HOMEXFELとはXFELとは

XFELとは

XFEL計画とは

XFELとは、X線自由電子レーザー(X-ray Free Electron Laser)の略で、波長がX線(可視光よりも波長がとても短い)領域のレーザーです。 XFELは、物質を原子レベルの大きさで、かつ瞬時の動きを観察することができると考えられているまったく新しい「夢の光」です。 そのため基礎研究にとどまらず、広く国民の生活に有意義な影響を及ぼすような画期的な光源として期待されています。 そのような理由からXFEL計画は、我が国の科学技術を牽引する世界最高性能の研究・技術開発として、『国家基幹技術』に認定され、2010年度の完成を目指し、2006年から施設の建設が始まりました。2011年3月に施設が完成し、2011年6月7日には波長0.12nm、10日には波長0.10nmのX線レーザーを発振しました。 米国や欧州(ドイツ)においても同様の計画が進行中であり、日米欧の間で熾烈な競争が行われています。

XFEL施設の概要

下の写真は兵庫県播磨科学公園都市にある、SPring-8キャンパスです。右側のリング状に見えるのが世界一の性能を誇る大型放射光施設SPring-8で、直径は約450m、1周約1.5kmです。
左側の細長い施設がXFELで全長は約700mです。XFEL施設はSPring-8と同じキャンパス内に隣接する形で建設されます。
この施設は、SPring-8と同様、電子を80億電子ボルト(8GeV)まで加速し、最短波長0.06 nm(ナノメートル)のX線レーザー発振を目指しています。波長0.1 nm近辺での明るさはSPring-8と比べて10億倍に達します。XFELを発生させる装置群は、固い岩盤に支持されたコンクリート製のトンネル内に、非常に高い精度で設置されます。



XFELが作り出す光

XFELが作り出す光は、下図で示すように放射光(強力なX線)とレーザー(波の揃った高品質な光)の両方の特長をもった光です。X線は、1895年にレントゲンによって発見されて以来、医療用のレントゲン写真やCTスキャン、空港での手荷物検査などで利用されています。そして20世紀後半、放射光と呼ばれる強力なX線の登場により、タンパク質の構造解析や微量元素の分析などが可能になりました。
一方レーザーは1960年に発明され、パソコンのマウスやCD・DVD、光ファイバーによる高速通信、正確な測量・測定、病院での手術、工場では材料加工に使われるなど、その利用分野は飛躍的に発達し、我々の生活に必要不可欠なものになっています。 光は波長によって性質が変わり、波長によって対象となる実験領域も異なるため、現在までに様々な波長の光源が開発されてきました。しかしX線領域のレーザーだけは、原理的な問題からこれまで実現不可能と考えられていました。ところが1990年代、新たな発想と技術的な進歩も相まってXFELの実現性が急速に高まり、今日の日米欧が争う国際的な開発競争に至っています。



XFELの発生原理

XFELを生み出す源は、ほぼ光速まで加速された電子の集まりです。 XFELを発生させるための重要な装置として、電子銃・加速管・アンジュレータという3つの装置があります。

(1)電子銃
電子を発生させる装置です。XFELには指向性の強い(バラバラでなく同じ方向に進む)電子ビームが必要なため、新たに特別な電子銃を開発しました。 真空中で約1500℃まで加熱すると合金の結晶から電子が飛び出します。 ちなみに最近は液晶テレビ等に押され気味ですが、従来タイプのテレビのブラウン管にも電子銃が使われています。

(2)加速管
電子をほぼ光速(光速の99.9999%)まで加速する装置です。 加速管には、短い距離で効率的に電子を加速することが求められます。 なぜなら電子を効率よく加速することができれば、加速管の数から建物の長さに至るまで、コストを大幅に節約することができるからです。 XFELでは従来の2倍の加速性能を持つ加速管の開発に成功したおかげで、加速器部分の長さが半分で済み、コスト削減に大きく貢献しています。

(3)アンジュレータ
磁石を多数並べ電子を蛇行させて光を放出させる装置です。 電子は蛇行するたびに放射光を発生し、光と相互作用します。 すると徐々に光の波(山と山、谷と谷)が整列し、増幅され、レーザー発振に至ります。 SPring-8で開発されてきた真空封止アンジュレータにより、低いエネルギーでもX線領域のレーザー発振を可能にし、大幅なコストダウンに貢献しています。 電子はレーザー光が得られた後は不要になるので、磁石で方向を変えて停止させます。



XFELは何に役立つの?

XFELは、これまでにない非常に強い光で、超高速のパルス光であるという利点があります。 原子や分子といった極めて微細なものが、非常に速く変化する様子をコマ送りのように詳しく連続的に観察することが期待されています。 現在考えられているXFELを利用した研究の一部を紹介します。

(1)極短時間反応の観察
XFELは非常に短い時間で起こる現象を観察できます。 そのため、現在の科学では「反応前」と「反応後」しか観察できない反応も、「反応中」の物質を直接観察できると考えられています。 例えば、現在地球上には6億台以上の自動車が存在しますが、そこから排出される排気ガスは膨大な量になり、地球温暖化の要因になっています。 自動車には廃棄ガスを浄化するために触媒がついていますが、XFELを用いて触媒がどのように排気ガスを浄化しているのかを直接観察できれば、まったく新しいアプローチから触媒の開発が可能になると考えられます。 その結果、環境問題にも貢献できることでしょう。

(2)創薬のスピードアップと効率化
今日市販されている薬の60%以上が膜タンパク質に作用する物質であることから、膜タンパク質の解析が新薬開発の成否を握っています。 タンパク質の構造を調べる代表的な方法として、タンパク質を結晶化しSPring-8などの放射光(強力なX線)が使われています。 しかし膜タンパク質は結晶化が極めて難しく、構造を解明し機能を理解するまでに数年から10年以上かかったり、結晶化ができないために解析そのものが不可能であったりするために、新薬開発が遅々として進まないというのが現状です。 ところがXFELは、光の波が揃っている上にSPring-8の10億倍も明るいため、結晶化が不要でタンパク質1分子があれば構造が解析できると考えられています。 このようにXFELは国民の健康に対しても大きな貢献ができるものと期待されています。

(3)まったく新しい素材の研究開発
温度やpH(酸性⇔アルカリ性を表す)の変化は、物質の性質(=物性)も変化させます。 紫外線などに代表される光も、温度やpHと同様に物性を変化させます。 SPring-8とXFELが同一キャンパスに存在するメリットを活かせば、非常に強いXFELの光を様々な材料に照射して、その物性が変化する様子を、SPring-8からの放射光を使って観察するという実験が考えられます。 これにより現在知られていない、全く新しい性質をもった材料の研究が進むでしょう。 XFELと放射光という2つの異なる最先端の光源を利用した実験が可能なのは、世界で唯一、播磨科学公園都市だけです。

21世紀を照らす光

20世紀はエレクトロニクス(電子技術)の時代でした。そして21世紀はフォトニクス(光子技術)の時代になるといわれています。 XFEL とSPring-8は、21世紀の日本の科学技術の発展のために重要な光源です。 そして、播磨科学公園都市がフォトンサイエンスのCOE(人材と設備の両面で卓越した最先端の研究拠点)を目指す上で、XFELとSPring-8という2つの光源の存在が、大きな相乗効果を生み出していくでしょう。