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  シーカー 作者:安部飛翔
第六章
21話
「ここ、かい?」
「ああ、ここだ」
 戸惑うようなジュリア。
 堂々としたスレイ。
 通常とは逆の反応である。
 現在二人の目の前にあるのは婦人服の専門店である。
 客は女性ばかりで、たとえカップルだろうと、男が入るには相当に勇気が要りそうな店だ。
 だがスレイは気にすることなくジュリアと手を繋いだまま、ジュリアを引き摺るように店内へ入っていく。
「いらっしゃいませー!」
 定番の挨拶を告げた女性の店員が、あら?といった表情になる。
 カップルらしき客が来店したのはともかく、男性の方が堂々とした態度で店内の女性客の視線が集まるのも気にしてない風なのに対し、女性の方が何やら恥ずかしそうに縮こまっている。
 流石にこれは、店員としても初めて見る光景だ。
 そんな店員にスレイはやはり堂々と話しかける。
「すまないが、彼女の服を見立ててもらえないだろうか?」
「はい、かしこまりました。どのようなタイプの服をご希望でしょうか?」
「そうだな、上下セットで、下はスカートで、全体的にフリルが沢山付いていて、明るい色合いで、可愛らしい、とても女性的な服がいいな」
「なっ!?」
「はい、かしこまりました」
 店員に対しスレイが注文した内容に、ジュリアは思わず驚きの声を上げる。
 だが店員は動じる事無く頷くと、そのままジュリアを少し奥まで連れて行く。
 そして軽くジュリアの身体のサイズを測った。
「うわぁ、お客様、とてもスタイルが良いですね。本当にどんな服でも似合いそう」
「い、いや。だが私にスカートやフリルなんかは」
「何を仰っているんですか!とてもお似合いになると思いますよ!!」
「あ、ああ」
 勢い良く詰め寄って来る店員に押され気味のジュリア。
 そんな姿をスレイは笑って見つめている。
 そして店員はそのまま店内から幾つかの服を見繕うと、それを持ち、ジュリアを試着室へと案内する。
 スレイも当然のようについて行った。
「それじゃあ、こちらで、色々と試着してみていただけますか?」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」
「いいえ、待ちません」
「ジュリアのスカート姿か、楽しみだな」
 強引に服と一緒に試着室へと押し込められるジュリア。
 そしてそれから暫く。
 店員の手により着せ替え人形の如く、色々な服を着せられるジュリア。
 そしてそれに一々反応し、褒め言葉を連発するスレイ、その褒め言葉に一々顔を赤く染めるジュリア。
 そのような光景が幾度も繰り広げられた。
 スレイはその間も当然のように、他の客や店員の視線などは全く気にしていないのだった。

「うー、足がスースーして落ち着かないよ」
「慣れだ、慣れ。それにとても似合ってて可愛いぞ」
「……今日、君が何回その台詞を言ったか覚えてるかい?」
「さて、俺は正直者だから、それこそ数え切れない程言っているだろうな」
 どこか着慣れない服装に、身体を縮め、ますますスレイへと身を寄せるジュリア。
 その感触に、やはり役得だな、とスレイは微かに微笑む。
 ちなみに服の値段はこれ一着で500コメル、当然スレイが全額出費した。
 恋人の可愛い姿を見られるのならこのぐらい安い出費だろう。
 しかし何時もと同様に堂々としたスレイに対し、ジュリアは周囲の視線に敏感だ。
 何時もとは違う服装の自分に対し、周囲の通行人から寄せられる視線に、やはり似合わない服装をしている所為では無いかと考え、ますます身を縮こまらせる。
 実際は、何時もは凛々しいジュリアだが、このような可愛らしい格好もちゃんと似合っていて、それ故に通行人の注目を集めているのだが、ジュリアは気付いていない。
 そんなところも可愛いな、と色惚けがどんどん進んでいるスレイは思う。
 そのまま歩いて来た二人は、この都市で最大の公園の森林部分へと分け入って行く。
 そしてスレイは敷物を魔法の袋から取り出すと、その場に敷物を引く。
「それじゃあ、ジュリアの手作りの弁当を食べさせてもらおうかな?」
 告げたスレイはそのままジュリアを敷物の上に足を崩して女の子座りで座らせる。
 そしてそのままジュリアの太ももを枕とし、その場に寝そべった。
「なっ!す、スレイ君!?」
 驚いたようなジュリアに対し、スレイは何て事もなさそうに告げる。
「うん、やっぱりジュリアの膝枕は最高だな。予想通りだ」
「恥ずかしいからやめて欲しい、と言っても無駄なんだろうね」
 どこか諦めたように微かな笑いを見せるジュリア。
 スレイはジュリアの太ももを枕にしたまま、当然とばかりに頷く。
「当然だろう、これほど心地の良い枕など、他には無いからな」
「全く君は……ふぅ」
「と、いう訳でだ。このままジュリアの手作りの弁当を食べさせてくれ」
「こ、このままって!?」
 完全に諦めたように溜息を吐き、手作りの弁当を広げたジュリアであったが、流石にスレイの要求は予想外だった。
 頬を赤く染めて硬直する。
「ほら、あーん」
 ジュリアの膝枕を堪能しながら、口を雛鳥のように大きく開けて見せるスレイ。
「あ、あーん」
 ジュリアは、恥ずかしそうにしながらも、スレイの口元へと弁当を運ぶ。
 それを旺盛に平らげていくスレイ。
「あら、まあ」
「微笑ましいのう」
 公園を散歩している老夫婦が、木々の隙間からその二人の光景を見てとり、言った通り微笑ましそうな表情で二人を見つめ、通り過ぎていく。
 思わず礼を返してしまうジュリア。
 と、やはり頬を赤らめ、硬直するジュリア。
 そしてそのような光景は、二人共がジュリアの手作りの弁当を全て平らげるまで続けられたのだった。

 デートが終わっての帰り道、職業神の神殿が近付いてくる程に、ジュリアはどことなく落ち着かない様子を見せる。
「どうした?」
「ど、どうしたって、決まってるじゃないか!こ、こんな格好を知り合いや同僚に見られるなんて……」
 もはやジュリアの頬は真っ赤に染まり、羞恥は限界まで到達しているようであった。
「ど、何処かで着替えちゃ、駄目かな?」
「駄目だ。ジュリアの可愛いところと俺とイチャイチャしてる姿を神殿の人間にも見せつけるんだからな」
 あっさりとジュリアの提案を否定するスレイ。
 その言葉通り、ジュリアはもはや完全にスレイに身を預けるように腕を絡め、密着している。
 恥ずかしさ故の行動だが、それが更に周囲の注目を浴びている原因だとは気付いていないようだ。
 そして神殿へと辿り着き、ジュリアの部屋へと送る間、ジュリアの知人や同僚もそんなジュリアを驚いたように、しかし微笑ましく見つめていた。
 そして辿り着いた職業神の神殿内の神殿騎士の宿舎、ジュリアの部屋。
 ジュリアに続いて当然の様にジュリアの個室へとスレイは入っていく。
「す、スレイ君?」
 僅かに驚いた表情をするジュリアだが、扉に鍵を掛けるとそのまま寝室までジュリアを強引にエスコートするスレイに流石に気付く。
「き、今日は止めておかないかな?ほ、ほら、私だってこんな格好だし」
「そんな可愛い姿のジュリアを抱きたいんだ。駄目か?」
 スレイのストレートな台詞に、ジュリアは思わず顔を赤らめ挙動不審になるも、暫くして落ち着いてスレイを見返すと告げた。
「いや、駄目じゃないよ」
「そうか、良かった」
 本当に嬉しそうに笑うスレイ。
 ああ、これが惚れたら負けというやつかとジュリアは悟る。
 そしてスレイが複数の魔法を融合させ、寝室のガードを完全にすると、そのまま二人は揃って寝室の中へと消えていくのだった。


面白いと思ってもらえたらどうぞ宜しくお願いします。



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