるで、人とその影のようにぴったりとした物だった。
 私達だって、レイフォンとコンビネーションを……そうして戦場で周囲を見回して、ようやく気付いた。
 コンビネーションを取っているのは、個々とレイフォンだけである。
 レイフォンが完全にフォローに周っていると言っていい。
 唐突に気付いた。
自分が見下していた、根暗な魔術師は。
未知の技術を持ち。
 数多くのダンジョンと道筋を知っていて。
 戦い方が流麗で。
 美味しくて体力が回復する料理を作り。
 転移でどこでも連れて行ってくれるのだ。
 顔が美しくない事が、何なのだろう。根暗な事が、何なのだろう。
冒険者としてのカトレアが。
 王女としてのカトレアが。
 レイフォンよりもカリュートの方を選んでおくべきだったのでは、と囁いた。
 しかし、女としてのカトレアの気持ちは未だカリュートを嫌悪していた。
 揺れる乙女心を抱いて、カトレアは思う。
 カリュートの事を良く知るべきではと。
 今は、ただ思いのままに戦えばいい。
 そうすれば、私に跪かない者などいなかった。
 ……まさか、カリュートと萌子はカトレアがそんな事を考えているなど、思いもよらなかった。
 ただ、カトレアってさすがに戦闘は得意なんだ、と思う位である。
 けれど、レイフォンはカトレアがカリュートを見る目に、切ない……若干、失望の眼差しを向けていた。
 カトレアとずっと共にいたレイフォンだけは、カトレアの中の打算を知っていたのである。
 それぞれの思惑を抱え、彼らはダンジョンを突き進んでいく。
 本来の主人公パーティだけあって、最初は拙かったものの、成長スピードは目覚ましかった。一階を一通り回る頃には宝玉を含めた装備を大体使いこなし、二階へと突き進む。
 全員に行きわたる分の戦利品を得て、最後に聖女の首飾りの所に行った。
 萌子はそれを見て苦笑する。

「これは私には派手すぎて似合わないわ」

 なんというか、大きな胸と相まって目立ち過ぎてしまうのである。
 だから、と萌子は聖女の首飾りをカトレアの首につける。

「貴方にあげる」

 本来、聖女の首飾りはカトレアの装備品である。それはカトレアにとても良く似合った。

「確かにカトレアには良く似合っているが……調合でデザインを変える事も出来たろう? 細長くしたり、色を黒くしたり……良かったのか?」

「冗談! せっかくこんな綺麗なのに、そんな真似できないよ。適当な材料が見つかったら、作ってくれる?」

「もちろんだ」

 その言葉を聞いた時、カトレアの胸が痛む。

「カリュートは私にもプレゼントを贈るべきですわ! 皆私に何かと贈り物をしてくれるのに、カリュートばかりが何もくれないと言うのはおかしいですもの」

 その言葉に、カリュートは深くため息をつき、萌子は駄々っ子を見るような目で見てくる。
 レイフォンは、それを見て決意をした。
 そして、薬草の生えている場で自然とカトレアと二人きりになるように計らう。
 それほどメンバーと離れる事は出来ないが、学校よりは内緒の話が出来ると言う物だ。

「カトレア。カリュートが好きなのか?」

「う、疑うんですの、レイフォン。私は、私は……」

 レイフォンは、カトレアの胸に頭を預けた。

「俺が好きなのか? ……それは、俺自身が? それとも、俺の力が?」

「レイフォン……!」

「権力になんて全く興味のないお転婆姫。君はそう見せかけて、誰よりも力と権力の虜だったね。知っているよ。陛下が、俺と結婚させることでゆくゆくは国を継がせようと考えていた事を、「君が」知っていた事」
 
 カトレアは狼狽する。

「あれだけ敵対していたカリュートを、どうして好きになったんだい?」

 レイフォンが優しく問う。それに、カトレアは問い返す事が出来なかった。

「相手が、俺ならば良かった。そんなカトレアもそのまま包みこんで、愛せる自信があった。けれど、カリュートは……それを許さないんじゃないか? 力目当てに近づこうとすれば近づこうとする程、汚らわしいとさえ言われるかもしれない」

 カトレアの体が震える。

「結局の所、カトレアはカリュートと愛しあった方が幸せになれるんだと思う。もう夫婦なんだし、正直凄く悔しいけど、カトレアの幸せに繋がるなら、俺は……。でも、今のまま、カリュートに近づいても、きっと傷つくだけだ。当たり前に愛されている君は、否定される事を知らないから。……俺でさえ、カリュートに否定されて、憎まれて、凄く傷ついた。憎まれるって事が怖かったから」

「どうしろと言いますの」

「世界の全てが君の為にあると思う事を、やめるんだ」

 カトレアは、知らずレイフォンを平手打ちしていた。

「そんなの……そんなの……」

 ――認められはしない!
 カトレアは、むしろ自分がそう口走りかけた事に驚いていた。
 

 ……さて、そんなはた迷惑な会話をされている事を全く知らず、カリュートと萌子は浩太を挟んで良い雰囲気になっていた。
 遺跡内にはうちすてられた薬草園があり、寂れているとはいえとても美しく、三人は大満足だった。
 集合して帰途につき、問題なくダンジョンの外に出る。
 久しぶりに見る空が美しかった。
 大満足してダンジョンから帰り、彼らは授業の日々へと戻ったのだった。
 
「カリュート! 私も教師として錬金術を学ぶべきですわ!」

「カリュート! 食事くらい皆と一緒に取るべきですわ」

「カリュート!」

 それは、以前の日常とはかけ離れた物だったけれど。

「あはは。どうする、カリュート?」

「あれは俺を嫌っているのか、跪かせたいのかどっちなんだ……」

 頻繁に近寄っては来るが、時折、嫌悪を見せる事を二人とも知っていた。
 萌子は、考えた末に、口に出してみる。

「カトレアなりに、考えたんじゃないかなぁ……」

「何を!?」

「身の振り方を」

 カリュートはため息を吐く。カトレアと関わるようになってから、ため息をつく事が多い。
 しかし、夫婦である事は国に決められた事である。
 それを思えば、カトレアとも最低限……飽くまでも最低限仲良くしておくのは悪い事ではないのかもしれない。
 もう一度ため息を吐いて、カリュートはカトレアに対する態度を軟化させる事に決めた。
 カリュートが態度を軟化させれば、カトレアも態度を和らげる。
 カリュートを籠絡したと思いこんだカトレアは、今度は萌子にあらゆる勝負を仕掛けた。

「料理勝負ですわ!」

 錬金術で鍛えた萌子に隙はなかった。

「頭脳勝負ですわ!」

 エルーシュに鍛えられた萌子に隙はなかった。

「た、戦いで勝負ですわ!」

 カトレアは後方支援系統で、萌子は前衛も出来る子である。
 チーム戦ならレイフォンに軍配が上がっただろう。しかし、一対一で萌子の負ける理由が無かった。

「魔術勝負ですわ!」

「……あのね、私、そもそも魔術師じゃないんだけど。まあ、政治学で庶民があれだけ圧勝するほうがありえないんだけどね……」

「キィ――!」

 カトレア、初めての敗北である。
 そんなこんなで、一年が立つ頃には、カリュートの両側の手にそれぞれ絡みつき、言い争いをしながら歩く事が多くなった。
 ……カリュートのSAN値は減る一方である。

「ケルトや。カトレアは充分に罪を償った。その上、最近は頑張っておる様じゃし、カリュートとその恋人も目覚ましい成果をあげておる。カリュートにはカトレア以外妻はいないのじゃし、ここはカトレアを正妃に押し上げて国を継がせるフラグ……!」

「寝言は寝てからいって下さい。ようやく醜聞が消えたばかりじゃないですか。大体、今こうしている間にも他国で魂具作成の失敗による犠牲者が増えているんですよ。それを我が国のせいではないように工作するのにどれほど苦労しているか……。というか、貴方は正当なる正妃が生んだ最も年長の嫡男をなんだと思っているのですか」

 ケルト王子のSAN値も減る一方である。







[28146] 閑話3
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:9a8f54f5
Date: 2011/07/19 23:56
良く考えたら、最終回の前に閑話がありました><
楽しんで書けましたが、いつものように超展開です。後ちょっとギャグ風味。
期待せずに先をお読みください。楽しんで頂ければ幸いです。














 王子の私室。王族にしては控え目で、しかし品の良さはそこなってないその部屋で、ケルト王子は腹心と密談をしていた。

「恐れながら、萌子殿は美しく賢く強く、その人気はカトレア様と匹敵しつつあります。幸い、カリュートと萌子殿はまだ結婚していないご様子。萌子殿を正妃として迎え入れ、カトレア派と受けて立ってはいかがでしょう」

「うん、たまにでいいから婚約者と血統について思いだしてくれると嬉しいのだがな……。カトレアを平民に降嫁させたは、飽くまでも処罰の為。父上も祖父殿も恋愛結婚などする物だから、正直我が血統の正当性は薄れつつあるのだぞ。私の妻はリィンシェイラ姫ただ一人だ。血統的にそれ以外はない」

「恐れながら、ここは冒険者の国ですぞ! 優秀な冒険者と婚姻し、強き子を残す事は当然の事」

「それはここ百年の風潮だ。そう、五代前の阿呆が冒険者と婚姻していらい、我が家に産まれるのは脳みそ筋肉ばかり。その上、そ奴らが力で王座を勝ち取り、その汚らわしい血統の者を慕って冒険者が集まった。いわば、これは乗っ取りなのだ。自業自得だけどね。立て直すなら、今しかない」

「それを国民が認めると?」

「……認めさせる事が、僕の使命だ。我が一族の血を絶やすわけにはいかない」





「と言う事でね。萌子。カリュート。部下が勝手に動き出さない内に結婚して、早々に子供でも作ってくれ。僕は萌子を利用したくない。王族としても、カリュートの弟子としてもね」

 萌子とカリュートは、呆れるやら顔を赤らめるやらで大変だ。
 とにかく、二人は結婚する事になった。
 折よく、フーデル達も遊びに来る頃である。
 二人は、恥じらいながらも浩太を連れて皆を出迎えに行った。

「櫻崎さん、久しぶりですわ!」

「雅! あ、もしかして陛下もご一緒にいらっしゃったのですか? 私、萌子です」

「カリュートです」

 萌子とカリュート、浩太が礼をすると、陛下は笑った。

「余はアルベルト・キス・ルベルフォンだ。良きに計らえ」

 そこで7人は近況を話し合い、結婚式の話で大いに盛り上がった。
 そして、陛下は最も豪華な宿で言葉の勉強をしてから視察、その後結婚式へと出席する事となった。
 戦闘じゃないんだから、少しぐらい露出が多くてもいいよね……。
今! ここに! エロゲ世界のヒロイン達のセンスが火を吹く!
 事に男共は全く気付かないまま、衣装は全て雅と櫻崎に任せる事となった。
 なんと、ダンジョンでの噂が届いており、錬金術で可愛らしいドレスを作って着て行きたいという令嬢、御針子の依頼が殺到したのだ。
 萌子は快く承諾する。
 そしてレディ達が超えてはならないエロゲの線を超えんとしている頃、フーデルと陛下は浩太も交えて言葉の授業をしていた。
 結婚式は全て雅とフーデルが采配する事となったので、カリュートはお金を出すだけである。
 カリュートはのんびりとエルーシュと共に錬金術の研究をする事にした。後半の半月は陛下の案内である。ダンジョンは陛下も大いに楽しんでくれた。
 男共は、もちろん結婚式の主賓が三組になったり、ありえないほど恥ずかしい登場の仕方を計画されている事にも無頓着であった。
 その頃、カトレアは地味に落ち込んでいた。
 何故なら、第二夫人であるカトレアは結婚式を行えないからである。
 自分は、かつてはレイフォンと大陸に君臨する身分だった。本当ならば、美しいドレスを着て、笑っているはずだったのだ。
 何がいけなかったのか。
 高い頭脳を持つカトレアにもわからなかった。
 ならば、最初から詰みだったと言うの? 酷いわ……。
 カトレアは涙ぐむ。その肩に、国王がそっと手を置いた。

「泣くでない、カトレア。通常なら結婚式で花嫁以外の女性は、花嫁より美しい服を着てはならぬ。しかし、お前は第二夫人じゃ。この機に、お前の美しさを示すのじゃ!」

「お父様!」

 そして、カトレアはカトレアで独自の婚約衣装を用意せんとしていた。
 そして一月後。結婚である。
 結婚式の朝、陛下を完璧に仕上げなければと大忙しのフーデルに、雅が真剣な顔をして言った。

「フーデル様、大事な話がありますの……」

「なんですか、雅?」

 急いではいたが、決してフーデルは女性を邪険にはしないのだ。優しい瞳で問いかける。

「今日これを来て、毎日私の名を呼んでほしいんですの」

 差し出されたのは、タキシード。

「それぐらい構わないよ」

 フーデルは大喜びをする雅を尻目に、急いで陛下の仕上げに掛かった。
 何せ、陛下はカリュートと萌子の神父役をするのである。
 陛下は神となったので、神父役も出来てしまうのだ!
 慌ただしく準備をする。当日の段取りを男共は知らないので、ただ指示通り動いた。
 しばらくしてフーデルの前に現れたのは、美しく、気品があり……ぶっちぎりでアレなウェディングドレスの雅だった。最も、フーデルの世界にウェディングドレスはないので、フーデルはその美に圧倒されるだけだ。

「フーデル様、こっちに、急いで」

 真っ暗闇の中に雅が立ち、招く。そして、雅はフーデルにお姫様だっこをして欲しいと頼む。フーデルが訝しく思いながら了承すると、がこんと音がして床が下がっていく。
 そして、上空から新郎新婦がゴンドラに乗って降りてくるという図が完成した。
 惜しみない拍手を受けて、レッドカーペットの上を歩かされるフーデル。

「ありがとう! ありがとう! 私、幸せになりますわ!」

 スポットライトを浴びて、雅が言う。

「……ここは新郎の場所では?」

 恐る恐る聞く事さえ、注目を受けたこの状況下では不可能だった。
 祭壇の所まで行くと、目にも鮮やかなエフェクトが起こり、光の中からカリュートとそれにエスコートされた萌子が現れる。
 こちらの衣装も凄かった。
 そして、そんなゴージャスなウェディングドレスの二人よりも派手な存在がいた。
 天空から舞い降りてくる六枚羽の天使(夢想石を使った陛下)である。
 まさかこの式が録画されているとは思わないゆえの異世界への旅行客特有の暴挙であった。この陛下、ノリノリである。
 陛下は厳かに儀式を行い、カリュートと萌子、なし崩しにフーデルと雅も夫婦となったのであった。
 雅は、怒っているだろうかと不安げにフーデルを見上げる。
 それに気付いたフーデルは戸惑った。親子ほど年齢が違うのである。戸惑うのは当たり前だ。それでも、フーデルは雅を抱き寄せる。
 微笑む雅。それは小悪魔の笑みだった。そして、交わされるキス。
 場は盛り上がる。
 その時、スポットライトがレッドカーペットに当たり、カトレアが入場して来た。
 萌子に対抗した大胆な衣装。
 その美しさに、ため息がつかれる。

「神父様。私にも儀式を」

 もちろん、フーデルの世界には妾の為の婚姻の儀式もちゃんとあった。
 そしてカリュートを挟んで、豪華絢爛な花が揃い立つ。
 それはまるで、この世のものではないかのような。
 引き分けか。カトレアが思ったその時だった。
カリュート達が下がると、貴族の列が割れた。
 現れたのは、ケルト王子とリィンシェイラ姫。
 次々と傅く貴族。今までの結婚式は余興に過ぎないと示すそれ。
 傅く貴族の創りだす道を祭壇まで歩き、いつの間にか現れた司祭が厳かな儀式を行う。
 リィンシェイラ姫の服、ぴっちりと体を覆うドレスの、その気品!
 結局、萌子や雅は美しいが、平民なのだと示すようなそれ。そして、カトレアはそんな萌子達と同等なのだとその行動で示していた。
 まともに戦っていれば、リィンシェイラが敗北していただろう。
 けれど、ケルト王子は見事にリィンシェイラ姫と共に王族のなんたるかを示したのだ。
 そう、王族は色ものなんぞでは駄目なのである。
 伝統を守る、由緒正しい血族なのだ。
 式が終わった後、カトレアは猛烈に抗議した。

「なんなんですの、あれは! あれでは、まるで私が下賤な平民のようですわ!」

「俺の第二夫人と言う事は平民なのではないか? まあ、俺はアルベルト様に儀式をしてもらえて満足だが。アルベルト様直々に祝福をしてもらう事など、身に余る光栄だからな」

「まさか、陛下が私の婚姻の儀式を取り仕切るとは……幼い陛下を抱っこした時には、思いもしませんでした。ところで陛下。そのお姿写真にとっても?」

「はっはっは。絶対に嫌だ」

 カリュートとフーデル、陛下が和やかに話し、女性陣と浩太は着替えである。
 新婚旅行と言う物は、この地にはない。
 けれどその代り、嬉し恥ずかし愛の家(レンタル可)に三日三晩籠ると言う儀式があるのだ。
 女性は女性で何かと準備があるのである。
 そして、ケルト王子とリィンシェイラ姫、カリュートと萌子とカトレア、フーデルと雅は三日三晩家に籠り、その間エルーシュは結婚式の映像を浩太と共に編集し、陛下はそれに気付かず、フーデルの元に一度だけ運ぶ魔法具を持って元の世界に送り届けられた。
 ぴったり三日後、陛下は逃げ帰ってきた。豪華絢爛な姿で。

「余は、もう王ではないそうだ……」

「まさか反乱!?」

 フーデルが厳しい声音で言う。
 それに、陛下は首を振る。

「神は……神は王にはなれないと慣例が……! 一か月の間に前例を洗いだしていて、見つかったらしいのだ! 余の息子を既に次の王に立て、正妃が貢献して立派に国を盛り立てていた……!」

「なんですと!?」

「その上、神のあがめたてまつりっぷりがエスカレートしていた……!」

「あれ以上ですか!?」

「余はもう帰りたくない……! そもそも以前の神も泣きながら走り去ったと言う凄い嫌な伝承が……! 余はここにいる! フーデル、お前がいれば我が王国は無くならぬ! 雅と子を為し、予の王国を作るのだ」

「そんな無茶な……」

 萌子が苦笑いし、フーデルがおろおろとする。
 微笑ましい(?)その光景の裏で、カトレアは考えていた。
 こうなれば、もはやカリュートの妻として成りあがるよりほかはない。
 なんとしても後継者を産み、リィンシェイラ姫に勝たなくてはいけない。
 この時、カトレアもケルト王子も気付いていなかった。予想外過ぎるダークホースに。



[28146] 【エピローグは】最終回【頑張ります】
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:9a8f54f5
Date: 2011/07/20 20:11
 世界を移住した以上、やらねばならない事が一つある。
 それは、就職である。

「陛下が平民と混じって働くなど!」

「今の予は平民だ。働くのは当然の事だ」

 幸い、カリュート達はケルト王子のつてがあった。
 そして、陛下とフーデル、エルーシュ、雅は文官として就職する事となったのだ。
 カリュートと萌子は今まで通り教師である。
 さて、ケルト王子が婚姻し、しばしば舞踏会が行われる事となった。
 カトレアはもちろん出席を望む。

「カリュート! 出席しますわよ」

「俺は平民だが」

「くぅ、では冒険ですわ! 手柄を立てますのよ」

「最近教師なのに遠出しすぎたからな。抗議が殺到しているから、しばらく真面目に授業をする」

 カトレアは唇をかむ。ついに、涙を滲ませて叫んだ。

「貴方は、私が嫌いですの!?」

「割と」

「何故ですの!?」

「あれだけの事をやっておいて、臆面も無く聞けるその神経が羨ましい。今も他国から魂具の被験者が担ぎ込まれているんだぞ」

 カトレアはぐっと黙る。

「ならば、私一人でも行きますわ」

 カトレアは走り出す。カリュートが追いかける気配はない。仲良くするきっかけにするはずだったのに……。カリュートが関わると、何もかも上手くいかない。
 それでも、今更戻る事など出来ず、カトレアは一人で冒険へと向かった。
 けれど、カトレアは知らなかったのだ。
 今まで、どれほどの困難から、レイフォンや周囲の人間が守ってくれていたかを。
 今も、萌子がこっそりと白閃をその影に滑らせていた事を。
そして、しばらく時が過ぎた。
 その間、フーデル、陛下、エルーシュは物凄い勢いで出世していた……。
 

 半年ほど立った、その日。
 カトレアは、ぼろぼろになって白閃を抱いて帰って来た。
 旅は、女一人に優しいものでは決してなかったのだ。
 調子に乗って他国まで出向いてしまったカトレアは、人と魔物の悪意に晒され、白閃だけを頼りに帰ってきていた。

「レイフォン……レイフォン……」

 赤子のように泣きじゃくるカトレアを、レイフォンは迷うことなく優しく抱きしめた。
 
「私、知りませんでしたわ。レイフォンが、どんなに守ってくれているか。ごめんなさい。ごめんなさい。レイフォン……」

 レイフォンは、辛そうな顔をする。
 冒険者の顔とも言えるカトレアのその醜態は、反乱を誘発するのに十分だった。
 二週間後。
 城を取り囲む冒険者たち。
 そして、そこに降☆臨する将軍にまで出世した陛下。
 神々しいまでに、輝ける陛下は冒険者達を一掃した。
 力と神々しさを示した陛下が第三勢力となってしまうのは、当然すぎるほど当然の事だった。
 陛下に王位をと言う言葉まで出てくるくらい、その国の民度はなんというか斜め上に終わっていた。
 ややこしくなった事態に、どうしようかな、と全員が思った時。
 彼らの真下に魔法陣が現れる!
 魔法陣には一つの輝くドアがあり、ばたんとドアを開けて興奮した女が出て来た。

「今、行き場が無いと思いましたね? 思いましたね!? そこで皆さんおめでとう! 新たなる異世界にご招待! やったー! 嬉しー! ついでに神様までランクアップもついてくる! 超お得! おめでとう皆さん、おめでとう、ありがとう、ありがとう! これで私の世界もきっと安泰ですね! さあ、皆さん、おいでになってー」

 そうして、カリュート達は世界から浚われた。



[28146] 俺達の冒険はこれからだ!
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:9a8f54f5
Date: 2011/07/20 21:38
「おめでとうおめでとう!」

「おい」

「それでは皆さん、後はよろしくお願いしますわ!」

「おい!」

 抱えた籠から花弁を散々に撒き散らした後、女はトンズラした。
 
「さよならツァイツェングッバイアデウス!」

 カリュートが追いかけるが、女は消えた。
 途方に暮れて、メンバーを確認する。
 萌子。カリュート。フーデル。エルーシュ。浩太。陛下。雅。カトレア。レイフォン。レイフォンのハーレム。
 次に、周囲の確認をする。
 畑。粗末な神殿。農作業用の道具。剣などの武器。広い結界。そして、その外に広がる広い草原。
 強い風が吹いていた。

「ここは、一体……」

 エルーシュの言葉に、ステータス欄としか言えない物が開いた。




世界名:アルテナリア203
主神:アルテナ
難易度:A(卒業試験補習)
達成課題:準備期間より二千年間の人類の存続。
査定基準:人数、幸福度、文化の発展(ただし神子の作成した建造物・道具は考慮しない)。
査定手順:準備期間百年、神の干渉を許す神の時代千年、神、神子のあらゆる干渉を禁止する千年の二千百年。ただし、神の時代に最低一回の試練を課す。
救済措置:二十人未満の神子の招致。
神子の条件:神子を生みだす際の干渉は魂の移動と運命率干渉のみ許可する。その世界から離れたくないと思っている神子を浚って来てはならない。神子に関しては最大二十名までとする。神力ポイントは計100000ポイントまでとする。また、神なき時代が訪れるまで開始時点の挨拶以外の接触を禁ずる。また、優秀な神子を招致出来た場合に限りそれぞれにボーナスポイントを渡し、それは神子の意志で使える物とする。それとは別に、全ての神子に信託システムとテレパシー、初期言語知識を付加。
準備期間の特例措置:結界の常時展開と準備ポイント一万点以内で設備を選択。好きな位置に二十の村と神子の初期神殿を配置し、神子を呼んだ時点で開始。
経過時間:0年0カ月0日0時10分12秒 【準備期間】
使用準備ポイント:500/10000点
使用ポイント:10000/100000点
各ボーナスポイントは、各神子をクリックの事。



「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 エルーシュと萌子は声をあげる。他のメンバーは、何が起こっているのかすらわからなかった。

「え、ええっと……。つまり、誰かの試験に巻き込まれたってこと……か?」

 レイフォンが頬を掻きながら告げる。

「ちょっと待って。もしかしていきなり錬金術世界に転生されたのは……」

 萌子が青ざめたままいい、エルーシュは首を振った。

「それ以外にないだろう。というか、ポイントが既に割り振られているし」

「わー……。ゆる……せるわー。だって、カリュート達と会えないなんて、考えられないし。むしろ感謝してるかもね。それとは別にアルテナ様には復讐したいと思っているけど」

「つまり、どうすればいいんだ? あ。ポイント、確かに割り振れるな」

 エルーシュが、早速ポイントを消費して研究施設を出現させる。

「どういう事ですの?」

「とりあえず、全部話すわ。悪いけど、エルーシュも研究所は後にして。作戦会議しましょう」

 そうして、今までの事情や、様々な事を説明する萌子達。
 
「つまり、私は神になりましたのね!」

 嬉しげにするカトレア、冒険の予感に胸を膨らませるレイフォン一行。カリュート達も、どのみち居場所は自業自得で無くなっていたのであるからして。ため息をつき、現状を受け入れる事にした。
 これからどうするかの話し合いの最中に、ポーンと音がする。

【好奇心旺盛な者達の村が探索に赴き、半数が死亡しました】

「ああもう、作戦会議位まともにさせなさいよ! なんで安全な結界から出るのよ」

「信託で全村に出ないように通達しないとな」

 カリュートが冷静に告げ、実行した。レイフォンも、声をあげた。

「というか、村がこんなんじゃあ冬が越せないぞ。冬がここにあるのかわからないが……。用意してあるのが畑と家だけって。いや、井戸が無いから三日も持たないか。せめて泉が傍にあれば……」

【準備ポイントが100消費され、それぞれの村に泉が出来ました】

【反抗期な村が探索に出発しました】

「あ、一応アルテナ様は見守っているみたいね……。当たり前か、卒業掛かってるもんね。補習って事は相当やばいのか……っていうか、難易度高すぎじゃない? 村のステータスは、と……」

「追加するにしても、少し考えてか、話し合いを見届けてからにして欲しかったな……」

 レイフォンは苦笑いする。
 
「執政なら余に任せろ! とりあえず探索だな、全ての村を回って状況を……世界に散らばっているだと!? アルテナ神とは馬鹿か! ええい、そなたはもう予が状況整理して対策を打ち出すまでじっとしておれ!」

「国を治めるのは私ですわ!」

「とりあえず、俺はポイント消費してコクエイで全部の村に行けるようにする」

 にわかに騒ぎ始めた神子達。
 試験は、ようやく始まったのだ。



























うん、当初の予定ではここまでプロローグでした。
でもミケ、このプロローグに匹敵する本編書けないお……。
と言う事で、この話はここで完結です。
ご愛読、ありがとうございました。
エピも短くてごめんなさいorz



[28146] 設定
Name: ミケ◆8e2b4481 ID:9a8f54f5
Date: 2011/07/20 22:13
夢蠱毒(エロゲ―)世界のその後。

エルーシュのSGRはダークネスの他部族が美味しく頂きました。ホーピアス、人類、ダークネスの一族はぎこちなく交流を続ける。
  その後、ダークネスに女の子が嫁ぐ例もちらほらと。ただし、飽くまでもダークネスに認められた才ある女性しか迎えられないので例は少数。
  そして、ダークネスでは女性は表に出れないという掟の為にその後は音信不通となる。
  もちろん、嫁いだ女性達はエロゲな事になっているが、ダークネスはもちろん、ホーピアスも真実を告げる事は思いつきもしない。
  ちなみに強い女性なら強い女性ほどエロゲな事になるので、むしろ勝たない方が良かったでしょう。




ロボット大戦(漫画)世界のその後。

  フレアストーンに関しては相変わらずもめもめしている。
  民間としては音楽交流が盛ん。
  マスコミはこの後袋叩きにされた。
  マナは解明され、しかし半端な知識しかなかった為に独自の魔法科学技術が爆誕。宇宙人の科学力の流入もあり、黄金期を迎える。



魔術師レイフォン(ゲーム)の世界その後。

とりあえず、政敵が全ていなくなった混乱期を纏めあげ、ドサクサに紛れて即位。ケルト王子大勝利である。
  錬金術や各種技術については残ったが、魂具の治療知識は残らなかった。技術探求、治療知識獲得の為の試行錯誤で被験者が可哀想な事に。
  錬金術についてはどんどん伸びて行き、魂具や魔術と結合して独自の錬金術を編みあげて行く。まあ、カリュート達の辿った道を少しそれている位ですが。




聖騎士ナイトダンスの世界のその後

神様が次々と逃亡。初代神様も逃亡していた事がわかり、神様は遠目から生暖かくにょにょする方針に。
  魔王がいなくなり、新たな技術と話のネタも手に入れ、神様が出て行った責任転嫁で喧嘩しつつも宴会な雰囲気。
  今の所平和で活気がある世界へ一直線。
  カラーレンとパジーはそれぞれ料理の修行の旅に出る。コックダンス、始まりました。
  他の子供達も自分の進みたい道に進み、おおむね皆幸せとなる。
  フーデルのいた国は神聖帝国と名を変え、各国の尊敬を得る様になる。




  錬金術世界。

  希代の悪人としてフーデル、萌子、カリュート、エルーシュは名を残す。錬金術師の悪人と言えばまずこの四人。
  詳しい人相書き等も広がっており、不老不死の噂もある為、恐らく100年経っても人里にいったら騎士に尋問される。
  また、時間の流れもかなり違うので行き来には適さない。
  異世界転移の為の道具を創る為、四人は手段を選ばずかなりの無理をしていた。
  禁術で四人の知らない錬金術はない。
  誰もいない場所にこそこそ素材を取りに行くくらいなら何とかなるけど、人里は無理。



  アルテナリア203世界について。
  アルテナの創った203番目の世界。
  もう先生泣きそう。今までに創った世界に産まれちゃった人達も涙目。もう誰も生きてないけど。
  唯一の救いは、補習をしてから203番目ではなく、初めて創った世界から数えて203番目と言う事。それでも今までの世界全滅しているけど。
  アルテナが合格できるかは神子達の手(だけに)掛かっている!
  萌子達以外にも導かれし者達がいたか? 1000人位いましたとも!
  萌子達四人は完全なイレギュラーで、高いボーナスポイント貰ってます。


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