◇名古屋場所(11日目)
関脇琴奨菊(27)=佐渡ケ嶽=が横綱白鵬(26)=宮城野=を寄り切り、大関昇進に向け大きな白星を挙げ9勝とした。白鵬は1敗に後退した。大関日馬富士(27)=伊勢ケ浜=は琴欧洲との大関対決を制して無敗を守り、単独トップに立った。琴欧洲は3敗。把瑠都は安美錦を引き技で退けて2敗を守った。魁皇が引退し、この日の対戦相手だった隠岐の海が不戦勝。
大一番の前に迷いのない男は強い。「勝つなら左四つしかない。相手のことは考えず、自分を信じていこう、と」。琴奨菊の狙いはただ一点。立ち合いで強く当たって自慢の左を横綱の右脇に差し込み、一気に寄る。
思惑通りの展開になった。右の上手もつかんだところで前へ。しかし相手は史上初の8連覇へまい進を続ける横綱白鵬。その重たさに一度は押し返され、右の上手が伸びて切れそうになった。
「命綱だ。絶対離してたまるか」。もう一度、土俵際へ押し込み、こん身のがぶり寄りで全体重を傾けた時、横綱の右足が土俵を割った。
「頭の中、もう真っ白で…。夢中で何も覚えてない。腹は決めてたし、立ち合いから攻めることしか考えてなかった。本当に大きい1勝です」
福岡県柳川市にある実家は父親の菊次一典さん(55)、母親の美恵子さん(56)らに近所の人たちも集まって割れんばかりの拍手に包まれた。「あの盤石の横綱に自分の相撲で勝てたのは大きい。残り4日間も気を抜かずに」と一典さん。その直後、めったに場所中はかかってくることのない琴奨菊から電話。「思った通りの相撲がとれた」と報告する息子に「よく辛抱して上手を取らせなかったな。この勝ちをかみしめて頑張れ」と励ますと普段2、3発しか鳴ることがない花火が10発以上鳴り響いた。
同郷の大先輩、魁皇が引退会見した当日。過去19連敗中と“難攻不落”の白鵬を破って大関昇進をたぐり寄せた。何という不思議な縁で結ばれた2人なのか。
「心に大きな穴が開いた感じ。魁皇関は安心できる部分があった。でも、これからは自覚して少しでも近づけるように頑張っていく」。日本人大関誕生が待ち望まれる中、今しっかりとバトンは琴奨菊へ受け継がれようとしている。 (竹尾和久)
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