手嶌葵さん(テルー役/主題歌、挿入歌担当):
初めまして。手嶌葵です。
<手嶌葵さん> |
MC:(手嶌さんに向かって)おいくつですか?
鈴木敏夫プロデューサー:
18歳です(会場笑)。
MC:監督、かっこいいですね。
宮崎吾朗監督:
宮崎吾郎です。初めまして。父に似てないと言われるのがとても嬉しいです(会場笑)。
MC:仕上げでお忙しいと伺ったのですが……。
宮崎監督:
画の方は大体出来上がりましたので、今は音関係の作業を追い込みでやっております。
鈴木敏夫プロデューサー:
いろいろと喋りたいんですけれども、今日は(手嶌)葵ちゃんと(宮崎)吾朗(監督)、この二人が主役ですので、グッと我慢してあんまり喋らないようにします。そして帽子をかぶって顔が目立たないようにしてまいりました(会場笑)。
MC:挿入歌「テルーの唄」の反応はいかがですか?
鈴木プロデューサー:
多くの方からメールをいただいて、本当に「彼女に歌ってもらって良かったなぁ」と思っています。
MC:「テルーの唄」が生まれた経緯と、手嶌さんを起用された経緯を教えていただけますか?
鈴木プロデューサー:
本当に偶然のきっかけです。ヤマハの秋吉(圭介)さんという方がお見えになって、ある日、ポンとデモテープを渡されたんです。
こういうことは多いんですけれども、そのとき「この仕事に30年携わってきましたが、こんな声は聞いたことがないです」と殺し文句を言われましてね(笑)。普段はもらったテープをあまり聴かないんですけれども、こんなことを言われるのは珍しいですから、会社に戻って聴いてしまったんですね。
そしたら、最初にベッド・ミドラーの「ローズ」という曲が流れてきて……。実はこの曲、大好きで一番多く聞いている曲なんです。「おもひでぽろぽろ」という作品で、都はるみさんに歌っていただいたこともありますし。なにしろその曲が入ってましたので、聴いた途端にガーンと来てしまいまして、すぐ秋吉さんに「キープしたい」と電話しました。
その一方で、吾朗くんにもテープを聴かせました。大概いつもは「いいだろう?!」と突きつけるんですけれども、僕がそれを言う前に吾朗くんの方から「いい」と言い出したものですから、「これは早くした方がいい」と思いまして。「早く歌って欲しいから詞を書いてくれ」と吾朗くんに言った訳です。
そしたら、吾朗くんが「詞って一回も書いたことがないです」と言うもので、僕が20歳くらいの時に読んで覚えていた萩原朔太郎の「こころ」を諳んじて、「過去にはいろんな名作があるんだから、それを参考にすればできるんじゃないか」と言ったんです。
吾朗くんという人は、決断が早いし、とにかく仕事が早いので、その翌日か翌々日には詞があがってきました。それを秋吉さんに送りましたら、1週間後か10日後くらいに「曲ができました」と彼女の声が入った状態で歌が届けられまして。それを聴いて、「これでいこう!」となったんです。
MC:しかもヒロイン・テルーも手嶌さんに、ということになったんですね。
鈴木プロデューサー:
これは相当悩んだんですけれどね。彼女にそういう役ができるかどうか……。ただ、今回の作品自体、監督もまったくの新人ですし、こじんまりとまとまったものをちゃんと作るのではなく、破綻を来してもいいから勢いでやるといった作品を作って欲しかったんです。
だから
葵ちゃんに関しても、演技をやっていたかどうかも知りませんでしたが、なんとかなるんじゃないかと思って監督に言ってみました。 そしたら監督も、「葵ちゃんには挿入歌を歌ってもらう訳だから、(ヒロインを演じてもらう)必然性がある」と賛成してくれたんです。
MC:吾朗さんを監督にと言い出したのは、鈴木プロデューサーだと伺ったのですが……。
鈴木プロデューサー:
皆さんご存知のように、彼の父は宮崎駿という偉大な人物ですね。それから彼はこれまで、アニメーションなど作ったことがない。
おまけに宮崎駿が「影響を受けてきた」と公言している「ゲド戦記」をやる。これはもう、普通に考えればやろうとは思えないですね。でも、この3つが揃ったからこそ、やってもらえる気もしたんですよ。
MC:宮崎監督は何故引き受けたんですか?
宮崎監督:
状況的に鈴木に追いつめられていったというか(笑)。
やろうと思ったのは「ゲド戦記」だというところが大きかったです。10代の頃に読んで、今でもすごくよく覚えている作品ですし、自分なりに「ゲド戦記」の世界を作ってみたいという気持ちが抑えきれなくなりまして。
経験はなくても、それはなんとかなるだろうと。ずいぶん悩みましたけれどもね。
<宮崎吾朗監督> |
鈴木プロデューサー:
逆に考えれば良い条件が揃っていたとも言えるんですよ。なにしろ初めてなんですから、失敗したっていいんです。その気楽さが彼を監督にさせたんじゃないかと思ってます(笑)。
宮崎監督:
これ1作でいいと思えば、何でもできます(笑)。
MC:えっ?! でも、実際に監督をされてみて、ハマった部分もあったんじゃないですか?
鈴木プロデューサー:
ハマりました!(会場笑)
宮崎監督:
(笑)。まだわかりません。お客さんに観てもらって、どういう評価を得られるのかが分かるまでは、なかなか完成したという気持ちにはなれないので。今はそれを待っているといった状況ですね。
MC:お父様である宮崎駿監督は、横で見てらっしゃったんですか?
宮崎監督:
盗み見てたというか……(笑)。
鈴木プロデューサー:
みんなが帰ったあと内緒で見てるんですよね、あの人は(笑)。
とにかく、宮崎吾朗が監督になるという話をしましたら、「経験のない者がいきなり長編映画をやるだなんて無茶だ! 鈴木さん、どうかしてる。おかしい!」と言われましたから。
MC:出来栄えは思った通りですか?
宮崎監督:
思った通りというよりも、思った以上です。葵ちゃんもそうですが、いろんな人との出会いがあって、いろんな人の力を借りました。だからこそ自分の出来る範囲を超えて、想像以上のものを作ることができたんじゃないかと思っています。
MC:「テルーの唄」についてはどう思いますか?
宮崎監督:
本当にこの声に出会えて良かったと思っています。良い歌が出来たということだけではなく、彼女の歌声を聴きながら感じたことを、自分の作品に反映させていくことが出来たので。歌を通して作品が変わっていったのですから、出会えて良かったと。
鈴木プロデューサー:
(「テルーの唄」が出来たとき)絵コンテは完成していなかったよね?
宮崎監督:
完成してなかったですね。
ストーリーもちゃんと決まっていない段階から、葵ちゃんにしようということだけは決まっていましたので。歌が映画に与えた影響は大きいです。
鈴木プロデューサー:
挿入歌にしようと決めたのはいつだったかな?
宮崎監督:
「テルーの唄」と「時の歌」という曲がありまして、その2つが出来たとき、絵コンテを作りながらどちらを挿入歌に使おうか迷いました。でも「テルーが歌うのであれば、やはり『テルーの唄』が挿入歌にふさわしいだろう」ということになったと記憶しています。
<鈴木敏夫プロデューサー>
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MC:手嶌さんは歌も声優もやると決まってどう思いましたか? そして実際にやってみていかがでしたか?
手嶌さん:
(鈴木プロデューサーがカンペを差し出し)小さい頃からスタジオジブリの作品が好きだったので、とても嬉しかったです(会場笑)。
「テルーの唄」を聴いてくださった方が、「ゲド戦記」を観たいと思ってくださればとても嬉しいです。
テルーを演じるのはとても難しかったです。でも、宮崎監督がひとつひとつ、とても丁寧に教えてくださったので、テルーの気持ちに近づくことができました。
MC:テルーはどんな子ですか? 手嶌さんとテルーはリンクする部分があったりしたのでしょうか?
手嶌さん:
テルーはとても強い子ですけれど、すごく優しくて、心の力が強いと思います。頑固者なところとか負けず嫌いなところとか、似ている部分はあると思います。
■マスコミによる質疑応答
Q:手嶌さんと会った時の印象をお聞かせください。また、最初に会った時と今とでは、何か変わったことなどはありますでしょうか?
鈴木プロデューサー:
秋吉さんの方から「今日はここで収録している」とか何度も連絡が来て、会う機会は何度もあったんですけれど、僕の中でのイメージがあったので、会うのが怖くて会う気になれなかったんですよね……。
「せっかく素晴らしい声をしているのに、ぶちゃむくれだったらどうしよう」とか、「あんまりいい声だから見た目は大したことないに違いない」とか、そういうこと思うでしょう、人って?(会場爆笑)
でも、どうしても会わなければならない日がやってきたんですが、そこら辺の記憶が何故か曖昧で希薄になってるんですよ。さっき挿入歌をいつ決めたか聞いたのもそうですし、吾朗くんに監督を頼んだときのことも、自分が何をどうやって喋ったか覚えてないんですね。
ただ1つだけ覚えているのは、彼女がジブリに初めて来てくれた時のことです。彼女は目黒のホテルに泊まっていたので、僕が車で送っていくことになったんです。自分から言い出したのはいいんですけれど、なにしろ18歳で自分の娘より若い子ですから、1時間も何を話そうかと悩みまして(笑)。
でも、気づいたらずっと喋ってたんですよ。こうやって一見おとなしそうな顔をしていますが、一度喋り出したら止まらない人なんですよ。僕はそのときに知りました(笑)。
さっき自分でも頑固者だと言ってましたが、それはすぐに分かりました。こうやって(おとなしそうに)見せてますけど結構図々しいですし、それは最初に会った時に見抜きましたよ(笑)。だから今でも印象は変わらないですね。
宮崎監督:
そうですね、印象は変わらないですね。最初に会った時はほとんど何も喋らなくて、おとなしい子だなと思ったんですが、今でもあんまり喋らないので……。
でも、彼女の声によってキャラクターの性格が作られていくんですよね。だから葵ちゃんなのかテルーなのか、僕の中で分からなくなって、両方が重なって見えてしまうことがあります。だから葵ちゃんが良い意味で頑固なんだろうな、というのは分かりました。素敵な子だと思います。
MC:手嶌さんは、鈴木プロデューサーの前と宮崎監督の前とでは違うのでしょうか?
手嶌さん:
ちょっと違うと思います(笑)。
Q:手嶌さんはいろんなことにチャレンジされましたが、何が一番大変でしたか?
手嶌さん:
アフレコが難しかったです。台詞をどう言うか、どう感情を込めるか、監督が丁寧に教えてくださったのでテルーの気持ちになれましたが、言葉に感情を表すのがいかに大切なのかを感じました。
Q:吾朗さんが監督になることを反対されたという宮崎駿監督ですが、実際に吾朗さんが監督になられて何か一言ありましたか?
宮崎監督:
スタジオの近くにアトリエがありまして、そこに「ちょっと顔を出せ」と呼び出されました。その話だろうなとは思ったんですが、案の定「本当にやる気があるのか」と言われまして。「やる」と答えました。
その場はそれで済んだんですが、その後もう一回呼び出されまして、「本当にやる気があるのか?!」と(会場笑)。その時に「ある」「ない」で怒鳴り合いのケンカになりまして、それ以来口を利いていません(苦笑)。
MC:鈴木プロデューサー、責任重大じゃないですか?
鈴木プロデューサー:
宮崎駿という人とは気がついたらもう30年近く付き合っていて、毎日喋っているんですが、なるたけ「ゲド戦記」の話題には触れないようにしています。でもだんだんと公開が近づいてきていて、どうしようかと思っています(笑)。
<和気あいあいいとした3人> |
Q:手嶌さんの好きなジブリ作品を教えてください。
手嶌さん:
スタジオジブリの作品は小さい頃から、家族みんな大好きで見ていました。私は「紅の豚」が特に好きです。加藤登紀子さんのシャンソンが好きですし、ポルコ(紅の豚)が好きです。
鈴木プロデューサー:
今日は胸に「紅の豚」の飛行機をつけているんだよね。
Q:「テルーの唄」は、どういう感情を込めて歌っていますか?
手嶌さん:
この歌を初めていただいた時は、とても悲しくて寂しい感じがしたんですが、吾朗監督の詞を見てみて、風や雨、鷹という言葉にとても力があると感じました。なので、その気持ちを歌にしたいと思いました。初めて聞いた時に感じたままを、素直に歌ったつもりです。