始めはフィーナに良く似合う淡い色使いの幻想的なドレスであった。
「良く似合ってる、綺麗だ」
率直なスレイの褒め言葉。
フィーナは顔を真っ赤に染め、店員はそのスレイの言葉に満足そうに頷く。
次は白いワンピースである。
これもまたフィーナ自身の髪や目そして肌の淡い色合いと良く似合い、幻想的な美しさを醸し出している。
「うん、これも似合うな。フィーナはやっぱり綺麗だな」
フィーナの耳元で囁かれる率直に過ぎる褒め言葉。
フィーナはますます顔を赤く染め、流石の店員もスレイの甘い囁きにはやや当てられたらしく、熱い熱いなどとわざとらしく手で顔を煽っていた。
そのまま暫く着せ替えは続く。
そしてディラク島から仕入れたという着物、どこか幻想的な色合いと柄のそれを着たフィーナを見た時、スレイはフィーナの耳元でますます甘い言葉を囁いた。
「まるでお姫様みたいだ、できるならこのまま攫ってしまいたいぐらいだな」
ますます顔を赤く染めるフィーナ。
先程から何度も繰り返されるスレイの甘い囁きに、見ている店員も流石に呆れ顔になってきている。
そのままスレイは、最初のドレスとワンピースの二着と最後の着物を買う事に決め、フィーナにはこの場でワンピースに着替えてもらう。
その上品さもあり、どこかのお嬢様と言った風貌だ。
そして残りの二着は包んで貰い、スレイが持つ事にする。
「それでは3着で、端数はおまけしちゃって、2000コメルになります」
「それじゃあ、これで」
スレイが預金額を表示し差し出したカードを精算機に通す店員。
「あ、あの!こんなにプレゼントしてもらう訳には」
「前にも似た様な事を言ったと思うが、これも男の甲斐性ってやつだ。頼むから受け取ってもらえないか?」
「わ、わかりました。このお礼はいずれ」
スレイの真剣な表情に呑まれたように頷くフィーナ。
だが、スレイは続ける。
「お礼なんて要らないさ。フィーナが俺の恋人で居てくれるのが俺にとっては一番のお礼だな」
「あ、あう」
ますます顔を真っ赤にするフィーナ。
そんな一幕を目撃していた店員や女性客達は揃ってスレイを呆れたような表情で見ている。
これだけの甘い言葉を平気で囁き続けるとは。
どれだけの女っ誑しなのか。
どこかその視線には戦慄すら混ざっていた。
店を出るとそのまま公園へと向かう二人。
フィーナはそれほど食欲が無いという事だったので、食事は公園に出てるだろう出店で軽食を何か買って食べる事にする。
しかし二人に注がれる視線は確実に店に入る前よりも増えていた。
「あ、あの、やっぱりわたくしにこの服装は似合わないんじゃ?」
「逆だな、皆フィーナに見惚れているのさ、その証拠にほら」
「きゃっ」
肩を抱き寄せ今まで以上にフィーナと密着するスレイ。
そんな様子を眺めて独り身の男達から嫉妬と羨望の視線が突き刺さる。
「ほら、男達は皆フィーナとこうやって密着してる俺に嫉妬しているだろう?」
「だ、だろう?と言われても分かりません。は、恥ずかしくて頭が真っ白です」
スレイは、顔を真っ赤にし頭から蒸気でも出そうな様子のフィーナを見て苦笑すると、軽く頬にキスをして、身を離し、軽く手を繋ぐ程度にする。
頬へのキスでますます顔を赤くするフィーナ。
周囲からの視線はますます強く突き刺さる。
そんな視線も悠然と楽しむと、スレイはそのままフィーナに歩調を合わせ、手を絡めながら歩き続けるのだった。
公園に出ていた出店。
またもや魔法使いがクレープの出店などをやっていた。
二つ注文し料金を2コメル支払い、片方をフィーナに渡し、もう片方を自分で持つと、そのまま公園のベンチに腰掛ける。
そしてそのままクレープを食べる二人。
スレイは一口一口を悠々と大きく食べながら、フィーナの様子を眺め見る。
その小さな口でちょびちょびとクレープを食べるフィーナの姿が可愛らしかった。
思わず微笑するスレイ。
「?」
フィーナはそんなスレイに疑問顔だ。
そこでスレイは、フィーナの頬にクリームが付いている事に気付く。
「フィーナ、ちょっと」
「はひ、なんでふか?」
口に物が入っている為かはっきりしない発音。
スレイはそのままフィーナを抱き寄せると、頬に付いたクリームを軽く舐め取っていた。
硬直するフィーナ。
次の瞬間に顔がボッと赤く燃え上がる。
「い、い、い、いきなり、な、な、な、何を!?」
「いや頬にクリームが付いていたのでな。ってほら、ちゃんと持たないとクレープが落ちるぞ?」
動揺して、周囲に気がいかなくなったのか、フィーナのクレープを持つ手が震えている事に気付き、手を重ねて支えてやるスレイ。
「頬にクリームって!?お、教えて下さればいいのに、何でいきなり頬を舐めたりするんですか!?」
「いや、こういうリアクションが可愛いので、つい、な?」
「つい、な?じゃありません!!」
流石に慣れて来たのか詰め寄ってくるフィーナをどうどうと宥めるスレイ。
「全く、スレイさんは誑し過ぎます。だから恋人だってどんどんと増えていって収集がつかなくなるんです。だいたいですね……」
そうしてフィーナはクレープをしっかり食べながらも、滔々とスレイに説教をするのであった。
まあもっとも、スレイはやはりそんなフィーナも可愛いな、などと相変わらず色惚けた思考をしていた為、おそらく説教の効果は無かっただろうが。
そして職業神の神殿へとフィーナを送る帰り道。
やはりフィーナも昨日のジュリアと同じ様に落ち着かなげな様子であった。
神殿が近付くにつれ、足取りも重くなっていく。
「どうしたフィーナ?」
「どうしたもこうしたも、こんな格好なんて一度もした事が無いので、知人や同僚に見られたらと思うと恥ずかしくて」
「別に問題無いだろう。これだけ可愛いんだ、堂々と見せつけてやればいいさ。いや、だが俺以外の男にこんな可愛いフィーナを見せてやるのは癪だな」
スレイの見せる独占欲に、流石に呆れた顔になるフィーナ。
その様子にフィーナに問題は無かろうと確信するスレイ。
どちらかというか問題は自分だろうか。
昨日のジュリア、今日のフィーナと連続でデートし、服を買い与え、堂々と職業神の神殿に入っていく自分。
男達の嫉妬の視線を考えると逆に楽しくなってくる。
「スレイさん?」
「いや、何でもないさ」
軽く答えるスレイ。
そして辿り着いた職業神の神殿。
やはり男達の嫉妬と羨望の視線が突き刺さる。
そのままフィーナの部屋へと共について行くスレイ。
巫女の宿舎の管理人はやはり理解があり、そのまま通してくれる。
そしてスレイはフィーナの部屋に結界を張ると、そのまま二人でフィーナの部屋へと入っていく。
そして今夜もスレイは宿に帰る事は無かった。
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