2011年5月21日 15時2分
東日本大震災では、公共施設などの天井が崩落する被害が広域で相次いだ。東京都千代田区の九段会館で2人が死亡する被害が出たほか、柱や壁など主要部分はほとんど壊れなかった近代的な耐震建物で、つり下げ式の天井が落ちたケースも目立った。このため国は、被害実態の調査に乗り出すとともに、落下防止に関する国の指針を見直すべきか検討を始めた。【樋岡徹也】
3月11日、東京都千代田区の九段会館では専門学校の卒業式中に天井が落下、女性講師2人が死亡し、生徒ら26人が重軽傷を負った。栃木県下野市では、中学校の体育館で集会中に石こうボードが落ちて20人が負傷。人的被害がなかった例でも、川崎市幸区の音楽ホールで天井板や鉄骨が約2000人の観客席に落下したり、茨城空港ターミナルビル(茨城県小美玉市)の天井の一部が崩落した。
国土交通省などによると、建物の骨組みに当たる柱や壁などの「構造体」は建物全体の構造設計・構造計算の対象になるが、天井や建具、ガラスのような「非構造部材」は建築基準法施行令に「風圧並びに地震その他の震動及び衝撃によって脱落しないようにしなければならない」とだけ記されている。
天井落下事故は01年の芸予地震と03年の十勝沖地震でも起きた。国交省はこの際、つり天井について▽壁と天井に隙間(すきま)を設け揺れによる損傷を防ぐ▽天井をつる棒が長い場合、揺れを抑えるため棒同士を補強材でつなぐ--などの技術的助言(指針)を作成。強制力はないが、都道府県に周知を求めた。
しかし05年の宮城県沖地震で仙台市の運動施設でプールの天井が落下し26人が負傷。国交省はつり天井を備える大型施設(500平方メートル以上)の落下防止策が指針通りかを定期的に調べているが、昨年9月時点で都道府県から報告のあった1万9139棟のうち約2割(3723棟)が指針を満たしていなかった。
今回天井が落下した施設が指針を満たしていたかどうかについて、国交省は現在自治体を通じて調査を進めている。ただし九段会館は1934年にできた古い建物で天井の仕様も異なるため、対象にしていないという。同会館については東京都が建築基準法に基づく立ち入り調査を実施、遺族らが運営者などを業務上過失致死傷容疑で警視庁に告訴している。
国交省建築指導課は「建物の耐震性というと倒壊や崩壊防止をイメージしがちだが、今回は天井の落下が予想以上に目立つ。不特定多数の集まる場所で天井が落ちると、極めて危険」と問題視。調査結果を踏まえ、指針の見直しなど落下防止策を検討する。