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  シーカー 作者:安部飛翔
第六章
22話
「ところで、だ」
 ジュリアと一夜を過ごした次の日。
 まだ疲れ果て深い眠りに落ちているジュリアに帰宅する旨の手紙を書き、そのままここ暫くの生活で“見て”“覚えた”料理で、朝食を作ると、ジュリアに掛け布団をきちんと掛け直したスレイは、そのまま同じ職業神の神殿の巫女の宿舎へと立ち寄り、フィーナをデートに誘っていた。
 一日どころか二日も放置した時のペット達の反応を想像すると頭が痛くなるが、とりあえずは無視だ。
 もちろんジュリアの部屋で水浴びもしたし、魔法の袋の中に着替えを入れてきていたので、服装も万全だ。
 まあ、もちろん何時もの如く黒一色のスタイリッシュな服装なのだが。
 神殿騎士の宿舎の管理人も、巫女の宿舎の管理人も、既にスレイの顔は覚えているらしく今回は顔パスだった。
 本来ならばイケナイ事なのだろうが、管理人達も両者共に女性なので、恋愛関係に関しては寛容なのだろう。
 神殿騎士の宿舎を朝から抜け出す事も、巫女の宿舎からフィーナを連れ出す事もあっさりとできた。
 しかしフィーナの服装は相変わらず巫女服のままである。
 以前の時もそうだったが、やはり都市の中でも格段に目立つ。
 スレイとしては今回はそれをどうにかしようと思っていた。
 だが、まずは以前から興味を持っていた別の話題を切り出す。
「職業神の巫女、という事はフィーナ達も職業神ダンテスを降神できたりするのか?」
「ええ、できますよ」
「ほう」
 あっさりと肯定され、スレイはますます好奇心を覚える。
「ただ、見ての通り私達自身に戦闘能力は無いので、ただの降神で強化しても大して意味は無いですね。敵と戦う為にはそれこそ神自身をこの身に降ろす“完全降神”で全てをダンテス様に委ねる必要がありますが」
「そうか、なるほど。確かにな」
 なるほど、確かに言われてみれば元々戦闘能力を持たない者が神の力の一部を降ろして強化したとて、それほどの効果は無いだろう。
 それに対し、神自身を降ろす“完全降神”ならば、神と同等の力を発揮でき、神が備えた戦闘技能を使ってくれるので、フィーナのような戦闘能力を持たない巫女でも戦えるという事になるだろう。
 しかし、とスレイは思う。
 例えただの神とそれに仕える巫女の関係とは言っても、フィーナの肉体の中に誰かが入る事すら気に入らないな。
 実に稚気に満ちた独占欲であった。
 なんとなくスレイはフィーナの肩を掴み抱き寄せると、密着したまま歩いて行く。
 まだ朝早い時間帯とは言え、この都市の朝は早い。
 かなりの人数にその姿を目撃される。
 恥ずかしそうなフィーナだが、はっきり言ってこの光景を目撃されて色々と噂されるのはスレイになるだろう。
 なにせ頻繁に美女・美少女をとっかえひっかえデートしているのだ。
 また女っ誑しとの評判が高まるのだろうな。
 スレイはどうでもよさげに思考の片隅でそう考えた。
 だが、まあ、スレイにとっては他人の評価などどうでも良い事だ。
 もう暫くしたら、スレイは迷宮探索によるLv上げと、ロドリゲーニの情報を収集しての討伐に全力を尽くすつもりだ。
 そうすると暫くは恋人達に構っていられなくなる。
 捨てられないように今の内に徹底的に恋人達とイチャついておかないとな。
 そのような考えの元、スレイはますますフィーナを強く抱き寄せた。
「あ、あの?」
「ん?どうした」
「さ、さすがにこれは恥ずかしいです」
 抱き寄せられ、完全にスレイと密着した小柄なフィーナ。
 しかも巫女服。
 流石に周囲の視線に羞恥に耐えられなくなったのだろう。
 フィーナはスレイに僅かに抗議する。
「そうか?俺は恋人とはこのぐらいくっ付くのは当然だと思うがな」
「え?」
 平然と返されるスレイの言葉。
 あまりにもストレートな内容にフィーナは顔を赤くする。
「それに目立つのはフィーナの服装の所為もあると思うぞ」
「私の服装ですか?」
「ああ、流石に外でも巫女服姿じゃ、それは目立つだろう」
 やっと本題を切り出せたとスレイは安堵する。
「で、でも、わたくし、他の服は持っていなくて」
「だからこれから買いにいくのさ」
「え?」
「恋人に服をプレゼントするぐらい男の甲斐性だろう?せめてそのぐらいはさせてくれ」
 どこか悪戯気に笑ってみせるスレイ。
「は、はい!」
 恋人と堂々と言われたのが恥ずかしかったのか、頬を赤く染めながらも、思いっきり大きな声で返事をしたフィーナは、直後自分の声の大きさに頬をますます赤らめ俯くのだった。
 そんな姿を可愛いと思ってしまうのも色惚けだろう。
 そうスレイは自己分析しながらも、そのままフィーナに歩調を合わせ、密着したまま、バカップルといった風情を堂々と漂わせつつ目的地へと歩き続けるのだった。

 またも訪れた婦人服の専門店。
 スレイとて馬鹿では無い、ジュリアと共に訪れたのとは離れた場所にある別の店だ。
 だがやはり店に入っていくスレイの態度は堂々としたものであった。
 フィーナはジュリアと違い恥ずかしがってはいなかったが、どこかぽかんとした様子である。
 以前スレイと共に装備品としての服を扱っている服屋に訪れた事はあったが、純粋にお洒落の為だけの、しかも婦人服の専門店に訪れたのは初めてなのだろう。
 以前、外に出た事は無くガイドブックで色々な店を知っているとは言っていたが、流石に実際見るのはまた別の感慨があるのだろう。
 そこらにある服をキョロキョロと見渡している。
「いらっしゃいませ!」
 そんな二人の元に、やはり女性の店員が挨拶をし近寄ってくる。
「本日はどのような服をお探しでしょうか?」
「そうだな、彼女に似合いそうな服を2、3点見繕ってくれないだろうか?」
「かしこまりました」
 そして店員はフィーナを見て告げる。
「うわぁ、可愛らしい恋人さんですね。これは色々と選び甲斐がありそうです」
 そう告げると、そのまま二人を伴い試着室の前で待たせると、店内を回り幾つかの服を見繕い戻ってくる。
「それでは、こちらの服に試しに着替えてみていただけますでしょうか?」
「え?え?」
「はは、フィーナの私服姿か、楽しみだな。着替えも手伝ってやってもらえるか?」
「はい、かしこまりました」
 そうして店員と共に試着室の中へと消えていくフィーナ。
 スレイは試着室の前に一人ぽつん、と取り残される。
 周囲の女性客の視線がスレイに集まる。
 だがスレイは気にもとめない。
 堂々と立ち尽くし、微塵の動揺すら見せていなかった。
 いや、寧ろその口元には笑みさえ浮かんでいる。
 今からフィーナの着替えた姿が楽しみでならない、といったところだ。
 あまりにも堂々とした様子に、逆に安心したのか、周囲の女性客もスレイの存在をあまり気にしない事にしたようだ。
 そのまま自分の買い物へと戻っていく。
 そしてそのまま暫く。
 スレイはフィーナの着替えを待つのだった。


面白いと思ってもらえたらどうぞ宜しくお願いします。



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