「はぁー、女関係が派手とは聞いていたけど。しかも全員に大して本気だ、って自己申告まで聞いた訳だけど。そのたった三日後に他の恋人と一緒に来るなんてねー。流石にお姉さん驚いたわ」
「すみません、その三日前というのはスレイくんは誰と一緒に来てたんでしょうか?」
リリアがスレイからゆっくりと視線を外すと、キャルに問いかける。
キャルは何の躊躇も無く答える。
「私の親友のフレイヤよ、あとその娘のサリアちゃんも一緒だったわね。そういえばフレイヤがスレイ君から貰った指輪を左手薬指にしてたんだけど、貴女が左手薬指にしてる指輪もスレイ君から貰ったもの?」
「ええ、そうです」
「ふーん、流石。全員に本気、かー」
呆れと感心を半々に頷くキャル。
「まぁな」
スレイは悪びれる事無く頷いた。
もうその事に関しては、スレイは完全に吹っ切れている。
リリアもとっくに知っている事なので、特にそれに関して何を言うつもりもない。
ただ、以前にここを訪れている、という事はアレが奇襲にならない可能性が高い。
リリアは確認の為にキャルに聞いてみる。
「すみません、その三日前に、スレイくん達はアレ、やってたんでしょうか?」
「アレ?ああ、アレね。うん、勿論してたわよ。というか私がやらせたんだけどね。フレイヤはひどく恥ずかしがってたけど、スレイ君は堂々としたものだったわよー。途中からサリアちゃんも乱入して微笑ましい光景になってたけどね」
くぅ、とリリアは思わず唸った。
これではアレを注文しても、スレイに対する効果的な反撃にはなりそうもない。
もっとも、恋人とアレをするのは楽しみにしていたことではあったので、止めるつもりは無いのだが。
しかしこの状況でもこの悠然とした様。
いくら恋人を複数持つ事が恋人達により公認されているとはいえ、あまりにも大物すぎるのではなかろうか。
それにフレイヤを恥ずかしがらせながらもスレイは堂々としていたという情報。
なにより先程までのリリアに対する攻勢の数々。
リリアは僅かに戦慄を覚える。
まあ一言で言ってしまうと、ただ単に女っ誑し、というだけの話なのだが。
「まあ、それはともかく。それじゃあ二名様、席にご案内しまーす」
そしてキャルの案内に従い、二人はテーブルに移動し、席に着くのだった。
予想通り、アレは不発に終わった。
大きなグラスのジュースに飲み口が二つに分かれたストロー。
リリアが躊躇い無く口を付けるも、スレイも当然のように躊躇いが無かった。
二人ともキャルの冷やかしなどには反応しない。
そして近付いた顔と顔。
視線が絡み合い、スレイは軽く笑ってみせた。
それによりリリアの方が顔を赤くしてしまう。
反撃どころか、さらなる追撃を受けただけであった。
そして食事も終え、デザートの時間。
スレイはショートケーキを注文していたが、リリアは何も注文していない。
ふと、リリアの視線がスレイのケーキにある事に気付き、スレイは尋ねる。
「食べたいのか?」
「う、ううん、いいわ。ちょっとダイエットに甘い物は控えてるの」
リリアが言うのに、スレイは首を傾げてみせる。
「ダイエットが必要な体型か?十分以上に整ったスタイルだと思うが」
「だ・か・ら、そのスタイルを維持するのに色々と苦労してるのよ。探索者はいいわよね、太ったりとかそういう心配は無いんでしょう?」
「いや、まあ。確かに戦いの邪魔になる脂肪は増えないが、体型については探索者になった時期などで大分違ってくるぞ。現に男の探索者で俺ぐらい細いのは珍しいだろう?だいたいはもっと筋肉でゴツイ感じで」
リリアはじろじろとスレイの身体を眺めやる。
「そういえばそうね」
「ちなみにだ、俺の今の筋肉の量は竜人族並だ。数百メートルクラスの巨体が持つ筋肉をこのサイズまで超高密度に圧縮されて、この体型になっている。それこそただの鋼鉄製の武器なぞで攻撃されても、むしろ攻撃した側がダメージを受けるだろうな」
「ちょっ、竜人族並って嘘でしょう!?それじゃあいったいどれだけの体重になると思ってるの!?」
「それに関しては昔読んだものだが面白い論文があってな、竜人族が人間の姿の時、竜気で無意識に質量、体重を調整しているように、探索者についてもどれだけの筋肉量があっても無意識の魔力制御で体重を普通の人間と同等に調整してるらしい。ちなみにこの無意識の魔力制御は魔力操作の適性が無いものでさえ当然の様に行っているという話だ」
唖然とするリリア。
スレイの細身すぎるほどに細身な引き締まった肉体を見る。
この体型に数百メートルクラスのドラゴンと同じ量の筋肉を詰め込む。
いったいどれだけ無茶な話か。
「ついでに言うとだ。そんな馬鹿げた筋肉を保持するには、通常ならそれこそ食物の摂取量も馬鹿げた量になる筈だ。だがそれも無意識の魔力制御で通常の食事量で賄い保持しているらしい、実に便利な話だな。逆に言えばいくら食べても太る心配も無いという訳だ」
「なんと言うか、今ちょっと探索者に殺意を覚えたわ。いくら食べても太らないなんて、本当に狡い」
スレイはフッと笑って告げる。
「ちなみに探索者が狡いのはそれだけで無くってな、それこそ探索者として高ランクになると、肉体年齢はピーク時のまま保持される事になる。つまり年をとらないって事だな。俺ももうその領域に到達している」
「本当に……狡い……」
恨めしそうに見つめるリリアにスレイは続けた。
「なんならその内リリアも探索者になったらどうだ?ちゃんと俺が面倒を見てやるぞ」
「うっ」
ひどく、心惹かれている様子であった。
そんなリリアを笑って見つめながらスレイはケーキ切り取り、フォークで刺すと、そのままリリアの口元まで持って行く。
「まあ、それはひとまず置いといてだ。あーん」
「ちょっ、ちょっと。スレイ君!?」
慌てて頬を赤らめるリリア。
店を動き回るキャルが席の横を通り過ぎざまに、冷かして行く。
「ひゅーひゅー、お二人さん、お熱いねー」
ちなみに探索者の客も多い店だ。
探索者ギルドのアイドル的な存在のリリアとイチャついてるスレイには当然敵意の視線が注がれていた。
もっとももはやSS級相当探索者“黒刃”スレイの事は殆どの探索者が知っている。
その相手にちょっかいを出す馬鹿はいない。
スレイはそんな視線すら楽しんでいた。
「ほら、あーん」
「あ、あーん」
頬を赤く染め、またしてもスレイの攻め手にやられたと思いながら、渋々口を開くリリア。
「あ、美味しい」
そしてケーキの殆どはリリアのお腹に消え、本気で探索者になる事を考慮するリリアだった。
ちなみに今回の会計は30コメルであった。
デートも終わりを迎え、リリアをアルメリア家の邸宅に送り、そしてスレイ自身もアルメリア家の邸宅の中へと入っていこうとする。
その時ようやくストーカーが動いた。
「ま、待て!!貴様、リリアさんの家に入って何をするつもりだ!?」
その声に、あー、まあ、そうだろうなー、と相手の正体を当然のように受け入れるスレイ。
「ダグ!?」
ただリリアは驚いたような視線をストーカーに向けていた。
面白いと思ってもらえたらどうぞ宜しくお願いします。
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