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  シーカー 作者:安部飛翔
第六章
15話
 スレイ達を覗く二対の視線。
 一対はスレイとエミリアの密着度に苛立ちを募らせ敵意を強くする。
 一対は交わされた会話と、そしてエミリアの表情に興味の色を濃くする。
 そんな視線に、一応は分割した思考の一つを割り当てながらも、基本的には完全無視して、スレイはエミリアに問いかける。
「ちょっと引いたか?」
「えっ?」
 何時の間にか、スレイの声色からゾッとするような雰囲気は消え去り、いつも通りの雰囲気に戻っていた。
 そんなスレイの問い。
 何のことかと思わず聞き返すエミリア。
「いや、流石に我ながら行き過ぎた独占欲だと自覚はしていてな。ここまで行くと、やはり引かれるんじゃないかと心配でな。別れたいなんて言い出されるんじゃないかと、不安なんだ」
「そ、そんな事はありえません!!」
 スレイのやや気弱な言葉。
 エミリアが、今までに無い必死な声で否定する。
「確かにちょっとだけ声の冷たさにゾッとはしちゃいましたけど、でもスレイさんが私に独占欲を抱いてくれてるのは凄く嬉しいです。それにその独占欲の強さだって自分がそれだけ想われてるって実感できて凄く嬉しいです。別れたい、なんて言う訳がありません!なんでそんな事を言うんですか!?」
 そして一呼吸置くと、エミリアは続けた。
「わ、私を、お、思いっきり、ど、独占しちゃって下さい」
 恥ずかしげに身を縮め頬を赤らめながら放たれた言葉。
 効果は抜群だった。
 スレイは思わず理性の箍が外れ飛びそうになるのを感じる。
 そして荒々しく、スレイはエミリアの唇を奪っていた。
「んむぅ!?」
 いきなりの事に驚くエミリア。
 だが、すぐに落ち着きを取り戻すと、瞳を閉じ、スレイを受け入れる。
 唇を舐められ求められている事に気付き、口を僅かに開く。
 その隙間から侵入してくるスレイの舌。
 舌と舌を求め合うように絡めあう。
 唾液を送り送られ互いに嚥下する。
 長い長い、深い深いキス。
 どれだけの時が経っただろうか。
 ふと思い立ったように互いに唇を離す。
 二人の唇の間を唾液の糸が引く。
 エミリアの顔は真っ赤に染まっていた。
 瞳も潤み、陶然とした表情だ。
 そんなエミリアを見てスレイは微笑む。
「エミリアは、可愛いな」
 今まで以上に顔をボッと赤く染め上げるエミリア。
「誑しだね」
『誑しだな』
 ペット達が何やら言っているが無視する。
 何やら敵意の視線もますます強まり、興味の視線もやたらと強くなっているがそれも無視だ。
 そしてスレイは髪や首筋、頬などやさしく撫でながら、そのエミリアの赤く染まった可愛い表情を存分に堪能するのだった。

「さてと、だ」
 いつの間にやら素の表情に戻ったスレイがエミリアに告げる。
「それじゃあ、採取の再開と行きたいところだが、その前に。おい!そこのデバガメ2人、とっくにバレてるから出てこい!」
「え?」
 不思議そうなエミリア。
 そんな彼女を置き去りに、木々の上から2つの人影が降り立った。
 ハイエルフのグレナル、ティータ兄妹だ。
 グレナルが憎悪に染まりながらも、苦々しげな表情で問う。
「いったい、何時から気付いていた」
「そりゃあもう、この森に入った時点で、すぐに、な」
 あっさりと言い放つスレイ。
 グレナルのこめかみに青い筋が浮かび上がる。
「き、貴様!気付いていて、あのような真似を散々に行っていたというのか!?」
「そりゃあ、まあ。遠慮する必要も感じなかったしな」
「え?え?」
 グレナルの怒りを何処吹く風と、飄々と受け流すスレイ。
 だがエミリアは本当に訳が分からないと言った風情で、ただただ疑問の声を零す。
 スレイとグレナルの間を行き来していたエミリアの視線がティータを捉える。
 するとティータは舌を出し、片目を閉じ、自ら頭を軽くコツンと叩いて、悪戯気に言い放つ。
「始めっから全部見ちゃってた。てへ」
「は、始めっからって……っ!?」
 始めは理解できないようだった。
 しかし暫し考えその意味を理解するとエミリアの顔が燃えるように真っ赤に染まる。
 音が聞こえてきそうな程だった。
「あ、あ、あんな事も、な、なにもかも全部……?」
 呆然としながらもティータに尋ねるエミリア。
 ティータは深くこくんと頷く。
「あんな事も、こんな事も、そんな事まで、ぜーんぶ見ちゃってたり。えへ」
「なっ……!?」
 途端、エミリアは膝からくず折れた。
 地に手と膝を着き、頭をうつ伏せる。
 背後に青い縦線でも入っていそうな雰囲気だ。
「わ、私は、ひ、人に見られているのに、あ、あんな事を……?」
「いやあ、『私を思いっきり独占しちゃって下さい』、熱い愛の告白、堪能させて頂きました」
 ごちそうさま、と言わんばかりに両手を合わせて礼をするティータ。
「あ、ああ……」
 エミリアは、地から手を離すと、頭を抱え込む。
 そんなエミリアを、フルールが軽く翼で肩を叩き、ディザスターも前足でポンと肩を叩く。
「頑張って」
『負けるな』
「す、スレイさんのペットにまで慰められるなんて、わ、私は……」
 もはや立ち直れない程にダメージを受けるエミリア。
 なんというかコミカルな一幕であった。
 そんな光景を横に、スレイとグレナルが睨み合っている。
 いや、睨み合っているというのは正しくなかった。
 グレナルは完全に硬直している。
 自分達に気付きながら、エミリアとイチャつく姿を見せつけてきたスレイ。
 始めはそんなスレイに憎悪の視線を向け睨もうとした。
 だが、途端ゾクリ、と背筋に悪寒が走った。
 そしてすさまじいプレッシャーがグレナルを襲った。
 プレッシャーの元は明らかだった。
 スレイだ。
 グレナルを睨みつけるスレイ。
 その瞳の温度の無さにゾッとする。
 それでいながら何かが燃え滾っている。
 例えるならば絶対零度の炎だろうか?
 矛盾した表現。
 だがその矛盾が正鵠を射ているとしか思えない視線。
 睨むどころではなかった。
 スレイの視線に晒され、動くことも出来ず、ただただ恐怖に震えるのみ。
 思考が真っ白だ。
 何も考える事ができない。
 そんなグレナルをつまらなそうに見やると、スレイは何やら腰の袋を漁り始めた。
 あれは、確か探索者とやらが使う、空間魔法の産物の、魔法の袋とやらだったろうか?
 そこから何やら白い手袋を取り出す。
 スレイはその、このような場合に備えて用意していた1コメルの安物の白い手袋をグレナルに投げつけた。
 足下に落ちたソレを反射的に拾ってしまうグレナル。
 途端ティータが告げていた。
「はい、決闘の申し込みと受諾、私ティータが見届けましたー」
 ひどく楽しそうな声色であった。


面白いと思ってもらえたらどうぞ宜しくお願いします。



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