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  シーカー 作者:安部飛翔
第六章
14話
 世界樹の森。
 エルフ達の聖域。
 その植生は特殊で、そこにしか存在しない特殊な植物が各種存在する。
 それらは様々な事に活用できる。
 そしてその知識においてもエルフ族は深い見識を持つ。
 故にエミリアもまた、探索前にはそれらの各種植物を用いて探索に役立つ様々な物を作り上げていた。
 なので当然エミリアは世界樹の森に時折やって来てはそれらの各種植物の役立つ部分を集める事を習慣としている。
 何時もは一人だ。
 だが今回は同行者が居た。
 スレイである。
 今回はペット二匹も同伴している。
 ペット二匹は久しぶりの主との一緒のお出掛けにご満悦そうだ。
 以前と違いディザスターには今回はプレッシャーでモンスター避けをさせている。
 実に有能なペットである。
 ちなみに今回はちゃんと決まりを守り、スレイの空間魔法で転移してきた。
 スレイが空間魔法を使える事にエミリアは驚いていたが。
 三日前、ルルナとの褥での会話で、エミリアが植物採取に世界樹の森へと行くという話を聞きつけたスレイは今回、強引にエミリアについて来た。
 その強引さにエミリアは驚き目を丸くしたほどである。
 だが、以前の事もある。
 グレナルというハイエルフの青年が何を仕出かすかも分からない。
 勿論何かあったらディザスター経緯ですぐに知れる。
 遠方から干渉する事も可能。
 空間転移の魔法を用いてその場に現れる事も可能。
 いざとなれば光速を遥かに越えた速度で全力疾走という手段もある。
 このように自分の恋人にはどんな危険も起こらないように万全の体勢は整えてある。
 だがスレイとしては、危険がありそうならば、やはり自分の目の届く範囲に置いておきたかった。
 それ故の強引さである。
 そしてスレイはその判断の正しさを実感していた。
 なにやら敵意の籠った視線と、興味深げな視線。
 二つの視線が自分達に注がれている。
 『高尚なハイエルフ』とやらも、やってることは人間のストーカーと同じかと呆れ果てるスレイ。
 だがまあ、今の所エミリアにその事について話すつもりは無い。
 何かあったらその時対処すればいいだけの話だ。
 無駄に怖がらせる事も無いだろう。
 それにこちらから仕掛けてしまえば向こうに的外れな大義名分を与える事にもなりかねない。
 その為、視線の主達は完全に無視する事にする。
 現在、エミリアはスレイに様々な植物についての説明をしている。
 スレイは思考を分割し、メインの思考でその説明を真面目に聞きながらも別の思考で視線の主達に注意を払い、ついでにさらに別の思考でエミリアの胸を見ていた。
 ふと、思い立ち、スレイは立ち上がるとエミリアの背後に回る。
 エミリアは疑問顔だ。
 そのままスレイはエミリアの背後に立つと脇から腕を前方に回す。
 頬を赤くして身体を硬直させるエミリア。
 恐らくは抱きつかれると思ったのだろう。
 しかしスレイはもっと直接的だった。
 思いっきりエミリアの胸を鷲掴むスレイ。
 エミリアは硬直する。
 敵意の視線と、興味の視線が共に強くなる。
 そのままスレイはエミリアの胸を揉みしだいていた。
「あっ」
 思わず嬌声を上げかけ、あわてて口を押さえるエミリア。
 そのまま身体を捻り、スレイから離れると、思いっきり抗議してくる。
「い、いきなり何をするんですか!?」
「いや、少しばかり知的好奇心が疼いてな」
 エミリアの抗議に飄々と返すスレイ。
 そんなスレイにエミリアは問い詰める。
「知的好奇心と、私の胸と、いったい何の関係があるんですか!?」
「ふむ、女性探索者の神秘というものを実感していた」
 返された答えに、理解できないような顔をするエミリア。
 ぽかんと口を開けている。
「分からないか?探索者の肉体というのは基本筋力のランクが上がれば上がる程、超高密度の筋肉の塊となっていく、それは知ってるだろう?」
「え、ええ」
 呆然としながらも頷くエミリア。
「だが、俺の知る限り、女性探索者の身体は皆柔かく気持ち良かった。筋肉も決して外見に表れたりせず、身体中がなめらかな曲線を描いている。いや、身体全てが理想的な曲線で構成されていてとても綺麗だ。これは実に不思議だと思わないか?」
「ふ、不思議といえば、不思議かもしれないですね」
「だろう」
 うんうんと頷くとスレイは続ける。
「さらにだ、かてて加えて女性の胸とは脂肪の塊の筈だ」
「いえ、あの。その言い草はどうかと」
「ああ、勿論分かってる。女性の胸は男の浪漫だ。それを脂肪の塊などという無粋な表現をするのは間違いだ。だがそれは一先ず置いておく」
 だんだんと呆れの色が強くなってくるエミリアの表情。
 だがスレイは止まらない。
 それこそ思うがままに言葉を綴る。
「さて、不思議なのはだ、その脂肪の塊である胸がだ、既にエミリアは探索者になった身であるというのに、また成長しているということだ」
「なんで私の胸がまた大きくなった事を知っているんですか!?」
 スレイの真面目に不思議そうな言葉。
 思わずエミリアは怒鳴ってしまう。
 そんなエミリアにスレイは大真面目に告げた。
「エミリアは俺の恋人だ、それこそ身体の隅々まで知っているさ。実際俺達はそういう関係だろう?」
「なっ」
 カァ、っと思いっきり頬を染めるエミリア。
 あまりに直接的過ぎる言葉だ。
 このような事を大真面目な顔をして語るスレイ。
 横で見ているペット達は呆れていた。
「なんか最近スレイ、ちょっと壊れ気味じゃない?」
『うむ、困った事に我も否定できんな』
 そんなペット達は無視してスレイはやはり大真面目に続けた。
「と、いうかだ。俺達の関係を考えれば、今その胸がまた成長したのは、俺が育てたということになるだろう」
「なんですかその強引な理屈は!?」
 またしても怒鳴ってしまうエミリア。
 そのエミリアにスレイはやや鋭い眼差しを注いだ。
 思わず怯んだようにするエミリア。
「な、なんですか?」
 少し、緊張したように尋ねるエミリア。
「まさか、俺以外の男にその胸を触らせた、なんて事は無いだろうな」
「あるわけないでしょう!?」
 あまりの台詞に緊張から解放されまた怒鳴るエミリア。
 スレイの視線がふっと柔かいものに変わる。
 そしてエミリアに近付くと、エミリアの髪を触り、梳りながら、エミリアの顔に顔を寄せる。
 キスでもするのだろうかと顔を赤くして硬直するエミリア。
 だがスレイの口はエミリアの唇を通り過ぎ、エミリアの耳元へと寄せられる。
「よかった」
 安堵したようなスレイ。
「よかった、って何がですか?」
 思わず尋ねてしまうエミリア。
 だが返って来た言葉、そして声色に、次の瞬間にはエミリアはゾッとするような雰囲気を感じた。
「いや、もし俺以外の男が、エミリアの胸に触ったりしていたら、それこそ何も考えずに、思わずその両手を斬り落としていただろうと思ってな」
 真面目に告げられた言葉にエミリアはそのスレイの独占欲に喜びと恐怖を等分に感じ、頬を赤く染めながら顔を蒼くするという、器用な顔色をするのだった。


面白いと思ってもらえたらどうぞ宜しくお願いします。



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