世界樹の森での決闘から2日後。
早朝。
職業神の神殿。
神殿騎士の宿舎。
ジュリアの部屋の前。
スレイは腕を組み、扉の横の壁に寄りかかりジュリアを待っている。
早朝といえども流石は神殿騎士の宿舎と言うべきか。
鍛錬の為だろう、起きて完全に武装を整えた神殿騎士達が、興味深そうにスレイを見ながら通り過ぎていった。
男の神殿騎士の一部は、敵意の籠った視線を向けてくる。
やはりどうやらジュリアは神殿騎士の間でも人気が高いようだ。
それにどうやらここでも自分はよく知られているらしい。
新しいSS級相当探索者としてか、頻繁にジュリアの元を訪れる男という事でか、どちらなのかは不明だが。
まあなんにせよ、恐らく冷かされたり問い詰められるのはジュリアになるだろう。
他人事のように考える。
なにせデートの約束をして、宿舎の自分の部屋に呼び寄せたのも、今ここで待たされているのも、ジュリアの意思だ。
多少色々と噂の中心として苦労するだろうが、頑張ってくれなどと心の中でエールを送った。
ついでに、ペット達はまたお留守番である。
「グレる、もうグレてやるーー!!」
『主よ、我は要らないペットなのか?』
荒れるフルール。
物悲しそうにスレイを見やるディザスター。
実に説得に苦労したものだ。
だがまあ、流石にデートにペット同伴とはいくまい。
これからもデートする度に、ペット達を説得する必要があるんだろうな、とスレイは少々頭痛を覚えた。
いや美女・美少女と同じくらい可愛らしいペット達は大好きなのだが。
スレイとしては悩ましいところである。
こんな悩みを聞いたら、世の男の全てを敵に回しかねないが。
いかんな、と自分の色惚けを反省する。
どうも最近は迷宮都市にやって来た本来の目的である、ロドリゲーニの打倒、その意識がやや薄くなっている気がする。
明確に敵の姿が見えないからであろうか。
勿論日々の鍛錬は欠かさずこなしている。
ヴェスタの強固な防衛本能で力を抑制されているとはいえ、仮にも“真の神”であるディザスターや、汎次元存在であるフルールの協力もあり、それこそ鍛錬の環境や時間の密度までも自由自在だ。
ほんの僅かな時間であっても無限に近しい密度の鍛錬を行える。
尚且つ思考分割を利用し、無数に分割した思考のそれぞれに、今まで出会った強敵達の動きをシミュレートさせ、それらの無数の強敵とメイン思考一つのみで戦うという、一人で無数の強敵と戦うイメージトレーニングなども行っている。
技量の底上げという点では十分以上の成果を上げているといえるだろう。
だが、肝心の迷宮探索を行っていないというのが問題だ。
迷宮で敵を倒し、魂の力を吸収し、経験値を稼がねば、Lvが上がらない。
そのため、技量はどんどんと果て無き高みへと上昇しているのだが、基礎能力値は全く変化の無いままだ。
これも自業自得か、と苦笑が漏れる。
そもそも恋人を増やしすぎなのだ。
なので一人一人との関係に時間を取られ、迷宮探索の時間はどんどんと削られる。
だからといって一度関係を持った相手を手放そうなどとは思えない。
自分以外の誰にも指一本触れさせる気は無い。
自分はどんどんと恋人を増やしながらこれとは、我ながら実にふざけた独占欲だ。
その内、少し恋人達に時間を貰う必要があるかな、と考える。
短期集中で徹底的に迷宮を攻略し、邪神達を打倒し、ロドリゲーニを滅ぼす。
自分ならその程度やってのけられる。
その自信がある。
傲慢とも言える思考をし、顔には自然と笑みが浮かぶ。
凄みのある笑みであった。
その笑みを見た神殿騎士達はビビッたように足早に通り過ぎていく。
ふと、ジュリアの部屋の扉が開いた。
ジュリアがいつも通りの普段着のラフなパンツスタイルで出てくる。
そしてスレイを見ると、少々驚いたような表情をする。
「どうしたんだスレイ君、いきなりそんな怖い笑い方をして。そんなに待たせたかな?」
「いや、大して待ってはいないさ。ちょっとした思い出し笑いだ、気にするな」
軽く返すスレイに、ジュリアは呆れ顔だ。
「随分と凄みのある思い出し笑いだね」
「まあな」
そしてスレイはジュリアの姿を軽く観察し、今日のデートコースを決めた。
「それじゃあ行くとするか」
「ああ」
軽く頷くジュリア。
ジュリアの場合、あまり他の恋人達のようにベタベタする事は無い。
適度な距離感をデート中でも保つ。
だが今日のスレイは少々意地悪な気分であった。
先程までの悩み事も原因だろう。
なのでジュリアの手を強引に取る。
「スレイ君?」
疑問の声を上げるジュリアを無視し、自らの左手とジュリアの右手の指を絡め合い手を繋ぐ。
俗に言う恋人繋ぎという奴だ。
「なっ?」
カーッと頬を赤らめるジュリア。
「ど、どうしたんだい?今日の君は随分と強引だね」
「まあな、そういう気分なんだ」
笑って答えると、スレイはジュリアの荷物を見て尋ねる。
「それはお弁当か?」
「ああ、うん。どうせだからと思って作ってみたんだけど、駄目だったかい?」
「いや、ジュリアの手作りのお弁当なら楽しみだ」
軽く笑うスレイ。
ジュリアはやはり少し疑問顔だ。
「やっぱりちょっといつもと雰囲気が違わないかい?」
「かもしれないな」
軽く流してそのままスレイはジュリアと歩調を合わせ歩いて行く。
その手は繋いだままだ。
ジュリアはやはり恥ずかしそうにしている。
だが結局、その手は職業神の神殿の宿舎から神殿に出て、さらに外に出ても繋がれたままであった。
その間、知り合いと思しき者達に、その姿を見られているジュリアはひどく恥ずかしそうだった。
スレイはそんなジュリアの姿に軽い嗜虐心を満足させるのだった。
都市に出てからも、手は繋がれたままだった。
ジュリアは明確に拒否する訳ではないが、やはり恥ずかしそうだ。
そんな姿も楽しいと感じてしまう。
自分が割と意地の悪い性格だというのを、薄々は勘付いていたが、今更になって完全に確信する。
ジュリアはやはりそんなスレイに微かに戸惑いながらも尋ねてくる。
「それで、まずは何処へ行くんだい?」
「ああ、それならもう決めてある」
スレイはやはり意地悪気に笑うと答えた。
やはりその雰囲気を感じたのか、ジュリアは恐々と尋ねる。
「へ、変な場所だったりしないよね?」
「当然だ、実に健全な場所だと思うぞ」
軽く答えるスレイ。
だがやはり何か含みを感じてジュリアはやや引き気味に問う。
「そ、それじゃあ、何処に行くのか教えてもらってもいいかな?」
「そいつは付くまでのお楽しみってやつだな」
軽く笑い答えるスレイ。
その後も何度かジュリアはスレイから目的地を聞き出そうとするも、結局そこに着くまで、答えを引き出す事は出来なかったのだった。
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