グラナダ氏族の集落。
以前ジンと戦った開けた空き地。
そこにはグラナダ氏族の長老衆の一人であるジンの呼びかけで、スレイとグレナルの決闘を見物しようと物見高い見物人達が沢山集まっていた。
相変わらず異種族も散見されるその風景に僅かにスレイの口元に笑みが浮かぶ。
なんでもジンが言うには、以前の戦いの時もそうだったらしいが、この中にはジン以外の長老衆も居るらしい。
本気でエルフだというのにグラナダ氏族は大らかだなと感心する。
ところで、とスレイの頭の上を見ながらジンが聞いてくる。
「またぞろ変わったペットが増えておるのう」
「まあ、色々とあってな」
「汎次元存在、時空竜のフルールだよー。よろしくー」
ただひたすら軽い挨拶をするフルール。
だがその言葉に目を丸くするジン。
「なんと、時空竜と言えば最も“真なる神”に近しい存在などと呼ばれるあの時空竜か?」
「うん、そうだよ」
「なんだ?俺は知らなかったが、お前って実は有名なのか?」
思わずフルールに問いかけるスレイ。
だが答えたのはジンであった。
「恐らくは人間の間では既に伝承が廃れてしまったのであろうな。我等長寿が売りのエルフ族だからこそ口伝が残る過去の伝承の一節に時空竜について謳われた部分があるのじゃよ」
「ほう」
納得したように頷くスレイ。
「そういえば」
「ん、なんじゃ?」
不思議そうにするスレイ。
そのスレイに如何かしたかとジンが問いかける。
「いや、探索者はある程度のLvになると不老になるというのに、長寿で今も生きてるものが全然居ないと思ってな。寿命は伸びないのか?」
「いや、不老になった時点で寿命も半永久的なものになっておるよ。現に人間の探索者で齢1000を数えた者も昔居たらしい。だが探索者として不老であり続ける為には戦い続け生きて消費した分だけの魂の力を吸収し続けねばならない。故にいずれ戦いの中で死に至るのは必然であろう?現在は表立ってはそう長寿の者はいないようじゃが、裏ではそういう長生きしている者もいる可能性はあるぞい」
「なるほどな」
頷くスレイの裾を引っ張る存在がいた。
振り返るとエミリアが何処か切なそうな表情でスレイを見ていた。
「スレイさん、無茶を言っているのは分かってますけど、絶対に私より先に死なないでくださいね」
フッ、と微笑むスレイ。
そして優しく告げる。
「勿論だ。俺は死んで俺の女を泣かせる気はないさ」
「フー、熱いのう」
「ほんと、熱い熱い」
「太陽光線直撃だね」
『山火事だな』
ジン、ティータ、フルール、ディザスターと冷かしの言葉がかかる。
慌てて離れるエミリア。
「と、言うか」
スレイは手刀を作り、軽くティータの頭をはたく。
「あ、イタッ!」
「なんであんたがこっち側にいる?」
見ると、向こう側でグレナルが一人ポツンと立ち尽くしている。
ハイエルフ至上主義のグレナルのことだ。
グラナダ氏族からの受けは悪いのだろう。
誰も話し掛ける者もいないようだ。
流石にその姿には哀れを覚える。
「いやぁ、何か兄さんピリピリしちゃって、色々煩くって、居心地悪いのなんの。と、いう訳で、決闘前だというのにイチャつくのに余念の無いお二人さんの方に来させてもらいました。ヒューヒュー、お熱いねー」
頭を抱えるスレイと、恥ずかしげに頬を赤らめ硬直するエミリア。
反応は対照的だった。
「で、そろそろ兄さんが可哀想なんで始めようと思うんだけど良い?」
「ああ、何時でもかまわん。と、いうか、あんたが一番自分の兄を粗雑に扱ってる気がするのは気の所為か?」
「気の所為、気の所為。と、いう訳で、後腐れ無いように圧倒的に叩き伏せちゃって下さいね?兄さんが何時までもあのまま振り向く筈も無い女の尻を追っかけ続けると、家族として私が恥ずかしいし、家族として私の名誉にも傷が付くんで」
やっぱりあんたが一番兄を粗雑にしてるだろう、と心の中で思うスレイ。
言葉に出さないのは無駄を悟ったからか。
「それじゃあ行ってくるが、アイツを倒したら、次はあんたと再戦と行きたいんだが構わないか?」
「ふむ、何故じゃ?」
「いや、なに。引き分けの過去を清算しておきたいだけだ。勝利という形でな」
笑うスレイ。
ジンは不思議そうな表情をする。
「なんじゃ、儂に勝てる算段でも付いたのか?」
「と、言うか、今なら全く負ける気がしないな」
スレイの軽い自信に溢れた口調に、僅かに顔をしかめるジン。
そんなジンにエミリアが告げる。
「スレイさんが強くなったのは本当ですよ?何せこの前SS級相当探索者に昇格して、探索者になってからSS級相当探索者になるまで約二ヶ月半っていうぶっちぎりの最短記録ホルダーになりましたから」
「はっ?」
「へえ」
呆然とするジン。
感心するティータ。
どうやら異種族との交流が多く、異種族が多く住まうグラナダ氏族の集落といえども、行き来にはそれなりに手間が掛かるので、情報はそう早くは無いのだろう。
この事は初めて聞くと見える。
「さて、それじゃあメインディッシュの前の前菜をたいらげてくるとするか」
そうして、スレイは空き地の中心へと進み出た。
「ふ、ふん。何やら相談していたようだが、私に負ける覚悟は付いたのか?」
顔を青くし、目をキョロキョロさせ、明らかに挙動不審な様子でありながら、威勢を張るグレナル。
エミリアに対する態度は頂けないが、なかなか芯はあるようだと感心するスレイ。
だが妹は容赦が無かった。
「兄さん、かっこ悪い」
「なぁっ!?」
妹にバッサリと斬り捨てられ、肩を落とすグレナル。
その様子に僅かに同情を覚える。
以前ジンが言っていたグレナルがハイエルフの中でも立場が高いというのは恐らく妹の立場があってこそだろう。
妹に全く頭が上がらない兄の心境を想像してみる。
だが全く想像が付かなかった。
妹自体は存在しないが、故郷の村に妹の様に可愛がっていた娘はいるし、今でもサリアを妹のように可愛がり、尚且つ近くにはいないがアルファという娘のような存在さえもいる。
だが、彼女達を可愛いと思って言う事を聞いてやる事はあっても、彼女達に頭が上がらないなどという事態は経験したことが無いのだから想像できないのは当然のことだろう。
スレイは早々にグレナルの心境を想像するのを諦めた。
まあ、なんというか、色んな意味で立場が無いんだろうな。
その程度の想像に留めておく。
スレイは肩を竦めると何時の間にやら両者の間に立ち、審判のような役割に納まっているティータに問いかける。
「それで、何時始めるんだ?」
「んー、それじゃあ今からで。始め!!」
実に気の抜ける、何の溜めもない、あっさりとした開始の合図であった。
そのままティータは後ろに下がり退避する。
後には少々取り残された感の残る決闘の当事者二人が暫し立ち尽くすのだった。
面白いと思ってもらえたらどうぞ宜しくお願いします。
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