リリアは驚いているが、スレイとしては始めから相手の正体は予想できていた。
と、いうか他に考えようが無い。
いや、リリアのような美少女なら新たな変態に付け狙われるという可能性も十分にあるが。
しかし情報に敏く、色々と通じていながら、この展開を予想していなかったとは、リリアにも純心なところがあるな。
などと、本人に知れたら引っぱたかれそうな事を考える。
まあ、何はともあれ、とスレイは肩を竦める。
「ようやくご登場か、しかし懲りないというか何というか。ダグ、しつこい男は嫌われるぞ?」
「う、うるさい!!そんな事より貴様!!リリアさんの家に入って何をするつもりだと聞いている!!」
スレイはまた肩を竦め、わざと下品に言ってみせる。
「何をって、ナニをするんだが?」
「キャッ」
そしてリリアの肩を掴み、自らの胸元に抱き寄せる。
真っ赤になるも、拒否しないリリア。
「き、貴様~!!」
「さてと、それじゃあ未来の探索者候補のリリアに幾つか教授しておくかな?」
そう言うと、スレイはリリアを離し、離れた場所へと軽く押す。
「リリアさんからようやく離れたな!二度とリリアさんにその汚らわしい手で触れられなくしてやる」
「まずレッスンその1だ」
スレイへ向かいがむしゃらに突撃してきて、オリハルコンのショートソードを振り下ろすダグ。
「スレイくん!!」
思わず大声を上げるリリア。
だがスレイは悠長に袖をまくると、むき出しにした左腕で、オリハルコンのショートソードを受け止めていた。
金属音が鳴り、オリハルコンのショートソードは皮膚の表面をちょっと裂いたのみで、完全に受け止められる。
「は?」
「レッスンその1、先程も言ったように探索者は筋力が上がれば、体重は増える事なく、身体のサイズも変わる事無く、どんどんと超高密度に圧縮した筋肉が増大していく。故にだ、このように金属製の刃を持つ武器で攻撃されても、使い手が並以下なら、それこそ表皮の部分に軽く傷が付くくらいだな」
唖然として硬直するダグ。
スレイは剣先を軽くつまむと軽く引っ張った。
しかしダグにとってみれば信じられないほどの力で、行き成り引っ張られたように感じ、耐え切れず手を離してしまう。
結果としてオリハルコンのショートソードは、スレイの手元へと渡った。
そのままショートソードの柄を握るスレイ。
「さて、レッスンその2だ。こいつはオリハルコン製のショートソードな訳だが、オリハルコンというのは最も優秀な武具の素材ではあるんだが、精神感応金属と呼ばれるだけあって、使い手の精神力で全然発揮される能力が違ってくる。だからダグが振るおうと俺の肉体に徹る筈も無いが、逆に俺ぐらいになれば、だ」
そのままスレイは一センチ程の深さで、あっさり自らの左腕を斬ってみせる。
「スレイくん!?」
「なっ!?」
驚愕の声を上げるリリアとダグ。
だがスレイは冷静なまま流れ出る血を見ている。
「まあ、このように俺の肉体にもあっさりと刃が徹る訳だ。さて次にレッスンその3」
そしてスレイは軽く左手を突き出し血を拭う。
と、傷跡は残るが、既に血が流れなくなっている。
「このように、超高密度の筋肉により、傷口は勝手に引き締められ、止血いらずって事になる。さらにレッスンその4」
そのまま左腕を突き出していると、見る見る内に傷口が消えていく。
「まあこのように、治癒力も異常な為、このぐらいの傷なら時間もかからず勝手に回復するって訳だな。まあ、とりあえずはこんな所かな」
「スレイくん!!」
「ヒッ、化物!!」
リリアはスレイに駆け寄るとその左腕を取り、ダグはスレイの見せた力に恐怖しその場に腰を落とす。
「化物って、仮にもお前とて探索者だろうに。そんな事でやっていけるのかね?」
「スレイくんの馬鹿!!」
呑気にスレイが言うのにいきなりリリアが怒ってスレイの頬をはたいてきた。
「いったーい」
まあリリアの方が痛かったようだが。
「ってどうしたリリア、いきなり何だ?」
「いきなり何だじゃないわよ!剣を剥き出しの左腕で受け止めたり、自分で自分の腕を斬ったり、心配したんだから!」
「いや、だからさっきから言ってるように」
「いくら大丈夫だからって、そんな自分を傷つけるような真似しないでよ!心配……しちゃうじゃない」
最後の方は声を小さくし、僅かに泣きそうになっているリリアに、スレイは罰が悪そうに頭を掻く。
「あー、すまなかった。本当に悪いと思ってるから頼む、泣かないでくれ」
「もう二度とこんな事しない?」
「ああ、もうしない。約束する」
リリアは涙を拭うと、スレイの胸に顔を埋める。
この状況で何やら雰囲気を作ってる二人に顔をわなわなと歪めるダグ。
「あー、それはともかくだ、仮にも相手は公爵家。大事にするとゲッシュにとっても都合が悪いだろうから、とりあえずはこいつをゲッシュのところに連れていくか」
そしてスレイは魔法で生み出した特殊な蔓でダグを縛り上げ、リリアと腕を組みながら探索者ギルド本部を目指すのだった……ちょっとばかり目立ってしまったが。
「本当に申し訳ない!!お前も頭を下げないか!!」
ゴン、とダグの頭が床に叩きつけられる。
あれから、探索者ギルド本部にダグを連れて行き、ギルドマスターの個室に行くと、ゲッシュは娘がストーカーされていたという事に激昂し、通信機でザザーニア公爵家に連絡を取り、猛烈に抗議をしていた。
ちなみにこういった通信機などの魔導科学の産物は、闇の種族と違い、過去の遺物を使っている為、ごく一部の者達しか所有していない。
アルメリア家の邸宅に魔導科学製の呼び鈴や通信機があったのは破格の事である。
だが今回は探索者ギルド本部だ、当然の如く置いてあり、相手も由緒正しい歴史ある公爵家だった為所有しており、その為すぐに連絡が取れた訳だ。
最初に出たダグの父親、現ザザーニア公爵はのらりくらりと言い逃れようとしていたが、背後からこの青年、ザザーニア公爵家の長男にして嫡子、ダグの兄であるジグ・ザザーニアが割り込み、父親を黙らせ謝罪してきて、すぐにお抱えの空間魔法の使い手と共に探索者ギルド本部前に転移してきた。
そしてすぐに探索者ギルド本部に入り、受付を通しギルドマスターの個室を訪れると、自ら頭を下げ、ダグにも強引に頭を下げさせた訳だ。
正直出来過ぎた青年である。
見た目もすっきりした短髪の金髪に、碧眼の、スマートな貴公子然とした青年だ。
なるほど、この兄がダグのコンプレックスの源か、と容易に想像できた。
「ま、まあ二度とこのような事をしないと約束して頂ければそれでいいのだが」
「当然もう二度とこのような真似はさせません。ダグに関しては監視を付け、二度とこの都市には入れないようにさせて頂きます」
流石に公爵家の嫡子が土下座までして頭を下げた事と、ダグの頭を下げさせた勢いに、僅かに怯むゲッシュ、それでも要求を突きつけたのは流石だろう。
その要求を、ジグはあっさりと受け入れ、そしてそれ以上の事を約束してきた。
そうしてダグは暗い瞳をしながら、ジグに連れられていく。
思わずスレイはジグに声を掛けていた。
「おい、あんた」
「ん?君はスレイ君だったね。どうかしたのかい?」
「ああ、多分あんたなら先日クロスメリア王城で行われた会談についても、何らかの手段で情報を入手しているだろうから忠告しておく。気をつけろ、ヤツラは人の弱い心に付け込む」
「……ああ、なるほど。分かった、忠告はありがたく受け取っておく」
ジグはダグの顔を見て、納得したように頷くと、スレイの忠告をあっさりと受け入れ、そのまま退出していった。
恐らくはお抱えの空間魔法の使い手と共に、探索者ギルド本部前から、公爵家の居城に転移するのであろう。
「あれがジグ・ザザーニアか。っとすまないスレイ君、お礼がまだだったね」
「礼ならいらないさ、自分の恋人を護るのは当然の事だろう?」
ジグの在り様に僅かに驚いた様子を見せていたゲッシュが、ハッとしたようにスレイに礼を述べようとするのに、スレイは当然の事だと礼を必要無いと告げる。
「そうか、そうだったね。それじゃあお願いだ、これからもリリアの事を頼んだよ」
「ああ、任せろ」
そして、まだ仕事があるというゲッシュを残し、再びスレイとリリアはアルメリア家の邸宅へと赴く。
「あの」
リリアが何か言おうとするのに、スレイはリリアの口を唇で塞いだ。
そしてリリアの頼みを先回りするように告げる。
「悪いが今日は帰るつもりは無いぞ、俺以外の奴の事をリリアがどんな形でも考えるのはムカつくからな、今夜は一晩中俺の事しか考えられないようにしてやる」
「う、うん!!」
途端、明るい顔を向けてくるリリア。
そしてスレイはリリアと共にアルメリア家の邸宅へと入っていった。
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