魁皇が引退届「やり残したことは何もない」　年寄「浅香山」襲名

花束を手に笑顔を見せる魁皇。天井のシャンデリアがメキシコのソンブレロ（帽子）のよう

　大関・魁皇が２０日、日本相撲協会に引退届を提出し、協会の臨時理事会で年寄「浅香山」の襲名を承認された。名古屋市内のホテルで会見し、完全燃焼の力士人生を告白した。引退相撲断髪式は未定。

　約１時間の会見で、魁皇に涙はなかった。「最高の相撲人生でした。やり残したことは何もありません」。引退は若荒雄に敗れた９日目の夜に覚悟。師匠の友綱親方（元関脇・魁輝）に「明日も自分の相撲が取れなければやめます」と伝えた。充子夫人にも電話で決意を明かし、挑んだ琴欧洲戦に完敗。「これまで引き際を見失ったが、ここが引き際だと思った」と潔く引退を決断した。

　自らの美学に反したことも決断の裏にあった。今場所は史上最多の１０４５勝がかかっていた。これまで記録を意識せず一日一番に集中してきたが「今回はそこを目標にしてしまった」。結果的に１０４７勝まで伸ばしたが、記録を目標にした時「この引き際を大事にしよう」と腹を固めた。

　思い出の一番は関脇時代の００年初場所千秋楽の武双山戦。一方的に押し倒され「あの悔しさが忘れられなかった。あれで相撲への考えが変わった」。大関昇進と５度の優勝は負けて学んだ栄光だった。ここ数年、館内に響く魁皇コールには「こんな声援の中で相撲が取れて幸せだった」と全国のファンに頭を下げた。

　今後は浅香山親方として友綱部屋付きの親方になる。２年後をメドに独立し「浅香山部屋」を興す意向。「自分の形を持ち、まじめに稽古をする力士を育てたい。厳しさがなくなったら相撲でなくなる。その厳しさを伝えていきたい」。果たせなかった横綱の夢を親方として実現する。

　◆慰労の意味込め地元で花火１０発
  魁皇の故郷で、新入幕の９３年夏場所から白星を祝う花火を上げてきた福岡・直方市は、２０日は優勝時と同じ１０発を色つき花火で打ち上げた。「慰労の意味をこめて上げました」と地元後援会関係者。また、すでに受賞が決まった福岡県民栄誉賞、直方特別市民文化栄誉賞の表彰式が、同市内の大型商業施設「明治屋産業びっくり市」で８月中旬に行われる方向で調整中だという。

　◆浅香山（あさかやま）初代は江戸時代の１６８６年に勧進相撲で活躍した浅香山市郎右衛門。以後、継承者はおらず、明治初年に２代目が復活。昭和に入り元小結・若瀬川、元小結・青葉山らが継承し、１０代目の元幕内・大若松が仮名跡で襲名していた００年２月２１日に魁皇が名跡を取得した。以後、元小結・智乃花、元関脇・琴錦、元小結・闘牙、元幕内・起利錦らに名跡を貸し、今回の引退で正式に襲名。