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  シーカー 作者:安部飛翔
第六章
16話
「見届け人があんたというのは、意味はあるのか?」
「むぅー、失礼な。これでも私は世界樹に選ばれた次期エルフ王。兄さんよりずっと強いしずっと偉いんですよ?」
 先程からのエミリアとの会話。
 分割した思考で以って当然のように拾っていたソレ。
 なんというかティータというハイエルフの少女は以前の印象と違い、随分と愉快な性格のようであった。
 いくつか決闘を強引に受けさせる為の悪辣な手段を考えてきていたスレイだ。
 そんな彼女が決闘の証人というのは、意味があるのか、と問いかけてしまうのは当然のことであろう。
 だがその問いに返って来たのは、思いもしなかったような回答であった。
「は?」
「事実です、彼女は世界樹に選ばれた、世界樹と完全に交感できる存在。森神ルディア様をその身に降ろす事も許された完全降神も可能な森の巫女。それはエルフ王のみに許された特権。それ故に彼女は誰よりも多く精霊の力を操れ、そして次期エルフ王と認められています」
 思わず素っ頓狂な声を出してしまったスレイに、エミリアがティータの言葉を肯定するように説明をする、と。
 そのままエミリアは立ち上がると、スレイの襟を掴み、凄まじい勢いで詰め寄ってきた。
「と、いうか。なんでですか!なんで見ている人が居るって分かっていながらあんな事をするんですかーーー!!」
「あー、まー」
「『あー』『まー』じゃなくって!!ちゃんと理由を答えてください!!」
 思いっきり詰め寄ってくるエミリア。
 スレイはやや罰が悪げに頬を掻くと告げた。
「いや、単純に独占欲でエミリアは俺のものだ、と見せ付けたかっただけなんでな、正当な理由なんて呼べるものは無いんだ」
「え?」
 思わず手を緩めるエミリア。
「だから単純に、心の狭い男の独占欲ってやつさ」
「す、スレイさん」
 思わず頬を赤らめるエミリア。
 なんというか、単純で正直なスレイの言葉に、コロっといってしまったようである。
「性質の悪い誑しだね」
『性質の悪い誑しだな』
 やはりペット二匹が何か言って来るが完全に無視だ。
 二人で雰囲気を作り出すスレイとエミリア。
 そんな二人の世界の外では、グレナルがティータに詰め寄っていた。
「ティータ!!決闘の申し込みと受諾とはどういう事だ!?」
「えー?人間の風習で、白手袋を投げつけるのは決闘の申し込み、それを拾うのはそれを受諾したって意味があるんですよ?知らなかったんですか?」
「人間の風習など知る訳が無いだろう!!むしろ何故次期エルフ王であるお前がそんな事を知っている!?」
 思わず怒鳴りつけるグレナル。
 彼にしてみれば、次期エルフ王ともあろうものが人間などの風習を知っているのは許し難い裏切りに思えた。
 人間などはエルフに比べれば下等な種族。
 エルフ族に広く蔓延する考え方だ。
「まあ、私は兄さんと違って思考が柔軟なんで。ともあれ、決闘はきちんと行ってくださいね」
「な!?お前は兄にあの下等な人間と戦えと言うのか!?」
「いや、相手が下等なんだったら、全然問題無いでしょう?」
 軽く言うティータに一瞬詰まるグレナル。
 だが言うべき言葉を思いつき、一気に反論する。
「言い換えよう、下等で『野蛮』な人間だ。なにせあのジンの奴と引き分けたぐらいだぞ、高等で『文明』的なハイエルフである私がそんな相手と戦うなど馬鹿馬鹿しいにも程がある」
「あら、兄さん決闘から逃げるんですか?しかも兄さんの言う『下等』で『野蛮』な人間相手に。そんな事したらこの森での兄さんの評判どうなっちゃいますかね?」
「お前はどっちの味方なんだ!?」
 軽く弄ぶようなティータに、必死になって怒鳴りつけるグレナル。
 そんなグレナルの問いに、ティータはあっさりと答えてみせた。
「んー、基本的に男二人のどっちの味方をするかと聞かれたら、かっこいい方の味方かなあ?」
「な!?お前の目は節穴か!人間の男などよりハイエルフの私の方がよほど美形であろうが!!」
 またも怒鳴りつけるグレナル。
 今度は『種』としての威信も『男』としての尊厳もかかっているので、先程よりもずっと必死である。
「まあ、確かに兄さんの方が美形ではあるけど、私は『かっこいい方』って言ったでしょ?兄さんの場合あくまで美形であって優男的な感じで、それに比べて彼ってほら、存在そのものが鋭い刃って感じで、かっこよさでは向こうの方が上だと思うのよね」
「そ、それだけでお前はあの男の味方をすると言うのか!?」
 もはやグレナルの怒鳴り声は悲鳴に近かった。
 だがティータは容赦無く続ける。
「勿論それだけじゃありませんよ。ほら、私もエミリアと同じ女じゃないですか。同じ女としての立場から言わせてもらうと、はっきり言って兄さんってお邪魔虫以外の何者でもないんですよね。なのでここらでスッパリ諦めてもらおうか、と」
「なっ!?ティータ、お前!!」
 もはや憎悪に近い視線で妹を睨みつけるグレナル。
 だがティータは歯牙にもかけない。
 先程も言ったように、彼女は兄よりも立場も力も上なのだ。
 しかも、圧倒的に。
 だからそもそも歯牙にかける必要すらない。
「と、いうわけで、そこで二人だけの世界を作り出してるバカップルなお二人さん、場所を移動しますよ」
 ティータが言うと、ハッと気付いたようにエミリアが、恥ずかしそうにしながらスレイから距離を取る。
 スレイはそんなエミリアを名残惜しげに見ながら、冷静な様子のままで、ティータに尋ねた。
「場所を移動する、とは何処へだ?ここでやってしまってはいけないのか?」
「誰も見てないここでやっても意味が無いでしょう、ちゃんと兄にはもうエミリアさんから手を引いてもらわないといけないんですから。それと何処というのは愚問ですね、この森に人間を抵抗無く受け入れる集落など一つしかありませんよ」
「なるほど、以前も行ったグラナダ氏族の集落か」
 グレナルの敗北を前提に話すティータ。
 納得したように頷くスレイ。
 グレナルは、反論したそうにしながらも、反論する為の根拠が無く、悔しそうに黙りこんでいる。
 そして一同はグラナダ氏族の集落へと移動を始めるのだった。

 グラナダ氏族の集落を訪れたと同時。
 まるで図ったかのように。
 いや実際気配で察していたのだろう。
 一人の男が一同の元へと駆け寄ってくる。
 そしてエミリアの胸目掛けて伸ばされる両手。
 だが次の瞬間にはその両手は引っ込められていた。
 何も無くなった空間を容赦無く斬り裂くアスラ。
 男は冷や汗を浮かべながらスレイに抗議してきた。
「こ、こら!何の躊躇も無く儂の腕を斬ろうとするとは何事じゃ!!」
 エミリアと同い年にしか見えないが、紛れもなくエミリアの祖父であるジンだ。
 そんなジンに見せ付けるように、スレイはエミリアを抱き寄せると、その胸を揉みしだく。
「あっ、スレイさん」
 顔を赤くして困ったような表情をするも、拒否はしないエミリア。
「以前も言ったと思うが、エミリアも、エミリアの胸も、どちらも俺のものだ。指一本触れてみろ、その手を斬り落としてやる」
「お、お主。本気で容赦無いのう」
 流石に呆れた表情と慄いた表情をするジンであった。


面白いと思ってもらえたらどうぞ宜しくお願いします。



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